2015.06.12
「安保法制関連法案」を徹底検証!
5月14日、自衛隊の活動範囲を広げ、集団的自衛権の行使を可能にすることなどを盛り込んだ安保法案関連法案が閣議決定された。いったいなにがどう変わるの!?複雑な条文の内容を徹底解説!2015年05月14日(木)放送「安保法制関連法案が閣議決定。複雑な条文を徹底検証!」より抄録。(構成/飛田尚子)
■ 荻上チキ Session-22とは
TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら → http://www.tbsradio.jp/ss954/
なにが変わる!?
荻上 本日のゲストを紹介します。東京財団研究員の小原凡司さんと、首都大学東京准教授で憲法学者の木村草太さんです。
先日、自衛隊の活動範囲を広げ、集団的自衛権の発動を可能にすることを盛り込んだ「安全保障関連法案」が閣議決定されました。
これは、多国籍軍などへの後方支援を可能にする「国際平和支援法案」と、自衛隊法やPKO協力法などの現行法10本をまとめて改正する「平和安全法制整備法案」とになります。本日は、お二人にこの安保法関連法案についてお話をうかがいます。
その前に、まず、5月14日に行われた安倍総理の会見をご紹介いたします。
それでもなお、アメリカの戦争に巻き込まれるのではないか。漠然とした不安をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。その不安をお持ちの方に、ここで、はっきりと申し上げます。そのようなことは絶対にあり得ません。「戦争法案」などといった無責任なレッテル貼りはまったくの誤りであります。
行動をおこせば批判が伴います。安保条約を改定したときにも、また、PKO協力法を制定したときにも、必ずと言っていいほど「戦争に巻き込まれる」といった批判が噴出しました。しかし、そうした批判が全く的外れなものであったことは、これまでの歴史が証明しています。
私達は先の大戦の深い反省とともに、70年ものあいだ、不戦の誓いをひたすらに守ってきました。そして、これからも私達日本人の誰一人として戦争など望んでいない。そのことに疑いの余地はありません。私たちは、自信を持つべきです。時代の変化から目を背け立ち止まるのはもうやめましょう。子どもたちに平和な日本をつくるため、自信を持って前に進もうではありませんか。
荻上 小原さんは、安部総理の会見をどのように見ましたか?
小原 安倍総理がおっしゃったように、「戦争ができる国になる」法律ではないでしょう。今回の安保法制が、平和安全法制整備法と国際平和支援法と二つに分かれていることにも意味はあると考えています。
最近、難解な言葉がいろいろと出てきており、何のための法律なのか、その根本的な議論がされていないように思います。今回の法案でも、「存立危機事態」や「重要影響事態」など、様々な難しい言葉が出てきていますが、これまで何か起こっても対処できなかった空白の部分を埋めるために、自衛隊の活動で出来ることを増やしていこうという目的を感じますね。
ちなみに、「存立危機事態」は、自衛隊の集団的自衛権を行使する基準で、「重要影響事態」というのは後方支援の話です。しかし、双方とも日本の安全保障に関わる事態で、国際社会に対する貢献とは区別されます。
政策論争上は、まだ、それぞれを区分をする必要があるため、難解な言葉が出てきてしまったわけですが、日本の安全保障に直接かかわる問題についてもシームレスな(切れ目のない)対応が必要になります。存立危機自体から武力攻撃が行われる事態に線を引くことは非常に難しく、特定の事態だけにあてはまることはできないでしょう。
いままでは、何もない事態から武力攻撃が行われる事態の間が抜けていた。今回の法改正で少しずつ埋める努力をしましょう、というのも一つの目的です。
国民が有事のときに日本が関与すべきなのか、関与するならば、どのような形で行うのか、そして効果的に関与できているのか、常に監視をする必要があります。そうした時に根本的な理解ができていないと、的外れな議論になりかねません。
