2020.09.25

「大学のみ9月入学移行政策」の費用便益分析――大学9月開始の最大のメリットは教育の国際化ではなく高校教育の充実だ

赤林英夫 教育の経済学/家族の経済学

教育

コロナウィルス危機による学校の長期休校が問題になり、政府に浮上した「全学校の9月入学移行」政策は、社会的にも大きな論争を巻き起こした。しかし結果的に、5月、自民党のワーキングチーム(WT)は、来年度の実施を見送りとした。多額な財政負担と制度変更の必要、そして教育格差解消や教育の国際化といった効果への疑問がその根拠としてあげられたと聞く。

しかし、WTは同時に「9月入学制策については引き続き検討を行うこと」とし、7月20日に開催された教育再生実行会議では、ポストコロナ時代の学校教育の課題として審議するという。また、経団連も「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」において、大学が自主的に、大学教育の国際化のために、入学時期を多様化するべきだと提言した(ここには、国大協の代表、私大連の代表も名前を連ねている)。もちろん、これは、2011年前後に東大が検討した案の再来である)

(参考)

「経団連・大学側協議会「自主的導入で」 9月入学」(朝日新聞2020/5/30)

https://digital.asahi.com/articles/DA3S14494883.html?iref=pc_ss_date

「オンライン教育 拡充急ぐ 教育再生会議、第2波備え「密」回避」(日経新聞2020/7/21)

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61731920Q0A720C2PP8000/

「経団連、9月入学の議論継続を要望」(日経新聞2020/5/29)

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59756930Z20C20A5EA4000/

「9月入学移行に関する考え方」(日本経済団体連合会 2020/5/29)

http://www.keidanren.or.jp/policy/2020/048.html

私は、「大学の入学時期の多様化・9月入学化」に基本的に賛同する。ただし、その最大の理由は、コロナウィルス問題への対応でも大学教育の国際化ではない。大学入試が高卒後の4月以降になることで、高校の教育内容の拡充が少しでも進むと考えられるからだ。本論では、大学のみ9月入学に移行する場合の費用便益計算を紹介し、長期的には、そのメリットがコストを上回る可能性があること、政策として検討の価値があることを論じたい(注1)。

「大学のみ9月入学」の短期的費用と便益

まず、大学のみが9月入学に移行する場合、原則高校の卒業は3月のまま変更しないため、全学年を9月入学に移行する場合に問題視されていた、卒業が遅れることで就職予定の高校生に生じる巨大な機会損失は免れる(以下、相澤他2020参照)。ただし、大学入学者は5ヶ月程度は社会に出る時期が遅れるため、そこで失われる機会費用は、「大学のみ9月入学」政策のコストに算入しなければならない。

(参考)

相澤真一・岡本尚也・荒木啓史・苅谷剛彦著「9月入学導入に対する教育・保育における

社会的影響に関する報告書」[改訂版],2020 年。

http://www.asahi-net.or.jp/~vr5s-aizw/September_enrollment_simulation_200525.pdf

今回の数ヶ月の休校により、コロナ危機の影響が大きかった地域の公立学校では学習の遅れに差がついているという。大学入学試験を3-4ヶ月遅らせることで、高校三年生に十分な時間を与え、そしてすべての授業が終わってから受験に向かってもらう。すでに文部科学省は推薦入試や入学試験の実施時期等に配慮を求めているが、それとも整合的である。

今回初めて実施される「共通テスト」は、1月に2回、2月に1回の合計3回実施されることになったが、従来、1月から始まる大学入試は、インフルエンザや大雪に大きな影響を受けてきた。大方の予想に反して、蒸し暑い日本の7-8月にコロナウィルスの第二波ともみなせる流行が訪れたが、入学試験の時期が1-2月であることのリスクは依然高い(東京財団2020)。実際この冬の入試では、大学によっては筆記試験を簡略化するところが出てきている。

(参考)

