2013.01.18
自民党はなぜ勝利したのか
2012年12月16日に投開票が行われた衆議院議員総選挙は、自民党の圧勝で幕を閉じた。自民党の比例区における得票数は16,624,457票(相対得票率27.6%)と、得票数第2位の日本維新の会(12,262,228票[20.4%])とそれほど大きな差があるわけではなかったが、小選挙区では擁立した候補者288名のうち237名が当選するという、まさに圧勝と呼び得る結果となった。
もっとも、この結果について、多少なりとも違和感を覚えた人はそれなりに多くいるのではないだろうか。たしかに自民党が勝利することは、選挙前の報道内容などから十分に予測できることではあった。民主党への支持が選挙直前に急激に回復した兆候は見られなかったし、日本維新の会や日本未来の党など「第3極」と呼ばれる政党も選挙に向けての事前準備が十分整っていたわけではなかったように思われる(*1)。これらの点を勘案すれば、自民党が勝利したことはそれほど不思議な現象ではなく、むしろ当然の出来事だといってもよいだろう。
(*1)本稿では以下、第3極を日本維新の会、日本未来の党、みんなの党の3党を総称するものとして、議論を進めていく。
しかし他方で、今回の衆院選において、2005年の「郵政選挙」と同様に自民党への「風」が吹いたのかと問われれば、必ずしもそうとはいえないようにも思われる。事実、今回の衆院選における自民党の得票総数は、民主党に大敗を喫することとなった2009年衆院選時のそれと比べてそれほど変わっていない。むしろ、前回と比べて、小選挙区では約165万9千票、比例区では約218万6千票、獲得票数が減少しているのである。
ここで1つの疑問が生じることとなる。それは「なぜ自民党は前回の衆院選よりも得票数を減らしたにもかかわらず、多くの(小)選挙区で勝つことができたのか」という問いである。
その理由については諸説あるが、主要なものは次の2つではないだろうか。第1の理由は、第3極への票が分散してしまったから、というものである。たとえば、2012年12月17日付の『朝日新聞』では、3党対決型の選挙区で76%、4党対決型で90%、5党対決型で100%、自民党所属の候補者が勝利したことが示されている。これは、4党対決型や5党対決型のように、擁立された候補者数が増え野党間での競合が行われるほど、「漁夫の利」を得るかたちで自民党が勝利したことを示すものだといえる。
第2の理由は投票率の低下である。今回の衆院選では、投票率が59.3%と、前回の衆院選の投票率(69.3%)と比較してかなり低い水準となった。多数の政党が乱立したことによる問題や、選挙が行われる時期の問題など、その原因については様々な指摘が見受けられるが、一般に投票率が下がるほど自民党は有利になると指摘される。その背景には、安定した「組織票」あるいは「固定票」を有する自民党は、投票率が下がれば下がるほどそれら「固い票」の重要度が相対的に高まるため、勝利しやすくなる、という想定がある。
以上をまとめれば、「なぜ自民党は小選挙区で勝利したのか」という問いに対しては、第1に投票率が低下したことにより安定した票田を保有する自民党が相対的に有利になったこと、第2にくわえて第3極の間での票の「分捕り合戦」が生じてしまったこと、が現時点では有力な答えとして考えられている。しかし、これらの説明は、果たしてどの程度妥当性を有するものなのだろうか。本稿では、これらの点について、今回の衆院選の集計データと、筆者の一人である善教が実施した意識調査(以下、「本調査」と略)をもとに(*2)、実証的に検討していきたい。
(*2)意識調査は、2012年12月17日から21日にかけて、(株)楽天リサーチに委託するかたちで実施した。調査対象は全国20歳以上の男女、サンプルサイズは2000である。なお、回答者の性別、地域、年齢に偏りが生じないように調査を実施したことを、ここに記しておく。
