特集:サイレントマジョリティ/ノイジーマイノリティ

1.山口真一×飯田泰之 炎上は声なき声を代弁しているか――『ネット炎上の研究』著者、山口氏と語る

 

「炎上」に参加するノイジーマイノリティの存在と受動的なマジョリティという構図をとらえた注目の本、『ネット炎上の研究』著者・山口真一氏と経済学者の飯田泰之氏による対談。批判が増幅するネットコミュニケーションの現状と課題について語り合います。

 

◇炎上は少人数で行われている

 

飯田:経済学者って理論的な話が好きな一方で、具体的な話にコミットするのを嫌がりがちですよね。具体的な事例の中でも、オークション理論などは論理的なのでみんな好きなのですが、ある意味理屈じゃない部分が含まれる「炎上」について経済学者が触れることはこれまでありませんでした。

 

山口:そうですね。日本ではあまりポピュラーじゃないかもしれません。実は、2014年には、経済学の有名紙「American Economic Review(AER)」にステルスマーケティングの論文が載っています。ちょっと雑談ですが、日本のステマって広告と気づかれないように企業を褒めるものが多いですよね。ですが、アメリカでは同業他社を貶すものが主流なんです。ホテルの口コミではそのようなステマが蔓延していると、実証分析によって証明している論文が掲載されていました。

 

飯田:AERに載ったトピックは「やってよし」みたいな空気がでますから、これから研究が進んでいくかもしれませんね。山口先生は、なぜネットでの炎上を計量経済学的なテーマで選んだのですか。

 

山口:計量経済学を使った理由は、先行研究では事例ベースのものが多くて、実証的なものが少なかったからです。

 

また、それ以前に、大前提として「炎上が増えている」という認識がありました。炎上の被害を考えると、ミクロ的には、対象となる人の人生がめちゃくちゃになったり、企業の株価が下がったりすることが挙げられます。そのうえで、さらに大きな目でみると、社会的コストとして炎上を恐れるが故に発信をやめてしまうのではと考えました。あるいは、政治のような炎上する話題を避けたり、表現の萎縮が起こったりしてしまう。

 

インターネットの一番大きな魅力はだれでも自由に発信できるところです。それによって、議論が活発になったり、新しいアイディアが生まれたり、「完全な民主主義」が達成されたりすることが期待されています。しかし、炎上という問題によって、発言が萎縮しているのであれば、大きな課題といえます。

 

 

山口氏

山口氏

 

飯田:萎縮のコストはありますよね。ぼくの実感ベースですが、テレビは炎上を非常に気にしていている印象です。炎上するテーマを避け続けていくと、「猫かわいい!」しか言えなくなってしまいます(笑)。

 

また、リアルの講演会もつまらなくなっています。かつては「ここだけの話」を講演会でできたのに、すぐにネットで晒されてしまう。結局、テレビや雑誌で言っている話しかできないので、講演会の魅力がなくなっていきます。しかも、自分の講演を不正確に引用され、炎上が始まってしまうリスクもあるわけです。

 

山口:マスメディアの人は非常に怖がっていますよね。あるテレビ局の人が炎上についておっしゃっていたのですが、「若手はあくまで一意見だと思っているけれど、上の人がものすごく気にする」ようです。そのため、結局炎上を避けた中庸的なものしかできなくなる。まさに「表現の萎縮」です。

 

先日、日清のCM(注)が炎上し、放送をやめてしまいましたが、あのような冒険したCMも打てなくなってしまう。たぶん、中年以降の人たちは、自分達への批判がものすごく集中する事態を目の当たりにしたことがほとんどありません。だから、過剰に反応してしまうのかもしれませんね。

 

(注)タレントの矢口真里などが出演した、日清食品のTVCMに「不倫を擁護している」という批判が集まった。

 

飯田:世代によって炎上のとらえ方が違うのは、示唆的です。これまでであれば、クレームはテレビ局に電話をするといったものが主流でした。相当多くても、100人が電話をすることはかなり稀だと思うんです。ですが、2ちゃんねるで炎上した場合、スレッドが2,3本立ったら、コメントは2000~3000ほどになります。炎上経験の薄いの方からすると、おどろくべき数字ということになるのでしょう。「ものすごい数の人が反対していて、売り上げも落ちてしまうのでは」というイメージをもってしまう。一方で、「たまにあることだ」という認識が浸透している若者の世代がいる。

 

 

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『ネット炎上の研究』では、炎上に書き込んだことのある人は1.1%(=0.49+0.63)しかいないし、過去1年に書き込んだことのある“現役”の炎上参加者はこの半分の0.5%であるので、炎上への参加者が少ないという結論を出していましたよね。これは、若い世代が直観的に思っていたことを、数字で示した研究だとも言えますね。……つづきはα-Synodos vol.199で!

