2017.12.06
外国人の受け入れと処遇をめぐって――出入国管理政策と社会統合政策
日本では争点とならない外国人に関わる政策
前稿(加藤 2017)では、(1)日本における外国人(外国籍の人に加え、元外国籍で現在は日本国籍に帰化した人や、いわゆるダブル(ハーフ)の子どもなど外国に由来する人々も含む)は近年増加の一途を辿っていること、(2)とくに労働の世界における「外国人依存度」が高まっており、私たちの日常生活は外国人による労働と無関係でいることがますます困難になってきていること、(3)将来的には日本の総人口に占める外国人の割合が欧米諸国並みになると見込まれていること、などを示した。
現在の欧米諸国に目を向ければ、増加する定住外国人や難民等の扱いについて、治安維持や自国民の就業機会の確保、社会保障費の負担等の側面から、近年実施された国政選挙では、外国人に関わる政策が主要な争点となっている。他方で、2017年10月に行われた日本の衆議院議員総選挙では、まったくといってよいほど争点にはならなかった。日本の総人口に占める外国人の割合が2%程度であり、外国人の増加や定住化に伴い求められる施策が遠い将来のこととしか認識されていないことが、その背景にあると考えられる。
加えて、争点となり得ていない要因には、日本政府が外国人の新規受け入れ等について、「国民的コンセンサスを踏まえながら検討する」という方針を示しているものの、「国民的コンセンサス」を形成するにあたって、具体的に何を議論し、何を合意形成すべきかについては十分に示しているとは言い難いこともあると考える。
そこで本稿では、私たちがこのテーマについて、今後どのような議論を行い、どのような取り組みを政策的に推し進めていく必要があるかについて、(1)出入国管理政策(外国人の受け入れに関する入り口の議論)と、(2)社会統合政策(すでに日本で生活をしている外国人に関する受け入れ後の議論)、2つの政策的視座から論点を提示したい。
1.入り口の議論:出入国管理政策について
1-1「中技能の外国人」向けの在留資格新設
前稿(加藤2017)では、日本で働く外国人労働者108万人(2016年10月末)のうち、就労を目的とした在留資格を付与され働いているのは全体の18.5%にとどまっており、本来は就労が主目的ではない外国人(留学生、技能実習生等)が大きな割合を占めているという在留資格制度の歪みを指摘した。
こうした歪みを発展的に解消するために、現在の在留資格制度では対応し切れていない、(高度外国人材ではない)「中技能の外国人」向けの在留資格の新設に向けた議論が求められる。
図表1には、技術・技能レベルと対応する外国人労働者(在留資格)の概念を整理した。現在でも、就労を主目的とはせずに入国・滞在が認められた外国人には、中技能の業務に従事し、企業内で基幹的な役割を果たしている人が含まれると考えられる。こうした外国人を労働者として正面から受け入れるための要件を整備し、クリアした人には在留資格を付与する制度を構築することの検討を始めるべきである。
図表1 技術・技能レベルと対応する外国人労働者(在留資格)のイメージ
(資料)佐藤(2017)を参考に、筆者作成。
本図はあくまで、技術・技能レベルと外国人労働者の関係を模式的・視覚的に示すことに主眼においているため、細部については正確性を欠く部分があることをご了承願いたい。
現在、愛知県では国家戦略特区の枠組みで、人材ニーズの高い産業かつ日本人を採用できない分野における「中技能の外国人」に対して、「産業人材」という在留資格を新設・付与し、当該外国人を受け入れるという先行的な提案をしている。
弊社の調査では、愛知県内の中小製造企業の約6割で、実際に生産工程の技能工レベルを想定する「産業人材」を受け入れるニーズがあることが明らかになっている(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 2017)。
図表2 「中技能の外国人」の受け入れに対する企業評価