問題提起 ―― 第3極間での票割れ論と固定票論への疑問
前節で述べたように、第3極と呼ばれる政党間での競合による票の分散が、自民党勝利の一因であったという印象をもつ人は多いのではないかと思われる。図1は、小選挙区での第1位相対得票率を箱ひげ図で整理したものである(*3)。候補者が2人、あるいは3人しか擁立されなかった選挙区での第一位相対得票率は、そのほとんどが50%以上と比較的高い値を示している。しかし、4人以上の選挙区では、第一位相対得票率の中央値が過半数を下回っており、さらに6人以上の選挙区では、すべて過半数を下回っている。候補者が擁立されているほど当選ラインが低くなることを示すこの図は、第3極間での票割れによる自民党の勝利を想起させるものである。
(*3)小選挙区の集計データは、すべて選挙情報サイト「ザ選挙(URL: http://go2senkyo.com/ 2013.1.7最終アクセス)」の掲載情報をもとに作成した。箱ひげ図の説明は、ウィキペディアなどにて説明されているので、そちらを参照願いたい。
しかしながら、4人以上候補者擁立された選挙区のすべてにおいて、第3極が競合していたわけではない。4人競合区に多く見られるパターンは、「自民vs.民主vs.共産vs.第3極」であり、第3極間の競合が見られるようになるのは5人以上の候補者が擁立されている選挙区がほとんどである。さらに、5人以上であっても「自民vs.民主vs.共産vs.第3極vs.その他政党(社民党、幸福実現党など)」というパターンもある。
図2は、全体の選挙区の中で、第3極がどの程度競合していたのかを整理したものである。第3極が競合していた選挙区は、灰色で塗りつぶしている88区(全体の29.3%)だけであることがわかる。つまり、対自民党という構図からいえば、「みんなの党か日本維新の会か、それとも日本未来の党か」というよりも、「民主党か第3極か」という選挙区の方が多い(115区、全体の38.3%)。第3極間での票割れ、という説明にそれほど説得力がないと考える理由はまさにこの点にある。
以上にくわえて、もう1点指摘しておかなければならないことがある。それは、第3極への票が割れたという説明は、いわゆる「浮動層」(あるいは「無党派層」)と呼ばれている人々の多くが第3極へ投票することを前提にしている、ということである(*4)。言い換えれば、浮動層が民主党から自民党へ流れることについては、ほとんど言及されていないのではないだろうか。たしかに自民党は多くの組織票や固定票を保有しているのかもしれないが、自民党への投票のすべてがそのような「固い票」から構成されていると想定するのは、非現実的である。自民党が、浮動層の票の「受け皿」として機能していた点を、多くの論者は見過ごしている。
(*4)本稿では「浮動層」を、便宜的に「前回の衆院選で民主党に投票し、今回の衆院選では民主党以外に投票した有権者」と定義する。
結論を先取りすれば、筆者らは、自民党の勝利には次の2つの「票割れ」が貢献したのではないかと考えている。1つは、民主党とその他政党の間での票割れである。多くの有権者の心の内には、依然として「選択肢としての民主党」が残存しており、これが民主党と第3極との間での票割れを生じさせることとなった。
もう1つは、浮動層の票割れである。今回の衆院選では、民主党だけではなく、自民党も、さらには第3極もそれほど魅力的な政党として有権者の目には映らなかった。そのため浮動層は、第3極だけではなく自民党にも投票した。すなわち民主党と第3極の間で票割れが生じたことで小選挙区での当選ラインが下がったことにくわえて、自民党の保有する組織票・固定票に浮動層の票が積み上げられたことで、自民党は多くの選挙区で勝利することができた。以下では、これらの点について、順に議論を進めていきたい。
民主党は「拒否」されていたのか?
