2015.01.22

地殻変動する東アジアと日本の役割

新潟県立大学大学院開設記念シンポジウム

国際 #浅羽祐樹#東アジア#新潟県立大学

新潟県立大学は2015年4月に大学院国際地域学研究科(研究科長・山本吉宣)を開設することを記念して、シンポジウム「地殻変動する東アジアと日本の役割」を昨年12月に開催した。

「戦後70年」となる2015年、これから東アジアはどのように変わりゆくのか?

猪口孝(新潟県立大学学長)、天児慧(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)、信田智人(国際大学副学長)、三村光弘(環日本海経済研究所調査研究部長)、袴田茂樹(新潟県立大学政策研究センター教授)、浅羽祐樹(新潟県立大学政策研究センター准教授)といった6名の研究者が、各々のフィールドから、東アジア、そして国際政治のいまを読み解き、これからを展望した。

新潟県立大学 大学院国際地域学研究科開設記念シンポジウム「地殻変動する東アジアと日本の役割」より(構成/金子昂)

報告1 現今の国際体制の長期的俯瞰とミクロ的観察――2012~2014年の日中関係から見る/猪口孝

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こんにちは、新潟県立大学の猪口孝です。今日は「現今の国際体制の長期的俯瞰とミクロ的観察――2012~2014年の日中関係から見る」というタイトルで、東アジア、そして国際政治がどのように動いているのかを簡単にお話したいと思います。これは1938年から2014年までに戦争で亡くなった人の数を見ると、国際政治の動向が分かるというおおざっぱな話です。

まず1938年から45年の第二次世界大戦ですが、この8年間で4000万人が死んでいます。つまり毎年500万人の死者がでているということです。次に冷戦期の1945年から89年。これは第二世界大戦に比べると、ぐっと減って年平均10万人が死んでいる。とはいえ、44年もありますから、相当な人数が死んでしまっているわけですね。そして1989年から2014年、ここでは年平均1万人が死んでいます。これらはすべて国家間戦争のみの死者であって、内戦や紛争などの死者は除いています。1945年と1989年はこの意味で画期的な年であったわけです。

さて、実はこの死者の数を東アジアだけに絞ってみると変化はより激しくなります。東アジアでは、1980年代までに朝鮮戦争(1950-1953年)やベトナム戦争(1965-1973年)、中越戦争(1979年)などいろいろ起きていますが、その後、1980年から2014年にかけての戦死者は年平均ゼロという研究があるんですよ。⇒ つづきはこちらから

 

報告2 習近平政権と大国外交、日中関係/天児慧

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こんにちは、早稲田大学国際学術院アジア太平洋研究科の天児です。あまり時間もありませんから駆け足でお話します。

2010年の漁船衝突事故、そして2012年の尖閣諸島国有化をめぐる反日行動など、国交正常化以降、日中関係は最悪の状況にあります。貿易額も落ち、また政治家だけでなくわれわれ研究者の交流もままならない状態に陥っていました。しかしAPECでの日中首脳会談以降、というよりもその2日前になされた4項目の基本合意によって状況は変わりつつある。この基本合意は首脳が会うとか会わないとか、目を合わせたとか合わせていなかったとか、そういう話よりも重要なものです。

基本合意について、日本のメディアはあまり積極的な評価をしていなかったように思いますが、中国や香港のメディアはかなり積極的に評価をしていました。中国政府は「日本の求めに応じて会見した」という言い方をしていますが、中国の「環球時報」という民族主義的な色彩の濃いメディアなどからインタビューを受けた際に、「再スタートの意味合いが強い」「双方に半歩前進した」と答えたところ、ほぼ正確に翻訳をして報道をしていました。中国も本音のところでは前向きで、積極的に改善していこうという意思があるということでしょう。⇒ つづきはこちらから

報告3 地殻変動する東アジアと日本の役割/信田智人

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こんにちは、今日は本シンポジウムのテーマである「地殻変動する東アジアと日本の役割」をタイトルにお話をします。

この2年間、毎月1回、日本アカデメイアというグループで、経済界、労働界、学会、官僚の代表者が集まって、日本力、国際問題、価値創造経済モデルの構築、社会構造、統治構造という5つのテーマについて議論をしてきました。ここでは私が主査を務めておりました国際問題のグループで議論してきたことをお話します。

