報告2 習近平政権と大国外交、日中関係

表面的に捉えると後手に回りかねない

 

こんにちは、早稲田大学国際学術院アジア太平洋研究科の天児です。あまり時間もありませんから駆け足でお話します。

 

2010年の漁船衝突事故、そして2012年の尖閣諸島国有化をめぐる反日行動など、国交正常化以降、日中関係は最悪の状況にあります。貿易額も落ち、また政治家だけでなくわれわれ研究者の交流もままならない状態に陥っていました。しかしAPECでの日中首脳会談以降、というよりもその2日前になされた4項目の基本合意によって状況は変わりつつある。この基本合意は首脳が会うとか会わないとか、目を合わせたとか合わせていなかったとか、そういう話よりも重要なものです。

 

基本合意について、日本のメディアはあまり積極的な評価をしていなかったように思いますが、中国や香港のメディアはかなり積極的に評価をしていました。中国政府は「日本の求めに応じて会見した」という言い方をしていますが、中国の「環球時報」という民族主義的な色彩の濃いメディアなどからインタビューを受けた際に、「再スタートの意味合いが強い」「双方に半歩前進した」と答えたところ、ほぼ正確に翻訳をして報道をしていました。中国も本音のところでは前向きで、積極的に改善していこうという意思があるということでしょう。

 

あるいは私も参加した、2014年12月の、世界平和研究所と中国外交学会による非公開の定例シンポジウムでは、中国の報告者のほぼ全員が、国交正常化に向けて積極的に取り組もうという意思を持っていることを感じました。

 

つまり、もし日本が表面的な部分だけで中国との問題を捉えようとしていると、後手後手に回ってしまうことになる。これは今後の日中関係、そして日中関係は周辺国のみならず国際社会の動向にも影響を与えますから、そういう意味で非常に重要なポイントなのだろうと思います。

 

 

中国が抱える四つのジレンマ

 

それではいまの中国をどのように見たらいいのか。まず中国が抱えている問題がとても大きいということを言いたいと思います。

 

現在の中国をたとえるとき、このように言います。これまでアメリカや日本、ドイツといったランナーが先頭を走っていて、その後ろに中国というランナーがいた。しかしある段階からものすごいスピードで走り出して、先頭集団に近づき、そして追い抜いてしまった。周りから見ると驚異的なランナーだが、実は足も痛めて腰も痛い、血豆もできていて、身体はぼろぼろ。それでも走り続けている、と。

 

このような中国の現状を私は「4つのジレンマ」と表現しています。時間が限られていますので、それぞれについて手短に説明をしますと、1つ目が、経済成長主義と社会主義のジレンマ。要するに、現在の経済成長主義を維持しようとすれば、社会主義である中国が目指す公平な社会の実現はできなくなる。反対に平等で公平な社会を実現しようとすると、経済成長が落ちてしまう。こういうジレンマを抱えている。

 

2つ目が大国主義と国際協調主義。中国は冷戦崩壊後、一貫して「国の大小、強弱、貧富の差を問わず、平等、公平、合理の国際社会の実現を目指す」と言ってきましたが、いまの政権は新しいタイプの大国関係をアメリカと中国で作ろうと言っています。つまり他の国との関係は大国関係ではないと言い始めているんですね。一方では国際協調主義を掲げてもいて、二つの言葉が繋がっていない。ここにジレンマがある。

 

3つ目のジレンマですが、中国の特色ある社会、社会主義市場経済、中国モデルなどなど、中国は自分のことを特別だと言いたがるんですよね。しかし力を付けてきた中国がリーダーになりたがればなりたがるほど、本来の普遍主義から矛盾してしまうというジレンマに陥ってしまう。

 

そして最後4つ目は言うまでもなく、共産党一党体制と多元主義的な民主主義体制というジレンマを抱えているわけです。

 

こうしたジレンマをどうするかが今後、中国で大きな問題になってくるだろうと指摘したいと思います。【次ページにつづく】

 

 

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