緊迫化する米朝関係の背景で何が起こっているのか

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日本への攻撃、全面戦争になったら

 

――お話を聞いているとまず起こらないとは思うのですが、仮にアメリカと北朝鮮が衝突した際には、日本への影響も懸念されますね。

 

そうですね。ただ、日本がやられるのは全面戦争になったときだけだと思っています。仮にアメリカが北朝鮮に限定的な攻撃をしたとします。恐らくソウルはやられますが、日本へは攻撃してこないでしょう。というのも、北朝鮮としても、アメリカと全面戦争になったらまずいということはわかっているんです。ですから、やられたのと同等、もしくはそれより少し大きいくらいの反撃に留めておいて、戦争にはならないけど、全体としては自分が少し有利な立場にいる、くらいの状況を作るのが理想です。日本への攻撃はその範疇を越えてしまいます。

 

日本人はよく誤解していますが、北朝鮮にとっての最大の脅威は韓国なんです。韓国だけが、北朝鮮を飲み込み統一する、北朝鮮を消滅させる潜在能力を持っている。それ以外の国は北朝鮮にとっては関係ないわけです。アメリカもミサイルの問題があるから関与していますが、北朝鮮という国自体に興味はない。本当の意味で北朝鮮に興味があるのは韓国だけ。韓国こそが脅威なんです。

 

北朝鮮はその事実をしっかりと理解していますから、もし軍事衝突が起こったら、韓国との競争の中で不利にならない状況を作り出すことを重視します。あり得るのは、反撃として韓国に相当のダメージを与え、「アメリカのせいで韓国が犠牲になった」というストーリーにして、米韓関係を悪化させることです。韓国は国際経済の一部ですから、攻撃を受けると投資や貿易を行う際の検討材料となるカントリーリスクが上がって経済的な打撃も受けることになる。「もうやめてくれ!」という状況になって、以後、北朝鮮には手を出してこない。北朝鮮が描いているのは恐らくこうしたシナリオでしょう。これが最も北朝鮮にとって合理的です。

 

しかしもちろん、実際に武力衝突が起こってしまうと、合理性は後回しになってしまうこともあります。今出した例だと、やられた韓国がいきり立ってしまって、多少の犠牲を払っても武力統一してやるぞ、という流れになるかもしれません。そうしたら全面戦争になり、日本も巻き込まれる。

 

日本は在日米軍基地を提供していますし、今は部分的にとはいえ集団的自衛権も行使できます。北朝鮮と米韓が戦争になったら、存立危機事態を認定して米軍や、場合によっては韓国軍の行動を支援できる状況にあります。当然北朝鮮からは、「米韓を支援して北朝鮮の攻撃対象になる」か「中立を守り攻撃を免れる」かを迫られるでしょう。

 

理論上は、そこで中立の立場をとって米韓を支援しない、という選択肢もありますが、そうすると「日本は自国の安全のために米韓を犠牲にした」ということになります。これはかなり米韓の犠牲を増やすことになりますし、日米同盟が崩壊するリスクも出てきます。

 

そう考えると現実的に衝突がおこれば米韓を支援しないというわけにはいかないでしょう。結果として、日本にもある程度の被害が予想されます。

 

 

対話戦略を練れる専門家が必要

 

――トランプ政権は北朝鮮を最重要課題のうちの一つとしているそうですが、米朝当局間の対話は途絶えたままです。北朝鮮もアメリカとの関係正常化を望んでいるだろうといわれていますが、こうした状況で両国が歩みよるにはどうしたらいいのでしょうか。

 

やれることはいくらでもあります。当局間の直接の連絡が途絶えているとは言え、北朝鮮の国連代表もちゃんとニューヨークにいますし、つながろうと思えばいつでもつながれる。もちろん条件次第とはいえ、北朝鮮としてはアメリカが対話のために歩み寄ってくれるのは歓迎でしょうから、お互いに扉が全く閉じているわけではありません。米朝間の関係改善を考える上で問題なのは、そうしたつながりの少なさよりも、特にアメリカの政権中枢に北朝鮮の専門家がいないことなんです。

 

対話といっても、会って話せばいいという訳ではありません。対話や交渉をするとなったら、具体的な政策論、つまり何と何を取引きするのか、戦略を決めていかなければならない。お互いに何がゆずれて何がゆずれないのか、取引きに蓋然性があるのか、理解している人物が必要なんです。

 

特にミサイルや核が絡んでくる話は技術的な内容が入ってくるので、そうした知識にも精通したプロフェッショナルが必要になります。アメリカが核兵器開発の凍結を求めれば、当然北朝鮮は核の平和利用や宇宙開発での協力などを求めてくると考えられる。技術協力を進めれば相手の手の内もわかるので、ある程度はアメリカ側の利益にもなります。そうした時に、どこまでの、どういった協力であれば、「核・ミサイル技術の進歩にはつながりにくいが相手の情報は得られる」という状況を作れるのか、戦略を練れる人物がいないと、対話をしても結局実りのないものになってしまう。もちろん専門家が全くいないわけではないのですが、トランプ氏の周辺にいないんです。交渉となったらそちらのほうが心配です。

 

 

――双方向的な対話自体は可能だけれども、そのための準備体制が整っていないわけですね。そうした中で、今の国際社会の北朝鮮への対応は圧力一辺倒になってしまって、どんどん北朝鮮を追い詰めている気がするのですが、追い込まれた北朝鮮がある種自暴自棄のようになる心配はないのでしょうか。

 

そこはそんなに心配していないです。もちろん金正恩という新しいリーダーになって、外圧への反応を読みきれない部分はあるのですが、これまで北朝鮮は相当の圧力をかけられても冷静に合理的な対応をしてきています。一見非合理的に見えるような激しい対応をしていても、それはちゃんと計算された対応なんです。崖っぷちにはいくけど決して崖からは落ちないようにやってきている。

