2014.06.20

限られた財源で、多様な子育て支援を展開するには――時間・貧困・自由選択

千田航 比較政治学/福祉政治学

福祉 #子育て支援#待機児童

2014年4月から消費税が8%になった。また、最終的な判断は下されていないが、2015年10月から消費税が10%に引き上げられる予定となっている。消費税増税は歳入の増加につながる一方で、消費税増収分から7,000億円は「子ども・子育て支援新制度」に充てられることになる。

民主党政権下で制度設計され、政権交代後も継続された「子ども・子育て支援新制度」は、小規模保育を含めた施設サービスへの給付や幼保一体化を目指した認定こども園制度の改善、社会全体による費用負担などを図るものである。2015年度から本格的に開始される予定であるが、一部は「待機児童解消加速化プラン」として2013年度から前倒しで実施されている。

今年度予算での「量的拡充」と「質の改善」は2014年3月28日に開催された子ども・子育て会議[*1]によって示されている。資料によれば、「量的拡大」は各市町村で見込みの算出作業中である一方で、「質の改善」は保育士等の処遇改善や小規模保育の先行実施、「小一の壁」を解消するための放課後児童クラブ事業への追加費用などが計上されている。

[*1] 子ども子育て会議(第14回)、子ども・子育て会議基準検討部会(第18回)合同会議、資料1「子ども・子育て支援新制度における「量的拡充」と「質の改善」について」

以上の子育て支援はすべての保育ニーズを充足するものではないものの、小規模保育所や家庭的保育事業(保育ママ)などのサービス給付を拡充していくための施策として位置づけられる。計画通りに進展すれば子どもを育てながら働き続ける環境の改善へと少しずつつながっていくだろう。

一方で、他の先進国の取り組みをみてみると、子どもを産み育てやすい環境の整備にサービス給付の拡充以外の手法が採用されていることがわかる。そのなかには、ワーク・ライフ・バランス(仕事と家族の調和)を促進するための施策や子どもの貧困に対処するための施策、現金給付によってサービス給付を支える施策など、時間・貧困・養育方法の多様性に対応するための幅広い子育て支援の展開がみられる。

ここでは、保育所などのサービス給付の拡充が今後の子育て支援のために重要であることを前提に、他の手段として時間や貧困、養育方法の多様性に対応するための子育て支援が他の先進国で行われていることを概観する。また、日本において多様な子育て支援を展開していくためには現在の財政状況に見合った合意や妥協を行っていく必要があることも指摘する。そして、フランスの「自由選択」による合意や妥協の事例から多様な子育て支援に向けた条件を考えたい。

子育て支援へ参加する時間

働きながら子どもを育てることを希望する人にとって、働いている時間に子どもを預けることができるサービス給付に加えて、子どもと一緒に過ごす時間の確保が重要な課題となるだろう。

こうした時間の確保に関して、ドイツでは「時間主権」の議論が出ている。労働時間の柔軟化というと企業の都合で進む印象があるかもしれない。しかし、ここでの「時間主権」は、労働時間だけではない自由な時間を配分できるよう労働者自らが時間の利用に対する決定権をもつことを意味する。

この「時間主権」を実現するために「労働時間口座」が一定の役割を果たした。1980年代、労働協約によって労働時間が厳しく決められている状況にあるなかで、企業が労働時間を柔軟に運用できるよう労働者が多く働いた労働時間を貯蓄する「労働時間口座」を導入した。ドイツ政府は1998年に「可動労働時間」キャンペーンで労働時間の大胆な自由化・柔軟化を推奨し、労働時間を長期的に貯蓄できるようにすることで、数年かけて貯蓄された労働時間を有給の長期休暇として振り分けることを可能にしていった[*2]。

[*2] 田中洋子 2006 「労働と時間を再編成する―ドイツにおける雇用労働相対化の試み」『思想』No.983、pp.108-109。

ドイツの事例は労働協約や労働時間規制のなかで企業側と労働者側の双方が合意し、労働時間を柔軟に運用することで自由時間を増やす試みであった。そのため、必ずしも子育て支援にのみ適用される施策ではなく、職業訓練や介護休業にも割り振ることができる。

