在日外国人と共生する地域社会への途――社会福祉に関わる論点から

社会福祉法人青丘社の開拓的な取組み

 

図表2のような多文化的要素を織り込んだ社会福祉実践に早くから総合的に取り組み、今日にいたるまでフロントランナーであり続けた実践主体に、社会福祉法人青丘社(せいきゅうしゃ、神奈川県川崎市)がある。

 

在日コリアン(韓国・朝鮮人)のいわゆるオールドレジデンツが集住し、現在ではさまざまな国からのニューカマーを受け入れて多国籍化している川崎市川崎区を拠点に、青丘社は、1969年に活動を開始し、1973年に法人として設立認可を受けた。現在では、公設民営による日本人・外国人の交流拠点「ふれあい館」の運営、高齢者・障害者向け福祉施設や保育園でのサービスのほか、在日コリアン高齢者のためのインフォーマルなグループやコミュニティ・カフェなどを展開している。

 

もともと、民族差別をなくす運動と、日本人と外国人で共同的に地域活動に取り組むことが、青丘社のルーツであった。東京湾臨海地区にあって造船などの製造業を主要産業とする川崎区で、外国人は主に工場労働などに従事し、歴史的に不当解雇、住宅への入居拒否などの諸権利の剥奪におびやかされてきた。長年にわたり、青丘社はそうした問題に対峙し続けてきたのであり、昨今のヘイトスピーチの問題に際しても外国人の権利を擁護する立場をとっている。一般的に、そうした社会運動においては、コンフリクト(価値葛藤、権力の不均衡)を眼前にして、不利な立場に置かれた人びとの権利を主張するため、権力側に対して二項対立の構図を取らざるを得ないものであるが、青丘社の場合は「日本人も外国人も平等に支援する。共に支え合う社会をつくる」という考えで活動しているのであり、外国人だけを一面的に擁護する立場を取らないのが基本である。

 

青丘社が社会福祉法人格を取得した契機も、やはり地元の保育園での外国人児童の入園拒否をめぐるコンフリクトであった。青丘社は入園拒否された子どもたちのために在日大韓キリスト教会に無認可保育園を開設、その4年後に法人化して認可園となった。現在も続く桜本保育園がそれである。

 

同園では、現在も「多文化共生保育」を掲げ、多言語(日本語、韓国・朝鮮語、北京語、タガログ語、ポルトガル語、スペイン語など)での保育を行っている。個々の保護者との間で毎日交換する「連絡ノート」は園児の母国語で対応し、推薦絵本には翻訳を、保護者会には通訳を付けている。食事や遊びには、園児たちにゆかりの文化を取り入れ、国籍を超えたふれ合いを心がけている。

 

保育士たちは必ずしも多言語に通じているわけではなく、また語学修得のための時間が与えられているわけでもない。多言語での対応のための予算が取られているのでもない。取り組みの考えかた自体は明快で、新たな言語をもつ子どもが入園すれば、辞書を買い、一語一語コミュニケーションを図ろうと努めるということのみである。連絡ノートの例で言えば、はじめは単語のみで交換していたのが、次第に保護者が日本語を覚え、ローマ字の日本語のやり取りとなり、やがてひらがなのやり取りができるようになる。絵本の翻訳や保護者会の通訳は卒園児の親たちが自らボランティアを買って出てくれている。

 

相手の立場に寄り添い、個別的な状況に合わせることは、社会福祉援助の鉄則である。しかし、実際にこのような配慮をしているかどうかは、実践者や現場によって相当な差があるだろう。青丘社の場合は、この「個別化」の鉄則を徹底する誠実な姿勢がサービスの受け手に伝わり、信頼関係が築かれ、双方の力を引き出しあって、質の高い援助を実現しているのである。支援側の効率性のみに着目していては決してなし得ないことであろう。サービスの満足度は、概してこのような点に左右されがちである。

 

青丘社のこの思想は、他の事業においても一貫している。高齢者向け介護保険施設では、外国籍の介護士を日本人介護士と同条件(賃金、業務内容など)で雇用し、独自の教育・指導を通じて文化的多様性への十分な理解を促した上で日本人・外国人の利用者にサービスを提供している。サービスにも、さまざまな文化を盛り込んでいるほか、『よく使う韓国・朝鮮語』といった冊子を作って利用者の関係先に配布するなど、地域ぐるみでの理解増進に努めている。在日コリアン一世の高齢者には日本語の話せない人も少なくないため、母国の言葉と文化でゆるやかにつながれる「トラヂの会」を作っている。

