報告3 地殻変動する東アジアと日本の役割

2030年の世界

 

こんにちは、今日は本シンポジウムのテーマである「地殻変動する東アジアと日本の役割」をタイトルにお話をします。

 

この2年間、毎月1回、日本アカデメイアというグループで、経済界、労働界、学会、官僚の代表者が集まって、日本力、国際問題、価値創造経済モデルの構築、社会構造、統治構造という5つのテーマについて議論をしてきました。ここでは私が主査を務めておりました国際問題のグループで議論してきたことをお話します。

 

最初に、2030年に世界はどうなっているのか、それまでに何が起きると考えられるのかについて3つほど挙げたいと思います。

 

1つ目は世界的な規模の経済危機が起きる可能性が大きいということ。

 

いまG7の負債総額はGDPの3倍であり、いつ金融危機が起きてもおかしくない状況にあります。また現在の世界経済は新興国に依存している部分が大きく、経済成長の半分以上が新興国の成長、投資の約4割、そして増加分の7割が新興国への投資となっています。もしどこか不安定な新興国がこけてしまったら世界経済危機が起きる可能性が高い。とくに世界の経済成長の3分の1を担っている中国は、2025年までに低成長期になると言われていますから、このとき世界経済はどうなるのか。不安は大きいです。

 

2つ目は世界的な規模でガバナンス・ギャップが起きているということ。

 

国家が重要な役割を担っていたのは19世紀、20世紀、21世紀前半までだろうと言われています。いまは国家の役割が低下しており、非国家アクター、大都市などの地域アクターがその役割を担うようになる。そして地域主義が台頭するだろうと考えられます。また全世界的に見て先進国と新興国間のコンセンサスが欠如していることによるガバナンス・ギャップも生じています。たとえば貿易経済協力でのルール作り、気候変動、環境問題、核不拡散などの分野ですが、環境などでこれまで好き勝手やってきた先進国の言うことを素直に新興国は聞けないでしょう。また、新興国の中には政治弾圧などの見通しの暗い部分も多くあります。

 

ただ、面白い兆しとして挙げられるのが、中国が5年以内に年間の一人当たりGNPが1万5000ドルになると言われている点です。歴史を振り返ると、一人当たりGNPが1万5000ドルになった国は民主化が進んでいく。これから中国が民主化に向かっていったら、場合によっては中東に波及して、民主化が進んでいく可能性もあるかもしれません。

 

そして3つ目が、2030年までに紛争が増加する可能性が高いこと。

 

若年層の少数民族が多い国では紛争が起きやすいという傾向があります。中国、インドネシア、ロシア、中東などが当たります。また天然資源をめぐる紛争も発生する可能性は高く、イラン・北朝鮮、テロ集団が核兵器が持つ可能性もある。イスラム国のように、欧米が定めた国境への挑戦という現象も出てきています。インド、パキスタン、アフガニスタンもまだまだ不安定ですね。

 

冷戦後、アメリカによる一極構造が続いてきましたが、多極化が進み、相対的な地位が落ちている。これからも世界で第一位の国ではあるのでしょうが、同輩中の首席でしかないことになるでしょう。オバマ大統領自ら米国は「世界の警察」という役割をやめるとも言っていますが、地域安定のためのバランサーとしてアジア太平洋には関与していくことになるでしょう。するとアメリカの同盟国である日本やオーストラリアなどはこれからその役割が強くなっていかなくてはいけない状況になっていくのではないでしょうか。

 

 

DSC_1092

 

 

最善と最悪のシナリオ

 

このような状況の中で、最善と最悪のシナリオを考えてみました。

 

最善のシナリオは、グローバリズムが進んで世界が一体化していくことです。南アジアでは2030年までに紛争が起きると言われていますが、最善のシナリオでは、米欧中が連携してこの紛争を収めてくれる。また中国、中東の民主化が進んでいき、東アジアで言うと、中国と台湾、そして朝鮮半島の問題が解決する。ただ、このシナリオになるのは、可能性はかなり低いと考えられます。

 

一方、最悪のシナリオは、アメリカとヨーロッパが内向き化し、グローバル化が後退することです。最善のシナリオと反対に、地域紛争が起きても誰も収めることがなく、増大してしまう。とはいえ、第3次世界大戦が起きる可能性は低いと思われます。

 

また、最善であれ最悪であれ確実に起きると言えるのは格差社会の拡大です。特にEU、中国国内、ASEANの国家間、そしてASEAN各国の国内での貧富の拡大がすでに起きています。これはカンボジアやミャンマーなど、経済発展の進んでいない地域でも見られる現象です。また先に述べたように、非国家アクターの台頭が起き、多国籍企業や巨大都市、大富豪や学術機関が大きな役割を果たしていくことも確実に起きると考えられます。【次ページにつづく】

 

 

シノドスの運営について

 

シノドスは日本の言論をよりよくすることを目指し、共感してくださるみなさまのご支援で運営されています。コンテンツをより充実させるために、みなさまのご協力が必要です。ぜひシノドスのサポーターをご検討ください。

⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

98_main_pc (1)

 

 セミナー参加者募集中!「対話/ダイアローグから見た精神医学」植村太郎(12月16日16時~18時)

 

 

無題

 

vol.233 公正な社会を切り開く 

 

・ジェームズ・ミニー氏、鈴木啓美氏インタビュー「もっと楽しいお買い物を目指して――フェアトレードの魅力」

・【「民主」と「自由」――リベラルの再生へ向けて――】古川江里子「大正デモクラシーと吉野作造 ―大日本帝国憲法下での民主主義的政治の試みが現代に問うもの」

・【知の巨人たち】重田園江「ミシェル・フーコー――なぜ『絶望系』なのに読んでしまうのか」

・阪井裕一郎「学びなおしの5冊 <家族>」

 

vol.232 芸術にいざなう 

 

・吉澤弥生氏インタビュー「人をつなぐ芸術――その社会的評価を再考する」

・【現代演劇 Q&A】長瀬千雅(解説)「時代を捕まえるダイナミクス――現代演劇事始め」

・【今月のポジ出し!】橋本努「タックス・ヘイブン改革 香港やシンガポールにも圧力を」

・増田穂「『知見』が有効活用されるために」

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.233 特集:公正な社会を切り開く

・ジェームズ・ミニー氏、鈴木啓美氏インタビュー「もっと楽しいお買い物を目指して――フェアトレードの魅力」

・【「民主」と「自由」――リベラルの再生へ向けて――】古川江里子「大正デモクラシーと吉野作造 ―大日本帝国憲法下での民主主義的政治の試みが現代に問うもの」

・【知の巨人たち】重田園江「ミシェル・フーコー――なぜ『絶望系』なのに読んでしまうのか」

・阪井裕一郎「学びなおしの5冊 <家族>」