2026.10.24
「シャドーイング」をしても英語が話せるようにならない理由
毎日、シャドーイングをつづけている。
最初は速すぎてついていけなかった音声も、いまでは追いかけられるようになった。
ネイティブと同じくらいの速さで、英語が口から出てくる。
英語を話す力がついてきた、と感じている。
それなのに、英語の会議で意見を求められると、思うように言葉が出てこない。
そんなことはないでしょうか。
音声を追いかけることはできる。
でも、自分の考えを英語で話そうとすると、とたんに止まってしまう。
なぜでしょうか。
理由は、シャドーイングでは、話す内容も、使う単語も、英文も、すべて音声のなかに用意されているからです。
会話で英語を話すときには、何を言うかを自分で考え、それを英語の文に組み立てなければなりません。
シャドーイングで鍛えられるのは、決まった英語を聞き取って発音する力です。
その場で自分の考えを英語にする力ではありません。
シャドーイングの効果はどこまで分かっているのか
シャドーイングは、もともと通訳者の訓練に使われてきた方法です。
いまでは英会話スクールや英語コーチングの定番のトレーニングになり、リスニングや発音だけでなく、スピーキングの力も伸びると紹介されることが少なくありません。
では、研究ではどこまで分かっているのでしょうか。
2025年に、オックスフォード大学のBenen WhitworthとHeath Roseが、シャドーイングに関する44件の研究をまとめたレビュー論文を発表しました。
調べられていたのは、おもに発音への効果です。
そして、シャドーイングによって、発音の分かりやすさや流暢さ、リズム、イントネーションなどが改善することを示す研究が見つかりました。
ただし、これらの研究には、ひとつ共通点がありました。
参加者の英語を、英文の音読や、シャドーイングそのもの、暗記した内容の発表などで評価していたのです。
つまり、話す内容はあらかじめ決まっていました。
研究者たちが調べていたのは、決まった英語をどれだけ自然に、滑らかに発音できるようになったか、だったわけです。
しかし、仕事で英語を使っている人が知りたいのは、そこではないはずです。
会議で突然意見を求められたときに、その場で自分の考えを英語にできるようになるのか。
予想外の質問をされても、考えながら答えられるようになるのか。
こうした力を調べた研究も、まったくないわけではありません。
2022年には、日本人の大学生9人に4週間シャドーイングをしてもらった研究が発表されています。
練習の前と後に、あるテーマについて自分の意見を述べてもらったところ、話の流暢さが改善しました。
しかし、この研究には、シャドーイングをしない比較グループがありません。
そのため、伸びたのがシャドーイングのおかげなのかどうかは、判断できません。
これだけ多くの研究が行われているのに、「その場で自分の考えを英語にして話す力」が伸びることを、きちんと確かめた研究は見当たらないのです。
英語が口から出てくるまでに、何が起きているのか
会議で、取引先からこう聞かれたとします。
Do you think we should lower the price?
価格を下げたほうがいいと思うか、という質問です。
価格を下げれば、もっと売れるかもしれない。
しかし、利益が減るのは困る。
そもそも、売れない理由は価格ではないのかもしれない。
そう考えたのであれば、たとえば、
I’m not sure. I don’t know if the price is the problem.
と答えられます。
そして、
Maybe we should talk to our customers first.
とつづける。
どれも難しい英語ではありません。
それでも、その場で言おうとすると、簡単には出てこない。
このとき、頭のなかでは、いくつもの作業が行われているからです。
相手の質問を理解する。
価格を下げるべきかどうか、自分で判断する。
その判断を英語にする。
「価格が問題なのか分からない」と言いたいのであれば、そこから I don’t know if… という英文を組み立てる。
話しているあいだにも、つぎに何を言うかを考えている。
心理言語学者のウィレム・レフェルトは、人が話すまでの過程を、何を伝えるかを考える段階、それを言葉にして文に組み立てる段階、実際に発音する段階に分けて説明しました。
英語で会話をするとき、わたしたちは、この作業をつぎつぎとこなしています。
シャドーイングでは、何を言うかを自分で決めない
では、シャドーイングではどうでしょうか。
先ほどの会話を、シャドーイングの練習にしてみます。
音声から、
I don’t know if the price is the problem.
が聞こえてきて、少し遅れて同じ英語を口に出す。
このとき、「価格が問題なのか分からない」という考えは、どこから出てきたのでしょうか。
自分で取引先の状況を考えて、そう判断したわけではありません。
最初から、音声に入っていた言葉です。
I don’t know if… という文のかたちも、使う単語も、すべて決まっています。
それを聞き取って、そのまま発音しているだけです。
もちろん、シャドーイングは簡単ではありません。
流れてくる音を聞き取り、短いあいだ覚えておいて、少し遅れて声に出す。
しかも、音声は待ってくれません。
しかし、この難しさは、会話の難しさとはまったく違います。
シャドーイングでは、何を言うかを考える必要も、考えに合う単語を探す必要も、文を組み立てる必要もないからです。
レフェルトの段階でいえば、練習しているのは、最後の「発音する」ところだけです。
日本語でも同じです。
経済について話している人の言葉をそっくりそのまま繰り返せても、それで経済について自分の意見を話せるようになるわけではありません。
人の言葉を正確に繰り返すことと、自分で考えて話すことは、まったく別の作業なのです。
自分の考えを英語にする練習が必要
シャドーイングをつづけていれば、いつかは自然に英語が出てくるようになる。
そう考えている人もいるかもしれません。
たしかに、英語の音を聞き取ったり、発音したりすることには慣れていくでしょう。
発音が楽になれば、そのぶん話すときの負担が減る可能性もあります。
しかし、英語の音声を何百回繰り返しても、自分の考えを英語にする作業を、代わりにしてくれるわけではありません。
英語を話せるようになりたいのであれば、何を話すかを自分で考え、手持ちの英語で言葉にしていく練習が必要です。
最初は簡単な英語しか出てこないでしょう。
途中で言葉につまることもあるはずです。
しかし、そのときには、自分で英語をつくっています。
シノドス英会話では、実際に英語で話してもらいながら、
相手の質問を受けて、自分の判断をつくれているか。
その判断を、手持ちの英語で文にできているか。
どこで止まり、そのとき何を言おうとしていたのか。
そうしたことを、ひとつずつ見ていきます。
シャドーイングはかなりやってきた。
英語の音にも慣れてきた。
それでも、
「会議になると、自分の考えが英語にならない」
「練習した英語は言えるのに、自分の言葉では話せない」
と感じているのであれば、一度、実際にあなたが英語を話しているところを見せてください。
シノドス英会話の現状診断セッションでは、あなたが英語を話すとき、どの段階で止まっているのかを分析します。
そして、その場で自分の考えを英語にできるようになるために、何をどう練習すればいいのかを具体的に提案します。
