「慰安婦問題」の基礎知識 Q&A 

橋下徹大阪市長の発言「慰安婦は必要だった」が引き金となって、あらためて、内外で、慰安婦問題に対する批判と憂慮が高まっています。各国メディアの日本報道が橋下発言を辛辣に紹介・解説するいっぽう、国連の社会権規約委員会は5月21日、日本政府に対して、慰安婦を「売春婦だ」と侮辱するヘイトスピーチ(憎悪表現)を繰り返す国内の排外主義的グループの行動に関して状況改善を求めました。

 

私も現下の状況を深く憂慮しています。なぜならば、橋下氏はいうまでもなく、石原慎太郎元都知事、一部の国会議員が、慰安婦と慰安婦問題についての日本政府の公式見解を逸脱する発言をくりかえしており、そのことが人目をはばからない被害者への侮辱の素地のひとつになっているからです。

 

さまざまな歴史問題について、日本政府の公式見解やこれまでの施策は、内外を問わず、一定の評価を受けるいっぽう強い批判も受けてきました。この論稿では、慰安婦問題の基礎知識について、まず、日本政府の公式見解と、政府と「協力」して慰安婦問題に取り組んだアジア女性基金(正式には、財団法人 女性のためのアジア平和国民基金 / National Fund for Asian Peace and Women)の活動について、もっぱら外務省とアジア女性基金の報告書をもとに紹介したいと思います。

 

(本稿を読んでいただくにさいして、あわせてシノドス記事「橋下徹大阪市長『米軍の風俗業活用を』はいかなる文脈で発言されたのか(2013年5月13日)」を参考にしてください。)

 

 

Q1.「慰安婦問題」とはどんな問題ですか。

 

日本政府が慰安婦問題について公式の見解を出しています。ネットで検索すると簡単にみつかります。まず、外務省の公式サイトにある「慰安婦問題に対する日本政府のこれまでの施策」や「歴史問題Q&A 問5」を見てください。以下に主旨を抜粋します。

 

 

外務省「慰安婦問題に対する日本政府のこれまでの施策」より

 

この問題は当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であるとして、心からのお詫びと反省の気持ちを表明し、以後、日本政府は機会あるごとに元慰安婦の方々に対し、心からのお詫びと反省の気持ちを表明している。

 

 

外務省「歴史問題Q&A 問5」より

 

日本政府としては、慰安婦問題が多数の女性の名誉と尊厳を傷つけた問題であると認識しています。政府は、これまで官房長官談話や総理の手紙の発出等で、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し、心からお詫びと反省の気持ちを申し上げてきました。

 

 

このように、日本政府は、慰安婦問題について、「心からのお詫びと反省の気持ち」を表明しています。これに先立ち、日本政府は、この問題に関して、「平成3年(1991年)12月以降、全力を挙げて調査を行い、平成4年(1992年)7月、平成5年(1993年)8月の2度にわたり調査結果を発表、資料を公表し、内閣官房において閲覧に供している」と明言しています。

 

さらに、平成5年(1993年)8月4日の調査結果発表の際に表明した「河野洋平官房長官談話」において、同内閣官房長官は次のように述べています

 

 

「慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話(抜粋)」

 

「今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。」「いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。また、そのような気持ちを我が国としてどのように表すかということについては、有識者のご意見なども徴しつつ、今後とも真剣に検討すべきものと考える。」

 

 

この河野談話を受けて、日本政府は、(1)慰安婦問題を含めて、第二次世界大戦に係る賠償や財産、請求権の問題は法的に解決済だが、政府として、既に高齢になられた元慰安婦の方々の現実的な救済を図るため、元慰安婦の方々への医療・福祉支援事業や「償い金」の支給等を行うアジア女性基金の事業に対し、最大限の協力を行ない、(2)アジア女性基金は平成19(2007)年3月に解散したが、日本政府としては、今後ともアジア女性基金の事業に表れた日本国民及び政府の本問題に対する真摯な気持ちに理解が得られるよう引き続き努力していくと約束しました。

 

 

Q2.「慰安婦」とは誰のことですか。

 

日本政府が「最大限の協力」を行なったとするアジア女性基金は、平成19(2007)年3月に『「慰安婦問題」とアジア女性基金』と題する報告書を刊行し、あわせて同書のテキストを骨子とし、資料、記録、写真を多く含んだデジタル記念館「慰安婦問題とアジア女性基金」を開設、国立国会図書館の中に収めました(http://warp.hd1.go.jp)。

 

『「慰安婦問題」とアジア女性基金』は、慰安婦について、次のように説明しています。

 

 

かつての戦争の時代に、日本軍の慰安所に集められ、将兵に対する性的な行為を強いられた女性たちのことです。

 

これらの人々のことを日本で戦後はじめて取り上げた書物の著者たちは「従軍慰安婦」と呼んできました。したがって、日本政府がこれらの人々の問題に最初に直面した時も、アジア女性基金がスタートした時も、いわゆる「従軍慰安婦」という言葉を用いていました。しかし、戦争の時代の文書では、「慰安婦」と出てきます。それで、いまでは、「慰安婦」という言葉を使っています。

 

このような慰安所の開設が日本軍当局の要請ではじめておこなわれたのは、中国での戦争の過程でのことです。1931年(昭和6年)「満州事変」の際に、民間の業者が軍隊の駐屯地に将兵相手の店を開くことがあったと、軍の資料に報告されています。翌年第1次上海事変によって戦火が上海に拡大されると、派遣された海軍陸戦隊のために最初の「海軍慰安所」、海軍専用の慰安所が上海につくられました。慰安所の数は、1937年(昭和12年)の日中戦争開始以後、飛躍的に増加します。

 

陸軍では、慰安所を推進したのは上海派遣軍参謀副長岡村寧次といわれています。その動機は、占領地で頻発した中国人女性に対する日本軍人によるレイプ事件によって中国人の反日感情がさらに強まることを恐れて、防止策をとらねばならないというところにありました。また将兵が性病にかかり、兵力が低下することをも防止しようと考えたようです。中国人の女性との接触から軍の機密がもれることも恐れられました。

 

 

慰安婦を集めた慰安所は組織化され、当時は支邦事変と呼ばれた日中戦争の勃発の翌年(1938年)6月には、日本陸軍の北支邦方面軍参謀長が、「日本軍人の強姦事件が全般に」広がり、深刻な反日感情を醸成させているため、個々の将兵を「厳重に取締る」とともに、「成るべく速に性的慰安の設備」を整え、そうした設備がないために強姦事件を起こす者をなくすようにとする通牒を出しました。

 

 

Q3.日本軍の関与はあったのですか。

 

軍事史に詳しいかたであればおわかりのように、一般的に、戦地や占領地で「民間人」がまがりなりにも「安全」に活動するためには、政府と軍との関係が必要です。

 

慰安所設置にさいしても、軍が業者を選び、依頼して、日本本国から女性を集めたり、国内の関係当局が便宜をはかったり、ときには反発されたりすることもありました。なので、日中戦争がはじまった翌年の1938年2月には、内務省警保局長が通達を、3月には陸軍省副官が通牒を出し、当時日本が加入していた「婦人・児童の売買禁止に関する国際条約」に違反しないように、満21歳以上とする年齢制限を設けました。

 

内務省や陸軍省は、慰安婦とは「醜業婦」で、その募集にさいしては慎重を期さないと「軍の威信を傷つけ」ることがあると承知していたのです。そして、慰安所の数が増えれば増えるほど、両省はいよいよ関与を深めないわけにはいかなかったのです。

 

 

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