ココロのバリアフリーで誰もが生きやすい世の中に

困ってるズ!はいままで、幾度となく「バリアフルな場所に困ってる」という声と「誰かの心配りによって助かっている」という声をお届けしてきました。

 

事故によって脊髄を損傷し車椅子生活を送られている池田君江さんは、とあるきっかけから株式会社K-plusを立ち上げられ、「ココロのバリアフリー計画( http://www.heartbarrierfree.com/ )」を推進しています。バリアがあっても、ココロがあればバリアフリーにできるかもしれない。もしかしたらバリアフリーすら超えることもできる ―― ココロのバリアフリー計画とはなにか? お話を伺ってきました。(聞き手・構成/金子昂)

 

 

「行こうと思えば行けるんだ」

 

―― K-plusの活動をはじめられたきっかけをお教えください

 

わたしは2007年に、渋谷にある温泉施設の爆発事故により脊髄を損傷しました。当時は一生寝たきり、よくても車椅子だろうと診断され、いまは車椅子に乗りながら生活しています。

 

車椅子に乗るようになって初めて、周りがバリアだらけだということに気がつきました。いままで当たり前のようにできていたことができなくなり、美容院や銀行、日常品の買い物など日常的に通っていた場所にも行けなくなってしまったんです。最初はバリアフリーになっていることの多い大型施設を選んで外出していましたが、人の目も気になって、あまり外出しなくなってしまいました。

 

やっぱり「歩けるようになりたい」って思いもありました。でも、日本では無理と言われてしまって。ただアメリカで脊椎損傷からの回復を専門としているトレーナーに出会い、その方が「行けないところなんてありません。壁があったらオレが壊しますし、かついでみせますよ」と、わたしを色々な所に連れて行ってくれたんです。このことがきっかけで「行けないところではなく、ただ行っていないだけなんだ。行こうと思えば行けるんだ」と思うようになり、ずっと行かずにいた場所にもでかける一歩を踏み出せるようになりました。

 

近所に「串カツ田中」というお店があります。以前、このお店の前を通りかかって、主人に入ってみたいねと話したところ、車椅子でも入れるかお店の方に聞きに行ってくれました。お店にいたオーナーが「大丈夫ですよ」と言ってくださったのですが、お店の前には段差があり、店内もすごく狭くて、さらにお客さんがギュウギュウ詰めで。わたしにとってバリアばかりでしたから、「どこが大丈夫なんだろう……?」と不安でした。

 

そしたらオーナーが、車椅子のどこを持って、どうすればいいのかを尋ねてくださったんです。「こことここを持って運んでください」とお願いをしたら、お店から男の子を数名連れてきて、車椅子を持ち上げてお店の前にある段差の上にあげてくださった。さらに店内の大きなテーブルで食事をしているお客さんに「車椅子の方が通るので、一度立っていただけますか」とお願いをして、テーブルを移動してくれたんです。

 

このときに、バリアな環境でも、ちょっとしたココロがあればそのバリアをこえられるし、きっとバリアフリーな環境もココロがあればもっとよくなると思ったんです。日本は狭いですし、お店の方も頑張って経営されていますから、いますぐハード面を変えることはできないと思います。でもココロがあれば、多少の段差をこえることはできます。そこでK-plusを立ち上げ、「ココロのバリアフリー計画」を始めて、応援店を募っています。

 

 

HBF_seal_01

 

 

ココロのあるお店には、ココロのあるお客さんが集まる

 

―― そういうお店は、また行きたいと思えますよね。

 

そうですね。いまでも串カツ田中に通っていますし、オーナーとも仲良くなって、よく話をするようになりました。

 

以前オーナーが「池田さんと出会ったおかげで、スタッフの接客が断然よくなった。きてくれてよかった」と言ってくださいました。食事中のお客さんに席を立っていただくようにお願いするには、丁寧な接客が必要でしょう。そのとき、ちゃんとココロを込めてお願いをすれば、お客さんも嫌な顔せずに席を立ってくださるんです。

 

それに帰り際に、わたしと少しお話をしてくださったり、コミュニケーションが生まれるきっかけにもなっていて。ココロのあるお店には、ココロのあるお客さんが集まるのかなと思っています。

 

ココロのバリアフリー計画に参加いただいたお店にお渡ししている「HERT BARRIER FREEステッカー」は、ココロのシンボルマークであって欲しいと思っています。お店にこのステッカーが貼ってあれば、安心して利用することができますし、きっと「なにかしてあげたいけれどどうしてあげればいいかわからないし、声をかけにくい」と思っているお店のスタッフも、このステッカーがあることで「なにかお手伝いすることはありますか」の一言が出しやすくなると思います。

 

ただココロがあるからといってなんでもできるわけじゃありません。できないことをできないとちゃんと伝えることもココロだと思います。なにができて、なにができないかを判断するためには、お店の人が自分のお店にどんなバリアがあるか知っている必要があります。

 

 

DSC_0082

 

 

 

■■■ 「シノドス」へのご寄付のお願い ■■■

 

 

1 2
300_250_5g 困ってるズ300×250 α-synodos03-2

vol.196 特集:当事者と非当事者

・小峰公子氏インタビュー「福島の美しさを歌いたい——福島に「半当事者」としてかかわって」

・山本智子「知的障害がある当事者の「思い」を支えるために――「当事者性」に関与する「私たち」のあり方」

・李洪章「『研究者の言葉』から『当事者の言葉』へ」

・熊谷智博「他人同士の争いに参加する非当事者の心理」