 

青丘社が拠点として運営する「ふれあい館」は、在日外国人と日本人がともに集うことのできる総合文化拠点で、川崎市が条例に基づいて設置する公設民営の施設である。上述した施設はこの周辺地域に点在するのであるが、同館でもさまざまな住民活動や文化・情報の保存や発信を行っている。

 

歴史的に在日外国人集住地区を抱える同市(行政)もまた、関連施策を積極的に打ち出してきており、多文化共生推進の先進自治体として知られる。参政権を持たない外国人の市民参加の仕組みとしての「川崎市外国人市民代表者会議」の条例による設置(1996年)や同会議による「外国人市民参政権」取得などの提案、公務就任権の国籍要件撤廃(任用には制限が付される)、「川崎市多文化共生社会推進指針」策定(2005年)、「外国人市民意識実態調査」(2014年実施)などがある。「ふれあい館」の設置は、諸施策の中でももっともシンボリックなものと言ってよいだろう。

 

 

多文化共生社会を標榜して

 

今や、外国人受け入れを促進することの重要性についてはかなりの日本人(あるいは日本在住者)が首肯するところであろう。日本社会において外国人を周縁部に追いやるのではなく、いかに市民として受け入れ、日本人と外国人の双方のポテンシャルを引き出し合い、一人一人の幸福や自己実現(ウェルビーイング)の向上、そして社会の成長の機会とし得るかが、今、模索すべきことではないか。そのためには、当たり前のようなことではあるが、互いに対する尊厳に立脚することを大前提としなければならない。場当たり的な、また生産性維持のための数合わせ的な発想からは、このようなものは決して生まれない。

 

本来、生態学的な概念である「共生」(symbiosis)は、多様かつ異種のものが同じ土台(コミュニティ)の成員として、差異を認めつつ共存する(共にあり、共に生きる)ことを意味している。そこでは、相互に依存・協力しあう関係がある一方、競争や葛藤といった緊張関係も含意されている。ただ、過度の侵食はせずにコミュニティ全体の均衡が保たれ、まして、ある成員が他に対して一方的に服従を強いるものでもない。

 

外国人との共生という論題について、社会福祉の主体と対象という二つの側面について取り上げた。これらは社会システム全体に関わることであり、外国人との共生をどういう性質のものとするかは、日本の社会の維持・再生・発展のあり方を足元(地域)から問うものである、と言えば大袈裟であろうか。

 

 

参考文献

阿部彩(2002)「貧困から社会的排除へ―指標の開発と現状」国立社会保障・人口問題研究所編『海外社会保障研究』141号,pp.67-80.

Burchardt, Tania, et al. (2002), Degrees of Exclusion, Hills, John, et al. ed., Understanding Social Exclusion, Oxford University Press, pp.30-43.

法務省(2015)「平成28年版『出入国管理』」.

石河久美子(2012)『多文化ソーシャルワーカーの理論と実践―外国人支援者に求められるスキルと役割』明石書店.

加山弾(2014)『地域におけるソーシャル・エクスクルージョン―沖縄からの移住者コミュニティをめぐる地域福祉の課題』有斐閣.

中本博皓(2009)「人口減少社会と移民(外国人労働者)受け入れ」川村千鶴子ほか編『移民政策へのアプローチ―ライフサイクルと多文化共生』明石書店,pp.28-39.

日本社会福祉士会編(2012)『滞日外国人支援の実践事例から学ぶ 多文化ソーシャルワーク』中央法規出版.

OECD(2014)International Migration Outlook 2014(SOPEMI2014).

奥田道大(1993)『都市型社会のコミュニティ』勁草書房.

山脇啓造(2005)「多文化共生の推進に関する政府の動向」関西国際交流団体協議会『NPOジャーナル』Vol.8, pp.8-9.

依光正哲編(2005)『日本の移民政策を考える―人口減少社会の課題』明石書店.

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

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