荻上 ちなみに安倍総理が「アメリカの戦争に巻き込まれるのではという漠然とした不安をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんがそんなことは絶対にありえない」という発言をされていましたよね。しかし一方で、「イラク戦争などに巻き込まれてきたじゃないか」という印象を持っている方も多いと思います。小原さんはどう思われますか。
小原 日本はこれからもそうした紛争に直接、それも当事者からの合意がない時に関与することはありません。あくまでも支援に徹するというのは、国際平和支援法の中にも述べられています。法制上も、「世界中で戦争をする」ということにはならないでしょう。
「重要影響事態」や「存立危機事態」だというのであれば、日本の安全に関わる問題なわけですから、それこそ、巻き込まれるという話ではありません。
ただ、その支援をするにあたって、今までの法律では制限がありました。例えば、危険にあっている方たちを基地の外に助けにいくことができなかった。そういった「かけつけ警護」等ができるようになるという話であって、当事者に武力を行使するということは一切ありません。
もちろん、ある特定の人たちの支援をすることによって、違う組織が日本に対して不快な思いや敵意を持つことがあるかもしれません。ですが、現に苦しんでいる人がいて、国際社会が助けようとしているときに、日本がほおっておくのか、という話です。単純に戦争に巻き込まれるわけではありません。
荻上 木村さんは今回の会見をどうみましたか?
木村 まず、安倍首相は「『戦争法案』などといった無責任なレッテル貼りはまったくの誤り」とおっしゃっていますが、自衛隊は武力行使の支援をするわけですから、武力行使支援法であることは間違ありません。
したがって「戦争法案」というのが無責任なレッテル張りかというと、そこまで言えるかは微妙です。ただ「戦争法案だから悪い」という議論をするのではなく、小原さんがおっしゃったように戦争に対してどう対応するのか、一つひとつの事態に対して国民がどれだけ成熟した判断を示せるかが、「戦争法案」になるか否かの分岐点になると思います。
荻上 一連の法律については、書かれている内容でどのようなオペレーションが実行されるのか、それに対してどの程度国民が合意しているのか、という議論が必要になります。そこでまずは、この具体的な安保法制の関連法案を見ていきたいと思います。まず木村さん、この法案はどのような趣旨のものなのか、教えてください。
木村 趣旨としては、「自衛隊が海外で行うことができる活動の範囲を広げる」の一点に尽きると思います。どう広げるのかという点について4項目が挙げられています。
1.在外邦人の警護、救出の拡大
2.国連PKOへの協力拡大
3.自衛隊による外国軍の後方支援の拡大
4.集団的自衛権行使の限定容認
これから先の話を聞いていくうえで注意してほしいのは、「武力行使」という言葉の定義についてです。
外国で行う実力行使のうち、主権国家を相手にするものを「武力行使」と言います。テロリストや犯罪者集団、武装勢力など、国ではない主体に対する実力行使は「治安活動」や「警察活動」と呼ばれます。これらは区別をする必要があり、憲法上の扱いも違うことを念頭においてください。
荻上 今夜はこの4点の中を中心に、従来の条文と新しい法案を比べ、「ビフォー/アフター」でどのように変わったのか、どのように解釈できるのか、そして現場にはどのような影響があるのかということをスタジオのお二人に読み解いていただきたいと思っております。それでは一つ目のポイントはこちらです。
1.在外邦人の警護、救出の拡大
【従来】
防衛大臣は、外務大臣から外国における災害、騒乱その他の緊急事態に際して生命又は身体の保護を要する邦人の輸送の依頼があつた場合において、当該輸送において予想される危険及びこれを避けるための方策について外務大臣と協議し、当該輸送を安全に実施することができると認めるときは、当該邦人の輸送を行うことができる。(自衛隊法 第84条の3)
【新法案】
防衛大臣は、外務大臣から外国における緊急事態に際して生命又は身体に危害が加えられるおそれがある邦人の警護、救出その他の当該邦人の生命又は身体の保護のための措置を行うことの依頼があった場合において、外務大臣と協議し、内閣総理大臣の承認を得て、部隊等に当該保護措置を行わせることができるものとすること。