(資料)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(2017)「製造業の生産工程における人材不足と愛知県「外国人雇用特区」検討に関するアンケート調査」(上記設問は.愛知県が提案する「外国人雇用特区」制度に対する評価についての回答結果)
(注)対象企業:愛知県内企業1,000社程度、外国人雇用が多い業種(食料品製造業、プラスチック製品製造業、金属製品製造業、生産用機械器具製造業、輸送用機械器具製造業)、従業員300名以下
回収数:135社、調査年月:2016年9月
今後、本格的に「中技能の外国人」の受け入れを進めるには、技能レベル、受け入れの対象分野、受け入れ人数の設定、日本語能力、在留付与期間、家族の帯同、職場変更の自由、受け入れ企業の義務などが主な論点となり、それぞれの要件をどう設定するかがポイントになる(図表3)。
図表3 「中技能の外国人」の受け入れにあたっての主な論点
(資料)筆者作成。
このなかでは、「どのようにして『中技能を有する』と認定するか」という技能レベルがとくに重要な論点になるが、たとえば愛知県の提案では、国家検定である技能検定3級以上を一つの目安としている。現在、技能検定の一部職種は、アジア諸国で検定試験が実施され始めており、こうした動きを広げることで日本の技能検定取得者の裾野が拡大し、「中技能の外国人」の母集団形成につながるとも考えられる。
1-2「中技能の外国人」の在留資格付与・受け入れにより期待されること
「中技能の外国人」に在留資格を与え、労働者として正面から受け入れることで期待されることは多い。
まず、「中技能の外国人」の人材要件を精緻にすることで、これまで曖昧に使用されてきた「高度外国人材」や「専門的・技術的分野の外国人」、「いわゆる単純労働者」という表現や定義の見直し・明確化が期待される。
自由民主党(2016)が示している基本的考え方では、「いわゆる単純労働者」という用語の使用は不適切であり整理が必要であることや、何が「専門的・技術的分野」なのか判然としていないことが言及されており、そうした問題意識と「中技能の外国人」対象の在留資格創設は通底している。
さらに、技能実習制度に関わる課題の改善も期待される。技能実習生を誠実に受け入れている企業からは、「一定の技能や日本語能力を有する実習生が、実習期間終了に伴い帰国せざるを得ず、企業側にも実習生本人にも教育費用や機会の損失となっている」という声がしばしば聞かれる。
こうしたなかで、中技能の在留資格が新設されれば、継続して(元)技能実習生を雇用したい企業と、「国際貢献・技能移転」という(表向きの)目的のために帰国しなければならない技能実習制度との間に齟齬が生じることになり、技能実習制度自体の見直しが促される可能性もある。
中小企業側にとっては人材育成が無駄にならず、安定的に労働力を確保でき、外国人側も将来設計を立てながら、安心して働き、生活できる制度づくりの契機となることを期待したい。
1-3 韓国が始めた取り組み:「外国人熟練技能人材ポイント制」(2017年8月から)
「中技能の外国人」の受け入れにあたっては、韓国が2017年8月から開始した「外国人熟練技能人材ポイント制」が参考になる。
日本や韓国を含め多くの諸外国において「高度人材ポイント制」(注1)はすでに運用されているが、日本と同じく少子高齢化・労働力不足の課題を抱える韓国では、新たに「中度人材ポイント制」とでも呼べる制度の導入を決めた。
(注1)年収、年齢、学歴、語学力等を階層化してポイントを決め、その合計点が一定点数以上に達した外国人には優遇措置を与える制度。1967年にカナダが開始し、日本では2012年から、韓国では2010年から実施している。
そもそも韓国では日本と異なり、非熟練労働に従事する外国人の受け入れを法律で定め、雇用許可制として実施している(雇用許可制に関する最新の詳細は佐野(2017)等を参照)。