「【共同提言】小中高生の教育機会均等のため、卒業を6月に、大学は秋入学へ」東京財団2020/5/25)

https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3405

「共通テスト3日程で 要項公表 現役生、校長承認で選択可能 本試験と追試得点、調整行わず」(日経新聞 2020/7/1)

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60983400Q0A630C2CR8000/

「国立大の7割が2次試験で配慮 出題範囲を縮小、中止も」(朝日新聞2020/7/31)

https://www.asahi.com/articles/ASN706WRLN70UTIL023.html

「106大学、入試方法変更へ コロナ影響、実技中止も 朝日新聞・河合塾共同調査」(朝日新聞2020/9/10)

https://digital.asahi.com/articles/DA3S14617006.html?iref=pc_ss_date

「大学のみ9月入学移行政策」の長期的費用と便益

以上は、「大学のみ9月入学移行政策」の短期的コストとベネフィットである。しかし長期的にも、これまで全く議論されてこなかったベネフィットが生じる。

それは高3の1-3月の有効利用である。

従来、多くの高校では、高3の1-3月は事実上受験・進路対策に費やされ、新しい学習内容を含めることは困難だったと想像される(進学校では、3月は事実上授業を行わないところもある)。大学入試を3ヶ月遅らせることは、半ば義務教育化した高校の学習期間が3ヶ月延びることを意味する。それにより、今後、学習指導要領をより充実させ、これまで学習過程に含めたくても時間的に困難であった、さまざまな単元を含める余地が生じ、次の世代の知識水準や職業能力向上に貢献する効果は小さくないであろう。

もちろん、入試が高3の1-3月から卒業後に移行したからと言って、すべての高校生が追加的に学習内容を増やすとは限らない。最近増加してきた、AO入試・推薦入試では、12月までに入学先の大学が決まることも多く、その場合には、一般入試の時期の変更は直接影響をもたらさない。また、高等教育に進学しない生徒の多い学校では、3月まで時間をかけて高校の課程を終える授業計画をとっているはずため、やはり大学入試時期変更の影響はほとんどないかもしれない。それでも、一般入試の時期の変更により、それを受ける多数の高校生を念頭に、高校教育の標準となる学習指導要領の充実が図られるのであれば、すべての高校生に一定のメリットがあるはずである。このことは、後に述べる費用便益計算で改めて述べる。

「教育の国際化」に翻弄された9月入学政策

今回、議論が起きたように、9月入学移行は大学の国際化の本質ではない。それよりも、履修の完全半期制や学費の単位制など、学生を流動化し、大学を国際的に開放する措置こそ必要である。

その上で、勉学熱心な大学生は、このコロナ危機を機に普及したオンライン授業を駆使すれば、3年半以内に容易に卒業できるように誘導すればよい(従来も学校教育法89条で制度上は可能だがハードルは低くない)。

9月に入学しても、従来と遅れることなく3月に卒業できるかは本人次第となる。学費を単位制にすれば、大学の収入に影響はない。多くの大学は秋入学を認めつつあるので、初等中等教育ほどの制度変更は不要だ(H19の学校教育法施行規則の改正で、大学のみ、4月入学でなくてもよくなった。)。

(参考)

「学校教育法89条」

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?openerCode=1&lawId=322AC0000000026_20170401_429AC0000000005#J

「学校教育法施行規則」

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=322M40000080011_20170401_999M40000080011&openerCode=1#Y

9月入学移行の間の5ヶ月間、大学にとって必要な資金は財政援助する一方、大学の判断で変更しないのであればそれも選択肢とする。大学の入学時期が多様化することで、高校生は受験の選択肢が増えるため、浪人のコストを下げることもできる(経団連の提言も大学の自発性に期待している)。

大学のために一時的な資金は必要だが、それは今後継続的に高校の実質的学習期間を伸ばすための投資だと考えればよい。

「大学のみ9月入学」政策の内部収益率

私の研究室では、大学のみ、入試を4―6月、入学を9月にすることに費用便益分析を行った。具体的には、これまで議論されている資料や試算に基づき、同政策が実施されたときの内部収益率を、さまざまな想定の下で計算した。その際には、移行のための初年度の財政コストを初期投資とし(注2)、就職の遅れによる機会損失(苅谷の計算)も想定、学習期間の増加がもたらすベネフィットも控えめに想定した結果、内部収益率は2%程度になった。(注3)