「時間主権」の議論は家族政策において重要である。2012年に出された家族政策の方向性を提言する報告書(連邦政府第8家族報告書)はタイトルが「家族のための時間」となっており、時間主権の強化や多様な時間帯の調整、父母間や世代間での時間の分かち合い、よりよい時間管理のための両親への助言が家族時間政策の対象として掲げられた[*3]。

[*3] 倉田賀世 2013 「日本のワーク・ライフ・バランス施策に関する一考察―ドイツ法との比較法的見地から」本澤巳代子・ウタ、マイヤー=グレーヴェ編『家族のための総合政策III―家族と職業の両立』信山社、pp.62-65。

オランダでは「ライフサイクル規定」と呼ばれる長期休暇制度が2006年に施行された。これは、労働者が賃金の一部を金融機関に開設した特別口座に貯蓄し、無給の長期休暇を取得した際にその貯蓄の積立金から休暇中の生活費として払い戻しを受ける制度であった[*4]。ドイツと同様に休暇の目的は限定されていないが、オランダの育児休業が無給の制度であったため、ライフサイクル規定が実質的な育児休業給付としても利用できるようになった[*5]。

[*4] 水島治郎 2011 「ワーク・ライフ・バランス―「健康で豊かな生活のための時間」を目指して」齋藤純一・宮本太郎・近藤康史編『社会保障と福祉国家のゆくえ』ナカニシヤ出版、pp.196-200。

[*5] 権丈英子 2011 「オランダにおけるワーク・ライフ・バランス―労働時間と就業場所の柔軟性が高い社会」RIETI Discussion Paper Series 11-J-030、pp.20-21。

もちろん、子育てへの参加時間を確保するのであれば育児休業給付があるし、両配偶者の子育てへの参加機会を高めるものとしてドイツやスウェーデン、ノルウェーなどで実施されている「パパ・クオータ」が挙げられる。日本でも2009年から父母両方による育児休業の取得を支援するために「パパママ育休プラス制度」を創設した。日本では育児休業期間が原則で1年間となっているが、「パパママ育休プラス制度」を利用することによって育児休業期間が育児休業の対象となる子の年齢が原則1歳2ヶ月までに延長可能になっている。

ドイツやオランダで実施される超過労働時間の貯蓄という考え方は、育児休業給付期間を超えても子育てへの参加機会を高めるものとして評価でき、育児休業と両方で活用できれば多様な子育て支援の時間確保につながるだろう。ただし、労働時間の柔軟化は雇用環境の悪化につながる可能性もあるため、労働時間規制などとともに進めなければ子育て支援につながる施策にならず注意が必要である。

子どもの貧困と子育て支援

貧困との関係で子育て支援を考えていく必要もある。日本における子どもの相対的貧困率は年々上昇しており、2009年に15.7%まで上昇している[*6]。子どもの貧困への家族政策の役割も小さくなく、日本でも児童手当、児童扶養手当などで家族生活の安定を図ろうとしている。現金給付によって子どもの貧困を解消する手段は他国でもみられ、フランスでは貧困に陥りやすいひとり親や孤児に対する手当、養子を受け入れた際の手当などが用意されている。

[*6] 内閣府 2013 「平成25年版 子ども・若者白書」

イギリスは子どもの貧困に対応するための所得保障政策を積極的に実施している。1998年3月にブレア首相が「子ども貧困撲滅宣言」を行ったことから子どもの貧困対策が進み、子どもを扶養する世帯への給付付き税額控除が実施されるようになった[*7]。

[*7] 井上恒男 2014 『英国所得保障政策の潮流―就労を軸とした改革の動向』ミネルヴァ書房、pp.209-216。給付付き税額控除の現状については子ども税額控除就労税額控除のサイトを参照。

また、2003年4月からは「子ども税額控除」と「就労税額控除」が実施されている。「子ども税額控除」は、児童手当のほかに子どもを養育する親に対して実施される給付付き税額控除であり、16歳未満のすべての子どもと20歳未満で一定の要件を満たす教育や訓練を受けている子どもを養育する場合、親の就労に関係なく所得に応じて給付を行う。

