報告1 現今の国際体制の長期的俯瞰とミクロ的観察――2012~2014年の日中関係から見る

東アジアはいまどこへ向かっているのか

 

こんにちは、新潟県立大学の猪口孝です。今日は「現今の国際体制の長期的俯瞰とミクロ的観察――2012~2014年の日中関係から見る」というタイトルで、東アジア、そして国際政治がどのように動いているのかを簡単にお話したいと思います。これは1938年から2014年までに戦争で亡くなった人の数を見ると、国際政治の動向が分かるというおおざっぱな話です。

 

まず1938年から45年の第二次世界大戦ですが、この8年間で4000万人が死んでいます。つまり毎年500万人の死者がでているということです。次に冷戦期の1945年から89年。これは第二世界大戦に比べると、ぐっと減って年平均10万人が死んでいる。とはいえ、44年もありますから、相当な人数が死んでしまっているわけですね。そして1989年から2014年、ここでは年平均1万人が死んでいます。これらはすべて国家間戦争のみの死者であって、内戦や紛争などの死者は除いています。1945年と1989年はこの意味で画期的な年であったわけです。

 

さて、実はこの死者の数を東アジアだけに絞ってみると変化はより激しくなります。東アジアでは、1980年代までに朝鮮戦争(1950-1953年)やベトナム戦争(1965-1973年)、中越戦争(1979年)などいろいろ起きていますが、その後、1980年から2014年にかけての戦死者は年平均ゼロという研究があるんですよ。

 

いやいや、中国とベトナムが1988年に南シナ海で衝突しているでしょうと思われるかもしれませんが、実は中国もベトナムもどのくらい負傷者や戦死者が出たのかを明らかにしていないんですね。あるいは2001年に起きた、中国の戦闘機がアメリカの偵察機を追いかけて、失速し、中国軍のパイロットが亡くなっています。これを国家間戦争と考えるかというと、そうではない。または2010年には北朝鮮によって、韓国海軍の艦船が沈められ46名が亡くなっていますが、これも国家間戦争なのか内戦なのか、なんとも言えない。それからも中国と日本、中国とベトナム、中国とフィリピンなどいろいろと小競り合いが起きていますが、どうやら戦死者はゼロなんじゃないか、というのがフィンランドのTimo Kivimakiという方の意見なんですね。

 

このように見ると、どうやら世界はいい方向に向かっているように見える。実は東アジアについては、まったく反対の2つの意見があります。心理学者のスティーブン・ピンカーは「人類は非暴力の方向に長期的には向かっている」と言っている。人間の暴力活動による戦死者を数千年単位で見れば、一時期ドラマティックに増えてはいるものの、いまは減ってきているという見解ですね。一方で、もう少し視野を狭くすると、政治学者のジョン・ミアシャイマーは「東アジアはアメリカと中国の覇権争いで一触即発だ」と言っている。それじゃあ実際のところどうなのか。私の考えを、2012~14年の日中関係から見ていきたいとも思います。

 

 

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日中はじわじわと近づきつつある

 

さて2012年には何があったか。日本では12月に首相が野田さんから安倍さんに代わりました。実は中国も同年11月に胡錦濤総書記から習近平総書記になっている。安倍総理が第二次内閣を組閣したちょうど1年後にあたる2013年12月26日は、非常に面白い日だったんですよ。というのも12月26日には毛沢東の誕生日、しかも2013年は生誕100周年にあたる年だったんですね。習近平はその日に天安門にお参りに行っています。そして2013年12月26日はご存知のとおり、日本は安倍総理が就任1周年ということで、靖国神社へ参拝している。両雄が参拝へ行っているというわけです。

 

時差の関係で、日本のほうが早く参拝に行っていますから、「安倍が靖国神社に行ったようだ」と中国は緊張していたようです。ただ結果的には、2005年や2010年、そして2012年の秋のときのような反日デモは起こらなかった。それが、習近平がドン!と構えていたためなのか、反日デモが反政府デモに変わることを恐れたためなのかは分かりませんが、とにかく、たいしたことは起きませんでした。

 

その後も、尖閣諸島周辺でごちゃごちゃと小競り合いはありましたが、中国山東省青島市で開催された2014年4月の第14回西大西洋海軍シンポジウムでは、他国の艦船と不慮に出遭った際にどのような対応を取るかが話し合われた結果、Code for Unplanned Encounters at Seaが採用されます。これはおおざっぱにいえば、「突如遭遇した場合でもお互い危ないことは自制しましょう」という行動規範に合意したということですが、これに中国も参加している。4月はそういう段階だったんですね。

 

2013年から2014年には「fire-control radar」を使用したり、「unusual approach」を繰り返したりすることがありましたが、前者は自制しようということになったわけです。しかし、全体として日本、中国ともに戦力強化、準備拡充の方向に向かっています。

 

両国の関係は冷えたまま、良くも悪くもない感じが続いていましたが、11月に北京でアジア太平洋経済協力会議が開催され、アジアのインフラストラクチャーが発展するような基金や支援を行おうという話になりました。このとき習近平総書記と安倍晋三総理も会談をしていますが、これは実に2年半ぶりの会談でした。あのとき習総書記はムスッとした顔をして、安倍首相をあしらっているような態度をとっていますが、ニコッとでもしたら中国国内で「日本に甘い!」と言われかねないからでしょう。とにかく日中首脳が11月に会談した、と。2014年12月13日は南京虐殺77周年記念で、習総書記は、過去を忘れては絶対いけないが、一部の軍国主義者が罪を負うべきところを間違えて日本人民全体を憎んではいけないと言っている。この20年来あまりないラインである。東京裁判のラインに近いともとれる発言です。

 

というようなざっとこの2年を見てみると、日中関係はどちらにも転びそうな感じはあるけれども、政府のレベルではジワジワと近づきつつあるようです。これは会談後の合意文書にも読み取れる。というのも日本は「領域については譲らない」という立場を示していて、一方の中国は「いまは白紙であり、将来世代に任せる」と言っているのですが、合意文書では「立場が異なるところもあるけれど、いろいろ取り組みをやっていってもいい」といったニュアンスの、うまい落としどころを見つけているわけです。現在は、この合意文書に基づいて、両政府の下にあるさまざまな機関で、どういうかたちで日中関係を進めていくのかを話し合っている状況です。

 

2014年11月から12月にかけて習総書記は近隣諸国関係を米国など大国との関係よりも優先順位を上げると言っています。後者に対しては新しい国際機関や新しい国家グルーピングなども含めて、積極的に前向きに出てくるだろうし、前者に対しては冷静によく計算された行動に出てくるでしょう。【次ページにつづく】

 

 

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