中欧における「法の支配の危機」――EU内部に深まる亀裂

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EUの圧力は効いたのか?

 

ECJ中間裁定は10月19日に出され、ポーランドの最高裁判所の構成を政府決定以前の状態に戻すことを支持するものだった(最終判決は2019年4月に出される予定)。さらにECJ長官は、仮にポーランドがECJの判決に従わない場合、同国は「ブレクジットに類似したプロセス」、すなわち離脱に向けた状況に自らを置くことになると発言した。

 

この一連の動きはポーランド内外で、同国のEU離脱、すなわち「ポレクジット」がにわかに現実味を帯びてきたと理解された。その直後に実施された統一地方選で、PiSは敗北を喫し、ポーランド国民がEU離脱という事態を望んでいないことが明らかになった。

 

こうした事態を受け、PiS政権は11月下旬までに、法改正に基づいて定年させられた最高裁の判事らを復職させたことを確認した。国会が可決し、さらに大統領署名を経て成立した改正法が撤回されるのは初めてのことであった。PiSのカチンスキ党首は、「EU法には従うが、ポーランドは上告する権利もある」と、強気の姿勢を崩してはいないが、ポレクジットへの危機意識がPiS政権の路線を微調整することに至ったことは事実であろう。

 

一方ハンガリーについては目立った改善は見られない。とはいえ、同国政権の強硬姿勢に影響を及ぼしうる事態が皆無というわけではない。同国では12月16日、議会で可決された労働法改正に反発した国民がデモを実施し、デモ隊の一部と警察との間で乱闘になる等の事態に至った。同法では、雇用主が要求できる年間残業上限を現行の250時間から400時間に引き上げ、残業手当の支払いも最大3年延長できるとするもので、「奴隷法」との批判が出ていた。

 

デモには学生、労働組合、そして緑の党から極右ヨビックにいたる全野党が参加し、参加者数は1万5千人に及んだという。オルバン政権に対するこのような超党派の大規模抗議行動は、2010年の同政権復帰以降初めてとなった。フィデス政権は、このデモの背後で「ソロスのネットワーク」が糸を引いているとして、このデモを新たなソロス批判につなげている。もっともこのデモは、EUからの圧力を受けて発生したものではなく、国内的な要因が大きいが、こうした抗議活動がオルバン政権の基盤を足元から突き崩していく可能性はある。

 

 

党派政治による妥協的共存?

 

以上みてきたとおり、ハンガリーとポーランドにおいては、法の支配の危機が長期間にわたって継続しており、この状況は今後しばらく終息の兆しを見せないであろう。ポーランドに関しては、すでにみたようにECJの裁定により、PiS政権は微調整を迫られたものの、同政権の本質的な路線変更はもたらしていない。またハンガリーでは現在、さらなる憲法改正に向けたプロセスが進行中である。

 

ヨーロッパ統合の歴史において、EU加盟国となった国が、このように長期にわたり、体系的に法の支配を脅かし続けてきたことは前例がない。その意味でこの両国が突きつける危機は、これまでEUが経験してきたさまざまな諸問題とはまったく性質を異にするものである。かつての中欧の「優等生」であり、EUとしても多大な援助を注ぎ込んできたハンガリーとポーランドが、このように大きく変質してしまったことに対し、強い憤りを隠さないEU加盟国も少なくない。

 

しかしその一方で、とくにハンガリーに関しては、EUレベルでの党派政治が問題解決を遅らせてきたという側面もある。

 

フィデスは、欧州議会最大勢力で中道右派の欧州人民党(EPP)に属している。同じくEPPに参加するドイツのキリスト教民主同盟(CDU)を所属政党とするアンゲラ・メルケル首相は幾度となく、フィデスをEPPから追放しようと試みてきたが、CDUからの支持は得られなかった。フィデスを追放することにより、EPPが過半数を割り込む可能性があるからである。2018年9月の同国に対する第7条発動にあたっては、EPP所属の議員の多くも賛成票を投じたといわれているが、それでもEPPからフィデスを追放する動きは本格化していない。このため、多くのEPP議員がフィデスに対する嫌悪感を抱えつつ、同一会派の中で妥協的に共存している状況である。

