2018.04.02
趣味の知識がビジネス力に――21世紀のビジネスで本当に必要なこと
はじめに
新年度最初のαシノドスは「若者と雇用」が特集です。今年も入社式を迎えた大勢の若者が社会人として新たなスタートを切ります。確実に人手不足が進む経済状況のなか、今後私たちはし「就労」をどのように捉えていくべきなのでしょうか。豊かな生活を送るための働き方についてのヒントを、飯田泰之先生に伺いました。
第2稿は、脱植民地時代の思想家フランツ・ファノンを取り上げます。植民地化という支配と従属の構造を打ち破るべく、欧州をモデルとしない共生の在り方を模索したファノン。現代でも人々を引き付ける彼の理論、そして理念を中村隆之氏が読み解きます。
つづいては、連載「知の巨人たち」です。今回は、社会学の巨匠、マックス・ウェーバーを取り上げます。近代合理主義の特徴を多角的に捉え、またその合理主義が生む闇を鮮明に描きだしたウェーバー。現代人が乗り越えるためのヒントにもつながる思想を、橋本努氏にご解説いただきました。
最後は、「学び直しの5冊」です。今回は、教育社会学がご専門の山田哲也氏に「学歴」をテーマに選書いただきました。
下記にインタビューの冒頭を転載いたしております。
どうぞ、ご覧ください。
飯田泰之氏インタビュー「趣味の知識がビジネス力に――21世紀のビジネスで本当に必要なこと」
4月。春の暖かな光とともに、今年も新入社員たちが入社式を迎える。経済の回復や人口動態の影響もあり、いよいよ本格的に売り手市場になった就職活動。そして、テクノロジーの進歩により変わりゆく「仕事」の形態。これからの社会で充実した日々を過ごすために必要な働き方も変化しつつある。今回は、飯田泰之先生に「雇用と若者」とテーマにお話を伺いました。(聞き手・構成/増田穂)
◇受験と就活、混同しないで
――就職活動もいよいよ本格的に売り手市場になってきました。
一教員の実感として隔世の感です。2014年頃からここ数年、新卒就職マーケットは目に見えて改善しています。多くの大学生にとって業界や特定企業にこだわらなければどこかには就職が決まるようになってきたといえる。
一方で、就活生本人の主観としては未だに就職活動が厳しい印象が強いようです。誰にとっても初めての経験ですから、過去と比較のしようもないわけですが、ブランド企業に勤めたいという想いが自分の首を絞めているというケースは少なくない。就職活動を大学入試のリベンジのイメージで行っている学生さんに顕著です。いかにも有名大学の人が行きそうな企業、名前がしれている企業ばかりにエントリをしている子とかね。
――上を目指すから、その分採用に至らないことも多いと。
そうですね。就職活動と大学受験を混同している学生は結構います。その結果、就職活動は厳しくてつまらないものになるし、さらに入社後の働きづらさにもつながっていると思います。
大学受験と就職活動には大きな違いがあります。きれい事を抜きにすると大学受験はやはり縦のランクづけが明確な中での競争です。就職活動はそうではない。よく使われる表現ですが、就活はお見合いです。大学受験であれば、勉強して成績を伸ばし手一つ上のランクの大学に進学することはある意味では合理的かもしれません。しかし就職の場合、就職先の企業は偏差値でわけられているわけではない。多くの人がいいというA社が、自分にとってもいい会社かは、全くわからないのです。
就職職活動は、あう・あわないを探る場です。それをしっかり理解できていないと就活はうまく行かないし、つらい、そして入社後の後悔にもつながるでしょう。
――なるほど。
一方で、就職活動を「自分探しの旅」にしてしまうことにも注意が必要です。就活が思うように進まない、というかすべて思うとおりに進む人なんていないのですが、そのもやもやの解決策や納得感を求めて当初の希望と全く異なる企業に目を引かれることが多くなります。例えば「自分だけを大切してくれるように見える会社」に行く。「見える」というところがポイントです。本当に人が採れなくて困っている会社は、インターンなどで学生に対して非常に優しいのでよさそうに感じてしまう。
例えば、スタートアップ期の企業は動きが派手で変化もあるので楽しいイメージはあります。しかしそうなると、その企業に人を育てる体制があるのかがわかりません。いわゆる意識高い系の学生さんのなかには、もう大企業の時代じゃない、という人も多い。そしてそれはその通りなんです。その通りなのですが、あなたが成長できるのが「その会社」であるかどうかはわかりません。