この雇用許可制等で入国した外国人を対象に、根幹産業(鋳造、金型、溶接、塑性加工、表面処理、熱処理の6つの技術を活用して事業を営む業種)または農林畜産漁業において、産業分野熟練度、学歴、年齢、韓国語能力などを点数化する。そして、一定点数以上に達した場合は、「熟練技能人材」という新たな在留資格を付与し、安定して継続的に韓国国内で当該分野に勤務できるように制度化した(注2)。非熟練から熟練労働者へ移行する際の仕組みを制度化し、人材確保や産業全体の活性化が目指されている。
(注2)なお、雇用許可制での滞在期間は原則3年、事業主の申し出があれば1年10ヵ月の延長可能。さらに、延長後6ヵ月経過後の再入国も認められているが、再入国は受け入れ人数全体の1割程度にとどまる(日本弁護士連合会人権擁護委員会 2017)。
韓国法務部の資料にもとづき、「外国人熟練技能人材ポイント制」の制度概要をまとめたものが図表4である。制度の対象は、直近10年以内に4年以上雇用許可制等で入国し、韓国国内で誠実に就業している外国人である。加点項目は「必須項目」と「選択項目」で構成される一方、法令違反がある場合の「減点項目」も設定し、社会的負担を抑えることも目指されている。
図表4 「外国人熟練技能人材ポイント制」概要
(資料)韓国法務部資料に基づき筆者作成。
(注)関係省庁の協議を行いながら、2017年末までに最大300人規模でのモデル事業を実施。モデル事業評価の結果を反映して、2018年から本格的に実施する予定。
「中技能」に関する特徴がよくわかる項目をみると、たとえば「学歴」について、各国で運用される高度外国人材向けのポイント制では、博士号取得者が最高点のケースが多い。だが、韓国の「外国人熟練技能人材ポイント制」では学士号取得者が最高点で、高卒者もポイントの対象となる。また、「韓国語能力」も、高度外国人材のようにネイティブレベルまでは求めず、意思疎通が可能な中級レベルを最高点としている。
「技能レベル(産業分野熟練度)」については、年収基準か取得している国家技能資格レベルのいずれかで測ることになっている。ここでも「中度」であるため、国家技能資格制度の最高等級である「技術士」ではなく、その下の「技士」を有していると最高点が付与される仕組みになっている。
こうしてポイント化することにより、国外的には外国人の受け入れにあたる公平性を、国内的には受け入れる外国人の審査基準の透明性を担保し、外国人の量と質を制御しているというシグナリング効果が期待されている(注3)。
(注3)ただし、ポイント制には、上述した「透明性」に加え、「柔軟性」(=受け入れ国政府の裁量で、ポイント制度の項目や配点基準を変更して、受け入れ人数を調整することができること)の2つの特徴がある。ポイント制度は、受け入れ政府にとって、裁量を保持したまま、受け入れの正当性を能力主義的観点から根拠づけることができる、使い勝手のよい政策ツールとなり得るため、運用面でのチェックは重要となる(明石2015)。
翻って日本に目を向ければ、特例の時限措置や国家戦略特区において、建設業、造船業、家事労働、農業といった分野で、一定の技能を有する外国人労働者の受け入れを行っているが、在留資格は新設せず(「特定活動」として対応)、また、受け入れ要件も各業種に紐付く管轄省庁ごとに設定され、政府として統一的な対応はとられていないのが実態である。
また、韓国のこうした動きについて、制度面ではなく、産業を支える人材の確保という面からみれば、今後少子高齢化・労働力不足が深刻化するなかで(とくに東アジアでは顕著)、高度外国人材のみならず、「中技能の外国人」をいかに自国に惹きつけるかという競争が世界的に始まりつつあるといえる。
門戸を開放すれば外国人が大量に押し寄せてくるかのようなイメージを私たちは抱きがちだが、働く場所・生活する場所として、現在の日本の制度・待遇が果たしてどれほど魅力的なものなのかを考えなければならない。時機を逸することのないよう、対応を急ぐべきである。
2.受け入れ後の議論:社会統合政策について