 

北朝鮮はそうした対応能力は非常に高いんです。日本人以上だと思います。よく日本で北朝鮮がやけになることを心配する声が聞かれますが、それは日本人自身にそういう傾向があるからなんですよ。日本は島国で孤立主義的な傾向が強いですから、緊張した接近戦での間合いの取り方が上手くない。変に我慢して我慢してどこかでプツンとキレてしまう。自分がやけになってしまう傾向が強いから、相手もそうだと思うのでしょう。

 

でも実際のところ北朝鮮はとても粘り強いんです。大国に囲まれた半島国家・分断国家で歴史的にも苦境を乗り越えてきていますし、国際社会でも常に揉まれながらやってきている国ですから、危機に陥ったときの対応能力は日本とは比べ物になりません。むしろ今心配なのはアメリカの方です。大統領がああいう人ですから、普通の計算では非合理と思われることをやってしまう可能性がある。とはいえ、安全保障政策に関しては彼の周囲のブレーンは、マティスやマクマスターなど、しっかりとした人たちがついていますから、そんなに大きな、取り返しのつかないようなミスは起こらないと考えています。

 

 

――北朝鮮の行動を抑制するために、各国や国際社会がすべき対応とはどういったものなのでしょうか。

 

いろんな人がいろんな見解を述べていますが、正直なところ、何が1番適切で効果があるのかはわからないと思います。なのでこれはあくまで私の意見ですが、北朝鮮への対応は制裁・防衛・対話3つの柱が上手くバランスを取れれば、そこそこの結果になるのではないかと思っています。まず制裁。これは今でもかけていますね。さらにトランプ大統領が中国に制裁の徹底を求めて圧力をかけています。これで中国がもう少し本気になれば、かなりプラスになるでしょう。

 

次が防衛力の整備です。これに関しても基本的には心配していません。日本は1兆円もかけてミサイル防衛を導入していますし、技術もあります。さらに今回の件で国民保護も周知されました。ミサイルが飛んでくるような有事の際には、Jアラートシステムが作動し、警報が流れ、携帯にも緊急速報メールが配信される、その際は強固な建物内などに避難する、ということを、より多くの人が知るようになりました。

 

これは非常に重要なことだと思います。ミサイル防衛は国民が直接関与しなくても、装置さえ配備すれば機能しますが、国民保護は国民ひとりひとりがシステムを理解し、行動しないと機能しません。現在の緊迫した北朝鮮情勢はもちろん歓迎されるものではありませんが、今回のような危機がきっかけで、非常時の危機管理に対する意識が高まったのは不幸中の幸いだと思ってます。

 

というわけで、防衛面もそこまで心配していない。問題は3つ目の対話による北朝鮮への政治的、社会的、経済的な関与です。もちろんこれまでも対話はしてきたのですが、その内容は核開発の凍結と引き換えに重油をあげるといった、単純な取引きでした。しかし必要なのは、より長期的に、北朝鮮が合意履行にインセンティブを持つような取引きです。言い換えれば、より北朝鮮の経済社会、とくに人民生活を持続可能な状態で成長させられるような援助が必要なのです。

 

イメージとしてはミャンマーがモデルです。ミャンマーも軍事政権が強硬姿勢を示していましたが日本も含め長期的な支援をして粘り強く関与することで現在の結果にたどり着いている。北朝鮮でも同じ結果になるとは言い切れませんが、ひとつの選択肢としてそうした関与の仕方があるのではないかと思っています。

 

そしてそうした持続可能な成長を促すような支援の枠組みを作り上げるとなると、先ほど申し上げた通り、専門家が必要になる。どういう援助をすれば、核やミサイル開発の促進にはつながらず、一方で北朝鮮という国の将来がより豊かなものになるのか、核開発のプロだけでなく、人道支援や産業構造、街づくりなど、さまざまな分野の専門家が集まって具体的で実現性のあるプランを練り上げなければなりません。そうでないと、せっかく対話しても、またいきなり核開発の凍結と引き換えに重油をあげて、結局、援助が途切れたら北朝鮮に裏切られて終わり、ということになりかねません。

 

 

――せっかく話し合いに時間を費やしても無駄になってしまうということですね。

 

時間だけではありません。日米韓は1994年、2007年双方の合意で相当の資金を北朝鮮につぎ込んでいます。1994年の合意では25億ドル、2007年の合意では4億ドルです。これだけの資金を上手く使えば、国家建設において相当の成果が期待できたはずなんです。

 

もちろん、金正恩がこうした取引きに乗ってくるのかは見極めなければなりませんが、可能性はあると思う。金正恩政権になってから、北朝鮮は並進路線という方針を採っていて、核大国となることと同時に、経済大国になることを目指すと発言しているんです。実際経済政策もかなり自由化を進めています。彼の政治手腕で開発独裁を進めるつもりなら、経済発展につながるようなディールには乗ってくる可能性があると考えています。

 

もちろん合意が結ばれるのはスタートラインで、そこから金正恩が合意内容をしっかり履行するのか、履行する政治力や行政能力があるのかといったことは見極めなければなりません。核の放棄も今すぐにというのは無理でしょうから、まずは開発の凍結。そしてそれを実行してもらう。そうやって段階的に様子を見ていく。さっきも言ったように効果があるか確証はありません。しかしそこまではやれるし、やってみるべきだと思っています。

 

 

――忍耐強い関与ができるかがカギになりそうですね。道下先生、お忙しいところありがとうございました!

 

 

道下氏

道下氏

 

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シノドス国際社会動向研究所

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