大型増税で個人消費は落ち込む――総需要安定化政策を徹底すべき

4月以降、大手メディアを中心に消費増税後の日本経済の落ち込みは想定内であると度々伝えられてきた。ただ、「想定内」という判断は、事前の想定がどの程度なのか、それを語る人による主観的な認識にすぎず、景気動向を客観的に判断する上でほとんど役には立たない。

 

また、百貨店などの販売落ち込みが和らいでいることを材料に、大手メディアは、消費増税の悪影響は軽微で、日本経済が早期に回復に転じていると伝えた。確かに一部の百貨店や専門店の販売復調が大々的に取り上げられたが、個々の百貨店や専門店の販売から把握できるのは広範囲な消費活動の一部にしか過ぎない。特にマーケットシェア拡大に成功している専門店はそもそも増税の悪影響は出にくい。こうしたメディアの報道は、消費増税後の日本経済の状況をミスリーディングに伝えていた。

 

 

日本経済回復のドライバーを抑えこんだ大型増税

 

6月分までの主要なマクロ経済指標が出そろったので、消費を含めて日本経済全体の増税後の経済状況がほぼ判明した。

 

日本経済は2014年1-3月に、増税前の駆け込み需要で年率7%近い高成長となった。しかし、4-6月にはその反動減から、1-3月の高成長分がほぼそのまま失われ、年率-7%前後の大幅なマイナス成長となったとみられる[*1]。

 

[*1] なお、8月13日には、内閣府が4-6月の実質GDP成長率を発表する。実際には現段階の限られたマクロ統計で、経済全体の動向は実は正確に把握できない大きな問題がある。このため、本稿で論じる4-6月GDP成長率の落ち込みは、実態をやや過小推計している可能性があるがこの点について本論説では論じない。足元のGDP統計の過小推計の問題を考慮しても、本稿の主張の骨子は変わらないと考えている。

 

特に、駆け込み需要が顕著だった個人消費は「1-3月に増えた以上」に、4-6月に落ち込んだとみられる。駆け込み需要からの反動減だけなら、個人消費は1-3月に増えた分以上は減らないはずだ。このことは、「駆け込み需要の反動減」以外の要因で、足元で個人消費が抑えられていることを意味する。個人消費を抑制しているのは、3%ポイントの消費税率引き上げによって実質可処分所得(消費に使える収入)が大きく目減りしたためとみてよいだろう。

 

現在、脱デフレ過程で起きる、労働市場の需給改善で名目賃金がようやく上がり始めたばかりの段階にもかかわらず、早すぎる大型増税が実現してしまったために、2013年度の日本経済回復のドライバーだった個人消費を抑え込んでいるということだ。

 

 

日本経済最大のリスク

 

なお、インフレ率上昇自体は、個人消費を底上げする効果がある。経済学の用語を使うと、実質金利低下で支出性向を高めるというメカニズムが働くからである。期待インフレ率上昇によるこの現象を、我々の身近な消費行動に当てはめていえば、欲しいモノの値段が1か月後に高くなると人々が予想すれば、購入を先送りするよりも即時購入した方がよいと選択する場面が多くなる、ということである。

 

日本では過去20年も、長らく繰り返されてきた金融政策の失政によってデフレが解消されないという異常な経済状況が恒常化した。こうした中で、人々はいずれ価格が今後下がり続けるかもしれないと予想し、消費を先送りするインセンティブが常に働いた。日本銀行の金融政策の判断ミスにより、実質金利が高すぎる状況が続き、総需要が抑制され続けていたわけである。

 

しかし2013年のアベノミクス発動で政策転換が起こり、日本銀行が米FRBなどと同様の「標準的な金融緩和政策」を実行するに至り、ようやくデフレが終わるのではないかと多くの日本人が認識し始めた。デフレ期待の和らぎによって、インフレ期待が醸成され、そして株高・超円高修正がもたらす金融資産拡大による資産効果が重なり、2013年度に個人消費は2%以上伸びた。個人消費の牽引で日本は潜在成長率を上回る経済成長を実現した。

 

なお、金融緩和政策の効果に懐疑的な見方も多く、アベノミクスによる景気回復は第二の矢(つまり公共投資拡大)によって実現しただけ、などの声も多い。ただ、2013年度の実質GDP成長率は2.3%で、公共投資が直接寄与した分は0.6%ポイントである。人手不足を引き起こすほどの公共投資バラマキが、東日本大震災発生から数年遅れでようやく増えるという状況がおかしいのだが、それはともかく、公共投資で説明できるのは2013年度の経済成長の4分の1に過ぎない。

 

しかも、2013年末まで、建設セクターで働く就業者はほとんど増えていない。人手不足のこの業界では、公共投資をいくら増やしてもそれで所得が増える人は限られる。それにもかかわらず、2013年度に個人消費は回復した。

 

以上のような客観的なデータを踏まえずに、アベノミクスがもたらした日本銀行の金融緩和政策に対して、根拠が乏しい批判的な意見は多い。安倍政権が続く限りは大丈夫だろうが、データを踏まえない非科学的な思想が再び広がってしまった上でマクロ経済安定化政策が運営されることが、日本経済の最大のリスクとなろう。【次ページにつづく】

 

 

 

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