 

 

2.山口浩 より「残念」でない言論空間へ――サイレントマジョリティの3つの「壁」を考える

 

世論におけるサイレントマジョリティの意見とはどのようなものなのか、「声なき声」を聞く際の「壁」となるものの正体を見極め、より良い言論空間のために求められる姿勢について考察します。

 

◇ノイジーマイノリティとサイレントマジョリティ

 

あちこちでこの本が話題になっている。

 

田中辰雄・山口真一(2016)「ネット炎上の研究」勁草書房(注1)

 

(注1)要点は以下の記事で概ねまとめられている。

「炎上参加者 実はごく少数?」(NHK News Web 2016年5月23日)

 

 

(1)実際に炎上に参加したことのある人は全体の約1%であり、ごく少数の人が複数回にわたって、書き込みを繰り返している。

 

(2)炎上に参加する傾向が強いのは、年収が多い人、ラジオやソーシャルメディアをよく利用する人、掲示板に書き込む人、インターネット上で嫌な思いをした人、インターネット上で非難しあってもよいと考えている人、若い子持ちの男性などであり、学歴や住んでいる地域、結婚の有無、インターネットの利用時間などはさほど影響を与えていない。

 

(3)炎上参加者はごく一握りの人たちで、炎上の対象となっても、擁護するコメントが少なからずあれば、行為としては特に誤りがない可能性が高く、発信を控えたり、謝罪したりする必要はない。

 

特に(2)で指摘された炎上参加者の人物像は、独身、低学歴、低収入、ネットのヘビーユーザーであるといった、これまでよくいわれてきたそれと異なるということもあって、大きな反響を呼んだ。

 

炎上がいわゆるノイジーマイノリティによる現象であるとの指摘は過去にもあったが(注2)、データに基づく検証を積み重ねていくことは重要な意義がある。

 

(注2)荻上チキ『ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性』 (ちくま新書)

「ネットにもサイレントマジョリティはある」(H-Yamaguchi.net July 13, 2009)

 

 

よくいわれていたような炎上参加者のステレオタイプが覆されたという点も注目される。2ちゃんねる全盛期には、「ネットは匿名だから無責任な発言が横行する」といわれたものだったが、同時にそうした発言の主は「低収入、ネット中毒」といったネットユーザー像と結び付けられ、実名でネットに参加するようになれば、そうした事態も解消するのではなどともいわれた。

 

しかし、facebookなどが普及し、実名でのネット利用が珍しくない時代に入ってからも、炎上がやむことはなかった。実名制で炎上は抑止できない。最近の実感に整合的なこのことが、実際にデータで根拠づけられた点は重要だろう。

 

アンケート調査や分析の方法などについては、アカデミックな見地から議論の余地はあろう。今後他の研究者も含め、さらに研究の進展が望まれるところだ。しかし、少なくとも、この研究成果が今後、この問題を考えるうえで重要な論拠の1つとなるだろうとは思う。

 

いうまでもないが、このような現象はネットの世界だけのことではない。「ノイジーマイノリティ」は、「サイレントマジョリティ」と対になる概念として、かねてより少なからぬ人々、特に政治家たちに言及されてきた。

 

そのうち知られている最も有名なひとつは、アメリカのニクソン大統領によるものだ。1969年11月3日の演説で彼は、当時泥沼状態に陥っていたベトナム戦争に反対する一部の学生など(vocal minority)による反戦運動を批判するという文脈で、彼を支持してくれる(と彼が信じた)多数の人々(silent majority)に呼びかけたのだった(注3)。

 

“And so tonight-to you, the great silent majority of my fellow Americans-I ask for your support.”

“If a vocal minority, however fervent its cause, prevails over reason and the will of the majority, this Nation has no future as a free society.”