一般に、ある政党への支持は、「あなたはどの政党を支持していますか。次の中から1つだけ選んでください」というような質問への回答から指標化される。しかし、アメリカのような少数政党制の国とは異なり、日本は多党制の国である。この点が、日本の政党支持態度を、アメリカやイギリスと比べて複雑にしている要因となっている。
多党制の国では、有権者は複数の政党を支持することがありうる。すなわち日本では、ある1つの政党に対する支持を表明したとしても、そのことが必ずしも他の政党への不支持を表明していることにはならないのである。支持の「核」となる政党があったとしても、有権者の中にはそれだけではなく第2、第3の、あるいはそれ以上の支持政党が存在することが多い。日本における政党支持は、それゆえに「自身の中で序列化された第1位の政党名をあげている」ことを意味しているにしか過ぎず、その政党しか支持しないというわけではない。
ここで重要となるのは、民主党が果たしてどの程度有権者に拒否されていたのか、という点である。たしかに今回の選挙時点における民主党への支持率はそれほど高くはなく、少なくとも2009年の政権交代選挙時点よりは低下していた。しかし、そのことは必ずしも民主党への拒絶を意味するわけではない。民主党は、支持されてはいなかったかもしれないが、マスコミの報道などに見られるほど多くの有権者に拒否されていたわけでもなかったかもしれない。それを知るには、民主党が支持されていたのかだけではなく、どの程度拒否されていたのかを明らかにする必要がある。
本調査では、政党支持にくわえて、政党に対する拒否の度合いについても調べている。具体的には、「以下の政党の中で、支持したくない政党はどれですか。あるだけ選んでください」というような質問文で、これを尋ねている。その結果を整理したものが図3である。
政党支持率については、多くの世論調査の結果に示されていたものとほぼ同様の結果が得られた。しかし、他方の政党拒否率について見てみると、自民党や日本維新の会よりは高いものの、これらと民主党の差は思ったほど大きくはない。新党日本や新党改革が拒否されない理由は、好意的に捉えられているというよりも無関心の表れだと思われるので、それを差し引いて考えれば、民主党に対する拒否の度合いはじつは「平均的」ともいえる。少なくとも、公明党や共産党ほど拒否されているわけではない。
図3を見るかぎり、民主党は、第3極と同じく、自民党への否定的な意識が強い層の「受け皿」として、今回の衆院選においてもある程度機能していた可能性が高い。反自民・非自民層にとっての選択肢は、前回の衆院選では民主党にほぼ限定されていたのかもしれないが、今回の衆院選では「民主党か第3極か」という2択になってしまった。さらに、日本維新の会とみんなの党が競合する選挙区では「維新の会かみんなの党か」という選択がそこにくわわることになり、第3極内での票の分散も生じることとなる。
このことは、競合選挙区ごとの各政党の相対得票率の変動からもある程度推測することができる。図4で示されるように、民主党と日本維新の会のみが競合する選挙区では、いずれも相対得票率の平均値が24%程度となっている。また、民主党とみんなの党が競合する選挙区も、ともに24%程度である。どちらか一方の政党に票が偏っているわけではないことは、民主党も第3極も、ともに反自民・非自民層の受け皿として機能していたことを示すものである(*5)。
(*5)ただし日本未来の党は、日本維新の会やみんなの党と比べて、全体的に相対得票率が低い。
さらにこれに第3極間の競合がくわわるパターンを見てみると、どの政党の得票率平均値も低下しているが、2党の競合が見られる場合と、3党の競合が見られる場合とでは、変動のパターンに民主党と第3極との間に違いがある。第3極間での競合が見られるほど、日本維新会や日本未来の党の得票率は低下するが、民主党の得票率は必ずしもそうとはいえない。
民主党は一部の選挙区を除き、また、日本維新の会やみんなの党も特定の地域を除いて、小選挙区ではほとんど勝利することができなかった。その理由の1つは、民主党という選択肢が有権者の中に残されていたこと、そしてそれが不運にも、民主党と第3極の間での票割れを生じさせてしまったところにある。
鳩山内閣と菅内閣の政権運営がいずれも失敗に終わったことで、民主党への支持は失墜した。しかし、菅内閣に続く野田内閣は、消費税増税を決断するなどマニフェスト違反だと厳しい批判を浴びせられることも多々あったが、鳩山、菅内閣との比較の観点からいえば、好意的な評価を与えられていたように思われる。そのような野田政権への評価が、失墜した民主党への支持をある程度回復したと考えられるが(*5)、そのことが第3極との票割れを生じさせる一因となった。やや皮肉な話ではあるが、「民主党への支持」が自民党の勝利をもたらすことに一役買ってしまったのである。
