貧困ツーリズム『東京難民』で語られたものと語られなかったもの

どこにでもいる大学生が授業料の未払いをきっかけにホームレスへの道を辿る映画『東京難民』。メディアが取り上げてきた貧困を取り巻くプロットを散りばめている「貧困ツーリズム」と評する荻上チキと、ホームレス支援に携わり現場から貧困を見ているNPO法人自立生活サポートセンター・もやいの大西連氏、『女性ホームレスとして生きる』の著者である立命館大学准教授の丸山里美氏が、『東京難民』で語られたものと語れなかったものについて語り合った。(構成/金子昂)

 

 

若者と女性の貧困

 

荻上 皆さん、こんばんは。評論家の荻上チキです。本日は『東京難民』試写会&トークショーにご参加いただきありがとうございます。今日のトークショーは、この映画を評価するものというよりは、映画のサブテキストとしてお聞きいただきたいと思っております。『東京難民』が語った、そして語らなかった貧困について、お二人の専門家とお話をしていきたいと思います。

 

さて、ゲストを紹介いたします。NPO法人自立生活サポートセンターもやいの大西連さんです。

 

大西 はじめまして、大西連です。ぼくは普段、生活に困窮されている方への相談業務をおこなっています。また、ホームレス状態、あるいはそれに近い方の支援に携わっている立場から、公的な支援、社会保障制度の在り方について発信をおこなっています。

 

荻上 大西さんからは、現場からの立場で、『東京難民』をどのように見たのか、あるいはこの映画を読み解く上で知って欲しいことについてお話いただきたいと思っています。

 

続いて立命館大学産業社会学部現代社会学科の丸山里美さんです。

 

丸山 丸山です。私はもともと女性ホームレスの研究をしておりまして、私自身もしばらくホームレス生活を送りながら、女性ホームレスの実態を取材していました。『東京難民』では、あまり女性の貧困についてはあまり多く語られていませんので、おそらくそのあたりの話をしろということで今日は呼んでいただけたのだと思っています。よろしくお願いいたします。

 

荻上 丸山さんには、この映画をきっかけに、メディアなどで語られにくい女性の貧困問題について、どのような形で焦点をあてて欲しいかなど伺っていきたいと思っています。短い時間ではありますが、今日はどうぞよろしくお願いいたします。

 

 

「見えづらい貧困」を描く挑戦

 

荻上 まずは映画を振り返りましょう。『東京難民』では、学費が滞って大学を除籍になってしまった大学生が、ネットカフェ難民になり、低賃金で働く状況となる。その後ホストになり、さらには借金を背負い、貧困ビジネスにも手を染め、ホームレスになる……そうした若者が行政に繋がることはなく、むしろ警察の取り調べの対象となってしまい、セーフティーネットから排除されていく。そんな姿が描かれています。

 

これは、ここ10年ほどメディアで表現されてきた貧困をとりまくプロットをこれでもかというほど散りばめて、ひとつの物語仕立てたもの。いわばメディアイメージとしてシェアされた「貧困ツーリズム」のような作品だと思うんですね。

 

まず大西さんは普段の活動の中で目の当たりにされている若者の貧困についてお話いただけますか?

 

大西 以前は「貧困」と聞くといわゆる「ホームレス」を思い浮かべる方が多かったと思います。それは「駅や公園に寝泊まりして、空き缶を拾っているホームレス」という、わかりやすい、見えやすい貧困でした。

 

しかし2006年ごろから「ネットカフェ難民」が取りざたされ、さらに2008年のリーマンショックの影響で派遣切り、または年越し派遣村などがメディアでも取り上げあげられるようになった。これは時代の変化と共に生まれた新しい「見えづらい貧困」です。この映画は、そのような新しい貧困を描こうとチャレンジしてくれたのかな、と感じました。

 

近年、生活に困って相談をしに<もやい>にいらっしゃる方の約3割が実は30代以下の方なんですね。訪れる理由も、困窮した理由も様々です。この映画の主人公のように家族との関係が切れてしまった方が多いですが、住み込みの仕事で失業と同時に住まいを失ってしまったとか、健康を害したとか、助けを求めても役所で追い返されてしまったとか、本当にいろいろです。

 

荻上 女性の相談者はどのくらいいますか?

 

大西 我々のところで統計的にとれているのは10~15%ほどです。

 

荻上 ということは女性の若者だともっと少なくなるわけですね。

 

大西 そうですね。このあと丸山さんからお話があると思いますが、女性は性的な搾取も含めて、より「見えづらく」、より厳しい状況に置かれている印象があります。

 

 

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