ベンチャー企業、スタートアップ期の企業は業績はもちろん、待遇や職場環境、新人育成のプログラムまで非常に分散が大きい。本当にいい会社もある。一方で、びっくりするくらいダメな会社もある。一人で行動してビジネスを作って行けるタイプの人は、定型的なモノが何も決まっていない会社の方が、チャンスもあっていい場合があるでしょう。しかし、自分ひとりで仕事を作って行く経験もなく、特別その才能があるわけでもなく、そうした会社に入ってしまうと、結局何もできない上に、ばかみたいに忙しいことになってしまいます。
興味深いのは、それまで就職活動を受験のように考えていた子が、ある日突然ベンチャー志望にかわることが少なくない点です。「就活=受験」と「就活=自分探し」の極端から極端に振れる例をいくつも見てきました。これは、たとえば五大商社を受けて、都市銀行を受けて、人気企業を軒並み受けて、落とされる。そうすると、現代の就職活動に対する社会的義憤みたいなものが生まれたりする。そして、元々の志望とは全然関係ないのにいきなりベンチャーとか言い始める。希望の会社の選考を通過しないことが続いて、そうするうちに日本のシューカツはだめだ、やっぱりスタートアップ企業だみたいなことになってしまう。この手の「すっぱいブドウ型」の就職先の決め方で成功した子はほとんど見たことがないんです。
――改革するぞ、みたいな感じで。
ええ。両極端なんですよね。もちろん、本当にそのスタートアップ期の企業をやりたい人はそれでいい。でも、本当にそのスタートアップ事業をやりたかったのか怪しい子もいます。志望企業に通らなかった理由を、自分ではなく企業や社会のせいにしたいがために、ベンチャー企業に行っているのではないか?
そういうの、できる子に多いんですよね。頭もよくて仕事もできそうな、いわゆる「できるやつ」とみなされているタイプの子です。自分も周囲も「きっといい企業に行くんだろうな」と思っていた子がこういう両極端に振れがちな気がします。だからこそもったいないと思う。
――親世代の就職に関する認識はいかがですか。
有名企業はBtoCの会社に多いです。当たり前ですが、コンシューマー(消費者)相手ということは、コンシューマーみんなが知っている、知名度が高いということですから。しかし優良企業と有名企業は別物です。消費者にはあまり知名度がなくても、BtoBメインでとてもいい仕事をしている、そして待遇が良いとか働きやすいという会社はいくらでもあります。
親御さんがビジネスと縁遠い業界にいる場合に、一般的に知名度の高い企業を子供に勧めがちな傾向は有りますね。世界で活躍している超一流のBtoBの部品メーカーの内定を蹴って、十把一絡げ大量採用の「有名大企業」に行ってしまったりね。聞いてみると、親が「有名大企業」を強くすすめるのだと。
ビジネスの世界にいれば、どちらがいい企業かわかっているけれど、親がそうしたことに疎いと、ただ有名なだけの企業や、あまり社員を育てる気のない企業、入り口から出世のルートがわかれてしまっている企業なんかに入ってしまう。これはとても残念だと思います。
――ルートが分かれる、とは?
表向きは総合職・一般職の垣根を廃止しましたといいながら、事実上は内部で一定の境目が出来ているという意味です。かつては内定者懇談会を別々に行うなど露骨な区別がありましたが、いまはそういう表だった区別をやらなくなっているだけに、中に入ってようやく壁の存在に気づくというケースもままあります。これなんかはOB・OG訪問などを通じた情報収集が必要ですね。
◇転職を前提とした就職先選び
――近年、雇用形態の変化も叫ばれていますが、この変化は企業選びなどにどのような影響を及ぼしているのでしょうか。
日本は未だに新卒一括採用終身雇用システムでけしからんという声も聞かれますが、状況はだいぶ変わってきています。一括採用はともかく、終身雇用はいい意味でも悪い意味でも揺らいでいる。90年代後半に就職した人たちにとって、最初の会社を数年以内で移ることは珍しいことではない。20代半ばから後半に一度、場合によっては30代半ばくらいでもう一度移動して、そこから定年まである程度長期雇用で――といったキャリア形成は今後ますます増加するでしょう。最初に勤める会社が、以前ほど拘束的ではなくなってきているわけです。
最初は自分を育ててくれそうなところや、業務自体を楽しめる企業に行ってみるのがいいと思います。地元に帰りたいなら、一度その地域の定番企業に勤めてみるのも手でしょう。……つづきはα-Synodos vol.241で!
1.飯田泰之氏インタビュー「趣味の知識がビジネス力に――21世紀のビジネスで本当に必要なこと」
2.中村隆之「フランツ・ファノン、その瞬間、その永遠」
3.【知の巨人たち】橋本努「マックス・ウェーバー」
4.山田哲也「学び直しの5冊<学歴>」
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