(*5) 詳細は割愛するが、本調査では、鳩山、菅、野田内閣の、それぞれの業績に対する評価についても尋ねており、もっとも評価が高かったのは野田内閣であった。また、すべての内閣への評価の中で、民主党への評価ともっとも強い相関関係を示したのも、野田内閣への評価であった。
浮動層の行方
民主党と第3極の間での票割れにくわえてもう1つ重要な点は、たしかに自民党は支持されていたが、それは積極的というよりも、消極的な支持であったということである。言い換えれば、民主党だけではなく、自民党、さらには第3極も有権者にはあまり好意的に評価されていなかった。民主党は多くの有権者に否定的に評価されていたが、それは自民党や第3極と呼ばれる政党への好意的な評価に直結していたわけではなかったのである。これもある意味で多党制ならではの現象だといえるが、どの政党も支持するほどではないという状況は、いわゆる浮動層の選択を困難にさせる。
この点について、データから確認しておこう。本調査では、前節で示した支持政党や拒否政党の設問にくわえて、感情温度計を用いて、各政党に対する感情の強さや方向性について尋ねている。50度を中心に、0度に下がるほど嫌い(冷たい)、逆に100度まで上がるほど好意的な(温かい)感情となるのが感情温度計であり、回答者にはこれにしたがって、任意の数字を記入してもらった。感情温度は、支持政党や拒否政党と機能的に重複するところもあるが、これらとまったく同じというわけではない。また、中間的な選択肢を設けた上での各政党に対する「絶対的」な評価を知ることができる点で、感情温度にはいくらかの利点がある。
さて、調査結果を示した図5を見てみると、すべての政党の感情温度平均値が50度を下回っていることがわかる。自民党や日本維新の会の感情温度平均値は、相対的には高い値を示しているが、それでも50度(中間)を上回っているわけではない。民主党の感情温度平均値は約29度と、自民党などより低い値を示しているが、多くの有権者にとって「好ましくない」という点ではそれほど変わりはない。
民主党も自民党も、さらには第3極も、魅力的な政党として認識されておらず、それゆえに今回の衆院選は「好ましいか好ましくないか」というよりも――それは近年のすべての選挙に共通しているのかもしれないが――、「より好ましくないのはどれか」が選択された選挙だった。そしてそのような状況は、半ば必然的に、民主党から離れる浮動層の選択肢の中に自民党の存在を浮かびあがらせることとなる。つまり、前回の衆院選で一時的に民主党を支持し、票を投じた有権者の中での「自民党か第3極か」という票割れが、ここに生じるわけである。
図6は、前回の衆院選において小選挙区で民主党に投票した回答者が、今回の衆院選の小選挙区でどの政党の候補者に投票したのかを政党ごとに割合で示したものである。前回の衆院選については、記憶を頼りに回答してもらっているため、データの解釈には十分慎重になるべきだが、大まかな傾向を知る上では役に立つ。この図によれば、前回の衆院選で民主党に投票した人のうち、7割近くが民主党以外の候補者に投票している。この値自体の信憑性は低いが、傾向として、今回の選挙では、多くの有権者が民主党からその他政党へと投票先を変えたと考えられる。
ここで問題となるのは、その浮動層はどの政党の候補者に投票したのか、という点である。図6を見れば、前回民主党に投票した人の約25%が自民党に投票している。次に多いのが日本維新の会であり(約17%)、日本未来の党(約9%)とみんなの党(約8%)がそれに続く。第3極への投票割合を合計すると約34%となるが、この値は自民党への投票者の割合と比べて大きな差があるわけではない。民主党から離れた層の中で、第3極と自民党の間での票割れが生じていた可能性が高いことを、この結果は示している。
なお、前回の衆院選小選挙区で自民党に投票した回答者のうち、8割近い回答者が今回においても自民党に投票している。その意味で「固い票」の存在が、自民党の勝利に貢献したという説明は誤っているわけではない。しかし、自民党の得票総数のすべてが組織票や固定票であるわけではなく、そこには前回民主党に票を投じた浮動層の票もかなり含まれている。具体的な数値でいえば、本調査では、今回の選挙で自民党の候補者に小選挙区で投票した回答者のうち、前回の選挙でも自民党に投票した人は約54%、民主党から流れてきた人は約35%であった。自民党の得票に浮動層の票がかなり上積みされている可能性が高いことが、ここからわかるだろう。
