第二次安倍政権の経済政策を振り返る

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反転した第二の矢

 

アベノミクス第二の矢である「機動的な」財政政策については、的を射抜く前に反転してしまったとの思いを禁じえない。確かに2012年度補正予算としての「日本経済再生に向けた緊急経済対策」を早期に打ち出したことは、金融政策が効力を発揮するまでの日本経済の下支えとしての役割を果たしたという意味で評価できる。しかしデフレ脱却を確実なものとしないままで来年4月からの消費税増税が決まってしまったことは残念な限りである。

 

消費税増税が正式に決まるまでの過程ではさまざまな矛盾が露呈した。政府は消費税増税を決めた後で増税の悪影響を抑制するための経済対策(国費5.5兆円)を実施することを決めたが、そもそも経済対策が必要というほど消費税増税の悪影響を懸念するのならば、悪影響を懸念しない増税幅での消費税増税を行うか、消費税増税を行っても問題がない段階まで日本経済が回復するまで増税を先送りするのが筋であった。

 

そして経済対策の財源は前年度剰余金や今年度税収の増加分、国債費の不用額といった形で賄われた。余りガネがあるのならば、なぜ悪影響が及ぶことが明らかな消費税増税を予定通り行ったのだろうか? なぜ余りガネを社会保障費に回さなかったのだろうか?

 

消費税増税をめぐるメディアの報道姿勢も異様であった。10月初めの首相会見を待たずに、首相は増税を決めたとする報道があちこちで見られた。官房長官が否定すると、引き上げが既定路線であるかのような報道が繰り返された。消費税増税の決定を数日早く知ったとして何の利益があるのだろうか? 消費税増税をめぐるさまざまな論点を整理・分析し、政策論議を徹底的に行うことこそ必要ではなかったのか。

 

さらに言えば、経済対策そのものにも問題がある。経済対策の具体的な中身は、東京オリンピック・パラリンピックへの対応などの交通・物流ネットワークの整備や中小企業支援策に1.4兆円、若者や女性を含めた雇用拡大・賃金促進のための措置として0.3兆円、東日本大震災からの復旧・復興に1.9兆円、国土強靭化に1.2兆円、子育て世代への影響緩和策と簡素な給付措置にそれぞれ0.3兆円という構成である。ただしこの効果は十分ではない。

 

なぜか。1つ目の理由は短期的な景気刺激効果が弱いことだ。安倍内閣が2013年1月11日に閣議決定した「日本経済再生に向けた緊急経済対策」(事業規模20.2兆円、国費10.3兆円)と比べると事業規模は同程度だが国費の規模は半分強である。「日本経済再生に向けた緊急経済対策」は景気への即効性が高い公共事業費が増えることで2013年4-6月期以降の実質GDP上昇に寄与した。公共事業費5.5兆円から出資金や移転を除く4兆円程度が2013年度の実質GDPを0.8%程度押し上げたことで日本経済に影響したと考えられる。

 

しかし、今回の経済対策の公共事業費は約3兆円程度と見込まれるが、「日本経済再生に向けた緊急経済対策」と比較して日本経済へのインパクトは弱く、2014年度の実質GDPを0.4%程度押し上げるにとどまるだろう。

 

そして2つ目の理由が、消費税増税の影響が大きい中低所得者層への対策が十分に行われていないことだ。消費税増税の負担額は消費額の多い高所得世帯が大きくなるが、家計負担率は低所得世帯ほど高まるという逆進性がある。そして家計負担率の平均値を上回るのは年収700万円未満の世帯である。政府は簡素な給付措置を行うが、これによる家計負担率の改善は年収200万円未満世帯に限定され、負担率平均よりも影響が深刻な200万円以上700万円未満の世帯負担率は改善しない。今回の消費税増税は断続的に家計の実質所得への負担が増す中で行われる。経済対策は家計負担の増加を食い止めるには力不足なのである。

 

政府は12月24日に2014年度予算を閣議決定した。2013年度当初予算と比較すると3兆円の増額となる95兆8,823億円の規模となっている。しかしながら財政規模という面でいえば、補正予算を考慮した数字で考える必要がある。さらに2012年度補正予算「日本経済再生に向けた緊急経済対策」は2013年2月26日に成立し、2013年度の日本経済に影響したことを考慮すると、2013年度の財政規模は、当初予算92兆6,115億円に2012年度補正予算13兆1,054億円(経済対策10兆2,027億円に基礎年金国庫負担等及びその他の経費を加えた額)を加えた105兆7169億円ということになる。一方で、2014年度の財政規模は2014年度予算95兆8,823億円に消費税増税への対応策として講じられた2013年度補正予算5兆4,654億円を加えた101兆3,477億円である。

 

消費税率の引き上げで見込まれる負担額(1%の消費税率引き上げで見込まれる税収を2.7兆円として3%分)を8兆1,000億円とすると、105兆7169億円-101兆3,477億円+8兆1000億円=12兆4,692億円が来年度に見込まれる財政緊縮の度合いである。現在明らかになっている数値から判断すると、2014年度は12兆円を超える規模、名目GDP比で2.6%の財政緊縮にさらされる可能性もある。まさに第二の矢は的を射抜く前に反転してしまったのである。

 

筆者は新たに2014年度補正予算(経済対策)が打ち出される可能性が高いとみるが、現状の対策で経済の下支えが不十分であると政府が判断した場合には、躊躇なく家計への給付策をメインとしたさらなる追加の経済対策を実行することが必要だろう。【次ページにつづく】

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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