表:大学のみ9月入学政策の内部収益率

表の注:

(1)1年間の教育の限界収益率は以下の論文に基づいている。

Nakamuro, M., Inui, T., & Yamagata, S. (2017). Returns to Education Using a Sample of Twins: Evidence from Japan*. Asian Economic Journal, 31(1), 61-81. https://doi.org/10.1111/asej.12113

(2)教育普及効果(GE効果:一般均衡効果)とは、部分均衡を前提として推計された教育の推計率は、教育が全国に普及した場合の効果に比べて過大評価になっている可能性(いわば知識や技能が広がることで希少価値が下がること)を指す。教育のシープスキン効果とは、教育の収益の多くは卒業時に得られるという仮説である。それが正しければ、現実の学校教育の限界収益率は推計値よりも低くなる。これらの効果の推計は困難だが、過大評価を補正するために、既存研究の収益率を3分の1減らしたケースを検討する。参考文献:James J. Heckman, Lance Lochner, Christopher Taber. 1998. “Human Capital Formation and General Equilibrium Treatment Effects: A Study of Tax and Tuition Policy.” American Economic Review, 88(2): 381-386.

(3)一般労働者比率の考慮とは、賃金構造基本調査における一般労働者の所定内給与額(賞与を含む)を、一般労働者以外の労働者や失業者・無業者を加味するために乗ずる係数であり、労働力調査から年齢階層別・学歴別に計算された。

(4)初年度財政費用については脚注2を参照

(5)就職の遅れによる機会費用は、苅⾕剛彦「9⽉⼊学導⼊に対する教育・保育における社会的影響に関する報告書[改訂版](暫定)」2020 年(令和⼆年)5 ⽉25 ⽇改訂版(暫定)発表(5 ⽉19 ⽇初版発表)にもとづく。政策変更後のすべて高校卒業生に適用している。http://www.asahi-net.or.jp/~vr5s-aizw/September_enrollment_simulation_200525.pdf

(6)高校卒業後進学者への効果は、大学進学者と同じと想定する場合、2分の1と想定する場合、ゼロと想定する場合に分けた。

(7)推薦での大学進学者への一般入試時期の変更の影響は、一般入試受験者と同じと見なす場合と、学習効果が2分の1になる場合に分けた。

この計算結果を見て、莫大な財政費用・機会費用を上回る便益が生まれる可能性がなぜあるのか、いぶかしく思う人もいるかもしれない。その理由は、巨額の財政費用は初年度のみ、そして卒業が遅れることの機会費用は毎年ほぼ一定である一方、高校教育の充実による効果の増加は累積的だからである。実際、図に見るように、最も控えめに想定した計算に基づくと、本政策の毎年の純便益(便益マイナス費用)は、2044年まではマイナスで、それ以降はじめてプラスに転じる。しかしそれでも、本政策による便益の総額は費用を上回る。それぐらい長期的視野で考えなければ教育政策の変更の是非は、問うことは困難なのである。この費用便益分析結果の評価は、他の代替的政策と比較して判断することになる。

図 「大学のみ9月入学」政策による純便益の各年比較(表の第6次近似集計に基づく)

注:期待純便益現在価値は、各年の期待純便益を、推計された政策の内部収益率を用いて2021年時点に現在価値にしたものである。

本提案における課題

本稿では、大学入学試験を高校卒業後の4月以降に実施することを提案し、デメリットをメリットが上回る可能性が高いことを収益率計算で示した。しかしながら、高校での指導の現状、生徒の家庭背景による差を考慮すると、解決すべき課題があることは事実である。