まとめ ―― 2つの票割れと自民党勝利のメカニズム
本稿では、「問題提起」で述べたように、次の2点について、本調査の分析を中心に検討してきた。第1は民主党と第3極の票割れについてであり、第2は浮動層の中での票割れについてである。前者に関しては、民主党は依然として有権者の選択肢として残存しており、そのことが民主党と第3極との間の票割れを生じさせていた点を指摘した。後者に関しては、特定の政党が魅力的なものとして認識されていたわけではなく、それゆえに浮動層の票が自民党へも一定数流れたことを指摘した。
これらの2点についてもう少し詳しく述べておこう。まず、民主党が選択肢として残存するということは、民主党への投票者が一定程度存在してしまうことを意味する。図4で示したように、民主党は小選挙区で平均的に23%程度の票を獲得しているが、その理由は民主党が選択肢として残存していたからである(ゆえにこの点については、票割れというよりも「居残り票」として表現した方がよいかもしれない)。ある程度の層が民主党に居残ったことで、言い換えれば民主党が依然として一定の支持を獲得したことで、第3極は自民党に勝ちうる票を獲得することができなかったのである。
もちろん、票が分散してしまい、小選挙区での当選ラインが大幅に低下したとしても、自民党が組織票や固定票のみで勝てる保障はない。意外かもしれないが、本調査において、「前回民主党に投票し、今回も民主党に投票した」回答者数(235人)と、「前回自民党に投票し、今回も自民党に投票した」回答者数(279人)との間には大きな差は存在しない。
そこで重要になるのが浮動層の存在である。第3極も自民党も、結局は魅力的ではないのだから、浮動層はどちらかに投票するか、もしくは棄権するかということになる。今回の選挙では、前回の衆院選と比較して10ポイント程度投票率が低下したが、別の言い方をすれば10ポイント程度しか棄権者は増えなかった。浮動層の多くは今回の選挙でもなお投票したと考えられるが、ここで自民党は第3極と同程度の票を獲得することとなり、これが従来の「固い票」に上積みされることとなった。
第3極の多くは「固い票」をもたないと考えられるので、自民党の有する「固い票」の分、第3極と自民党の間には差ができることとなる。他方、民主党への「居残り票」がそれなりに存在するとしても、自民党には「固い票」に浮動層の票が上積みされるため、民主党は自民党に勝つことがほとんどの場合できない。以上が、今回の選挙における小選挙区での自民党勝利のメカニズムだと考えられる。結局のところ、勝負の鍵を握ったのは、前回と同じく今回の選挙においても浮動層の存在であったといえるのかもしれない。仮に浮動層の多くが第3極に流れていれば、結果はまた違ったものになっただろう。
もちろん、今回の自民党勝利のメカニズムについては、他にも様々な説が存在する。本稿の解釈は、それらの中での1つにしか過ぎず、分析をさらに進めていくうちに、より説得的な解釈が示される可能性は十分あり得る。また本稿では、十分に検討することのできなかった問題や課題も多い。しかし、自民党が勝利したことは、第3極の間での票割れや、自民党の有する「固い票」への指摘だけで説明し尽されるわけでもないだろう。マクロなデータからは見えない、より詳細な有権者の動向を知る上で、意識調査の分析は役に立つ。そのことを指摘し、稿を閉じることとしたい。
謝辞
小選挙区の集計データの整理には、神戸大学大学院法学研究科博士前期課程院生の田原歩氏の協力を得ている。ここに記して感謝申し上げる次第である。
付記
本稿は科学研究費助成事業(課題番号24730131)による研究成果の一部である。
プロフィール
坂本治也
1977年生まれ。関西大学法学部准教授。専門は、政治学、市民社会研究。大阪大学大学院法学研究科博士後期課程単位修得退学。博士(法学)。琉球大学法文学部講師、同准教授を経て、2008年より現職。著書に『ソーシャル・キャピタルと活動する市民―新時代日本の市民政治』(有斐閣、単著)、『現代日本のNPO政治―市民社会の新局面』(木鐸社、共編著)など。
善教将大
1982年生まれ。(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構主任研究員/神戸大学法学部・法学研究科非常勤講師。専門は政治意識論、政治行動論。