2012.01.26

CFWを通じて見えてきたこと ―― 2012年、雇用復興の課題とは

永松伸吾 災害経済学 / 防災・減災・危機管理政策

経済 #キャッシュフォーワーク#CFW#キャッシュ・フォー・ワーク

激動の2011年も終わり新しい年を迎えた。しかし、年をまたいでも被災地の復興はそれほど進んでいる感はない。それどころか、事態はむしろ厳しさを増しているようにすら感じる。特例による延長をつづけてきた失業給付の期限切れを迎える被災者が出はじめてきたのだ。現在、岩手・宮城・福島の三県で失業給付を受けている人々は6万4千人いる。これらすべてが震災に起因するものではないとはいえ、これから被災地全体で数万人規模での雇用が必要になることは間違いない。

筆者は、昨年の地震発生直後から、被災した人々を復旧・復興のための活動に従事してもらい、その対価を支払うことによって被災者の自立を支援する「キャッシュ・フォー・ワーク(CFW)」という手法を提唱してきた。この考え方は、政府の「日本はひとつ・しごとプロジェクト」でも取り入れられ、雇用創出基金事業(いわゆる「緊急雇用」)として各地で実践されている。政府だけではない。民間のNGOやボランティア団体にもCFWを実践しようとする団体が多数現れた。昨年12月には、CFWの普及啓発を行うために、一般社団法人CFW-Japanが設立され、筆者が代表理事を務めている。

CFWはあくまで緊急的かつ一時的な災害対応・復興の技術である。だが、CFWの真価が問われるのはむしろこれからであると考えている。被災地の現状をみれば、津波被災地では具体的な土地利用についてもまだ決定していないところが多数である。福島県の原発被災地では、いつになったら、どこまで警戒区域が縮小されるのかも現段階でははっきりしていない。解除されたとしても、除染がどこまで必要なのか、そもそもそこで経済が成り立つほどの人口が回復するのか、あまりにも不透明なままである。だから、CFWが通常の経済活動が再開するまでのつなぎの活動であると考えれば、まだまだCFWの役割は終わっていない。

しかし、そうとはいっても、いつまでCFWを継続すればいいのか。経済が復興しなければ、いつまでもCFWが継続されるのだろうか。じつはここに、東日本大震災におけるCFWの最大の問題がある。

CFWとは成長を前提とした手法

考えてみれば当たり前のことなのだが、これまで途上国で実施されてきたCFWとは、基本的に、被災地が経済成長することを前提とした制度なのである。図1を見てほしい。縦軸にはその経済における雇用機会とし、横軸は時間としよう。災害が発生した時点でその経済の雇用機会は大きく減少する。そこから経済が復興していくとともに、雇用機会が回復する。CFWは、災害によって失われた雇用機会を復旧・復興事業で一時的に代替することで、震災による雇用機会をつなぐという役割が期待されることになる。このとき、CFWの役割は、通常の雇用が回復するとともに縮小していくことになる。

図 1 成長過程にある経済でのCFW
図 1 成長過程にある経済でのCFW

だが、今回の被災地の多くはこうした成長途上にある経済ではない。岩手・宮城・福島の三県に限ってみれば、労働力人口も震災前から一貫して減りつづけている。このような経済におけるCFWは、図2のように表すことができる。つまり、災害前の雇用機会をつなぐという意識でいるかぎり、CFWを終了させることはできない。それどころか、CFWの役割はますます大きくなる一方である。こうした状況下では、「つなぐ」ということにとらわれない、新たなCFWの出口戦略を探る必要がある。

図 2 縮小過程にある経済でのCFW
図 2 縮小過程にある経済でのCFW

気になる「絆ビジネス」の行方

CFWをいかにして終了させるか。この難題に立ち向かう前に、いくつか具体的な課題について考えてみよう。

現在、もっとも気になっていることのひとつが「絆ビジネス」の行方である。「絆ビジネス」とは、被災地の人々が生産した手芸細工や工芸品など、いわゆる「復興グッズ」を、被災地支援の目的で販売し、被災者のしごとを創出しようとする活動のことと定義したい。大船渡市の漁師の妻たちが漁網で編んだ「浜のミサンガ・環」がテレビCMなどで爆発的な人気を博したこともあってか、「絆ビジネス」は被災地のあちらこちらで取り組まれ、一村一品ならぬ、一部落一品というべきほどの活況を呈している。

