やりくりが下手だから払えない?――現代家計の滞納問題

「滞納」という言葉を聞いて、なにを思い浮かべるだろうか。

 

学校給食費の滞納問題や、高校授業料の滞納で卒業証書が発行されない生徒がいた問題を思い出す人がいるかもしれない。あるいは、国民健康保険料を支払わずにいたために訴訟になったり、給与等の差し押さえがなされることが多くなっているという話を耳にしたことのある人もいるだろう(北海道社会保障推進協議会『笑顔でくらしたい』第80号2015年2月)。

 

こうした滞納問題は、時に、個人のモラルの問題や、家計管理能力の低さの問題として語られる。「だらしがないから」「やりくりが下手だから」滞納する、あるいは、支払うべきものを支払う意思に欠ける人の問題だとみなされがちだ。

ここで、表1を見ていただきたい。これは、北海道で実施した、ひとり親世帯に対するアンケート調査結果から作成したものである。

 

 

表1 ひとり親家庭になってから経験した問題や困難(※1)(単位:人、%)

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出典)鳥山まどか(2014)「借金問題のいま」『季刊家計経済研究』102、p.85

(※1)各項目について「経験した」と回答した回答者の割合。

 

 

この表を見ると、水道光熱費や携帯電話料金の滞納、税金や保険料の滞納、家賃や住宅ローンの支払いの遅れを経験しているひとり親世帯が少なくないことがわかる。中には、子どもの学校に必要な費用の支払いや、クレジットカードの支払いができなかった経験を持つ世帯も見られる。こうした滞納にまつわる経験は、収入の低い層でより多いことがうかがわれる。

 

滞納が個人のモラルや能力に起因するのであれば、収入の多い少ないに関わらず、どの層でも同じような頻度で滞納経験があるはずだ。しかし、調査結果はそのようになっていない。つまり、個人のモラルや能力の側面からだけでこの問題は議論できないということだ。

 

それでは、現在の滞納問題の背景には他に何があるのだろうか。以下、試論的に示してみたい。キーワードとなるのは、「支出の硬直性」と「収入の流動性」である。まずはこれらの話の前提となる、家計の中の「社会的固定費」について確認するところからはじめたい。

 

 

家計の中の社会的固定費

 

表2は、総務省統計局の家計調査結果を用い、勤労者世帯1世帯あたりの1ヶ月の収支を、年間収入五分位階級別に示したものである。勤労者世帯全体を年間収入の低いほうから並べて5等分している。第Ⅰ五分位のグループがもっとも収入が低く、第Ⅴ五分位のグループがもっとも収入が高い。

 

食料費や住宅費などからなる消費支出と、直接税や社会保険料などからなる非消費支出については、その費目の支出金額が実支出(いわゆる税込み収入であり、世帯員全員の現金収入を合計したもの)に占める割合(以下、「対実支出割合」)を記載している。

 

 

表2 1世帯あたりの1ヶ月の収支と消費・非消費支出の対実支出割合(年間収入五分位階級別、勤労者世帯)

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(注1)可処分所得(実収入から非消費支出を差し引いた)に対する消費支出の割合

出所)総務省統計局(2014)『家計調査年報』をもとに筆者作成。

 

 

各費目の対実支出割合を見ると、どの収入階級も同じような数値が並んでおり、収入の多い少ないによって、どこかの割合が大きく変わる様子は見られない。これはつまり、支出の側面から見た現代の家計構造(現代の消費生活と言い換えても良い)は、かなりの程度、標準化されていることの反映だと考えられる。

 

しかしながら、細部を見ると、収入の低い階級ほど支出割合が大きい費目と、反対に、収入の高い階級ほど支出割合が大きい費目があることもわかる。前者にあたるのは、食料、住居、光熱・水道、交通・通信(特に通信)であり、後者にあたるのは、教育、その他の消費支出(ここには交際費や仕送り金、こづかいが含まれる)、非消費支出である。これらについて、棒グラフで示したのが図1である(消費支出についてのみ)。

 

 