木村 災害や騒乱があった場合に、従来は在外邦人の輸送だけができることになっていました。武装勢力に拉致された人を救出したり、攻撃を受けるかもしれない人を守ったりする業務は、基本的に想定されていなかったんです。
今回の改正では、邦人の警護・救出のための措置も行えることになっています。当然、警護・救出ということになれば現地の武装勢力と戦うことも想定されるわけですから、自衛隊はこれまでよりもかなり危険な任務を担う可能性があります。
荻上 自衛隊に死者が出ることも想定しているのでしょうか。
木村 それは、法律の解釈次第でしょう。自衛隊員の安全確保も法律では定められています。「自衛隊員の安全と救出活動と、どちらを優先するか」の判断を迫られる場面が出てくる可能性はありますね。
荻上 条文が変わることで、現場に与える命令や作戦はどのように変化するのでしょうか。
小原 これまでは輸送に限定されていたので、自衛隊が邦人を救出しに行っても、助け出されたり自力で来るまで、ずっと待つ必要があった。それが改正されたということですね。
では、実際にどこまで邦人を助けるのかが議論になると思います。目の前で邦人が銃撃を受けている場合に自衛隊はそれを守るのか、輸送の途中に攻撃されたたら警護活動ができるのか、拉致されている邦人を救出できるのか。いろいろな場合が考えられます。
隊員の安全の確保は法律に明記されていますから、どこまでをやるのか、その辺は考慮されるのだと思います。ただし、実際の救出・輸送活動において、まさにそこにいる邦人を助けることもできないのは困りますよね。常識的範囲で、自衛隊は活動をするのではないでしょうか。
荻上 目の前にいる人に対する警護や、拉致された人に対して救出作戦を用いるケースがあったりと、解釈によって様々ですよね。この解釈の範囲はどのようになりそうでしょうか?
木村 救出作戦をする場合には、「現地の治安当局が機能している地域」かつ「その地域の同意があること」という条件があります。
武装勢力に拉致されるような場所は、「現地の治安当局が機能している地域」とは言えませんから、たとえば、邦人が拉致監禁されたISのような事件での救出活動は、まったく想定されていません。
条文の文言を理解する限りでは「現地の救出作戦を補助して輸送すればよい」という程度に収まると解釈できるでしょう。
荻上 つまり治安が維持されていて、でも現地の警察が対応できない場合に自衛隊が行くということですね。いろいろな条件が重なっていると。
木村 条件が厳しいので、われわれが「救出作戦」と言って普通に思い浮かべるものが想定されているのかは分かりません。総理は、アルジェリアやシリアで日本人がテロの犠牲になったことについて挙げていますが、条文の条件からすると、その事例とは乖離があるように思います。
荻上 小原さんそのあたりどうですか。
小原 自衛隊にとって任務は絶対で、それを遂行するために自衛隊はいるわけですから、命令があればその任務を遂行するわけです。一方では自衛隊の中では安全の指導も厳しく行います。任務を達成するのと安全というのは常にせめぎ合うものですから、そういう意味ではこの法律をしっかり解釈して自衛隊の安全や治安状況を判断しなければならないと思います。
2.国連PKOへの協力拡大
【従来】
派遣先国において国際平和協力業務に従事する隊員は、自己又は自己と共に現場に所在する他の隊員若しくはその職務を行うに伴い自己の管理の下に入った者の生命又は身体を防衛するためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で、当該小型武器を使用することができる。(国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律第24条)
【新法案】
業務を行うに際し、自己若しくは他人の生命、身体若しくは財産を防護し、又はその業務を妨害する行為を排除するためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で、武器を使用することができるものとすること。
荻上 これはそもそも、何がどうなるんですか?