 

(注3)http://watergate.info/1969/11/03/nixons-silent-majority-speech.html

 

 

日本でも、1960年(昭和35年)のいわゆる「60年安保闘争」の際に、当時の岸信介首相が「国会周辺は騒がしいが、銀座や後楽園球場はいつも通りである。私には“声なき声”が聞こえる」と発言した(注4)。この「声なき声」はサイレントマジョリティを指すのであろうから、国会周辺に集まったデモの群衆はノイジーマイノリティということになる。

 

(注4)https://youtu.be/4zGdfD20Lj4

 

これらはいずれも、権力者が自らの立場との関係において賛成者をマジョリティ、反対者をマイノリティと位置付けたもので、要は自分が大衆に支持されているという主張だ。

 

しかし、ネットの世界でもそれ以外でも、ノイジーなのは一部の人々であるということは事実としても、彼らがサイレントマジョリティの人々と異なる意見とは限らないし、仮にマイノリティだとしてもその影響力を無視してよいというわけでもない。

 

実際、上掲の為政者はいずれも、その後退陣を迫られた。ノイジーマイノリティはときにサイレントマジョリティの代弁者でもあり、その力はしばしば無視できないほど大きなものとなる。……つづきはα-Synodos vol.199で!

 

 

3.高史明 在日コリアンに対する差別的なノイジーマイノリティ

 

ネット上でヘイトスピーチを繰り返す少数のユーザーの存在を明らかにした、「レイシズムを解剖する 在日コリアンへの偏見とインターネット」の著者・高史明さんにご寄稿いただきました。高さんは「ノイジーマイノリティーの影響を決して軽視すべきではない。」と指摘します。

 

 

◇インターネット上での差別言説の流行

 

近年の日本では、インターネット上を中心に、在日コリアンなどの国内に居住する外国籍者に対する差別的な言説が流行している。この記事を執筆している2016年6月22日、Twitterで「在日」の語を検索すると、最新の投稿として、

 

“在日韓国人は密航者。全員強制送還すべきだ。”

“在日朝鮮ウジ虫は日本に寄生していながら日本人を侮辱する。”

 

といったものが表示された(注1)。これらは、この日なされていた差別的な投稿のごく一部にすぎない。

 

(注1)これらの例は、公人ではない差別的なインターネットユーザーを出典として記載する必要が生じるのを避けるために、投稿の主旨そのものは変えないようにして筆者が作成したものである。

 

インターネット上における差別的な言説の流行は、2000年代を通じて徐々に進行してきた。おそらくその最初の転機となったのは、2002年である。この年、日韓共催FIFAサッカーワールドカップでのサポーター間の確執や、小泉純一郎元首相の訪朝により金正日政権が拉致問題に組織的に関与していたことが明らかにされたことを受けて、韓国・北朝鮮への反感がにわかに高まった。これを受けて、インターネット上で差別的な言説が増え始めた。

 

2003年のNHKの「冬のソナタ」の放映をきっかけに「韓流ブーム」が起こり、韓国のポップミュージックやドラマ・映画が盛んに輸入されたのも2000年代の最初の10年の出来事ではあるのだが、テレビやラジオを離れたインターネットのコミュニティ上では、差別的な言説が次第に勢いを増していった。

 

現在では、差別的言説の舞台はインターネット上にとどまらない。

 

有名な「在日特権を許さない市民の会(在特会)」が結成されたのは、2007年初頭である。在特会は、インターネットを活用して急激に勢力を拡大した。これと前後して、従来の右翼団体の枠には収まらない排外主義団体が数々結成され、東京・新大久保や大阪・鶴橋といった在日コリアン集住地を中心に、ヘイトスピーチを伴う街宣・デモを繰り広げてきた。

 

2014年2月11日の朝日新聞の朝刊は、「嫌中憎韓」が書籍や雑誌のトレンドになっていることを伝えている。また、政治家や芸能人が公の場で差別的な発言をすることも、そしてそれが15年前であれば受けたような批判を受けないですませられてしまうことも、珍しいことではなくなっている。

 

 

◇Twitterにおける差別的な少数者

 

では、差別的な言説を流布しているのは、数の上での“マジョリティ”なのであろうか?