日本にはすでに300万人近い外国に由来をもつ人々が暮らし、今後も増加が見込まれている。外国人の受け入れ局面にとどまらず、受け入れた後の生活環境の整備等を含め、本格的に国を挙げた社会統合政策に取り組む必要がある。
改めて確認をすれば、社会統合政策とは、外国人の日本社会への「同化」政策ではない。外国人の権利を保障するとともに外国人に義務も果たしてもらうこと、また、外国人の文化的多様性を維持するとともに、日本社会・地域社会の構成員としての責任も分担してもらうことを目指す政策である(井口2015)。
日本の現状は、外国人の定住・永住化が進む一方で、国として十分な社会統合政策が行われていない面で、1980年代の欧州諸国の状況に類似している。このままの状態が続くと、その後の欧州諸国のように受け入れ社会と外国人との間で摩擦や軋轢が生じる懸念も指摘されている(井口2011)。
ここでは、これらの指摘や諸外国がこれまで直面してきた課題等を踏まえ、実効的な社会統合政策を進めるにあたって、国/地域(地方自治体)/一般市民の各々の視点から、とくに検討すべき論点や求められる取り組みを提示したい。
2-1 国として:外国人の処遇に関する基本法の制定
第一に、国の取り組みとして、外国人の処遇に関する基本法の制定が必要だと考える。日本の現状は、出入国管理及び難民認定法はあるものの、社会統合の文脈では、各地方自治体における多文化共生施策に関わるガイドラインである「地域における多文化共生推進プラン」(総務省、2006年)の策定・通知にとどまっている。
国外に目を向ければ、出入国管理に関する法律とは別に、国として外国人の処遇や統合に関する法律や規則を制定している諸外国はある。ふたたび韓国の例をあげれば、韓国は、総人口に占める外国人割合は欧米諸国ほど高くなく、英語以外の主要一言語でのコミュニケーションが成立する点で日本と類似した状況にある。
そのなかで、在韓外国人の処遇に関する基本法(在韓外国人処遇基本法:2007年)や、国際結婚家庭への支援策の基盤となる法律(多文化家族支援法:2008年)を制定し、さらに出入国管理法内にも社会統合に関する条文を追加する(第39条~第41条:2012年)など、社会統合政策の展開に向けて法律的根拠を整えてきている。
これらの根拠法にもとづき、韓国では、全国200箇所以上に公営の「多文化家族支援センター」を設置(2017年10月末時点で218箇所:行政から委託)し、また、5年毎の「外国人政策基本計画」策定につなげている(2017年10月の1ヵ月間、「第3次外国人政策基本計画(2018-2022)」策定に向け、HPや支援センターで意見投書コーナーを設置して、政策対象となる外国人住民からの意見収集・パブリックコメントを行っていた)。
日本では、2016年に外国人に対する不当な差別的言動のない社会の実現を基本理念とした、いわゆるヘイトスピーチ解消法が成立した。しかし、今後も増加が見込まれる外国人を対象とする諸政策を行うためには、これにとどまらず、根拠法となりうる基本法の制定もしくは、入管法に一つの独立した章として社会統合に関する規定を盛り込み、政府として諸政策を統合的に立案・実行できる体制を整えることが必要だと考える。
条文中には、外国人に関する政策を専門に扱う会議体や機関の設置、日本語支援や子どもの教育、医療や福祉支援、差別防止や人権擁護に関する規定等を盛り込むことを求めたい。
2-2 地域(地方自治体)として:外国人が多くない自治体も巻き込んだ地域間連携
第二に、上述した国側の基本法制定と並行し、これまで外国人があまり多くなかった地域も巻き込んだ地域間の自治体連携、情報共有体制の構築・強化が必要だと考える。
外国人の処遇に関する基本法が存在しない裏返しでもあるが、日本では法務省による(出)入国管理を通過した後、外国人の社会統合政策を主として担う中央官庁が存在しない。そのため、日本語教育や教育現場・医療現場での対応等、外国人が日本で暮らす上での必要な支援は、地域社会にほぼ一任されてきた。だが、受け入れる地域側には各種資源(人、費用、情報、決定権等)が不足しており、十分な対応ができない事態が発生してきている。
