尖閣諸島問題は北方領土問題に影響するか?  

尖閣諸島問題をめぐるロシアの目

 

尖閣諸島問題をめぐって、中国との関係が緊張を極めている。日本が尖閣諸島沖の衝突事件で逮捕され、拘留されていた中国漁船の船長を釈放し、さらに中国が「不法な拘留」に対して謝罪と賠償を求めていることは、日本人に大きな衝撃をもたらしている。

 

インターネットでは、日本はこのまま、中国に尖閣諸島を、韓国に竹島を、ロシアに北方領土を譲ってしまうのではないかというような書き込みも、多くみられるようになっている。それでは、尖閣諸島問題は北方領土問題に影響するのだろうか?

 

 

「本問題」に関しては静観の模様

 

実際のところ、ロシアは「本問題」に関しては静観を保っているようだ。奇遇にも、ロシアのメドヴェージェフ大統領は今月26日から3日間の予定で中国を訪問し、第二次大戦での対日戦勝65周年に関する共同声明を出す予定となっていたが、それは尖閣諸島問題が先鋭化する前から決まっていたことである。

 

メドヴェージェフ大統領は、1904~05年の激戦地だった大連・旅順口を訪問し、日ロ戦争および第二次世界大戦におけるソ連軍・ロシア人の犠牲者追悼行事に参加、北京で首脳会談を行なって共同声明を発表する予定となっている。

 

その共同声明は、ロシア(当時はソ連)と中国は軍国主義の日本およびファシズム政権のドイツに対して共闘した同盟国であり、対日戦勝の65周年をともに祝すという趣旨となるが、とくに、中露両国が第二次世界大戦の結果を同様に受け止め、その見直しはあり得ないことを盛り込み、両国が言うところの歴史の真実を共に守っていくことが重視されている。

 

このようにみると、絶妙なタイミングで対日批判が中露からなされるわけだが、他方、ロシアは尖閣諸島問題に関しては静観を保っており、恐らく今後も関与してくることはないと思われる。

 

本問題は、そもそもないはずの「領土問題」を中国がでっち上げているという背景があり、アジア諸国は「国力に任せて、次々に周辺国に対し領土要求を行なうのではないか」と、中国の動きに脅威を感じているという。

 

2004年にロシアは中国と懸案だった領土問題を解決し(本日の一冊、参照)、その後、中露関係は飛躍的に改善した経緯があるが、ロシアもまた中国の強大化には懸念を感じており、尖閣諸島問題が中国に有利に展開することには警戒心を隠せないという側面もある。

 

 

ロシアの識者は?

 

ロシアの識者はどのように本問題を見ているのだろうか。

 

外交評論家のタブロフスキー氏は、「尖閣問題は日中の二国間問題であり、日中関係の悪化は、日本との関係も発展させたいロシアにとってよくない」と指摘する一方、「今回の訪中でメドヴェージェフ大統領は“行き過ぎ”が出ないよう巧みなかじ取りを見せるはずだ。もし中国が尖閣問題でロシアの協力を取り付けられれば、それは中国の勝利だ」と話しているという(2010年9月26日『産経新聞』)。

 

他方、ロシア極東研究所のラーリン氏は、中国人船長釈放について、日本の中国に対する弱さと依存性を露呈し、大きな失敗だったと発言する。新内閣はあらゆる領土問題で妥協しないという姿勢をみせようとしたが失敗した上に、中国に望むものは何でも手に入るという自信を与えてしまったという。

 

中国がこのような姿勢を貫けるほど強大だという事実を国際社会は深刻に受け止めるだろうとした上で、日本の今回の措置が北方領土問題にも悪影響となることを指摘する。ロシアは中国と2004年、ノルウエーと今年、懸案となっていた領土問題を二等分することで解決したが、それを可能にしたのは双方の問題解決の強い願いと政治決断ならびに譲歩であったという。一方、日本は「歴史の真実」を振りかざすだけで、解決の熱意や交渉の意欲がなく、それでは問題解決はできないというのである(2010年9月26日『朝日新聞』)。

 

 

 

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