木村 従来のPKO協力法24条は、武器が使用できるのはあくまで自分の隊を守る範囲でした。しかし、これだと現地の住人の方を警護したり、戦いに巻き込まれたほかの国の部隊を助けたりする「かけつけ警護」ができません。そこで、武器使用の範囲を広げて、業務を遂行するのに必要な武器使用ができるようになりました。
これは外国を相手にした武力行使ではなくて、現地の治安活動を手伝うという範囲のお話です。それに伴って、PKOの協力業務の範囲も広げたというのが、この法律の二つ目のポイントになります。
荻上 このPKOへの協力は、どういったものが想定されているんですか?
木村 国相手の武力行使ではなく、武装勢力やテロリストが治安を乱している状況で行われるPKOが想定されています。
荻上 国が相手ではないということは集団的自衛権の議論とは水準が違うということですね。
木村 はい。ここまでの二つは治安活動にまつわる法改正だと思ってください。
荻上 合憲性・違憲性についてはどのようになりそうですか?
木村 あくまで法律の建前論としては、治安活動は相手国の主権を尊重したうえで行う活動なので、憲法上は武力行使ではなく外交としての活動になります。したがって憲法上の問題がすぐに生じるというわけではありません。
ただし、最近の国際政治の現実は、シリア、イラクのケースのように武装勢力と主権国家の堺目が非常に曖昧になっているので、治安活動だから苛烈な交戦状態にならない、自衛隊員に危険がないかというと、そうではないという点は注意するべきだと思います。
荻上 ケースによっていろいろな議論があるので、法律をどのような範囲で解釈するのかが問われそうですが。
木村 解釈自体は、国連決議があってPKOをやるということなので、明確なルールが一応あります。ただ国連PKOの業務というのが、現地の警察活動を手伝うものから、かなり苛烈な状況になることもあるという点はぜひ注意してほしいと思います。
ひとつ、強調しておきたいのは、ある時点では「テロリスト」とみなされていった主体が、成長とともに「国家」に準ずるような存在になることもあることです。国家に準ずる規模にまで成長した主体と戦う時には「武力行使」ということになります。
仮に、ISのような大きな力を持ちつつある勢力を抑える活動に参加する場合、条項によっては「武力行使」に該当することになり、法律上、治安維持とは違う枠組みになることは注意です。今後、国とテロリストとの線引きをどうするのかが、重要な議論になってくると思います。
荻上 この法案が通った場合、現場はどうなるんでしょうか。
小原 もともと、武器の使用は正当防衛の範疇です。現地の紛争に関与するのではなく、自分たちの隊員、現地で活動しているほかの隊員、あるいは現地の人々、PKO等で活動している民間の人々など、自分の近くにいる人たちの生命、財産を守る正当防衛の範疇に含まれています。
荻上 こういうことができるようになると対応する活動範囲や作戦内容は変化するものですか。
小原 作戦が変化することはないと思います。こういう活動に出る時は目的があって出ているわけですから、法律が改正されたとしても自衛隊の目的はこれまでと変わらない。国連の統括下のPKOだけではなくなっても、その基本原則は変わらないでしょう。
また危険なところに行く可能性が増える、という話もありますが、自衛隊の活動の中断ができることは明記されています。今回「一時休止」というものが加えられました。これは現場指揮官の判断で、今ある活動を一時的に休止することができる。これは現場の指揮官に非常に厳しい判断を迫るものになると思いますが、日本にいてわからないこと、現場でしかわからないことに配慮されていると言えるでしょう。
荻上 今まで二つのケースは外交に位置するところで、集団的自衛権とは違う議論でした。続いては、「軍」という言葉が出てきます。
3.自衛隊による外国軍の後方支援の拡大
【従来】
そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態(周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律 第一条)
【新法案】
そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態