「就労税額控除」は就労しても収入が低い者に対して所得に応じた給付を行う制度である。「就労税額控除」には保育ケア要素という項目があり、週16時間以上就労している親が養育している子どものために要件を満たすサービス給付を利用して保育料などを支払った場合、その保育料の70%か定められた上限額が加算される。

このようにイギリスでは子育て支援と子どもの貧困を結びつけ、児童手当だけでなく税制によって子どもを養育する家族を支援する制度を用意している。貧困対策として生活保護は重要な手段のひとつであるが、別の手法として家族政策から子どもの貧困問題を緩和する方法も考えられる。

「自由選択」による子育て支援の多様性確保

以上のように時間や貧困という面からも子育て支援を展開している事例があり、多様な保育ニーズに対応するための手段が出てきていることがわかる。では、多様な施策を既存の施策と合わせていかにして取り入れればよいのだろうか。

フランスでは「自由選択(libre choix)」型家族政策と呼べる多様な施策が展開されている[*8]。ここでいう「自由選択」は、子育てをするために家族内に留まるか労働市場に参加するかの選択は個人の判断に委ね、政府はどちらの選択にも不都合にならない多様な家族政策の提供を目指す全体的な方針として説明できる。

[*8] 千田航 2012 「ライフスタイル選択の政治学―家族政策の子育て支援と両立支援―」、宮本太郎編著『福祉政治(福祉+α 第2巻)』ミネルヴァ書房、pp. 37-51。

こうした「自由選択」の保障は2004年の乳幼児向け給付の改革から明確に示された。この作業部会の結論では、フランスの現金給付のあり方として、すべての子どもを対象とした基礎的給付と、多様な子育てへのニーズに対応するための補足的給付からなる2階建て構造の現金給付の確立が挙げられた。

1階部分の基礎的給付には、第2子以上の子どもがいるすべての家族に支給される「家族手当」や、所得制限があり3歳未満の第1子のいる家族に支給される「基礎手当」などが該当する。2階部分の補足的給付には、第3子以上の子どもがいる多子家族を支援する「家族補足手当」や、第1子から育児休業中の保障を受けられ、パートタイムで復職しても一定程度の保障を受けられる「就業自由選択補足手当」、働きながらの子育てをするために認定保育ママや在宅保育者を雇用した場合の社会保険料負担を補償軽減する「保育方法自由選択補足手当」などが挙げられる[*9]。

[*9] フランスの家族給付はここで挙げた以外にも多種多様に支給されている。サービス給付を含めたフランス家族政策の詳細は、神尾真知子 2007 「フランスの子育て支援―家族政策と選択の自由」『海外社会保障研究』第160号を参照。

フランスでは認定保育ママなどのサービス給付を現金給付によって支援する仕組みが多様な施策のなかに組み込まれている。小規模保育所を含めたサービス給付に対する投資も行われているが、実際に利用されている養育方法は認定保育ママが中心である。2013年に6ヶ月から1歳までの子どもをもつ家族を対象にしたアンケートでは、54%が親による子育てをしており、次いで29%の家族が認定保育ママを養育方法として選択していた[*10]。

[*10] CNAF 2013 “Baromètre du jeune enfant 2013,” l’e-ssentiel, No.140,p.2.

フランスで主たる養育方法となっている認定保育ママ制度は、主に親が働いているときに認定保育ママの自宅で子どもを預かってもらう仕組みになっている。認定保育ママが主要な養育方法となった背景には認定保育ママに対する手当の支給が影響している。1990年に創設された「認定保育ママ雇用家族補助」は認定保育ママを雇用した家族に対して社会保険料相当額を補償する手当であり、この制度以降、認定保育ママの数は2009年末時点で42万4,000人となり、約20年で30万人も増加することになった[*11]。認定保育ママへの現金給付の整備が結果的に保育所などのサービスより利用しやすくなり保育ニーズの充足を図るようになっていったといえる。

[*11] Borderies, Françoise 2011 L’offre d’accueil collectif des enfants de moins de 3 ans en 2009: Enquête annuelle auprès des services de PMI, DREES,p.53.