 

仮にフィデスがEPPから追放された場合、同党は「ドイツのための選択(AfD)」やオーストリアの自由党(FPÖ)など、EU内部のさまざまな民族主義的政党に接近するとみられていることも、EPPによるフィデス追放を躊躇させている側面はある。しかし、EUによるハンガリーへの圧力が本格化しない背景の一つとして、党派政治が存在する――すなわち、数の論理を優先し、法の支配を遵守しない党に対して宥和的な立場を採っている――ことは紛れもない事実であろう。

 

 

他のヨーロッパ諸国との「共通項」?

 

さらに、明白な法の支配への挑戦という特殊性から一歩離れれば、ポーランド及びハンガリーの有する問題の多くは、他のEU加盟国とも多くの共通項を持つことにも注意が必要である。たとえば、極端な民族主義的、排外主義的なポピュリスト政党が台頭し、存在感を示している点である。

 

イタリアではポピュリスト政権が連立政権を組んでいるし、上述のドイツのAfD、オーストリアのFPÖ、オランダの自由党(PVV)、フランスの国民連合(RN、旧称は国民戦線(FN))などは、引き続き存在感を示している。英国の英国独立党(UKIP)が2016年の国民投票において、英国のEU離脱派の顔として大躍進したことも記憶に新しい。

 

現に、上述の2018年9月のハンガリーに関する第7条発動の際、UKIPの元党首で欧州議員のナイジェル・ファラージュや、オランダ自由党のヘント・ウィルダースなどが次々と、ハンガリー擁護の発言を行っている。西ヨーロッパにおいても、ハンガリー(およびポーランド)の「応援団」には事欠かないのである。

 

同様の共通項は、移民・難民問題に対する立場にも見出せる。2015年の欧州難民危機発生時には、ポーランドやハンガリーを中心とした中欧諸国は、EUによる難民割り当てに反発する急先鋒であった。しかし現在では、移民や難民の受け入れに対してはヨーロッパ全体が消極的になってきている。そのことを示す最大の例が、「安全で秩序ある正規移住のためのグローバルコンパクト」(国際移民協定)への参加問題であろう。

 

国連総会は2017年12月19日、同協定を支持する決議を採択したが、このときの採決で決議に反対した米国など5カ国中、3カ国はハンガリー、ポーランド、チェコであった。また棄権した12か国のうち、オーストリア、ブルガリア、イタリア、ラトビア、ルーマニアの5カ国がEU加盟国であり、スロバキアは投票に参加しなかった。すなわち、9カ国ものEU加盟国が協定と距離を置いたかたちとなる。また、ベルギーは同協定に参加したものの、それに反発した連立第一党が協定への参加に反対し、政権が崩壊する事態まで引き起こした。難民受け入れに関しては、多くのEU加盟国が本音を隠さない状況になっているのである。

 

 

問われるEUの力量

 

上記のような共通項こそあれ、ポーランドとハンガリーにおける法の支配の軽視が、ヨーロッパ統合上、きわめて深刻かつ特殊な問題であることには変わりはない。EUが法の支配を尊重する諸国で構成されるという大原則は、EUにとってまったく妥協不可能なものである。

 

現時点での「救い」は、この両国ともに、EU離脱はまったく選択肢に入っていないことである。両国政府はEUには批判的な立場を採るものの、あくまでEUに所属しながら異議申し立てを行っていくという立場である。すでに述べたような「ポレクジット」への懸念が地方選挙の結果に影響し、ひいてはPiS政権の軌道(微)修正につながったことは、こうした背景によるものである。

 

EUとしては、EU加盟と法の支配の(再)確立とは不可分の関係にあることを両国に対して繰り返し強調しつつ、さまざまな法的手段や財政的手段も視野に入れながら、状況の改善に取り組んでいくより他はないのであろう。法の支配を軽視する国がEU内部から出てきた場合、いかにそれをEUの自浄作用で立て直すことができるのか。EUの力量がまさに問われている。

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

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vol.266 

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