最大の課題は、従来、高校の教員がその多くを担っていた高校生の大学入試直前のサポートは誰が行うのか、という点である。第一に、調査書の作成などは生徒の卒業までに完成しておくとしても、大学によりフォーマットが異なる場合には対応が困難であるかもしれない。そのためには、調査書等の書式の定型化が必要だ。

第二に、高校卒業後に入試が行われることで、入試直前までの指導における民間教育機関(塾・予備校・オンライン教育)の役割が大きくなる可能性がある。従来、公立進学校では、センター試験後の2月は、上旬に志望校別に授業を実施し、中旬から国公立の前期試験までは、希望者を対象に講習を行うところも多い(2月中に規定の授業時間は満了する)。事実、進学重点校などの指定は、進学希望先のレベルごとの指導を容易にするための措置でもある。それが、入試が4月以降にずれることで、入試直前の対策のために民間教育機関に費用を払うことのできる家庭とそうでない家庭の間では、従来以上に受験準備に差がついてしまう可能性が高い。

この問題への対応はある程度可能だ。第一に、共通テスト(従来のセンター試験)を、4月早々の春休み期間中に実施すれば、そこまでの準備を高校の役割とすることができ、区切りになるだろう。第二に、現状、高校が、私立入試や国公立二次試験の対策をサポートしているといっても、大学ごとの試験対策を学校で行うのには限界があるはずだ(だからこそ、個別対策のための予備校の需要がある)。学校間の指導の質を均一にすることも難しい。であれば、卒業後の試験準備サポートは、教育委員会ごとにネット授業や動画で行うことで、規模の利益を生かし、公平で質の高いサポートが可能になるのではないか。教育委員会で一括して配信することで、志望大学別のよりきめ細かい準備もサポートも可能になる(事実、大手予備校はその方向にシフトしている)。高校までの担任教員の役割は、必要に応じて卒業生を激励することに限定される。

このような提案をすると、「教育委員会の予備校化を進めるのか」、と批判されるかもしれないが、民間教育機関の利用で生徒に差がつくことを回避するための答えは、教育委員会が予備校の役割を果たすことにあるのは必然で、実際、中等教育の差別化はその方向で進んでいる。さらに、コロナでタブーが解消された授業のネット配信の活用で、従来学校現場ではできなかったことも可能になる。家庭でのネット接続に問題がある生徒に対しては、母校の空き教室でネット授業を受けることを認めれば解決する。

いずれにしても、民間教育委機関による大学入試対策の現状は、筆記と暗記重視の現在の入学選抜システムに変わりがない限り、完全な解消は困難である。一方、先進国の中で、大学ごとに独自の筆記入学試験を実施するのは、日本をのぞきほとんど例がない。今後、文部科学省が推進する「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」が重視され、筆記試験は共通テストに限定され、高校での学びが入学に際して一層考慮される方向になれば、いずれ、民間教育機関に頼る入試のあり方に変化が生じるはず、と考えるのは楽観的すぎるだろうか。コロナウィルスへの懸念から、二次の筆記試験を取りやめる国立大学も出てきたが、この方向は一層加速するのではないだろうか。

他に、卒業のタイミングが9月や3月など混在すると、就職活動や資格試験等のタイミングが複雑になること、それによる準備コストの増加も懸念材料としてあげられるかもしれない。しかし、本提案においては、高校卒業生までは従来通りの4月採用が維持される。通年採用になるのは大学卒業見込み者のみとなるが、経団連は数年前より通年採用の実施を推進しており、すでに、海外の大学の卒業者は通年採用になっている。先に述べた大学の早期卒業が普及すれば、企業は優秀な学生の獲得のために対応するはずだ。資格試験も、今後、年に一度の筆記試験からオンラインによる試験に移行すれば、年に複数回の受験も可能になるだろう。就職活動もオンライン化し、就職活動コスト削減の努力も行われていることから、これらの課題は克服可能であると考えられる。

建設的な政策形成のために

本年4-5月に巻き起こった、全学校教育を9月入学移行させる政策に関する議論では、費用面だけが数字でクローズアップされ、そのベネフィットが具体的な数字で示さることはなかった。それでは、9月入学の移行論が肯定的に捉えられるはずはない。