 

おそらくそうではない、というのが、筆者の考えである。上述のように、差別的言説の流行のゆりかごとなったのはインターネットであると考えられるが、そのインターネットにおいて、差別的な言説の流布は、受ける印象よりも遥かに少ない数の人々によってなされている。

 

すなわち、数の上では少数だが極端に差別的な“ノイジーマイノリティ”が、差別的言説の多くの部分を担っている。以下本稿では、筆者が行った研究をもとに、インターネット上の代表的なコミュニティであるTwitterにおいて、差別的言説を振りまくノイジーマイノリティが存在することとその含意を論じる。

 

筆者は、2012年末から2013年初頭にかけて、Twitter上の投稿(ツイート)を収集し、分析した(この研究の詳細は、拙著『レイシズムを解剖する:在日コリアンへの偏見とインターネット』(勁草書房、2015年)に記載されている)。

 

資源の制約上、期間内になされた投稿のごく一部のみを収集したのだが、収集されたコリアンに関するツイート(在日コリアンに限定せず、コリアン一般である)は、109,589件であった。このうち、コリアンに対してネガティブな内容だったものは、過半数の70%前後と推測された。

 

またこのサンプルにおいて、コリアンに対するツイートを行っていたのは合計で43,619個のアカウントであった。捕捉された投稿数とそれに該当するアカウント数のヒストグラムは、図1のようになる。

 

 

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捕捉された投稿数が1件のみのアカウントは77.6%(33,853ID)と圧倒的多数を占め、2件、3件と数が増えると、アカウント数は急激に減少した。その一方で、極端に多い投稿数にも、少数のアカウントが該当した。最も多くの回数捕捉されたアカウントでは投稿数は1,644件、以下2位、3位では1,572件、765件であった。

 

このような分布は、べき分布と呼ばれる。べき分布とは、多くのデータが最低値付近に集中し、そこから離れた値に向かって長い裾野を描くような分布である。……つづきはα-Synodos vol.199で!

 

 

4.小川祐樹 Twitterは「沈黙の螺旋」を加速させるのか?

 

自分の意見が少数派である場合に意見表明がしにくくなる「沈黙の螺旋」のTwitterにおける影響を、「原発再稼働問題」を事例に検証します。

 

 

◇はじめに

 

ソーシャルメディアは政治的に多様な議論を支える基盤になりうるのであろうか? TwitterやFacebook といった様々なSNSの発展が著しく、2013 年のインターネット選挙運動解禁を機にネットの政治的コミュニケーションメディアとしての利用が期待されているが、ネット上での意見形成過程においてはいくつか懸念があげられる。

 

インターネット上で他者の意見にふれることで自身の意見が整理されて熟議が可能になるという示唆がある一方で、多数派同調による意見の一極化や、異なる意見・党派性(右派・左派)で分断化するなど、意見の極性化 (polarization) が生じることも懸念されている。

 

 

◇インターネット上での沈黙の螺旋

 

個人の態度や意見表明においては意見風土の認知が影響を与えることが知られているが、世論の形成過程を論じた理論として「沈黙の螺旋理論 (the Spiral of Silence Theory) 」がある。

 

これは、ある争点に関して個人が意見風土を認知した際、少数派と認知した場合には意見が発信されにくくなり(逆に、多数派と認知した場合には意見が発信されやすくなり)、これが多数派意見への意見風土認知を強めることで、結果的に初期多数派への意見へ収斂するという意見形成過程を説明した理論である(図1)。分野によっては、勝ち馬効果やバンドワゴン効果などとも呼ばれる。

 

 

図1:沈黙の螺旋現象

図1:沈黙の螺旋現象

 

 

◇Twitterにおける沈黙の螺旋

 

Twitterは世論形成における「沈黙の螺旋」メカニズムを加速させるのであろうか? オンライン上の政治的議論を行う場においても意見風土の認知と発言との関連性については研究が行われており、そこではオンラインフォーラムでの発言にはどのような意見が多数派なのかという意見風土の認知が影響しているという結果が報告されている。しかし、具体的なSNSであるTwitterにおいて個人の意見と実際の行動を結びつけて検証したものはない。

 

我々はこれを検証するために、Twitter利用者に対するオンライン調査を実施し、利用者の政治的争点(原発再稼働)に関する意見と、実際のTwitter上での発言の行動ログを取得し分析を行った(小川, 2014)。……つづきはα-Synodos vol.199で!