最初に、2030年に世界はどうなっているのか、それまでに何が起きると考えられるのかについて3つほど挙げたいと思います。

1つ目は世界的な規模の経済危機が起きる可能性が大きいということ。

いまG7の負債総額はGDPの3倍であり、いつ金融危機が起きてもおかしくない状況にあります。また現在の世界経済は新興国に依存している部分が大きく、経済成長の半分以上が新興国の成長、投資の約4割、そして増加分の7割が新興国への投資となっています。もしどこか不安定な新興国がこけてしまったら世界経済危機が起きる可能性が高い。とくに世界の経済成長の3分の1を担っている中国は、2025年までに低成長期になると言われていますから、このとき世界経済はどうなるのか。不安は大きいです。⇒ つづきはこちらから【次ページに続く】

報告4 北朝鮮の「並進路線」と新たな経済政策/三村光弘

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環日本海経済研究所の三村です。今日は北朝鮮の経済の話をしたいと思います。もちろん北朝鮮の経済を勉強するだけで知恵の輪を解くことはできません。かちゃかちゃと頑張っているあいだに、日中関係だとか、米中関係だとか、いろいろなものが変わっていって、迷路に迷い込んでしまう……というのが私の10数年の実感です。

北朝鮮は、2013年3月31日、「朝鮮労働党中央委員会2013年3月全員会議」で、経済建設と核武力建設の並進路線を提示しました。これは日本、そしてアメリカにとっては、「やはり核を放棄しないのか、核ドクトリンまで発表して、いっぱしの核保有国気取りじゃないか、けしからん」という、非常に評判の悪い政策です。中国も、「あれだけ反対したのに、やってくれちゃったなあ」と思っている。そういう意味では中朝関係も悪化しているということですが、その点は分かりきっていることですので、ここでは申し上げません。今日は、一体北朝鮮は何をしようとしているのかを話したいと思っています。⇒ つづきはこちらから

報告5 ロシア・ウクライナ問題と日本の対露政策/袴田茂樹

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新潟県立大学教授の袴田です。今日は「ロシア・ウクライナ問題と日本の対露政策」という題で、最近騒がれているウクライナ問題に関して、東アジアを視野に入れつつお話したいと思います。

先日、ウラジオストクで日本とロシアの民間レベルのシンポジウムを非公開で行いました。お互いが非常に率直にものを言い合ったのですが、その場でロシア側から日本に対して、ウクライナ問題に関連して3つの批判がありました。

第1は、ウクライナのクリミア半島で住民投票が行われ、大多数の賛成によってロシアに併合されたことについて世界中がロシアを批判したが、その後5月に行われたスコットランドでの住民投票では批判が起きなかった。どうしてロシアだけが批判されなくてはならないのか、というもの。⇒ つづきはこちらから

報告6 日韓2つの「ふつう」――「不通」から「普通」へ/浅羽祐樹

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2つの「ふつう」という観点から日韓関係を読み解き、2015年を展望してみたいと思います。

1つ目の「ふつう」は、「通じない」という意味での「不通」です。これは日韓関係の現状に対する私の評価です。2つ目の「普通」は、「平凡な」「よくある」と理解されることが多いのですが、ここでは「普(あまね)く通じる」と書き下して、将来に向けてそのようなかたちで日韓関係をオープンにしていくという展望を意味しています。

「不通」は、いまだ日韓両国の首脳が単独での会談を一度も行っていないことに象徴されています。「地球儀を俯瞰する外交」を掲げる安倍首相は、2014年11月の「日中」首脳会談で、50カ国の首脳とトップ外交を行ったことになりますが、韓国の朴槿恵大統領とのみ行っていない。唯一、2014年3月にオランダのハーグで行われた核セキュリティサミットの折に、オバマ大統領が仲介するかたちで、「日米韓」という枠組みを通じた会談が行われただけで、「日韓」の欠如が際立っています。

日韓の首脳レベルの「不通」は、ほぼ同時期に就任した安倍・朴のペアになってからではありません。日韓単独で、お互いの国を行き来するかたちでの首脳会談は、2011年12月に、当時の野田首相と李明博大統領の間で行われたものが最後です。そこでは慰安婦問題だけが一方的に取り上げられ、日本側にとっては後味の悪い記憶が残っています。その後、李大統領が竹島に上陸するなど、日韓関係は1965年の国交正常化以降50年の歴史の中で最悪の状況に陥っています。⇒ つづきはこちらから