同性間パートナーシップと法制度 

同性間に結婚を認めるべきか否か。いま世界各地で議論が巻き起こっている。二大政党制をとるアメリカの大統領選では、同性間の婚姻を認めるか否かは主要争点のひとつとなっており、フランスやイギリス、ニュージーランドなどでも婚姻を同性同士にも等しく認める法律案が審議中である(2012年3月現在)。あたらしく選出されたローマ法王の出身国アルゼンチンも、同性同士に婚姻を認めている国のひとつだ。

 

これまで婚姻が異性間で結ばれる法的な絆であることは、ほぼ無前提に、あるいは、とくに解説を要しない事実として受け止められてきた。内縁や事実婚という言葉も、一般的には異性間の関係性を念頭に置いている。同性間パートナーシップに対する法的保障の議論は、所与のものとして理解されがちな婚姻を相対化し、婚姻そのものがもつ現代的な意味を問い直す機会をわれわれに与えている。

 

 

法的保障の比較

 

そこで、現在さまざまな国家で導入されている同性間パートナーシップへの法的保障の類型を概観してみたい。婚姻あるいは家族に関連する法制度は、その国や地域の歴史や文化を背景に、成立条件や保障内容にさまざまな違いがみられる。多様な法制度を完璧に整理することは困難を極めるが、ここでは、既存の婚姻制度との差異を軸に、あたらしい制度を構築する類型(1)と婚姻そのものを拡大する類型(2)に大分類し、前者をさらに2つに分類して説明してみたい。

 

 

(1)あたらしい制度の構築 ―― 別制度型、契約登録型

 

同性間パートナーシップの法的保障は、婚姻とは別に、同性間のみで利用可能な新制度を構築するところからはじまった(以下、「別制度型」)。1989年にデンマークで施行された登録パートナーシップ法(registreret partnerskab)がその嚆矢である。同性同士の関係性のみを登録対象としている点や、保障内容が婚姻とほぼ同等である点に特徴をもつ。立法形式としては、婚姻規定を準用するものと新規立法を行うものがある。先述のデンマークをはじめ、北欧諸国の登録パートナーシップ法、ドイツの生活パートナー関係法、イギリスの市民的パートナーシップ法などが代表例である。なお、北欧諸国は後述の婚姻型への移行にともない、別制度型は廃止されている。

 

別制度型と異なり、同性間であるか異性間であるかを問わず、共同生活の契約内容を登録する制度が新たに構築された例もある(以下、「契約登録型」)。1999年にフランスで導入された民事連帯契約(Pacte civile de solidarité)である。異性間パートナーシップでも利用可能である点や、身分の登録ではなく当事者間の契約内容の登録である点に特徴をもつ。ただし、契約登録型を採用しているのはフランスやルクセンブルクなど、ごく少数にとどまっている。

 

 

(2)婚姻を同性間に拡大 ―― 婚姻型

 

上記の別制度型と契約登録型が婚姻とは異なる新制度を構築したのに対して、2000年代に入ると、同性間パートナーシップを婚姻そのものの枠内に取り込む国家が出現してきた(以下、婚姻型)。婚姻型をはじめて採用したのは、2001年のオランダである。その後、2003年にベルギー、2005年にスペインとカナダ、2006年には南アフリカ、ノルウェー、スウェーデン、2010年にはアルゼンチン、ポルトガル、アイスランド、2012年にデンマーク、2013年にはウルグアイが相次いで婚姻型を採用するに至った。2013年4月現在、ニュージーランド、フランス、イギリスの3カ国において、婚姻型への移行が議会で話し合われており、いずれも可決される公算が高い。

 

注目されるのは、逆に、婚姻型への移行を明確に回避する動きもみられることである。たとえばオーストラリアは2004年に婚姻法を改正し、婚姻は異性間に限られることを明記した。婚姻を異性に限定する直接的な定義を導入する動きは、ラトビアやエクアドル、ボリビアなどでもみられる。より根本的には、同性間での性行動を含む関係性を刑事法による処罰対象とする国家もあり、ナイジェリアやウガンダなどでは、同性間パートナーシップの法的保障の動きが、刑事法の厳罰化の引き金ともなっている。

 

報道で取り上げられることの多いアメリカは、婚姻や家族に関する法制度は州ごとに異なる。ニューヨークなど9つの州と首都ワシントンで婚姻型が導入されている一方、カリフォルニア州などでは婚姻が異性間に限定されている。現在、アメリカ連邦最高裁判所では婚姻の平等をめぐる審議が始まっている。