 

 

5.南博 “サイレントマジョリティ”の市区町村行政への意見反映

 

サイレントマジョリティの存在は市区町村行政においてどのような社会的リスクを生むのか、具体的に分析した上で、市民の無作為抽出による会議から多様な意見+を政策に反映する試みをご紹介いただきました。

 

◇私たちの多くは市区町村にとってサイレントマジョリティである

 

市区町村は、市民に最も身近な総合的な行政主体として「基礎自治体」と呼ばれます。私たちの日々の生活や経済活動は、市町村の政策や事業なしでは成立しません。(※本稿での「区」は、東京23区のことを指します。政令指定都市の行政区は含みません。)

 

一方で、皆さんはお住まいの市区町村の政策形成や事業計画・事業見直し等に関し、政治家(市区町村長、市区町村議会議員)や行政職員に届く形で意見提示をされたことはあるでしょうか。「ある」人も多いと思いますが、「ない」人も少なくないでしょう。また、「ある」人においても、回数は限られ、また出した意見が実際にどのように議会や役所内で扱われ意思決定が行われたか、判然としない方が多いのではないでしょうか。

 

日々の生活や仕事を通じて、私たち市民は行政に対する色々な感想を持ちますが、その“感想”を政策形成や事業化に資する“意見”として政治家や行政職員に届けるには、現状は制度が不十分であるとともに心理的なハードルも高いと言えるでしょう。

 

さらに、私たち一人ひとりが、広範にわたる市町村行政の全分野に常に関心を持ち続けることは不可能とも言え、特に自分の生活や仕事に無関係(と思われる)分野には関心が行き渡らないのは仕方ないことです。

 

国や地方自治体(都道府県、市町村)の政策に対して意見を積極的には表明しないという、多くの一般的な市民のことを、“サイレントマジョリティ”と呼ぶことがあります。この言葉は、時代背景や使用される場面によって意味が一定とは言えませんが、サイレントマジョリティの持つ意見は“声なき声”とも称されます(もちろんサイレントマジョリティの意見は多様であり、一つにまとまったものではありません)。

 

行政職員の中にも、「現状では特定の声の大きな人の意見ばかりが行政に届いてしまっているのではないか。もっと民意を的確に把握したい」という問題意識を持つ人も多くいます。特に、行政で対応すべき課題が複雑化・多様化・高度化し、また行政への市民参画に対する注目が高まる中、市民に直接接する機会の多い市区町村行政の現場では、このサイレントマジョリティの意見をどのように政策や事業に反映していくかが大きな関心事・課題となっています。

 

そこで本稿では、無作為抽出による市民参加型会議を事例として多様な市民意見の把握や政策への反映に関する考察を行った南(2010)での論考を軸とし、執筆後の動向も加味した上でサイレントマジョリティの市区町村行政への意見反映の視点や課題を概略的に例示します。

 

なお、人口1万人を下回るような小規模な自治体の場合、政治家や行政職員と市民が“顔の見える関係”を有し、市民意見を細かな部分まで把握しやすいと言われることがあります。小規模な自治体においても市民意見を反映する仕組みをきちんと構築することは重要課題ですが、実態としてサイレントマジョリティの存在は大きな課題とはなりにくいでしょう。そこで、本稿で扱う市区町村とは比較的人口の多い自治体のこととお考えください。

 

 

◇サイレントマジョリティの存在で生じる社会的リスク

 

尾花(2005)は、消費者行動を捉えるマーケティングのモデルを援用し、政策に関係がある人の中で、「(1)政策を知らない」、「(2)政策を知っているが、関心がない」、「(3)政策を知っていて関心もあるが、誤解している」、「(4)政策を知っていて関心もあり理解しているが、意見を表明したくない」、「(5)政策を知っていて関心もあり理解していて意見を表明したいが、(実際には)意見を表明しない」という人々の総和をサイレントマジョリティと位置づけています。

 

そして、尾花の指摘および南(2010)等を踏まえると、サイレントマジョリティの存在は行政、ひいては社会に様々なリスクをもたらす懸念があります。例えば以下のa)~c)のようなものです。

