Philosophy
冷戦終結からすでに約30年、21世紀に入ってからも約20年が過ぎました。中国の影響力拡大、ロシアのウクライナ侵攻、ミャンマーの軍事クーデタなど、日々の国際ニュースを見ていると、現在、国際秩序が大きな転換期を迎えていることを痛感せざるをえません。変化は国際関係だけにとどまりません。グローバリゼーションの深化と新興国の経済成長にともなって、各国の国内社会もまた変革期に直面しています。もちろん、私たちの住む日本も例外ではありません。かつて日本は、NIES諸国(シンガポール、香港、台湾、韓国)やASEAN諸国をリードし、アジアにおける発展を牽引してきました。しかし、アジア諸国の目覚ましい経済成長と教育水準の向上により、日本とアジア諸国の関係にも変化が生じはじめています。
ASEAN加盟10カ国(2021年)の総人口は約6億7千万人、GDPは約3兆3千億米ドル(2020年)、貿易額は約2兆8千億米ドル(2020年)で、一大経済圏になりつつあります。かつては知識や技術の面で、日本は圧倒的な優位に立っていました。しかし、アジア諸国の政府は、欧米や日本のトップレベルの大学、大学院に学生を留学させ、語学力や専門知識をもった優秀な人材を多く揃えるようになりました。いまでは企業経営者・管理職、政府高官、政治家の多くが博士号を取得しており、外国メディアに流暢な英語で受け答えをしている場面も珍しくありません。アジア各国の教育水準は格段に向上し、もはや遅れた国として見下すことは適切ではありません。対等なパートナーとして、ともに発展していくという意識が必要なのです。
日本国内でも、アジアの人たちとの関係は変化しています。一昔前までは、日本人は物価の安い東南アジアへ買い物ツアーに出かけていました。それが今では、毎年、大勢の東南アジアの人たちが、買い物や観光を目的に日本を訪れています。北海道や東京、京都などの有名な観光地以外でも、たとえば三重県のような田舎のテーマパークでタイ語が聞こえてきます。
また、多くの留学生が日本各地の大学で学んでいますが、近年ではGoogleなどの多国籍企業の日本支社で働くアジア人も数多く見られます。従来のような単純労働者ではなく、一流大学や大学院で学位を取得した後、エンジニアや営業担当者として日本支社に採用された人たちです。英語だけでなく日本語も巧みに操り、世界情勢や日本文化にも造詣が深い。低学歴、単純練労働者、飲食店勤務といった旧来のイメージとはまったく異なる、日本に住む新しいアジア人たちです。さらに近年では、文化面も注目されるようになってきました。アジア諸国の映画、文学、歌などが徐々にブームになってきています。日本でも人気のK-POPアイドルグループのメンバーにタイ人、ベトナム人、インドネシア人が抜擢され、注目を集めたりもしています。
このような状況を受けて、2022年秋、「SYNODOS ASIA/シノドス・アジア」を立ち上げることになりました。本サイトの目的は、急速に変化する日本とアジア諸国との関係を改めて見つめ直し、従来のステレオタイプを払拭することにあります。日本とアジアの関係をさらに発展させていくために、新しい視点を提供していきたいと考えています。
2022年12月1日