荻上 木村さん、こちらのポイントはどちらになりますか。
木村 まず、「後方支援」という言葉について整理しましょう。これは、外国軍が行っている武力行使、つまり国と国とが交戦状態の時に、どちらか一方を支援することを指します。
これまで、日本の周辺地域で重要な影響がある事態、あるいはイラク特措法のような法律で特別に認められた場合のみ後方支援ができました。しかし、今回は周辺事態から地理的制約がなくなりました。
荻上 また、改正案では、「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律」(国際平和共同対処法)を新設し、次のような事態が起きた場合にも後方支援ができるようにしています。
【新法案】
第一条 この法律は、国際社会の平和及び安全を脅かす事態であって、その脅威を除去するために国際社会が国際連合憲章の目的に従い共同して対処する活動を行い、かつ、我が国が国際社会の一員としてこれに主体的かつ積極的に寄与する必要があるもの
荻上 木村さん、こちらはいかがでしょうか。
木村 一定の条件を満たせば、イラク特措法のような特別な法律を作らなくても後方支援に出かけていけるようになるということです。
国際平和共同対処法により、できる業務も広がっています。日本国憲法の下では、後方支援をするにしても、日本自身は武力行使することが許されません。この点は、外国の武力行使とは一体化しない範囲で行うというルールになっていて、武力行使の一体化にならない範囲で後方支援をする、という法律になっています。
これまで、戦闘で弾薬を提供したり、戦闘地域に行く戦闘機に給油することは、明示的に禁じられていました。その理由は、外国からの需要がないから、と説明されていましたが、内閣法制局は、武力行使一体化の懸念があるので、慎重に検討すべき、との立場でした。
しかし、今回の法案では、それをとっぱらおうという話がでてきていて、後方支援のメニューも拡大しているのが特徴です。
荻上 そうなると、現場ではどういった展開になっていくんでしょうか。
小原 重要影響事態というのは日本に直接影響が及ぶ事態で、自衛権にも関わるものですが、国際平和共同対処事態は国際社会における協力のための行動で自衛権は行使されません。この二つの性格が異なることをまず考慮する必要があります。
後方支援の内容自体は、自衛隊にとっては同じ行動です。しかし、これから議論していく中で、日本の安全保障に直接かかわりがあるとされているのか、国際社会の貢献で行われているのかは、議論されるべき部分だと思います。
荻上 今回の法律は「我が国の平和安全に重要影響が出る事態」とされているので、国際平和とは別の議論になっているわけですね。これから、自衛隊が弾丸や給油をどんどんしてく形になっていくのでしょうか。
小原 去年、韓国軍に弾薬を渡そうとした際、向こうが拒否するといったことがありました。どのような時に、どのようなオペレーションができるのか、これまで議論されていると思います。今回の法律では「武器の提供を行う補給を除く補給」ができるということなので、ここの部分をどう解釈するかは考えていくべき問題だと思います。
また、国際社会に対する貢献は、国会での例外なき事前承認が必要とのことなんですが、重要事態法になると、今度は原則承認になる。
いずれにしても、基本計画を国会に報告することが定められているんですね。この計画なしに動くということはあり得ないわけですから、この法律ができたからと言って、政府が無条件に自由に自衛隊を使うことにはならないでしょう。計画の中にどういった内容のものが含まれるかは、それこそ私たちが見ていかなければならないことだと思います。
荻上 木村さん、これ合憲・違憲の判断で言うとどうなんですか。
木村 あくまで「武力行使と一体化しない範囲で」と書いてあるので、文言上は違憲とは言い難い面はあります。ただ実際問題として、現場ではいろいろなことがありうるわけです。イラクの時も、兵員を戦闘地域に輸送したということが憲法違反だと名古屋高裁で判断されました。
まず必要なのは、現地のオペレーションの中で違憲なことが起きているのをどうやって止めるのかという仕組みを考えることです。