 

a)市民から寄せられる意見が少ない場合、行政は寄せられた少数の意見を踏まえて事業内容の検討をせざるを得ません。しかも寄せられた少数の意見は、市民の「多数の民意」を代表した意見とは限りません。そのため、結果として市民の望まない政策や事業が推進される懸念があります。なお、アンケート調査についてもサイレントマジョリティの意見を十分に汲み取ることが難しい場合があります。

 

b)意見を出さない市民にとって、一部の特定の市民の意見だけが行政に尊重されているかのような印象を持ちやすい状況が起こり得ます。そのため、不公平感が生じることや、意見や立場・属性が異なるグループ間で地域内対立が生じること、場合によっては「陰謀論」が噂話で流れるなど、市民の持つ「行政や地域に対する不満」が増幅されていく懸念があります。

 

c)ある事業について当初はサイレントマジョリティであった市民が、事業が具体的に進み始めた段階になって事業の存在を認知し、事業の見直し等について強い意見を出す場合が起きがちです。場合によっては、事業の検討が振り出しに戻ったり停滞したりする懸念があります。さらに、「サイレントマジョリティがノイジーマイノリティ化する」懸念もあります。

 

このうちc)については、事業が具体化した段階で市民が関心を持って反対意見を出すこと自体は、市民参画推進の観点からは悪い事ではありません。むしろ様々な段階で闊達に意見を出せる環境であるべきです。しかしながら、そのタイミングによって、反対意見の拡がりは社会的なリスクとなりえます。……つづきはα-Synodos vol.199で!

 

 

6.片岡剛士 経済ニュースの基礎知識TOP5

 

今回は、英国EU離脱による経済への影響、消費税増税の再延期表明、低下が進む長期金利、ブラジル経済、中国経済など、注目のニュースを分かりやすく解説していただきました。

 

日々大量に配信される経済ニュースから厳選して毎月5つのニュースを取り上げ、そのニュースをどう見ればいいかを紹介するコーナーです。

 

6月もさまざまな出来事が目白押しでした。個人的にはようやく6月が終わったなという印象です。梅雨が終わり暑くなる来月には、青空のように経済の視界も晴れることになるのでしょうか。今月は、苦境が続くブラジル経済、低下が進む長期金利、中国経済と民間投資、英国EU離脱、消費税増税再延期表明についてみていきたいと思います。

 

◇第5位 苦境が続くブラジル経済(2016年6月1日)

 

今月の第5位のニュースは、苦境が続くブラジル経済についてです。

 

ブラジル地理院が1日に公表した2016年1-3月期の国内総生産(GDP)は前年同期比で5.4%減との結果になりました。8四半期連続のマイナス成長という結果ですが、前年同期比で17.5%減となった投資と同6.3%減となった家計消費が大きく影響しています。

 

投資減少の原因は資源安です。資源を扱う大手企業は資産売却を進めていますが、こうした影響は投資減という形で表れます。

 

他方で4月の消費者物価上昇率は9.2%となっており、中央銀行の目標上限である6.5%を上回っている状況です。原油安は消費者物価にはマイナスのインパクトを及ぼしますが、それを考慮しても中央銀行の目標上限を物価上昇率が上回っているということは、金融政策がうまく機能していないことを意味しています。

 

ルセフ大統領は予算の不正執行疑惑を問われ停職中であり、現在はテメル副大統領が職務を代行しています。テメル氏は基礎的財政収支が2年連続で赤字となった状況を踏まえ、財政再建に力を入れる方針とのことですが、ここで緊縮策を行えば、財政健全化も進まないでしょう。

 

残念ながらブラジル経済はいまのところ財政政策、金融政策のまずさが停滞を深刻化させている事例と言えそうです。……つづきはα-Synodos vol.199で!

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.2019.3.15 

・中西啓喜「学力格差と家庭背景」
・竹端寛「対話を実りあるものにするために」
・佐々木葉月「日本のテロ対策の展開」

・小野寺研太「「市民」再考――小田実にみる「市民」の哲学」
・久保田さゆり「学びなおしの5冊〈動物〉」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(5)――設立準備期、郵政民営化選挙前」
・山本宏樹「これからの校則の話をしよう」