以上のように、フランスでは「自由選択」としてすべての子どもへの手当や多子家族支援、育児休業給付など多様な施策への合意が存在していることに加えて、認定保育ママへの支援を中心にサービス給付による保育ニーズを現金給付から支援する方法も取り入れており、現金給付から子育て支援の多様性を確保していったといえよう。

多様な子育て支援に向けた合意と妥協の必要性

これまで保育所などのサービス給付に加えて各国で展開されている子育て支援を概観してきた。しかし、現在の日本で時間や貧困への対応と子育て支援への多様性確保をすべて実施することは困難である。

その理由として日本の財政状況が挙げられる。実際、はじめに述べた「子ども・子育て支援新制度」ですら、「量的拡充」と「質の改善」が実現するためには1兆円超の財源が必要とされており、現段階で3,000億円超の財源の見通しがたっていない[*12]。加えて、安倍政権は2013年6月14日に中長期の財政健全化の考えを示し、国・地方のプライマリーバランスについて、2015年度までに2010年度に比べ赤字の対GDP比の半減、2020年度までに黒字化、その後の債務残高の対GDP比の安定的な引き下げを目指すとしており、財政再建の道筋もつけることになっている[*13]。

[*12] 子ども子育て会議(第14回)、子ども・子育て会議基準検討部会(第18回)合同会議、資料1「子ども・子育て支援新制度における「量的拡充」と「質の改善」について」、p.2。

[*13] 「経済財政運営と改革の基本方針について」(2013年6月14日閣議決定)、p.26。

2010年度のプライマリーバランスの対GDP比はマイナス6.6%であり、金額にして31.6兆円となっている。プライマリーバランスを改善するためには消費税増税だけでなく歳出削減も必要になっている。さらに、社会保障にかかる国費は毎年1兆円程度の自然増が見込まれており[*14]、社会保障は国の支出を増加させる要因となっているため、新たに社会保障支出を増加させる施策には抵抗が大きいと予想される。こうした状況のなかで子育て支援の多様な施策に十分な財源を充当することは容易ではない。

[*14] 2013年度予算概算要求では8,600億円となっている(厚生労働省 2013 「平成25年度予算概算要求の概要」、p.3)。

以上の困難な状況下で多様な子育て支援を展開してくためにはどのようなことが求められるのであろうか。ここではフランスで1990年代に生じた家族政策の削減に対する抵抗をみていくことで日本への示唆を考えてみたい。

「自由選択」のガバナンス

フランスの家族政策が1990年代半ばに削減の危機に瀕する背景には社会保障財政の赤字があった。

1995年11月に右派のジェベ内閣は社会保障財政の悪化に対する改革案として、「ジュペ・プラン」を示した。このなかで家族政策に対しても給付の引き上げ凍結や家族手当への課税が提言された[*15]。

[*15] Steck, Philippe 2005 “Les prestations familiales,” Comité d’histoire de la sécurité sociale, La Sécurité Sociale: Son Histoire à travers les Textes Tome IV-1981-2005-,chirat, pp.159-164.

この提案に対して、労働組合が批判するだけでなく、家族の経済的及び精神的な利益を目的に設立された家族団体からも批判があり、結果的にジュペ・プランが提示した家族手当への課税は見送られ、総合的な家族政策の提言がなされることになった。

家族手当の削減の危機は政権の変わった1997年にも出現する。第3次保革共存内閣が成立した際、家族手当への所得制限の実施が施政方針演説で発表された。この家族政策の削減に対して、家族団体や労働組合、野党、政権に協力していた共産党までもが反対するに至った。

このとき家族団体は、親の所得に関係なく普遍主義的に支給される家族手当への所得制限の適用は家族政策の否定であるとした。また、労働組合は所得制限によって企業側の拠出が削減されれば企業の社会的責任を回避することになるため普遍主義的給付の維持を訴えた[*16]。

[*16] 宮本悟 2007 「フランス家族手当制度の選別主義的改革―1997年改革による所得制限の導入」『中央大学経済研究所年報』第38号、pp.7-12。

これらの抵抗によって、家族手当の所得制限は導入されたものの約1年で廃止され、家族手当は再び普遍主義的性格をもつことになった。ただし、家族団体は1階部分の普遍主義的給付を守るために、家族手当の所得制限ではなく家族関連の税制である家族係数の上限引き下げを妥協案として政府側に提案して受け入れられた[*17]。普遍主義的給付を守る妥協も財政状況全体からみると必要であった。

[*17] Minonzio, Jérôme et Valla, Jean-Philippe 2006 “L’union nationale des associations familiales (UNAF) et les politiques familiales: Crises et transformations de la représentation des intérêts familiaux en France,” Revue française de science politique, Vol.56, pp.215.

