フランスにおける若者の就職とキャリア

はじめに

 

昨年末、「黄色いベスト(gilets jaunes:ジレ・ジョンヌ)」運動と呼ばれるデモ活動がフランス全土に拡大し、毎週末、世間を騒がせたことは記憶に新しいだろう(編集部注;3月16日、ふたたび参加者の一部が暴徒化した)。もともとはマクロン政権が進めようとしていた自動車燃料税の引き上げに対する抗議行動であったが、その後SNSを介してフランス各地に広がり、現政権のさまざまな問題に対する反政府デモへと発展した。政府は増税を撤回するなど鎮静化をはかるものの、今後の見通しはいまだ不透明と言わざるを得ない。

 

フランスのある地方紙によると、こうした運動の中心となったのは、25歳から34歳までの若年労働者であった。また、この運動を機に、学生たちのあいだにも教育改革に対する抗議活動が活発化した。この運動を「若者のベスト(gilets jeunes:ジレ・ジュンヌ)」運動と称して報道するメディアもある。

 

こうした昨今の社会現象を見るかぎり、フランスの若者は10代から30代まで幅広く社会に対して不満を抱いているようにみえるが、はたして彼らの実態はどのようになっているのであろうか。そこで本稿では、フランスの若者に焦点を当て、彼らがどのような雇用情勢におかれているのか、またそうした状況で彼らはどのように職に就き、どのようなキャリアを形成していくのかを、日本のそれらとの比較も交えて述べていきたい。

 

 

フランスの若者の雇用情勢

 

はじめに、フランスの若者を取り巻く雇用情勢を、失業率、有期雇用の割合という2つの指標を用いて概観していくことにする。

 

 

失業率

 

まず、主要国における若年失業率を比較していこう。図1によると、フランスは、2017年で22.3%であり、ヨーロッパのなかではギリシア、スペイン、イタリアほど高くはないものの、イギリスと比べて10ポイント以上、ドイツと比べると3倍以上高い数値を記録している。

 

 

図1 主要国の若年失業率(2017年)

(出所)OECD(2018), Youth unemployment rate(indicator)

 

 

つぎに、フランスの失業率の推移を詳しくみていく。図2は、2000年から2018年までのフランスの失業率の推移を表している。まず、全年齢層(15歳~64歳)の失業率の推移をみていくと、男性では、2008年のリーマンショック前まではおおむね6%台から7%台で推移していたが、リーマンショック後では、8%台後半から10%台で推移している。一方リーマンショック前まではおおむね8%台から9%台で推移してきた女性の失業率は、リーマンショック後も同様のレンジで推移している。このことから、このおよそ20年間、失業率が高止まりしており、とりわけリーマンショック以降は男性にとって失業問題が深刻化していることがわかる。

 

つぎに、15歳から24歳までの若年層の失業率の推移をみていこう。リーマンショック前までは男性では14%台から21%台、女性では16%台から23%台で推移している。リーマンショック後は急激に上昇し、男女ともピーク時には25%台を記録するなどおおむね20%以上を推移しており、男性では一度も20%を割っていない。

 

 

図2 フランスにおける失業率の推移

(出所)Insee, Enquêtes emploi annuelles(2002年まで); Enquête emploi en continu (2003年から)

 

 

こうした若年層の失業率の推移からどのような特徴がわかるのであろうか。まず、若年層の失業率は全年齢層に比べてつねに高く、その高さも全年齢層に比べ2倍から3倍近くにまでのぼっている。2つ目は、若年層でも失業が構造化しており、とくにリーマンショック以降はより高い水準で推移している。

 

そしてもうひとつの特徴は、全年齢層の失業率に比べ、若者の失業率は変動幅が大きいことである。おおよそ20年間のあいだに、全年齢層では、4ポイント程度の幅で推移しているが、若年層に限ってみると、10ポイントのあいだで推移している。このようにフランスの若者の雇用情勢は、全年齢層に比べて数倍の高失業率の状態が慢性的に続いているとともに、経済状況や景気の動向に大きく左右されやすいことがわかる。

 

 

有期雇用の割合

 

2つ目の指標は、若者の有期雇用の割合である。Eurostatによると、2017年現在の全雇用に対する有期雇用の割合は、全年齢層で14.8%であるのに対し、若者に限ってみると56.4%となっている。フランスでは日本より労働法の規制が厳しく、雇用期間が限られている有期雇用はあくまで例外なかたちで許されている。そのフランスですら、若者に限ってみると半数以上が有期雇用となっていることになる。このように、フランスの若者は他の年齢層に比べて職を見つけにくいだけではなく、運よく就職できたとしても得られる雇用は有期雇用と不安定である確率が高い。

 

 

雇用情勢が厳しい理由

 

なぜフランスでは、雇用情勢がとくに若者層においてここまで厳しいのであろうか。もちろん、ここ20年間、フランス経済が低迷し、若年失業率が高止まっていることも一因ではあろうが、別の一因として考えられるのが、本来であれば労働者を保護するはずの労働法の存在である。

 

雇用形態にはじまり、労働者の処遇、賃金、さらには、労働時間や解雇に至るまで、フランスでは法による規制が随所にみられる。たとえば、前述のとおりあくまで無期限雇用が標準で一般的な雇用形態であるとみなされており、その分、有期雇用に対する法律上の制約が大きい。たとえ有期雇用でも、処遇は正規雇用と対等であることが保障されている。また、賃金に関しては、政府によって全国一律の最低賃金が定められている。

 

こうした規制は、あくまで労働者の権利を保障する観点から定められたものであるが、一方で、雇用主にとってみれば、容易に解雇ができない、人件費がかさむなど、新たな雇用を生み出す際の障害となっている側面もある。本来は人員をもっと確保したくても、労働法によって雇うためのハードルが高く設定されているため、若者をはじめとした求職者を新規で雇えない状態となっている。たしかに、労働市場の流動性を高めるため、労働法の改革が行われてきたのも事実であるが、いまのところ目立った効果は見られていない。

 

このように、すでに職を得た労働者については労働法の恩恵を得られる一方で、労働市場に新規参入してくる若者についてはその恩恵を得られていないどころか、その分の「しわ寄せ」が若者に及んでいると言える。まさに、前出の有期雇用の割合がそれを如実に表しており、一般的には有期雇用の割合は15%未満と低い水準であるが、若者の場合は半数を超えている。フランス労働法の理想と現実のはざまで、結局のところ若者だけが「割を食っている」格好だ。

 

さらに、フランスの雇用慣行もこうした厳しい若者の雇用情勢に影響を与えているのも事実である。次節ではこの雇用慣行についてみていこう。【次ページにつづく】

 

 

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vol.2019.4.15 

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