それから、後方支援した武力行使が正義にかなったものかどうか、国際法的に正しいものであるのか、そうした点を事後的に検証する手続きを整備することも重要です。たとえば、イラク戦争では、大量破壊兵器の存在を理由にアメリカはイラクを攻撃し、日本もそれを支持しましたが、結局、大量破壊兵器がありませんでした。しかし、責任追及が十分にされたとは言えない。
たとえ慎重に判断したとしても、その判断が間違っていたとあとから分かる場合がある。いまは、事前の決定ばかり議論されますが、事後的な責任追及の仕組みを設けることができるのか、これも注目する必要があります。
荻上 ちなみに一体化ってどこからが一体化で、どこまでが一体化じゃないというのですか。たとえば、これから飛び立つ戦闘機に給油をするのはダメだと。
木村 それはダメです。直接戦闘行為を支援しないというイメージを持っていただければと思います。
ただ、武力行使の一体化はだいぶ古い基準がずっと使われているので、本国会で内閣法制局や政府がどんな基準を示すのかで変わってくるでしょう。
もちろん、アメリカの戦争中にアメリカと貿易をするのはある意味では戦争の支援ですし、戦闘地域で水を配る、医療行為を行う、武器を提供するといろいろなランクがあるので、そこでどこで線を引くかというのは政府に明確な基準を示してもらう必要があると思います。
荻上 法律の外側でいろいろな方針や指針を明確にしなければならないことが分かりました。最後のテーマはこちらです。
4.集団的自衛権行使の限定容認
【従来】
内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。(自衛隊法76条)
新条文では、次のような場合にも防衛出動ができるとされている。
【新法案】
我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合
荻上 木村さん、こちらのポイントはいかがですか。
木村 これは、日本自身が武力行使をできる場合の条件になるので、非常に重要なポイントになってきます。これまでは「日本が武力攻撃を受けた場合」という条件だったのが、「日本の存立が脅かされる明白な危険がある場合」という条文に変わるということです。
荻上 「日本の存立が脅かされる明白な危険がある場合」は「存立危機事態」とも言われていますが、どう解釈すればいいのでしょうか。
木村 これは憲法に適合するように読むこともできます。従来の政府解釈では、「存立が脅かされる事態」とは、日本が武力攻撃を受ける事態のことを言ってきました。
つまり、「存立危機事態」は、A国がB国へする武力攻撃が日本への武力攻撃の着手と考えられる事態、のことを指していると、私は解釈しています。そう読むと、個別的自衛権の範疇の武力行使だと言えますし、内閣法制局はそれを前提にOKを出したんだろうと思います。
しかし、実際の閣僚の発言を聞いてみると、この文言をきちんと理解していないと感じます。「日米同盟が揺らぐ」とか、「経済的理由でオイルショックが起きる」といった、日本の存立が脅かされるとまではいえないような理由で武力行使ができると言ってる答弁もあったりするので、この点については文言の理解をキチンと閣僚の間で周知徹底することが重要だと私は見ています。
荻上 木村さんの見立てですと、とりあえず集団的自衛権を認めた、解釈改憲をしたという手柄がほしい安倍さんが、実質は個別的自衛権の範囲内でできることに、集団的自衛権というラベルを貼って今回の議論を展開しているということですが。
木村 おそらくそうなんですね。実は「この我が国の存立が脅かされる明白な危険」という文言が入ることを、安倍総理はかなり抵抗していたといわれています。ただ、公明党との妥協の中でこの文言を入れざるを得なかったので、そこを飲んで、今の閣議決定の文章にいたったという事実はありますね。
荻上 そうした中で、具体的な運用の仕方についての議論がある一方で、違憲の範囲も認めてしまうかのような法律の書き方になっている。それでもやっぱり憲法の範囲内で運用していく必要があるのでしょう。
木村 そうです。違憲の疑いがある法律は、憲法に適合する解釈が選べる場合、そちらを取らなければいけないという憲法適合解釈の原則というのがあります。したがってこの条文も憲法違反にならないように読む義務があります。
荻上 そうなると個別的自衛権の範囲にとどまらない集団的自衛権は相変わらず認められてはいないということですか。
