大学における退学・ひきこもり・不登校

大学の退学

 

近年、大学の退学・中退に大学関係者の注目が集まっている。18歳人口の半数が大学に進学し、大学進学を望めば進学できる。いわゆる全入時代となった。現在では大学、高等教育に求められること変化しつつある。

 

大学進学の動機として大きいのは、就職での有利さ、将来の収入への期待である。その場合、大学に入学するだけでなく、卒業しなければ意味がない。

 

しかし、実際のところおよそ1割の学生は中途退学をする。この1割という数字や各大学・学科の退学率は近年になって明らかになってきたものだ。文部科学省の統計である『学校基本調査』では大学の退学者数を集計していない。また、私立大学の退学率は公表する義務もなく、明らかにすることによって学生や親にネガティブな印象を与えることを嫌って公表してこなかった。

 

現在でも、不明である大学や、曖昧なデータを提示している大学は多い。一方で、退学予防に取り組んでいる大学は、退学率をはじめ関連するデータ積極的に公開して、入学をすれば卒業できる手厚い支援体制があることをアピールし始めている。

 

現在までに明らかになっている退学についてのデータを簡単ではあるが把握しておこう。

 

2005年に日本私立学校振興・共済事業団によって行われた調査によれば、私立大学2.9%、5万5497人が退学をしている。回答は550校である。大学の数は700校あまりであるので、多くの大学は回答を行っている。

 

他の調査も存在する。新聞社と受験産業によって行われたものである。調査読売新聞が2007年から『大学の実力』というプロジェクトで大学に退学率の調査をし始めた。朝日新聞と河合塾によって「ひらく 日本の大学」(2013年度)という調査も行われており、そこでは退学率は1.9%、卒業までの退学率は8.1%だと報告されている。

 

受験誌『蛍雪時代』で有名な旺文社も2014年の『大学の真の実力 情報公開 BOOK』で退学率を調査している。旺文社の調査に参加したのは619校である。

 

また、別の角度からNPO法人NEWVERYが『中退白書』を出版し、その中で私大生の8人に1人が卒業までに退学をしていると報告している。

 

旺文社の『大学の真の実力 情報公開 BOOK』では、退学率のデータは存在するが最頻値が0だと指摘している。つまり、公表データ上は、退学者がいない大学・学科が存在しているのだ。もちろん退学者がいない学部もあるだろう。しかし真の退学率を公表していないのではないかという疑念が残る。

 

個人的には正しいデータ公開をしていない大学があると思っている。というのは、大学の退学問題に関わるようになってから、読売新聞の『大学の実力』の退学率について大学の担当者に聞く機会が幾度もあり、その際にあまりにも低い退学率を開示している大学がいくつもあるという指摘を受けてきたからだ。

 

各調査データには偽りのデータも混入していると思われるが、全体でみた場合には大きく外れた値が報告されているというわけでもない。文部科学省の『学校基本調査』では退学率のデータは報告されていないが、入学者や各学年の人数が年次ごとに発表されている。大学には編入制度があり、4年生以上の学年の数え方の違い、留年生を見分ける難しさがあるため、確実な値を出すことはできないが、公的統計から退学率を推測すると1割程度になる。NEWVERYの報告する8人に1人という数字は少し多い可能性もあるがそれほどズレているわけではなく、新聞社と受験産業が集計したデータは少し過小に報告されている可能性がある。

 

そうした数パーセントのズレは措いておき、大学で退学するのは、およそ10人に1人、1割程度であるという認識で問題はない。大学の退学率の1割という数字は、日本の学校制度の相場感としては「このくらいだろう」といった感じではある。

 

高校(全日制高校)の退学率も1割程度である。高校に入学すればだいたい卒業できるという感覚は一般的には保持されているのかもしれないが、実際に卒業できるのは平均すると9割程度であり、大学の退学も同じような水準のようなのだ。

 

 

大学退学後の困難

 

大学の退学は、学生にとっても、学校にとっても好ましいことではない。

 

言うまでもないことだが、大学入学者にとって「大卒」という最終学歴はぜひ手に入れたいものだ。大卒と非大卒では就職のチャンスも、給与を含めた雇用の待遇も大きく異なる。

 

大学(高等教育)の進路・就労状況の調査がされている。中途退学離学をした後、正規雇用で働くのは7.5%に過ぎず、パートアルバイト・派遣といった非正規雇用が70.9%、失業・無業状態になる者は15.0%である(労働政策研究・研修機構 2012,「大都市の若者の就業行動と意識の展開 -「第 3 回 若者のワークスタイル調査」から- 」、高等教育退学者の男女計の平均値)。

 

この数字は、卒業者の就職率・正規雇用率よりもかなり低い。高卒者の正社員比率は61.5%、大学・大学院卒は76.2%である。大学退学者が大学卒者に及ばないのは容易に想像がつくが、高卒者のそれにも大きく劣っている。これは学校を離れる前に満足な就職活動ができない、もしくは、できる状態ではなかったことが大きいだろう。大学進学をせずに高卒で就職をした方が生活は安定する。大学進学という投資をしたにもかかわらず、高卒の就労状況の方が良いというのは皮肉である。

 

大学中退をした者がその後どのようなキャリアパターンを描くかについて詳細な研究はまだ存在しないが、85パーセントが非正規・無業からキャリアをスタートするため、大学卒業者に比べてその後の職業生活が困難になるのは想像に難くない。

 

 

 

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