報告5 ロシア・ウクライナ問題と日本の対露政策

ロシアからの日本に対する3つの批判

 

新潟県立大学教授の袴田です。今日は「ロシア・ウクライナ問題と日本の対露政策」という題で、最近騒がれているウクライナ問題に関して、東アジアを視野に入れつつお話したいと思います。

 

先日、ウラジオストクで日本とロシアの民間レベルのシンポジウムを非公開で行いました。お互いが非常に率直にものを言い合ったのですが、その場でロシア側から日本に対して、ウクライナ問題に関連して3つの批判がありました。

 

第1は、ウクライナのクリミア半島で住民投票が行われ、大多数の賛成によってロシアに併合されたことについて世界中がロシアを批判したが、その後5月に行われたスコットランドでの住民投票では批判が起きなかった。どうしてロシアだけが批判されなくてはならないのか、というもの。

 

第2は、日露両国は最近、政治的にも経済的にも関係を深めていた。日本にとってウクライナは、経済その他の深い関係のない遠い国にもかかわらず、なぜ日本が対露制裁に加わるのか。アメリカの圧力とG7に歩調に合わせただけではないか。日本はもっと主体的に対外政策を行うべきだ、というもの。

 

第3は、アジアでは中国が、南シナ海のほぼ全域を自国領だと言わんばかりの横暴な行動をして、周辺国と衝突し、また東シナ海でも尖閣諸島で日本と対立している。欧米や日本は対露制裁をしながら、中国に対しては制裁をしていないが、これは不公平ではないか、というものです。

 

このような批判に対して、みなさんならどう答えますか。ロシア側の言い分にもそれなりの理がある、と思われる方は挙手して下さい。かなり多いようですね。

 

 

批判に対する答え

 

私はこの三つの批判に対して、次のように答えました。

 

まずクリミアの住民投票については、ロシア軍統制下のもので純粋な住民投票ではなかったという問題点があります。しかし、それはいったん脇に置いて考えるとしても、クリミアとスコットランドの住民投票は本質的に異なると私は指摘しました。

 

なぜならクリミアの住民投票は、ウクライナの憲法、政府、議会が認めていないからです。たとえば世界中にあるチャイナタウンで、中国系の住民が「この街は中国領にする」と住民投票で決められるか。国際法では、ある国の政府や議会が認めていなければ、一地域が住民投票で勝手に独立や他国への併合を決めることは認められていません。クリミアとスコットランドは、この点で根本的な違いがありました。

 

第2の批判ですが、次のように答えました。おそらく日本へのアメリカの圧力も、また日本がG7に歩調を合わせたという側面も、あったでしょう。ただし、日本とウクライナは、ロシアに対して共通の問題を抱えているという意味で決して遠い国ではない。つまり、北方領土問題とクリミア問題ですが、日本の観点からすれば、ロシアに主権を侵害されているという共通点があるのです。その意味では、G7の他のどの国よりも、日本には主体的にロシアを批判する権利も、そして義務もあると言えるでしょう。

 

そして、もしこの問題で日本が国際社会に何の批判的なシグナルも送らなかったら、主権問題に対する日本の真剣度を注視している中国が、尖閣諸島だけでなく「琉球は元々中国のものだった」とエスカレートさせる可能性も否定できない。そうなっても、日本はそれを批判する権利も失ってしまいます。主権侵害の問題については、きちんとした態度を示さなくては、今後のわが国の外交・安全保障政策全般に影響を及ぼすのです。

 

第3のロシアへの制裁問題ですが、中国の行動は国際法的に到底許されるものではありません。ただ、いまの段階では、中国が中国領だと宣言しているのは、人がほとんど住んでいない小さな島や岩礁です。クリミアのように大都市を含め200万もの人びとが住んでいる地域ではない。もしこれが、歴史的に見てウラジオストクや沿海地方は中国領だと言って中国が力で併合したなら、あるいは沖縄を力で併合したなら、世界は黙っていないし必ず制裁に出るでしょう。

 

私たちはこのように民間レベルで率直に議論しました。ロシア側の専門家たちも、私の答えに対して、北方領土問題などでは立場が異なるが、日本の立場に立てば、こちらの論は首尾一貫しているし、説得力があると素直に認めてくれました。ここで私が言いたいのは、民間レベルでも微妙な政治問題を避けないで率直に話し合えば、相互の理解と信頼関係はかえって深まるということです。ただそのためには、われわれ自身が、相手を納得させるだけの国際的に通用する認識や論理をしっかり持っていなければなりません。【次ページにつづく】

 

 

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