「棄民から帰民へ」 ―― 広域避難者にこそ社会的包摂の手立てを

人は誰しも独りでは生きていけません。悩み、挫け、倒れたときに、寄り添ってくれる人がいるからこそ、再び立ち上がれるのです。我が国では、かつて、家族や地域社会、そして企業による支えが、そうした機能を担ってきました。それが急速に失われる中で、社会的排除や格差が増大しています。

 

 

第94代内閣総理大臣、菅直人氏は、所信表明演説の中でこう問題提起し、「支え合いのネットワークから誰一人として排除されることのない社会、すなわち、『一人ひとりを包摂する社会』の実現を目指します」と高らかに宣言した。東日本大震災が起きる273日前のことである。

 

社会的包摂、ソーシャルインクルージョン(social inclusion)とは、「すべての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、誰もが“居場所”や“出番”を実感できる社会の実現をめざす」という理念だ。

 

 

信頼へのメルトダウン

 

民主党が「コンクリートから人へ」のキャッチフレーズを掲げ、衆院総選挙で圧勝、政権を奪取したのは2009年8月のことだ。それから約1年半後の2011年3月11日に起きたマグニチュード9・0の大地震。東北地方のみならず、円高、デフレ不況下の日本に大打撃を与えた。その復興諸施策は、果たして立党の精神に沿ったものだったのだろうか。

 

関西学院大学災害復興制度研究所は、震災直後の昨年3月17日、広域避難者の漂流防止策や被災者生活再建支援基金の積み増し、震災遺児や震災障害者の把握と支援策の構築、自治体間の日本版対口支援の実施など、13項目にわたる政策提言を記者発表した。その後、3次にわたる追加提言では、基礎自治体にとって使い勝手の良い復興交付金制度の創設や取り崩し型復興基金の造成、そして、復興増税には所得税を充てることなどを求めた。

 

提言から消費増税を外したのは、被災地への増税を避けたかったことと、デフレ不況下では富の水平分配ではなく、垂直分配、つまり富裕税や資産課税など、持てる階層からの所得移転が鉄則だという財政学にとって「イロハのイ」の原則に従ったからだ。

 

所得税については、課税所得(年収のうち税金がかかる部分)が5千万円を超える人への税率(最高税率)を40%から45%に引き上げる。相続税は基礎控除(遺産額のうち相続税がかからない部分)のうち、定額の控除を5千万円から3千万円に、遺産を相続する人(法定相続人)1人あたりの控除額を1千万円から600万円に下げ、対象を増やすという案だ。だが、消費増税法案のとりまとめにおける民主・自民・公明の3党合意にいたる交渉過程で、この垂直分配にいたる税制改正は見送られた。

 

この件について、朝日新聞6月21日付朝刊のオピニオンのページに、次のような投書が掲載された。

 

 

民主、自民、公明の3党が消費増税法案の修正協議で合意した。私は、消費税の増税も若干はやむを得ないと思う。だが、情けないのは、この協議の中で富裕層の所得税や相続税の増税に自民党が待ったをかけた理由だ。富裕層は増税されれば海外に移住するだろうというのだ。

 

もちろん、そういう人もいるだろう。だが、所得増税と言っても、最高税率を40%から45%へ上げる程度の話だ。それで国の税収に影響するほど、富裕層が一斉に海外へ脱出をはかるとは思えない。そもそも安倍晋三元首相が提唱した「美しい国」をはじめ、自民党議員の話によく出てくる郷土愛とか愛国心とはその程度のものなのか。富める者でありながら、少しくらい多く税金を払っても社会に貢献しようという発想が無いのだろうか。だとしたらそれは自民党議員に「住みづらくなったら日本から逃げだせばいい」という発想があるからではないか。

 

一方、日本を脱出するすべなど持たぬ私たち庶民は毎日の生活に四苦八苦しながらも消費増税に耐えるしかない。自民党の主張に同調した民主党や公明党も含めて、こんな幼稚なやり取りで重要政策を決めた議員や政党に将来を託さなければならないかと思うと、情けなくなる。

 

 

先立つ2012年6月8日、国会が設けた東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の黒川清委員長は記者会見で、「国家の信頼へのメルトダウンが起きている」と弾劾していた。黒川氏のこの指摘は、原発事故の原因解明を待たず、政府が原発再稼動に踏み切ったことへの非難であった。だが、「国家の信頼へのメルトダウン」は、それより政権交代の根幹であった「コンクリートから人へ」の大義が、よってたかって反古にされたところにあったのではないか。

 

 

 

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