 

 

●各類型の比較図

 

既存の婚姻

01

 

 

別制度型

02

 

 

契約登録型

03

 

 

婚姻型

04

 

 

議論の争点

 

日本の現行法上、婚姻に入ることのできる関係性を明確に定義する規定は存在していないものの、法解釈や法実践において、婚姻を異性間に限定してきた。たとえば、婚姻届の様式は「夫になる人」「妻になる人」を一人ずつ記入させるものであり、戸籍筆頭者との続柄欄に夫側は「男」、妻側に「女」とすでに印字されている。

 

性同一性障害者特例法3条1項2号の規定は、戸籍上の性別を変更する条件として、申立時に結婚していないことを要求する。これは婚姻を継続したまま法律上の性別を変更すると同性婚の概観が生じるために設けられた規定である。また、入国在留審査要領は家族滞在ビザが発給される「配偶者」の範囲から同性間パートナーシップを明示的に排除している。婚姻や家族の法制度の枠外に置かれてきた同性間パートナーシップを営む人々は、成年養子縁組や公正証書を活用することにより、一定の解決を模索してきた。ところが、養子縁組意思の不存在や公正証書の効力範囲など、その法的効果は婚姻とは比較にならないほど不安定かつ脆弱なものとなっている。

 

このような現状のもと、ここ20数年の間、当事者や研究者のあいだでこの問題についての議論が展開されてきた。しかし、多くの議論が散発的なものであり、諸外国のような具体的な法制化や世間の耳目を集める議論には至っていない。これまでの議論を概観すると、主要な争点として、婚姻・家族と人権、法制度の象徴的作用、現実対応の模索の3つが見いだせる。

 

 

(1)婚姻・家族と人権

 

まず、婚姻や家族の法的保障と人権や平等をめぐる争点である。婚姻する権利や家族生活・家族形成の権利は、すべての人が享有する人権のひとつとして規定される。たとえば日本国憲法24条は、1項において婚姻が両性の合意のみにもとづいて成立し、夫婦が平等であることを保障する。また2項において、婚姻や家族に関する法制度が個人の尊厳と両性の本質的平等にもとづいて規定されることを国家に義務づけている。

 

争点は、同性のパートナーをもつ人々は、性的指向にもとづいてこれらの権利を侵害されているか否かである。平等な権利享有の文脈からは、保障内容が平等であれば足るとして別制度型を採用する立場(ドイツ連邦最高裁)と、別制度型そのものが平等でない措置であり人間の尊厳を侵害するという立場(カナダ市民婚姻法)がある。

 

 

(2)法制度の象徴的作用

 

また、制度的保障の意義やその意図せざる影響や社会的効果に関する争点がある。たとえば、異性間パートナーシップではない親密な関係性に法的保障を付与することは、性愛を基準とした社会的排除を経験してきた人々に肯定的評価を付与することにつながり、もって異性愛ではない性的指向の存在を公に認めることになるという主張がある。

 

より慎重な立場からは、同性間パートナーシップに新たな制度を構築することそのものが、むしろ性愛を基準に市民を分断し、一方を二流市民として烙印付ける反射的作用をもたらすと考えられている。また、既存の婚姻制度に範型をとる法的保障は、婚姻型のみならず、別制度型も契約登録型も、同性間パートナーシップを異性愛規範に「同化」させる作用をもたらすとの警笛も鳴らされている。いずれも法制度の象徴的作用に着目した論点である。

 

 

(3)現実対応の模索

 

さらに、現実対応の必要性やそのための制度変革に関する争点がある。ひとつは既存の資源を活用することによる現実問題への対応を探るものである。シングル単位での社会保障の構築を含め、同性間パートナーシップを含む社会的少数派の諸問題の包括的解決を企図している。もうひとつは婚姻制度への疑義を徹底しつつ、具体的な制度変革を試みるものである。ケアの視点による婚姻・家族制度の脱構築と再構築がその例にあげられる。親密な関係のあり方について国家や公権力が規制や管理する意味を問い直し、既存の法制度がもつ権力性や差別性に意識を向けた上で、あるべき代替的制度を構想するものである。

 

以上3つの争点は、独立したものではなく、相互に密接な連関をもつものである。これらの争点の多くは、諸外国の法制化の過程でも激しい対立を生じさせていた。

 

 

 

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