なぜ、これを「絆ビジネス」と呼ぶのか。それはこうした復興グッズの販売そのものが、「被災地を支援したい」という動機で支えられており、商品としての価値そのものに支えられた仕組みでは必ずしもないからである。わたしたちが復興グッズに支払うお金は、モノではなく、被災者への支援と同時に、被災地とつながっているという「絆」に対する対価なのである。

こうした「絆ビジネス」を否定するつもりはない。それどころか、これもCFWのひとつとして、被災者に仕事を与え、希望を生み出してきたことはまぎれもない事実であるし、手軽にできる被災者支援の方法として、支援のすそ野を拡大したという功績も大きい。

ただ、同時に肝に銘じておかなければならないことがある。絆ビジネスは、支援する側(購買者)とされる側(販売者)という固定した構図があって成立する。すなわち、両者は決して対等ではない。購買者はあくまで支援の目的でグッズを購入しているのだから、販売者の生活や境遇が改善されれば、もはやそのグッズを購入する動機はない。言い換えれば、絆ビジネスが成り立つためには、被災者はずっと被災者のままでいなければならないのである。だがそのようなかたちで絆ビジネスが継続することは、誰も望ましいとは思わないだろう。

絆ビジネスのこれからの方向性としては次のふたつが考えられる。ひとつは、その復興グッズが支援動機ではなく、真に消費者のニーズに支えられ、市場経済の中で通常のビジネスとして発展していく方向性である。どこで生産されたかに関わらず、市場に評価される付加価値の高い製品へと発展させていく戦略が求められるであろう。

もうひとつは、まったく真逆のベクトルである。絆ビジネスによる購買者はいわば生産者にとってのサポーターである。その「絆」を利用して今後の復興への支援を呼びかけるのである。たとえば、グッズを購入してくれた人が生産者のところに足を運んでくれれば、地元に観光収入が生まれる。グッズの生産から元の海の仕事に戻りたいと思えば、そのための資金の提供を呼びかけるというのもひとつの方法だろう。そこでうまれた「絆」を地域の復興のために最大限活用するという展開も、絆ビジネスにはあって良いと思う。

福島県の驚異的な雇用創出力

被災地では、CFWの重要性が増している半面、もう被災者が行う仕事が残っていないという声も少なくない。がれきはほとんど片づけられてしまったし、清掃の仕事もかつてほどのニーズはなくなった。このため、一部の地域では、がれきを右から左に動かすことで仕事にしているといったうわささえ聞こえてくるほどである。

しかし、こうしたなかでも大規模に雇用の創出に成功している事例がある。それが福島県である。図3は、雇用創出基金事業による就業者数の累積件数をグラフにしたものであるが、福島県の雇用創出力が宮城県・岩手県に比べ突出していることが一目瞭然である。

(それぞれ8月19日、9月22日、10月14日、11月22日現在) 図 3 雇用創出基金事業による累積就業者数
(それぞれ8月19日、9月22日、10月14日、11月22日現在)
図 3 雇用創出基金事業による累積就業者数

福島県の緊急雇用創出事業のなかで、とくにこの実績に貢献しているのが「頑張ろう福島!絆づくり応援事業」(通称:絆事業)である。この事業は、被災者や仮設住宅団地などのコミュニティ支援など、文字通り被災者同士の絆をつくるための活動に失業者を雇用して従事してもらうという事業である。実際に被災者が従事する業務は、コミュニティ支援だけにとどまらず、行政事務のサポートや、イベントスタッフなど実に幅広い。しかも当初の年度目標の2000人をはるかに超えて、12月末の時点ですでに3459人を採用しているのである。

なぜ、この絆事業がこれだけ大規模な雇用創出に成功しているのか。それは、この絆事業が、NPO、行政、そして人材派遣会社のそれぞれの強みを生かした協働がうまく設計されているからである。

この事業は、乱暴に言えば、被災者の雇用を人材会社にすべて「丸投げ」している。市町村や県は直接の雇用主体ではない。人材会社がすべて被災者を雇用し、県や市町村が要請する業務を、人材会社が請け負って実施するという仕組みなのである。とくに被災者支援にかかわる業務については、実際に被災者支援に関わるNPOなどが業務を企画し、実施に際してもアドバイスを行っている。

人材派遣ではなく、あえて「請負」としていることがこの事業のポイントだ。それは、こうすることによって、要請元の被災自治体は、採用事務に加え、労務管理、業務指示等、人を雇用することに伴って発生する一切の業務から解放されるからである。もちろん、人材派遣会社側も、必ずスタッフが現場に立ち会い、派遣会社の指揮監督下で業務を行うなど、「請負」が成立するための法令順守も徹底されていることは言うまでもない。

