2026.10.22
「深い話」になると英語が出てこない理由
海外の取引先との会食。
仕事の話がひと段落したところで、相手からこう聞かれたとします。
What do you look for in your work?
仕事に何を求めているのか、という質問です。
天気や旅行の話なら、英語でもそれなりに話せる。
ところが、こういう話になると、とたんに言葉が出てこない。
そんなことはないでしょうか。
こういうとき、多くの人は、まず日本語で答えを思い浮かべます。
「やりがいのある仕事がしたい」
「仕事を通して成長したい」
「社会に貢献したい」
日本語なら、これでふつうに会話になります。
そこで、同じことを英語で言おうとします。
「やりがい」って、英語で何と言うんだろう。
「社会貢献」は?
言葉が見つからないまま、うまく言えずにごまかして終わる。
そして会食が終わってから、
「もう少し、ちゃんと話せなかったのか」と思う。
なぜ、こうしたことが起こるのでしょうか。
「深い話」になると英語が出てこないのは、難しい単語を知らないからではありません。
「やりがい」のような大きな言葉で話そうとしているからです。
単語を知っていても、伝わらない
こうした経験をすると、多くの人は「深い話をするための語彙が足りない」と考えます。
そして、難しい単語を覚えたり、抽象的な話題で使える表現を増やしたりします。
もちろん、「やりがい」や「社会貢献」にあたる英語はあります。
知っているにこしたことはありません。
では、そうした単語を覚えて、
I want a rewarding job.
と言えたとしましょう。
たしかに、「やりがいのある仕事がしたい」は、英語にできました。
ところが、相手はたぶん、それでは納得しません。
話のつづきを待つか、
What do you mean by that?
と聞き返してくるでしょう。
「やりがいのある仕事」と言われても、その言葉で何を意味しているかが、相手には分からないからです。
rewarding という単語から分かるのは、「やりがいがある」ということだけです。
この人が仕事で何にやりがいを感じているのかは、まだ何も伝わっていないということです。
日本語では、大きな言葉で会話が成り立つ
では、日本語では、なぜこれで会話が成り立つのでしょうか。
日本語の会話では、言葉の中身を相手が補ってくれるからです。
「やりがいのある仕事がしたい」と聞けば、相手は「そうですよね」とうなずく。
中身を説明しなくても、分かり合えた気になれる。
文化人類学者のエドワード・ホールは、言葉以外の文脈に多くを頼るコミュニケーションを「高コンテクスト」、言葉そのものではっきり伝えるコミュニケーションを「低コンテクスト」と呼びました。
異文化マネジメントの研究者エリン・メイヤーは、『異文化理解力(The Culture Map)』で、日本をもっとも高コンテクストな文化に位置づけています。
一方、さまざまな国の人が英語を共通語として働く場では、言いたいことを言葉ではっきり伝えることが求められます。
メイヤーも、多文化のチームでは低コンテクストのコミュニケーションをとるべきだと述べています。
育った文化が違えば、共有している前提も違います。
察してもらうことは当てにできないのです。
つまり、深い話で英語が止まる原因は、英語ではなく日本語にあります。
大きな言葉で察してもらう日本語の話し方を、そのまま英語に持ちこもうとしていることが問題なのです。
大きな言葉の中身を、経験で話す
では、どうすればいいのでしょうか。
「やりがい」という日本語から、いったん離れてください。
そして、自分が仕事でやりがいを感じた場面を、具体的に思い浮かべてみてください。
どんなときに、「この仕事をしていてよかった」と思ったでしょうか。
たとえば、
「担当したお客さんから、『おかげで助かりました』と言ってもらえたとき」
だったとします。
それなら、それをそのまま話せばいいのです。
Sometimes a client tells me, “You really helped us.”
That’s why I like this job.
難しい単語はひとつもありません。
それでも、この人が仕事で何を大切にしているのかは、rewarding と言うよりも、はるかによく伝わります。
あるいは、「責任感」のような言葉も同じです。
「責任感をもって仕事をしています」。
こうした言葉は誰でも言えることです。
だから、responsibility という単語を探すのではなく、自分がふだん実際にどうしているのかを考えてみてください。
I don’t like making promises I can’t keep.
So if I promise a client I’ll do something, I make sure I do it.
これなら、どのような考えで仕事をしているのかが、相手にはっきり伝わります。
このように具体的に話すことには、もうひとつ利点があります。
相手が、そこから話を広げられることです。
What kind of clients do you work with?
と聞かれれば、話はさらにつづいていきます。
大きな言葉で答えていたら、会話はそこで終わっていたかもしれません。
「責任感をもって仕事をしています」と言われても、応答のしようがないからです。
深い話とは、自分の経験を話すこと
「やりがい」や「責任感」という言葉を聞いても、その人が実際に何をしているのかは、相手には見えません。
ところが、「お客さんからこう言われた」「約束したことは必ずやる」と話せば、相手の頭のなかに具体的な場面が浮かびます。
そして、「この人はこういうことを大切にしているんだ」と分かります。
英語で深い話をするというのは、難しい言葉を並べることではありません。
自分の経験を通して、自分がどういう人間なのかを伝えることです。
ただし、「大きな言葉を、具体的な経験に置き換えればいい」と理解することと、実際の会話でとっさにそれができることは別です。
大きな言葉が浮かんだら、反射的にそれにあたる英語を探してしまう。
長いあいだ身につけてきたこの話し方そのものを、変えていく必要があります。
シノドス英会話では、実際に英語で話してもらいながら、どんな言葉を英語にしようとして止まっているのか。
その言葉の中身は、具体的には何なのか。
それを、自分がすでにもっている英語でどう話せるのか。
そうしたことを、ひとつずつ見ていきます。
仕事の話なら、英語でもある程度できる。
それでも、
「少し深い話になると、会話がつづかない」
「英語だと、自分が薄っぺらい人間に見えている気がする」
と感じているのであれば、一度、実際にあなたが英語で話しているところを見せてください。
シノドス英会話の現状診断セッションでは、あなたが深い話のどこで止まっているのかを分析します。
そして、自分の考えや経験を英語で伝えられるようになるために、何をどう練習すればいいのかを具体的に提案します。