たとえば、地域の日本語教室や外国人支援団体では、有志のボランティアや不安定な就労形態の人々に大きく依存している。文化庁「日本語教育実態調査」によれば、2016年の日本語教師数は約38,000人で、このうちボランティアが58.1%、非常勤講師が29.7%と、この2つで約9割に達し、常勤講師は1割強にとどまっている。
これまでは、群馬県太田市や静岡県浜松市などを中心に「外国人集住都市会議」の開催などを通して、外国人集住地域間のつながりは形成されてきた。だが、近年外国人が全国各地で増加傾向にあり、従来の集住地域以外にも外国人住民と向き合う必要が生じる自治体が今後増えることが予測されている。
こうしたなかで、外国人の社会統合を現実に進めていくためには、これまで外国人があまり住んでいなかった地域も巻き込みながら、前線に立つ(立たざるを得ない)地域が連帯して国に対して法制定・制度改正の働きかけや、地域間の情報共有を進めることが求められる。
具体的な施策としては、これまで外国人集住地域が試行錯誤しながらも培ってきた取り組みの紹介や、そこでの工夫・苦労の共有、これまでの取り組みの効果検証、外国人割合ステージ別に求められる対応策の整理などが考えられる。国内他地域でのトライアンドエラーを無駄にしないことが重要であり、自治体職員を集めた情報交換の機会の設置や、自治体向けポータルサイトの拡充・情報の一元化の推進なども効果的と考える。
実際、外国人支援の取り組みにバラツキがみられる、東京都内のある隣接した自治体間において、今年度から各自治体担当者が集まる連絡会議を設置し、当該分野の取り組みで先行する自治体がリードする形で、情報交換やノウハウ・資源の共有等、行政区域を越えた広域連携を模索し始めているところも出てきている。
2-3 一般市民として:外国人の日本語習得等にかかる社会的費用負担への合意形成
第三に、一般市民としては、外国人の社会統合(とくに日本語習得の支援等)を進める上で発生する社会的費用負担に関する合意形成が必要だと考える。
日本で暮らす外国人にとって大きな壁になっているのが日本語習得である。だが、現在まで一部の支援機関によるサポートを除き、国として外国人に日本語習得を課すカリキュラムなどは存在しない。一方で諸外国には、ホスト国の公用語習得を目的とした国家単位での施策を行う国は少なくない(図表5参照)。
たとえばドイツでは、今後1年以上の滞在許可を有する外国人、またはすでに18ヵ月以上の滞在許可を有する外国人に対して、ドイツ語(600時間)とドイツの法律・歴史・文化等(60時間)を学ぶ「統合講習」(計660時間)の受講を法律で定めている。
これにより、ドイツ政府はドイツ語能力とドイツでの生活の基礎知識を持つことが、社会参加の必要条件であることを外国人に対して明示している(松岡 2017)。統合講習の運用にあたって、教育機関・教師・教材などは、ドイツ政府が規定・監督し質的保証を図っており、公費および一部自己負担で運用している(滞在法第43~45条にもとづく)。
図表5 諸外国の外国人住民向けの言語学習制度
(資料)自治体国際化協会(2012)、労働政策研究・研修機構(2015)などを参照し、筆者作成。
外国人がホスト国の公用語を習得する効果として、外国籍や外国にルーツをもつ子どもの進学機会拡大や貧困の阻止(社会保障費の削減等)、現地語による情報収集能力の醸成や就業機会の拡大(生活の安定、納税者の増加)、治安の維持(社会の安定)、地域社会への参画(支えられる側から支える側へ)などが期待される。重要なのは、これらの効果は受け入れ側住民にとってもメリットになるということである。
こうした事例や効果を踏まえ、日本でも日本語習得を外国人の自助努力とせず、その教育費用等の負担の在り方について検討すべきと考える。日本語ができない外国人を放置してしまうことは、社会的コストを結果的に肥大化させる要因にもなり得る。