これは、ただでさえ忙しい被災自治体にとっては非常にありがたいしくみである。財源はあっても人材を新たに雇用する労力を考えると手が付けられない、という仕事は多い。だがこのしくみならば被災自治体も気軽に取り組むことができる。それはすなわち、被災者の就労機会がこれまで以上に拡大されるということなのだ。

加えて、人材派遣会社の側もさまざまな工夫を凝らしている。データ入力の業務には一定のITスキルが必要だが、まったくパソコンが使えない被災者であっても、データの読み上げやチェックの作業を担当するなどして、雇用につなげている。震災一周年に予定されているキャンドルイベントさえも被災者の雇用機会になっている。

さらに興味深いのは、仮設住宅の買い物支援を大手コンビニ企業と連携して実施している事業である。この事業では、被災就労者が事業を通じて、コンビニの接客ノウハウを身に着けられるようプログラムが組まれている。こうした就労支援が行われていることも絆事業の大きな特色だといえるだろう。

「つなぐ」CFWから「みたす」CFWへ

この絆事業に採用された人々は、事業を実施している人材派遣会社によれば、中高齢や女性の方々が多数を占めているという。すなわち、もともと労働市場から排除されがちな人々である。つまり、震災を機に失業した人が、新たな職を得るまでのつなぎとして働いているというよりは、もともと働いていなかった人、あるいは働けなかった人たちが雇用されているということだ。実際にそう思わせる数字がある。緊急雇用も含め、新規就業者の数は岩手県・宮城県とほぼ同じ程度であるのに、福島県の雇用保険受給者はそれほど減っていない。宮城県、岩手県は6月のピーク時を100%とすれば、11月末の時点でそれぞれ71%、79%まで減少している。これに対し福島県は87%までしか減っていない。つまり、福島県における新規就業者には、宮城県・岩手県ほどには雇用保険受給者が含まれていないということを意味している。

失業給付受給者が減らないことが望ましいわけではないが、言い換えれば雇用のすそ野が広がっているということでもある。筆者は、これまで労働市場から排除されていた人々が復興に関わるCFWのことを、「みたす」CFWと呼び、震災に直接的に起因する失業者が食いつなぐための「つなぐ」CFWと概念的に区別してきた。福島県で取り組まれている絆事業は、「つなぐ」CFWよりはむしろ「みたす」CFWである。実態として、福島県で起こっていることは、通常の経済活動の復興が遅々として進まないことを背景に、それを補うかたちで「みたす」CFWの比率が高まっているということである。図4はそのイメージである。

図 4 「みたす」CFWによる雇用復興過程
図 4 「みたす」CFWによる雇用復興過程

みたすCFWで実施されている活動は、仮設住宅での見守りなど、復興過程におけるニーズにもとづいているとはいえ、高齢化がますます進展する将来においても需要が見込めるものも少なくない。少なくともがれき撤去などよりも持続可能なビジネスに発展する可能性を秘めている。

もちろん、これらが自立したビジネスとして十分な収益を上げられるようになるためには、越えなければならないハードルが少なくない。とりわけ被災地内部でこうしたサービスを消費するためには、被災地外部から十分な貨幣を獲得する必要がある、そのためには何かしら基幹となる産業の復興は不可欠であることは言うまでもない。

だが、既存産業のすべてが以前と同じように復興することは非現実的であることもまた事実である。そのなかで、失われた雇用の受け皿として「みたすCFW」を恒常的ビジネスへと発展させる戦略は、十分検討すべき復興戦略の一つであるように筆者には思われるのである。その意味では、宮本太郎氏が提唱する政府による「ベーシックワーク」の導入も、雇用復興のひとつのあり方だと大いに賛同するところである。

プロフィール

永松伸吾災害経済学 / 防災・減災・危機管理政策

関西大学社会安全学部教授。1972年福岡県北九州市生まれ。大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程退学、同研究科助手。2002年より神戸・人と防災未来センター専任研究員。2007年より独立行政法人防災科学技術研究所特別研究員を経て2010年より現職。日本災害復興学会理事。2015年より南カリフォルニア大学プライス公共政策大学院客員研究員。 日本計画行政学会奨励賞(2007年)、主著『減災政策論入門』(弘文堂)にて日本公共政策学会著作賞(2009年)、村尾育英会学術奨励賞(2010年)など。

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