報告6 日韓2つの「ふつう」――「不通」から「普通」へ

変化の兆しのある日韓関係の「不通」

 

2つの「ふつう」という観点から日韓関係を読み解き、2015年を展望してみたいと思います。

 

1つ目の「ふつう」は、「通じない」という意味での「不通」です。これは日韓関係の現状に対する私の評価です。2つ目の「普通」は、「平凡な」「よくある」と理解されることが多いのですが、ここでは「普(あまね)く通じる」と書き下して、将来に向けてそのようなかたちで日韓関係をオープンにしていくという展望を意味しています。

 

「不通」は、いまだ日韓両国の首脳が単独での会談を一度も行っていないことに象徴されています。「地球儀を俯瞰する外交」を掲げる安倍首相は、2014年11月の「日中」首脳会談で、50カ国の首脳とトップ外交を行ったことになりますが、韓国の朴槿恵大統領とのみ行っていない。唯一、2014年3月にオランダのハーグで行われた核セキュリティサミットの折に、オバマ大統領が仲介するかたちで、「日米韓」という枠組みを通じた会談が行われただけで、「日韓」の欠如が際立っています。

 

日韓の首脳レベルの「不通」は、ほぼ同時期に就任した安倍・朴のペアになってからではありません。日韓単独で、お互いの国を行き来するかたちでの首脳会談は、2011年12月に、当時の野田首相と李明博大統領の間で行われたものが最後です。そこでは慰安婦問題だけが一方的に取り上げられ、日本側にとっては後味の悪い記憶が残っています。その後、李大統領が竹島に上陸するなど、日韓関係は1965年の国交正常化以降50年の歴史の中で最悪の状況に陥っています。

 

変化の兆しも見られます。APECの折に日中首脳会談が実現したことで、不意打ちをくらった韓国は、日中韓外相会談をソウルで行い、日中韓首脳会談につながることを希望するという、ポジティブな発言を初めてしました。これまで慰安婦問題が解決しない限り首脳会談に応じないという立場をとってきた朴大統領にとって、それが解決しなくても、単独の日韓首脳会談を行いやすいのは、「日中韓」というマルチの会談の席だろうと思います。これは北京APECの脇で日中首脳会談に応じた習近平主席も同じだったでしょう。

 

外務省の局長級会談は2014年に5回行われました。長らく開催されていなかった、安全保障の問題も含めて包括的に話し合う次官級の戦略対話も10月に行われ、12月にも次官協議を重ねています。外相対談は8月と9月に2回行われ、首脳レベルでも、APECの夕食会が隣の席だったことを理由に、あくまでも非公式ということで意見交換を行っています。

 

近年外交は、政府当局者同士が行う専管事項ではなくなり、国際社会で広く「心と精神を勝ち取る」側面が重要になっていますが、トップリーダーしか成しえない役割もあります。とりわけ日韓に関して申し上げますと、首脳会談を行うことによって、双方の国民レベルで陥っている嫌韓/反日といった悪循環を断ち切るチャンスが生まれます。トップリーダーにはその責任がある。どんなにブスッとしていても、中国の国家主席と一緒に撮ったフォトセッションが報道で繰り返し使われると、日本国内、国際社会で中国に対する認識が少なからず好転したように、首脳会談によってのみ可能になるブレイクスルーがあります。

 

 

鎖は一番弱い輪で切れる

 

日韓は歴史認識問題が理由で対立しているとよく言われますが、私はそのようには考えていません。もっと根の深い、中国の台頭や米中関係の行方に対して、日韓両国の間で戦略的認識ギャップがあり、今後どのように政策的に対応するか、食い違いが生じているからだと思っています。少し大仰な言い方をすると、国家大戦略(グランド・ナショナル・ストラテジー)のレベルで齟齬が生じているため日韓は対立しているのではないでしょうか。

 

日本は中国の台頭を脅威として認識し、アメリカとの同盟関係を強化することで対応しようとしています。他方、韓国は中国の台頭を必ずしも脅威とみなしているわけではありませんし、米中関係の行方に対しても「新型大国関係」と言われるような関係が可能だし望ましいと考えている。むしろ日本が引き金になることで、日中対立が米中対立につながり、米中の間で韓国が「股裂き」になる状況が一番望ましくないと思っている。このように国家大戦略をめぐる齟齬が厳然と存在しています。

 

「韓国はわれわれと違う国になった」という印象を持っている人が多いのではないでしょうか。内政では、報道・表現の自由や結社の自由について、自由民主主義体制を共有していたはずだが、どうも違うのではないか、と。外交のレベルでも、韓国もアメリカ側についていたはずなのに、どうも中国側に行ってしまったのではないか。そういう疑いが強まっています。

 

実際はどうなのか。この点については慎重に判断しなくてはいけません。2014年7月に習主席が訪韓したときの中韓首脳会談で、中韓関係は「成熟した戦略的協力パートナーシップ関係」に格上げされました。当初中国は経済的な関係だけでなく、安保も含めた「全面的な」関係に格上げすることを望んでいましたが、韓国は「成熟した」と形容詞を加えることで、ギリギリのところでなんとか踏みとどまった、と言えます。