以上のように、右派左派政党ともに提示した家族手当の削減は家族団体や労働組合などの反対によって挫折し、最終的には既存の2階建て構造を基礎的給付と補足的給付からなる「自由選択」として再編する道を選んだ。家族団体の妥協案の提示もあり、右派左派政党ともに「自由選択」で合意と妥協を行った結果、現代社会に適応した家族政策の再編を達成してきたといえる。

むすびにかえて

本稿では、近年ヨーロッパ諸国で展開される時間・貧困・養育方法の多様性に対処する子育て支援の展開を例示し、サービス給付にとどまらない子育て支援についてみてきた。その一方で、現在の日本の財政状況において幅広い子育て支援を展開することは難しく、フランスにおける家族手当の普遍主義的性格の維持とそれ以降の「自由選択」型家族政策への合意と妥協から多様な施策を発展させる可能性について探ってきた。

フランスの事例では、子育て支援を守るために他の制度で妥協してでも抵抗する家族団体や労働組合の存在があった。日本には家族団体のような組織は存在しないうえ、財政状況や家族政策の構造などフランスと異なる点も多いため、利益団体による子育て支援の擁護や拡充をそのまま求めることは困難である。ただし、子ども・子育て支援新制度が用意されるなかで、経営者団体や労働組合、子育て当事者、子育て支援当事者などが子育て支援の政策過程に関与する仕組みとして子ども・子育て会議が設置されている。

子ども・子育て会議は、制度ごとにバラバラな政府の推進体制を整備するため内閣府に設置された。現状ではサービス給付や現金給付しか担っていないため時間や貧困の課題に対しては他省庁との調整が必要となるが、子ども・子育て会議を通じて多様な施策を取り入れた子育て支援への合意や妥協を引き出すことができるかもしれない。

もちろん、専門家や利益団体に頼るだけでなく、幅広い子育て支援が重要との認識を共有する必要もあるだろう。2011年度の社会保障給付費に占める高齢者関係給付費の割合は67.2%である一方で、児童・家族関係給付費の割合は5.3%にすぎない[*18]。

[*18] 社会保障費用統計(平成23年度)、第18表および第19表

子育て支援の拡充にあたって高齢者関係給付の割合が低下していくと世代間対立が生じるかもしれない。また、正規雇用と非正規雇用との間にある賃金格差や復職条件などによっては現役世代内対立が生じる可能性もあるだろう。さらに、増大する単身世帯が子育て支援に対する費用負担に抵抗も起こり得る。

しかし、少子高齢化の現状などを考えれば世代間対立や世代内対立を乗り越えた多様な子育て支援への支持が広がる余地はある。時間の再分配や子どもの貧困への対処など養育方法の多様性に対して、多様な当事者が重要性を認識し、具体的な施策への合意や妥協を繰り返していくことによって多様な子育て支援が形成されるだろう。

サムネイル「Children playing」SanShoot

http://www.flickr.com/photos/grubbenvorst/5658726857#

プロフィール

千田航比較政治学/福祉政治学

北海道大学法学研究科助教。2013年北海道大学法学研究科博士課程修了、博士(法学)。専攻は比較政治学、福祉政治学、フランス家族政策。主な著作に「ライフスタイル選択の政治学―家族政策の子育て支援と両立支援―」(宮本太郎編『福祉政治』、ミネルヴァ書房、2012年)、「家族を支える福祉国家―フランスにおける家族政策とジェンダー平等」(宮本太郎編『働く―雇用と社会保障の政治学―』、風行社、2011年)。

この執筆者の記事