被災写真を救済する ―― 「思い出サルベージ」プロジェクト

東日本大震災で発生した津波は、多くの家を流していった。家の中で大事にしまわれていた写真やアルバムも、一緒に流された。「思い出サルベージ(代表:溝口佑爾)」は、そうした写真を救済するために情報技術を駆使し、持ち主へと返却するプロジェクト。被災した写真を洗浄・デジタル化・データベース化し、画像の保存と返却につなげていく。宮城県亘理郡山元町で回収された約75万枚の被災写真を救済し、現在も元の持ち主にお返しする活動を行っている。

 

山元町は、宮城県と福島県の境目に位置する海沿いの町。海と山が近く、いちごとりんごとホッキ貝が名産だ。東日本大震災では津波により大きな被害を受け、町の居住地域のうちの約62%が浸水し2,209棟が全壊した。死者・行方不明者数は633名。人口の約4%が亡くなった計算になる。だが、これほどの甚大な被害にも関わらず、山元町の被害状況がメディアで伝えられることはほとんどなかった。

 

思い出サルベージのきっかけは、日本社会情報学会・災害情報支援チーム(統括リーダー:柴田邦臣大妻女子大学准教授)が行ってきた「情報ボランティア」活動。山元町出身の友人を送り届けるため柴田邦臣が現地に入ったのは、地震発生5日後の3月16日。言葉にならないほどの被害状況の中、柴田は山元町が情報的に孤立していることに気付く。

 

震災当初に防災無線が壊れ町外への情報発信が遅れたため、当時の山元町はメディアから見捨てられた町になっていた。柴田は情報の支援を行おうと日本社会情報学会の若手研究者に呼びかけ、PCとテントを担いで3月末に再び現地に入った。以後、山元町の状況を発信する“まとめサイト”の構築、避難所のPCやインターネット環境の構築、地元災害FM「りんごラジオ」のブログ作りなどを行っていた。

 

しかし、現地に滞在して活動を続ける中で、被災者の方から被災写真をデジタルで救えないかと声がかかった。

 

津波で何もかもを流された方にとって、写真は唯一自分と家族をつなぐものであり、また時に亡くなられた方の代わりとなるものであった。しかし、被災写真は海水とバクテリアにまみれ、日々劣化していく。急いで洗浄・デジタル化して保存することが必要だった。

 

「車や家はあきらめられるが、写真はあきらめられない。もう思い出はここにしかない」

 

その声から、被災者の方の思い出を救うプロジェクト『思い出サルベージ』ははじまった。

 

当初は、被災者の方から依頼があった分を洗浄・スキャン・印刷するサービスだった。

 

しかし、4月末ごろ、町内各所で自衛隊ががれきの中から回収した思い出の品が、津波被害にあった小学校の体育館に集められているという情報を耳にする。

 

 

omoide02

 

 

体育館があふれるほどの量に膨れ上がった、海水に浸かったままの写真。このままでは写真は劣化し、その画像は失われる。

これをすべて救済することができるのか。柴田と若手研究者は悩んだ。しかし、このままでは“思い出”は失われる。議論は3日間にわたった。そして、災害情報支援チームの総力をあげて、この被災写真に取り組むことを決断した。

 

しかし、大量の写真を救済するには、人手も技術も足りなかった。

 

最初はスキャナでのデジタル化を試みるが、泥にまみれた被災写真はスキャンする度にスキャナの掃除が必要になり、時間があまりにもかかる。大量の写真を作業するには現実的ではない。デジタルカメラで写真を撮影する『複写』を思いつくが、その技術はなかった。

そこで、柴田はTwitterで呼びかけを行った。

 

【拡散お願い】山下第二小体育館には概算で12万枚の被災写真が手当を受けられずに積まれています。スキャナ4台で取込していますが、アルバムの中には洗浄できないものも多く、劣化が進む前にデジカメでの再撮影が必要です。写真の再撮影で必要な物・事について、ご存じな方はぜひ教えてください。(筆者注:当時は総計12万枚と推定していた)

https://twitter.com/shiba_zemitter/status/65189497712812032

 

Twitterでの呼びかけに、多くのプロカメラマンやレタッチの専門家が集まった。そして最初に柴田の呼びかけに答えたカメラマン・高橋宗正が、複写に必要な機材の提供をTwitterで呼びかけ、多くのカメラや三脚が集まった。

 

そして、5月21日、22日に現地で『大洗浄複写会』を開催。土日を使い多くのボランティアに集まってもらい、一気に被災写真の洗浄と複写を行う。以後10回開催し、集まったボランティアはのべ500名を超えた。

 

omoide03

 

omoide04

 

omoide05

 

omoide06

 

omoide07

 

 

こうして11年7月中には被災写真の洗浄・デジタル化がほぼ完了。

 

救済した被災写真は山元町役場そばの『ふるさと伝承館』で展示し、元の持ち主にお返ししていく。

 

 

omoide08

 

 

 

シノドスを応援してくれませんか?

 

誰でも自由にアクセスできる本当に価値ある記事を、シノドスは誠実に作成していきます。そうしたシノドスの活動を持続的なものとするために、ぜひファンクラブ「SYNODOS SOCIAL」のパトロンになってください。⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

 

無題

 

・人文・社会科学から自然科学、カルチャーまで、各界の気鋭にじっくりインタビュー
・報道等で耳にする気になるテーマをQ&A形式でやさしく解説
・研究者・専門家たちが提案する「こうすれば●●は今よりもっとよくなるはず!」

・人類の英知を伝える「知の巨人」たち
・初学者のための「学びなおしの5冊」

……etc.  

https://synodos.jp/a-synodos

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.242+243 特集:外の世界を覗いてみる

・大野哲也氏インタビュー「人はなぜ旅にでるのか――バッグパッカーたちの複雑な軌跡」

・【調査報道Q&A】澤康臣(解説)「社会の不正を人々に伝える――調査報道はなぜ重要なのか」

・畑山敏夫「フランスの「ポピュリズム現象」を理解するために――マリーヌ・ルペンの成功を解読する」

・【今月のポジだし!】遠藤まめた「こうすれば「トランスアライ」はもっと良くなる」

・齋藤直子(絵)×岸政彦(文)「「Yeah! めっちゃ平日」第十三回」