 

中韓は「対日」「歴史共闘」している、とよく言われます。しかし私は、これはカバー(擬装)にすぎないのではないかと思うんですね。本当は中国による韓国の「抱き込み」なのではないか、「米日韓」、つまりアメリカが同盟国の日本や韓国と築き、これまで維持してきた、北東アジアにおける安保や経済の秩序に対する挑戦なのではないかと思うんです。

 

米国が「アジア太平洋国家」「アジアへの回帰」を標榜する中で、合意とルールに基づくリベラルな秩序に対して、力による一方的な現状変更を迫っているということなのだと思うんですね。英語の警句に、“A chain is no stronger than its weakest link”という言葉がありますが、これを意訳すると「鎖は一番弱い輪で切れる」となります。つまり、「米日韓」という「鎖」において「日韓」という「輪」が切れることは、誰にとって得なのかを考えると、見えてくるものがあるのではないでしょうか。

 

 

韓国は「離米従中」をギリギリ踏みとどまっている

 

その上で、いま流布しつつある「離米従中卑日」という言葉について考えてみましょう。韓国はアメリカとの同盟から離れて中国につき従い、日本を蔑んで見ているという見方は、本当に妥当なものなのか。何をしたら中国側に行ったのか、あるいはアメリカ側に留まっているのかを見極めるためのチェックリストを用意してみました。

 

まず、北京APECの際の中韓首脳会談で、両国がFTA(自由貿易協定)に合意しましたが、これは許容範囲内でしょう。次に、日本が主導してきたADB(アジア開発銀行)がすでにある中で、透明性が確保されるかどうかよく分からないかたちで経済的な秩序を中国が主導して構築していこうとするAIIB(アジアインフラ投資銀行)に参加するかどうか。これはボーダーライン上です。いま韓国は踏みとどまっていますが、オーストラリアが今回見送ったからとも言われているので、今後どうなるか分かりません。

 

明らかなデッドライン越えは、集団的自衛権に関する解釈変更に対して、中国の反対に同調することです。7月の中韓首脳会談で同調してしまったんですね。「さすがにマズい」「行きすぎた」と気づいて、引き戻しを始めています。THAAD(戦域高高度防衛ミサイル)もアウトです。中国は「参加するな」と脅しにかかっていますが、いつまでも配置しないとなると、アメリカは「韓国が中国についた」と判断するでしょう。最後に「戦勝70年」。中国は韓国に盛んに水を向けていますが、そもそも韓国は戦勝国ではなく、法的には日本からの分離・独立です。

 

というわけで、慎重に見極めなくてはいけないのですが、いまのところはギリギリのところでなんとか踏みとどまっている、と言っていいのではないかと私は考えています。【次ページにつづく】

 

 

DSC_1112

 

 

シノドスの運営について

 

シノドスは日本の言論をよりよくすることを目指し、共感してくださるみなさまのご支援で運営されています。コンテンツをより充実させるために、みなさまのご協力が必要です。ぜひシノドスのサポーターをご検討ください。

⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

98_main_pc (1)

 

 セミナー参加者募集中!「対話/ダイアローグから見た精神医学」植村太郎(12月16日16時~18時)

 

 

無題

 

vol.233 公正な社会を切り開く 

 

・ジェームズ・ミニー氏、鈴木啓美氏インタビュー「もっと楽しいお買い物を目指して――フェアトレードの魅力」

・【「民主」と「自由」――リベラルの再生へ向けて――】古川江里子「大正デモクラシーと吉野作造 ―大日本帝国憲法下での民主主義的政治の試みが現代に問うもの」

・【知の巨人たち】重田園江「ミシェル・フーコー――なぜ『絶望系』なのに読んでしまうのか」

・阪井裕一郎「学びなおしの5冊 <家族>」

 

vol.232 芸術にいざなう 

 

・吉澤弥生氏インタビュー「人をつなぐ芸術――その社会的評価を再考する」

・【現代演劇 Q&A】長瀬千雅(解説)「時代を捕まえるダイナミクス――現代演劇事始め」

・【今月のポジ出し!】橋本努「タックス・ヘイブン改革 香港やシンガポールにも圧力を」

・増田穂「『知見』が有効活用されるために」

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.233 特集:公正な社会を切り開く

・ジェームズ・ミニー氏、鈴木啓美氏インタビュー「もっと楽しいお買い物を目指して――フェアトレードの魅力」

・【「民主」と「自由」――リベラルの再生へ向けて――】古川江里子「大正デモクラシーと吉野作造 ―大日本帝国憲法下での民主主義的政治の試みが現代に問うもの」

・【知の巨人たち】重田園江「ミシェル・フーコー――なぜ『絶望系』なのに読んでしまうのか」

・阪井裕一郎「学びなおしの5冊 <家族>」