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それぞれ確認してみよう。まず、食費についてであるが、低収入であるほど食費割合が高いのは、いわゆる「エンゲルの法則」と呼ばれるものである(ここで示した数値はエンゲル係数ではないが)。住居については、低収入階級ほど持ち家率が低い。これは、家賃を支払っている世帯が多いことによる。

 

光熱水道料金は、世帯人数など世帯規模や設備状況に左右されることはあるが、収入の多い少ないで使用量が大きく変わることはなく、結果として、低収入階級ほど支出割合が大きくなる。

 

交通・通信は、近年では携帯電話料金がその内容の多くを占める。この費目も、現代社会生活においては必需品に近いものになっており、低収入世帯の家計を圧迫していることがわかる。

 

住居や光熱水道、そして携帯電話などは、現代社会生活において必要不可欠であるため、やりくりの裁量の余地が少ない支出である。家計に関する議論においては、こうした支出を「社会的固定費」と呼ぶ。馬場(2007)は社会的固定費について次のように説明する。

 

社会的固定費とは、家計管理者の自由裁量性がほとんど奪われており、コントロールの対象となり得ない費目のことを意味する。それは第一に、社会的共同消費手段に支出される部分、すなわち社会的に提供される公共施設、準公共施設、公共サービス、準公共サービスの利用に発生する公共料金もしくは公共料金に近いもの(例えば電気・水道・ガス・電話代等)がこれに当たる。(馬場康彦『生活経済からみる福祉―格差社会の実態に迫る』ミネルヴァ書房、2007年、p46)

 

また、住居や教育費も社会的固定費に含んで考えることが多い(馬場2007、p.46)。一般にこうした社会的固定費は、収入の少ない家計ほど負担が大きいと言われる。表2においても社会的固定費に相当する費目の実支出に占める割合は低収入の階級で大きい。

 

ただし表2では教育費についてはそれがあてはまらないように見える。教育費支出は学校に行っている世帯員がいるか否かに左右されるためである。

 

そこで、私立大学に通う子どものいる世帯の家計収支について示した表3も合わせて見てみたい。こちらは、全国消費実態調査のデータから作成したものである(もとの調査が異なるため、収入階級区分の仕方が表2と同じではない)。

 

 

表3 私立大学生のいる世帯の1ヶ月の収支と消費・非消費支出の対実支出割合(年間収入階級別、勤労者世帯)

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出所)総務省統計局『平成21年全国消費実態調査(特定世帯編)』をもとに筆者作成。

 

 

教育費の対実支出割合は、どの収入階級でも非常に大きく、年収400万円未満層では実支出の4分の1以上を占める。その多くは授業料等である(教育費の圧迫の結果として食費割合が圧縮している様子もうかがわれる)。

 

以上であげた社会的固定費はすべて消費支出の中の費目であったが、馬場(2007)は「非消費支出は全支出のなかで最も自由にならない問答無用の社会的強制費用である」(馬場2007、p.46)として、直接税や社会保険料からなる非消費支出も社会的固定費に位置付けている。

 

直接税も社会保険料も累進的な性格をもつものであるから、表2でも表3でも、収入が高い層ほど対実支出割合が高くなっているのは当然と言える。しかし同時に、特に社会保険料については、どの収入階級で見ても、実支出に占める割合の大きい費目の一つとなっていることもわかる。

 

表2と表3でもう一つ確認しておくべきことは、最下段に示した「平均消費性向」である。この数値が低いほど、黒字が大きい家計ということになる。表中には示していないが、黒字の多くは預貯金に振り向けられている。

 

私立大学生のいる世帯では、全体的に平均消費性向は高く、どの層でも月々の黒字は少ないことがわかる。特に、低収入階級では平均消費性向が100を超えており、いわゆる赤字家計となっている。子どもが大学に通う年齢になる前に、どれだけストックを形成できているかにより、この赤字を相殺できるか否かは大きく異なるだろう。

 

しかし表2の通り、低収入の世帯は日常的に平均消費性向が高くならざるを得ず、いざという時のためや、まとまったお金が必要になった時のためのストックを形成するのが難しい。いわゆる余力や「あそび」の少ない家計である。【次ページにつづく】

 

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シノドス国際社会動向研究所

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