そうした事態を未然に防ぐため、中長期視点に立ち、現時点から一定の公費(税金)を投入することにどれほど合意形成できるかがポイントになる。日本語習得にとどまらず、外国人の社会統合を目的とした公費の使い方について、国や地方自治体(行政)任せではなく、受け入れ側住民となる、私たち一般市民一人ひとりが考えなければならない。
2017年10月に弊社が実施した、日本国籍を有する一般市民向けアンケート調査では、外国人が日本の法律や生活習慣を覚えたり、日本語を学んだりするときの費用負担の在り方について尋ねた(図表6)。その結果、「公費(税金)と、一部外国人自身に負担してもらうとよい」がもっとも多い5割弱、「公費(税金)と、外国人を受け入れている企業で負担を分け合うとよい」が3割強と続いている。「外国人も納税しているため、すべて公費(税金)で対応するとよい」も3割程度存在している。
図表6 外国人住民が日本語学習等を行うための費用負担の在り方(3つまで回答可)
(資料)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「外国人とともにある地域づくりに関する調査」(2017年10月実施、調査結果詳細は今後公表予定)
(注)日本国籍を有する東京都民600名、愛知県民600名、秋田県民300名、長崎県民300名、計1,800名を対象にしたインターネット調査。外国人に期待することとして、「日本の法律や生活習慣を覚える」、「日本語を学ぶ」に選択した回答者への設問。
この調査結果からは、外国人の日本語学習等に関わる社会的費用負担の在り方を議論する一定の素地が、日本においてすでにできているともいえるだろう。「公的にはとくに何もせず、外国人自身の努力やボランティアに任せればよい」という回答がもっとも低い1割未満にとどまっていることからも、一定の公費を投入した支援体制の構築が求められていると考えられる。
3.上記を一つの突破口として
外国人に関わる政策(とくに社会統合政策)は、各種政策(教育、医療・福祉、産業、雇用・労働、防災等々)を横断するテーマであり、本稿の内容は、数あるなかのいくつかに過ぎない。
本稿で試みに提示した上記の論点を一つの突破口として、今後外国人の受け入れやその後の処遇に関わる議論が広がっていくことが望まれる。
参考文献
・明石純一, 2015, 「国境を越える人材――その誘致をめぐる葛藤」五十嵐泰正・明石純一編『「グローバル人材」をめぐる政策と現実』明石書店: 92-105.
・文化庁, 2017, 「平成28年度 国内の日本語教育の概要」.
・井口泰, 2011, 『世代間利害の経済学』八千代出版.
・井口泰, 2015, 「東アジア経済統合下の外国人労働者受入れ政策」社会政策学会編『社会政策』7(2): 9-26.
・自治体国際化協会, 2012, 「海外における在住外国人の言語学習制度」『自治体国際化フォーラム』(272): 2-16.
・自由民主党, 2016, 「『共生の時代』に向けた外国人労働者受入れの基本的考え方」.
・加藤真, 2017, 「日本における外国人に関する実態と将来像-『これまで』と『これから』の整理-」SYNODOS.
・松岡洋子, 2017, 「社会を支える外国人移住者と受入れ社会とのコミュニケーション構築――多文化社会の持続可能性を支える仕組み」宮崎里司・杉野俊子編著『グローバル化と言語政策――サスティナブルな共生社会・言語教育の構築に向けて』明石書店: 32-47.
・日本弁護士連合会人権擁護委員会, 2017, 「韓国の『外国人雇用許可制度』に関する現地調査報告」.
・労働政策研究・研修機構, 2015, 「諸外国における外国人受け入れ制度の概要と影響をめぐる各種議論に関する調査」.
・佐野孝治, 2017, 「韓国の『雇用許可制』にみる日本へのインプリケーション」日本政策金融公庫編『日本政策金融公庫論集』36: 77-90.
・佐藤由利子, 2017, 「移民・難民政策の入口としての留学生政策」移民政策学会2017年度年次大会シンポジウム発表資料.
プロフィール
加藤真
1989年山形県生まれ。2014年東京大学大学院教育学研究科