私たちの今回の試算と提案は、「大学のみ9月入学に移行」する政策に焦点を当て、コストのみならずそのベネフィットも含め、すべてを具体的な数字で議論するとともに、現状での懸念点にも可能な限り言及した。大きなベネフィットが生まれるための条件は、大学入試が卒業後に行われることで生じる時間の余裕を、過去問演習の追加ではなく、高校3年時の教育内容の充実に使うことである。もちろん、現実に実現していない政策の事前評価であるから、推計は数々に仮定に基づいていることは事実で、それらの適切性については謙虚にオープンな批判を受け入れるつもりである。しかし、冒頭に述べたように、大学のみ9月に移行させることの賛成意見が社会に一定数存在することを踏まえると、このような数字を出発点とし、代替案として議論を継続すべきであると考える。

文部科学省は、今年度の新共通テストを、時期的にはほぼ予定通り実施することにしたが、現況のコロナウィルス危機の継続は、そのような計画が予定通り実施できるという楽観的な予想を保証しない。万が一、予定通りのスケジュールで入試ができなかった場合の危機管理案として、あるいは、今年はともかく、来年以降の計画策定のために、 大学のみ、入試を4-6月、入学を9月にすることは、十分検討の余地があると確信する。

今回の、全学校の9月入学制提案の見送りが、実施可能で、社会に本質的なメリットもある制度変更の可能性も無にしてしまわないように強く望む。【2020.11.9改訂】

参考

計算エクセルファイル(https://www.akabayashi.info/media/column/synodos202009/

(注1)本試算にあたり、慶應義塾大学大学院博士課程の田口晋平氏に協力をいただいた。また、本稿には、小林雅之氏、末冨芳氏、中嶋亮氏、グレーヴァ香子氏、米澤彰純氏、櫻川昌哉氏、文部科学省・内閣府、公立高等学校の教員の方々を含む、多くの方から批判とコメントをいただいた。ここに感謝する。しかしながら本文の責任はすべて著者一人に帰する。

(注2)大学の9月入学実施の財政コストについては、5/15の第201回国会 文部科学委員会で浅田和伸総合教育政策局長が発言している。「仮に学年の終期を八月まで五カ月間延長する場合、この五カ月間で家庭又は学生本人が追加的に負担する影響額については、(中略)国公私立の高等教育段階で、学生生活調査による授業料や生活費の学部学生負担額を合算した年間約3.4兆円のうち、五カ月分として約1.4兆円ということになります。このうちで、学部生の授業料は全学年で約1.1兆円となっております。仮にですが、この分の授業料を大学側が負担し学生に請求しないとした場合には、この約1.1兆円が大学側への影響額になると考えております。」http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009620120200515007.htm

ここで述べられている数字の根拠は文部科学省が以下のURL(16ページ)で公表している。ここでの計算は4学年分の学費に基づいているため、本稿でのコストとしては1学年分に換算した。

https://www.mext.go.jp/content/20200730-mxt_soseisk01-000009115_11.pdf

(注3)当然であるが、計算は、検証の困難なさまざまな仮定に基づいている。たとえば、教育の限界収益率をさらに低く想定すれば、内部収益率はあるところでゼロになる。計算は最後にリンクしたエクセルファイルで行っており、すべての計算過程が明示されているため、誰でも結果の再現や計算のための想定の影響を検証することが可能である。

プロフィール

赤林英夫教育の経済学/家族の経済学

慶應義塾大学経済学部教授。1996年シカゴ大学より経済学博士号(Ph.D)取得。通商産業省、マイアミ大学、世界銀行などを経て、2006年より現職。2010年より「日本子どもパネル調査(JCPS)」の収集と分析を主導している。編著に『学力・心理・家庭環境の経済分析』(有斐閣)がある。また、2011年より学校教育情報サイト「ガッコム」の運営代表も務める。

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