木村 ということになると解釈せざるを得ないといえます。逆に、政府や閣僚が、個別的自衛権を超える武力行使ができるとの解釈を示し、それを前提に法律を制定することは許されません。
荻上 そういうことになったらもちろん違憲だということですね。小原さん、こちらの文言になる影響はいかがでしょうか。
小原 実際の運用の面からいうと、個別的自衛権なのか集団的自衛権なのかという判断は、共同作戦の場合に難しくなります。
これまではこういった事態は起こらなかったわけですが、この作戦が本当に日本だけを守っているのかどうか、現場にいる人たちが判断すること自体がまず難しい。さらに、集団的自衛権の行使だと思った場合でも、現に展開しているオペレーションから抜けられるのかという問題があると思います。ですから、基本計画が国会に報告された段階で、現に起こっている事象が日本に対していどのような意味を持つのか、日本はどう対処すべきなのかがしっかり議論されるべきだと思います。
荻上 法律が組み換わることによって日本にとってオプションの数が増えるわけですね。そうすると今まで参加を見送っていたものに対してもコミットするように変化する可能性があるということですね。
小原 そういうと世界中の国がそのオプションを持っているわけで、オプションがあるからといってみんな攻撃的なのかというとそういうわけではない。
安倍総理の話の中でも「自信を持ちましょう」という話がありましたけれども、これは日本人が自分で日本はどうあるべきかを決める時に、日本が「戦争」という選択をすることはないということに、自信を持とうということです。
荻上 今後の国民に対して、性善説で期待するような演説だったと思います。他方で、選択肢を得たからには自覚的な議論も求められますよね。
小原 そうですね。今後国民が、積極的に日本がどうあるべきか議論していく必要があると思います。
荻上 今日は木村さんが上げてくださった4つのポイントを見ていきました。今後の国会での論戦の着眼点はどこだと感じますか。
木村 まずは業務が拡大する自衛隊員の安全確保でしょう。そのためにどれだけの具体策を政府が提示できるのか、これを野党の側はしっかり追及してほしいと思います。
また、解釈が曖昧であったり、きちんと憲法の範囲に収まる解釈にしないといけない条文がたくさんあるので、そこは逐一指摘して言質を取ることも必要だと思います。
特に集団的自衛権の「存立危機事態」については閣僚から出る解釈が非常に曖昧なので、きちんと「個別的自衛権と重なる範囲です」という答弁をさせること。それがないと信用できないのは当たり前ですし、憲法違反との指摘を受けるでしょう。
プロフィール
木村草太
1980年生まれ。東京大学法学部卒。同助手を経て、現在、首都大学東京教授。助手論文を基に『平等なき平等条項論』(東京大学出版会)を上梓。法科大学院での講義をまとめた『憲法の急所』(羽鳥書店)は「東大生協で最も売れている本」と話題に。近刊に『キヨミズ准教授の法学入門』(星海社新書)『憲法の創造力』(NHK出版新書)がある。
小原凡司
東京財団研究員・政策プロデューサー。1985年 防衛大学校卒。筑波大学大学院修士課程修了。2010年2月 防衛研究所 研究部。海上自衛隊第101飛行隊長(回転翼)、駐中国防衛駐在官(海軍武官)、海上自衛隊第21航空隊司令(回転翼)、防衛研究所研究員などを歴任。海上自衛隊を退職後、2011年からIHS Jane’s入社 アナリスト兼ビジネス・デベロップメント・マネージャーを経て、2013年から現職。 著書に『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)
荻上チキ
「ブラック校則をなくそう! プロジェクト」スーパーバイザー。著書に『ウェブ炎上』(ちくま新書)、『未来をつくる権利』(NHKブックス)、『災害支援手帖』(木楽舎)、『日本の大問題』(ダイヤモンド社)、『彼女たちの売春(ワリキリ)』(新潮文庫)、『ネットいじめ』『いじめを生む教室』(以上、PHP新書)ほか、共著に『いじめの直し方』(朝日新聞出版)、『夜の経済学』(扶桑社)ほか多数。TBSラジオ「荻上チキ Session-22」メインパーソナリティ。同番組にて2015年ギャラクシー賞(ラジオ部門DJ賞)、2016年にギャラクシー賞(ラジオ部門大賞)を受賞。