トランプ大統領を支える共和党保守派の「今」を知る

▶シノドスの電子メールマガジン「αシノドス」

https://synodos.jp/a-synodos

▶真の教養を身に着ける「シノドス・サークル」

https://synodos.jp/article/20937

2019年3月、トランプ大統領は共和党保守派の年次総会であるConservative Political Action Conference(CPAC)に現職大統領として3年連続出席した。CPACはAmerican Conservative Union(ACU)と呼ばれる保守派の有力団体が毎年ワシントン近郊のコンベンションセンターで開催している大規模集会である。全米から保守派の草の根団体のメンバーが1万人弱集まってその年の政治的なテーマについて意見交換を行うイベントであり、共和党保守派の「今」を知る上では欠かすことができない情報を得る場となっている。(今年はサテライト会場も入れると約2万人の参加者だったようだ。)

 

じつはブッシュ両大統領親子は現職大統領としてCPACに参加したことはない。したがって、トランプ大統領はレーガン大統領以来の現職大統領としてのCPAC参加者となっている。この事実に現代の米国、そしてトランプ政権を読み解くカギが存在している。ブッシュ両親子が距離を取ったCPACに対し、トランプ大統領が毎年のように出席していることの意味、そしてトランプ大統領によって変質しつつある現在のCPACの姿について触れることで、私たちは現代の米国政治シーンの一端を正しく理解することができる。

 

トランプ大統領は大富豪であり、そして何者にも首を垂れない唯我独尊の人物としてメディア上で描かれ続けてきた。しかし、「政治家・トランプ」を描写する場合、このような理解は必ずしも正確なものではない。トランプ大統領は米国政界におけるアウトサイダーであり、2015年に大統領選挙予備選挙に名乗りを上げた時、その政治的な影響力は著名なテレビスターとしての人気以上のものではなかった。

 

当時の共和党予備選挙では候補者が濫立状態となっており、トランプは過激な物言いでメディアの注目を安価に集める戦略を用いて功を奏し、予備選挙参加者全体の20~30%程度の得票であったにも関わらず、予備選首位を独走する幸運に恵まれることになった。他の予備選挙候補者は共和党内の主流派・保守派の両派に分かれて対立する陣営に属する候補者の足の引っ張り合いを演じて泥沼に落ちてしまった。

 

共和党の中には大きく分けて主流派・保守派という2つの派閥が存在している。両派ともに党内での自派の政治勢力を拡大すべく激しい鍔迫り合いを常に行っている。連邦議会において主流派は保守派のイデオロギー的に強硬な姿勢を批判し、保守派はリベラル勢力に妥協的な主流派を名ばかりの共和党員(RINO:Republican In Name Only)と罵倒している。

 

両者の違いはその選挙スタイルによるものであり、主流派はリベラルな大きな政府志向の政策に妥協することで議員個人として当選を優先するのに対し、保守派は保守的なイデオロギー傾向を強く持った草の根団体による組織的支援を受けて当選する傾向がある。日本でも名前を知られているブッシュやロムニーなどの党を支配してきた大物政治家は主流派に属しており、全米ライフル協会、キリスト教福音派、減税団体、自営業者団体、エネルギー規制緩和団体、リバタリアン、各種シンクタンク、新参のオルトライトなどに支えられた組織内候補者が保守派に属すると考えることで、大よそのイメージを掴むことができるだろう。

 

この両者は大統領選挙だけでなく上下両院連邦議員の予備選挙でも激しく対立している。全連邦議員は前述のACUによって連邦議会における投票行動の保守度を100点満点で採点されている。そして、この点数が低い連邦議員は保守派の予備選挙候補者からの挑戦を受けることになる。更には保守派の草の根団体による強烈なネガティブキャンペーンのおまけつきであり、たとえ同じ共和党内の候補者であっても一切遠慮はない。筆者がThe Leadership Instituteという保守派の運動員を育てる非営利団体で選挙プログラムを受講した際、民主党候補者を倒すことは大前提であり、むしろ共和党内から主流派候補者を徹底的に駆逐することを叩きこまれたことは印象深い思い出である。

 

トランプは2016年共和党大統領予備選挙時に、共和党内の両派のゴタゴタをうまく回避しつつ、党内過半数に遠く及ばない数字であったにも関わらず、予備選挙制度の仕組みを生かして共和党指名を受けるためのポイントを稼ぎ続けることになった。メディアが作り上げた印象(男性・白人・低所得者層)と違ってデータで見られるトランプ支持者は、当時の共和党支持者の平均的な傾向と大差なく、メディアに取り上げ続けられるトランプのファンというイメージが実際には相応しかった。そのため、既存の政治勢力はトランプが失言などでいつか失速すると期待していたが、予備選挙が実際に始まった頃には濫立する候補者らはお互いに雁字搦めとなって深みに沈んでいった。

 

そのような経緯もあり、トランプが共和党予備選挙を実質的に勝ち抜いて指名獲得を確実にした頃、共和党の両派閥はトランプへの支持を決めかねている状態であった。この当時は共和党内の協力が十分に得られていないことで、トランプの支持率はどん底であり、ヒラリー勝利確実と盛んにメディアでは喧伝されていたので記憶に残っている人もいるだろう。

 

結果として、主流派は選挙期間中のトランプの言動に強い不快感を表明しており、大統領本選挙の最後まで協力を渋り続けた。一方、共和党保守派は予備選挙を通じてトランプの保守性を常に疑い続けてきていた。保守派にとって重要な争点である中絶問題などについても言葉を濁してきたニューヨークの富豪(ファミリーはリベラル)であるトランプを積極的に支持する理由はなかった。トランプは2016年春CPACで行われた保守派内の人気投票で負ける可能性を回避することを意図してか、主要予備選挙候補者がCPACに参加する中で理由をつけてワザと参加を見送るほどに両者の関係は良好ではなかった。

 

しかし、2016年夏頃から共和党保守派がトランプ支持に回る幾つかの出来事(保守派メガドナーとの面談や最高裁保守派人事の承諾など)があり、トランプは保守派の大口献金者、大物政治家、各種グラスルーツからの推薦を取り付けて一気にヒラリーに対する選挙上の不利を克服していくことになった。最終的には大統領選挙の差し切り勝ちという奇跡を演じて見せることに繋がった背景には保守派からの絶大な支援があった。トランプは大統領選挙の過程で共和党保守派という政治的同盟相手を手に入れると同時に、彼らによる政権運営への影響力を受け入れることを選択した。まさにこれは選挙戦略における「取引の芸術」であったと言えよう。【次ページにつづく】

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.267 

・堅田香緒里「ベーシック・インカムとジェンダー」
・有馬斉「安楽死と尊厳死」

・山本章子「誤解だらけの日米地位協定」
・桜井啓太「こうすれば日本の貧困対策はよくなる――貧困を測定して公表する」
・福原正人「ウォルツァー政治理論の全体像――価値多元論を手がかりとして」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(11)――シンクタンク人生から思うこと」
・杉原里美「掃除で、美しい日本人の心を育てる?」