福島レポート

2018.12.04

福島の甲状腺がん「放射線影響とは考えられない」――甲状腺検査2巡目の解析

基礎知識

福島第一原発事故の後、福島県は県立医科大学に委託し、原発事故当時おおむね18歳以下だった県民全員を対象にした甲状腺の超音波によるスクリーニング検査(症状のない集団に対して、がんの可能性の有無をふるい分ける検査)を、2011年から継続しています。

一般的に、がんのスクリーニング検査は、早期発見によってそのがんによる死亡率を低減するために行われます。また、がんが進行する前に発見することで、痛みや合併症の少ない治療ですむという効果が挙げられる場合もあります。福島における甲状腺の超音波によるスクリーニング検査は、当初「原発事故後の放射線被ばくによって子どもに甲状腺がんが増えるのではないか」という住民の不安にこたえることも目的とされました。

甲状腺がんは剖検(別の原因で亡くなった方の検査)をすると多く見つかることから、生涯症状が出ないなどの特徴を持つことが知られています。一方で、甲状腺がんを無症状で早期に発見しても、治療上のメリットがあるという根拠はありません。このため、甲状腺スクリーニング検査では特に「過剰診断」が問題とされます。過剰診断とは、生涯症状が出なかったり、命にかかわらなかったりするがんを見つけることを指します。

加えて、子どもや若者ががんと診断された場合、その後の生命保険加入や住宅ローンを組む際に阻まれる要因になるなど、社会的な影響をもたらすことも問題とされています。さらに、がんのスクリーニング検査は「1度受けて問題がなければ次は受けなくとも良い」というものではないため、当初の目的だった住民の不安解消効果も限定的とされることもあります。

2018年11月、県立医科大学のグループは、福島の子どもや若者に対する甲状腺の超音波によるスクリーニング検査についての論文(https://jamanetwork.com/journals/jamaotolaryngology/fullarticle/2716821)を発表しました。これは、甲状腺検査2巡目まで(2011年~2015年まで)の結果を解析した最初の論文です。

チェルノブイリ原発事故後の周辺地域で、原発事故後数年経ってから子どもの甲状腺がんが増加したという過去の知見から、福島における甲状腺検査の2巡目以降は、原発事故による放射線被ばくの影響があるかどうかを見ることができるとされます。

今回の論文は、甲状腺検査2巡目で甲状腺がんが見つかった県民の年齢分布が、チェルノブイリ原発事故後の周辺地域で甲状腺がんが見つかった住民の年齢分布とは異なり、放射線被ばくと関係のない甲状腺検査1巡目と大きく変わらないことなどを示し、「福島第一原発事故による放射線被ばく線量と甲状腺検査で見つかった甲状腺がんとの関連性は非常に低い」としています。(参考:「東京電力福島第一原子力発電事故における住民の線量評価に関する包括研究の経過報告」2017年10月23日県民健康調査検討委員会資料 http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/238778.pdf

その上で、甲状腺検査2巡目でも新たに甲状腺がんが発見された理由として、すべてのがんで最大の原因となる「加齢」や「頻回の検査」などを挙げています。

県立医科大学の2017年の論文によると、甲状腺がんの中には、一定の大きさで進行を止めたり、縮小・消失したりするものがあることが示されています(注)。原発事故当時の年齢が若い人ほど、生涯のうち何度も検査を受けるため、そのようなタイプの甲状腺がんを発見する可能性が高く、したがって過剰診断が起こるリスクも高いことが懸念されます。

(注)Midorikawa, Ohtsuru et al. “Comparative Analysis of the Growth Pattern of Thyroid Cancer in Young Patients Screened by Ultrasonography in Japan After a Nuclear Accident The Fukushima Health Management Survey” JAMA Otolaryngology–Head & Neck Surgery (2017)