母親を子宮に沈める社会 ――大阪二児遺棄事件をもう一度考えるために

見ている人にとって残酷な映画

 

角間 ほかに撮影で苦労されたことってありました?

 

緒方 実際のお母さんにも撮影のあいだはずっと現場にいていただいたのですが、撮影を始める合図って、子供役にとってはお母さんから離れる合図なんですよね。だからお母さん役の役者さんを「悪い人」って。お母さんが完璧であろうとして苦しんでいるところを撮りたかったので、子供がお母さんに懐いている必要はなかったんですけど、あまりにも嫌がっていたんですよね。

 

あと子供が牛乳をこぼすシーンがありますが、牛乳をこぼしたら怒られるってわかっているから撮影前に「今日はこぼしてもいいんだよ」って言っていたんですね。だけど撮影中はお母さん役に怒られる。だから「さっき良いって言ったのに!」ってどんどん溝が深まっていっちゃうんです。

 

もちろん戸惑うことはよくわかっていたので、きちんとケアできるように現場には本当のお母さんもいてもらいました。そのお母さんが、放置された幸がおもちゃの電話で「ママー、幸だよー? ママー?」って言っているシーンでは泣いていて。いろいろ考えるところがあったのかな、と思いました。撮影は本当に大変でしたね……。

 

角間 見ている人にとって残酷な映画ですよね。初めは幸せそうで、だんだん荒んでいく様子を見て、映画を見ている最中、「できるなら自分が子供を助けたい」と思わない人っていないと思うんです。あるシーンでインターフォンが鳴って、それは児童相談所なのか新聞の勧誘なのかわからないけれど、結局幸は高いところにある電話をとるために椅子を寄せているあいだに、その人はどこかに行ってしまう。

 

「ぼくだったらもう少し待っていたのに!」と思うけれど、映画だからそれは許されない。初めて映画を見たとき、子供が置き去りになったシーンからしばらくして「あとどのくらいあるんだろう」って時間を確認するとあと30分以上ある。「まだまだあるのか……」って気が重くなるんですよね。でもぼくは90分の映画をみているのであって、子供は50日も放置されていたんだと思うと、さらにもどかしくなるんです。

 

この映画って終わった後に拍手ができないんですよ。しかも泣けばいいモノでもない。どうすればいいのかわからないのが、見終わってからもモヤモヤ続くんです。

 

緒方 ぼくが一番重要だと思っているところです。ぼくはエンターテイメントを撮るつもりはありません。社会的な問題、しかもなかなか気がつきにくい問題や人々が目を背けたいと思うものを描きたいと思っています。

 

そうした問題を映画として表現するときに、「映画だな、悲しい話だな」と思われるのも「どうせ助かるんだろう」と思われるのも嫌なんです。それじゃあニュースやわかりやすい映画と変わりません。現実は、そんなタイミングよく救世主はこないんです。だからわかりやすい終わりという終わりではなくて、意図的に不完全燃焼に終わらせているんです。

 

角間 そうですよね。しかもこの映画って「ここに社会のエラーがあるからなおさなくちゃいけない!」って呼びかけというよりは、見ている間に抱えたモヤモヤ、やきもきする気持ちを行動に繋げて欲しいと伝えようとしているように見えました。

 

 

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©paranoidkitchen

 

 

事件のかわりとして

 

角間 この映画は、とくに誰に見て欲しいですか?

 

緒方 みんなに見て欲しいんですが(笑)。一番見て欲しいのは、大阪二児遺棄事件が報道されたときに叩いていた人たちですね。作品をみて改めてあの事件を考えて欲しいです。

 

あの事件はすでに刑も確定していて、風化していますよね。おそらく同じような事件がまた起きたときに、またセンセーショナルに取り上げられて、時間が経つにつれて忘れられていく、が繰り返されちゃうと思います。それじゃあ駄目なんですよね。この映画が事件のかわりとして、考えるきっかけになって欲しい。その時間を作ってもらえたら、少しずつ変わっていくと思うんです。行政も頑張っていると思うんです。でも事件の予備軍みたいなお母さんはきっといる。それを少しでも、ぎりぎりで止められるようになったらいいな、と思います。

 

角間 そうですよね。「○○が悪い!」と批判するのではなくて、映画をみているときに感じる「助けてあげたい」という気持ちを忘れずに、なにか行動してもらえたらいいなと思いました。

 

(2013年9月25日 渋谷にて)

 

 

 

●11月9日公開予定『子宮に沈める』公式サイト

http://sunkintothewomb.paranoidkitchen.com/

 

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©paranoidkitchen

 

 

 

 

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