トランプ大統領を支える共和党保守派の「今」を知る

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2016年の大統領選挙は、民主党から共和党に政権交代しただけでなく、共和党内で主流派から保守派に政権交代が起きた、という「二重の政権交代」があった稀有な年となった。

 

トランプ大統領の政権閣僚メンバーはペンス副大統領を筆頭に保守派の面々がズラッと並ぶことになった。ムニューチン財務長官などのトランプ側近、そして軍人関連のメンバーを除いて、保守派の関心が高い内政上の重要な役職の大半は彼らの手中におさまった。(これまでトランプ大統領は保守派の事実上の代理人筆頭であるペンス副大統領を公の場で批判したことはほぼ皆無である。)したがって、政権発足から当初2年間、ホワイトハウスと上下両院多数派を形成する共和党は保守派が望む政策を次々と実現していくことになった。

 

日本でも話題になった入国禁止の大統領令、パリ協定からの離脱、エルサレム首都認定、トランプ減税のような派手なものだけでなく、規制廃止ルール制定、パイプライン建設認可、宗教団体の政治活動、オバマケアの骨抜き化、国防予算拡大、最高裁判事・控訴裁判事任命など、僅か2年の間に保守派が要求してきた大半の政策は実現された。そして、トランプ大統領・ペンス副大統領は毎年のようにCPACに参加し、前年の成果及び同年の見通しを保守派のグラスルーツメンバーに報告する演説を行ってきた。

 

事情を知らない日本人はトランプ大統領の過激な言動が同氏にのみ由来するものと看做す傾向がある。しかし、それは明確な間違いであり、その大半は同大統領の政治的同盟相手である保守派の意向に沿ったものでしかない。そして、それは同じ共和党政権であったとしてもブッシュ両親子の政権とは質が違うものである。そのため、日本のメディアなどが取材対象とする米国の人々(大学関係者、メディア関係者、主流派に属するシンクタンカー、民主党系の元政府職員など)からの情報を頼るだけではうまく説明することができないのも仕方がない。また、そもそも共和党保守派が志向する小さな政府や草の根民主主義の在り方から程遠い政治空間を生きている日本人には理解しがたいものと言えるかもしれない。

 

保守派を理解するためには彼らの政治的な頑固さが日本人の想像を遥かに上回るものであることを知ることが重要だ。保守派の人々が厳格に解釈する合衆国憲法修正条項に記載されている各種の自由や権利についてのコダワリは並々ならぬものがある。彼らにとっては言論の自由、信教の自由、武装する権利、財産権の保障などの自由や権利を教条主義的に守ることは至上命題である。それらに反する選択肢はそもそも眼中にはないため、そこに妥協の余地はないと考えるべきだろう。

 

一例を挙げると、筆者が米国で親しくしているAmericans for Tax Reform(ATR)という減税団体は、共和党のほぼ全ての連邦議員から「全ての増税に反対する」という公開署名を得ることを条件に選挙・政局で協力するという活動を行っている。彼らは、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領が1期目に増税に反対する署名をしたにもかかわらず、その任期に増税を実施したため、2期目の大統領選挙時に徹底したネガティブキャンペーンを実施してその落選に追い込んだ主犯とも言える存在だ。しかし、彼らはそのことについて「共和党の大統領でも約束を破れば落とす」ことで、むしろ組織支援者からの信用は飛躍的に高まったと豪語している。このことが示すように保守派は信念と行動によって自らの存在価値を示していくことにかけて強い誇りを持っている。

 

そして、その政治的な信念と行動が保守派のシンクタンクによって合理的な政策へと結び付けられることによって、現実的な論理武装を施される形で政権運営や議会活動にも反映されていくことになる。上記のような財産権を守る=減税を実現する、という信念と行動が経済政策としての減税政策や規制廃止などに落とし込まれることで、政治運動のエネルギーが実際の政策として実行可能な形に返還されるのだ。

 

トランプ大統領の過去2年間の言動の大半は共和党保守派の主張を理解している人にとっては驚くようなこともほとんどなかった。むしろ、トランプ大統領の言動は予測不可能ではなく、保守派の意向に従うという意味で極めて予測可能性が高いものだったと言えるだろう。

 

一方、トランプ政権が3年目に突入したことでトランプ大統領と共和党保守派の関係にも徐々に変化が起きてきている。

 

トランプ大統領は就任後2年間でほぼ保守派が求める政策課題はクリアしたこともあり、共和党保守派から自陣営の大統領として強い信頼を得た状態となっている。共和党保守派内では、伝統的な保守主義者やリバタリアンなどの一部勢力はトランプ大統領に懐疑的な姿勢を表明し続けているが、トランプファンと大方の保守派の融合が徐々に進んできたことで、トランプ大統領に対する反対者の声は極めて小さくなりつつある。一方、トランプ政権は2018年の中間選挙によって民主党に連邦議会下院多数を奪回されてしまった。そのため、今後予定されているインフラ投資などの予算審議などで同党との妥協を事実上強いられる環境となっている。同政権は保守派へとの同盟関係と現実の政治バランスとの妥協という難しいかじ取りを迫られている。

 

2018年末から2019年2月半ばまでメディアを賑わせた国境の壁予算に伴う政府閉鎖は同政権が直面している現在の構図を浮き彫りにしたケースであった。このケースでは最終的にトランプ大統領が政治的に実行困難な非常事態宣言を出して共和党保守派に対する目配せをしながら、実際には共和党・民主党の両党がまとめた予算案に署名している。つまり、従来まではトランプ政権の変数として共和党保守派を中心に理解するだけで良かったのに対し、今後は下院民主党の意向を状況理解のための要素に加える必要が生じたことになる。今後は直近2年間の単調な政治展開と違って、本当の意味で予測の困難度が増していくことになるだろう。

 

冒頭に触れた現職3年目のCPACでトランプ大統領はホームグランドと化したメインステージで2時間の大演説を披露した。おおよそ漫談のような内容が中心であったものの、会場に詰め掛けた支持者は大いに楽しんだものと思う。トランプ大統領と共和党保守派の関係は今後どのように変化していくのか。2020年大統領選挙イヤーのCPACにも参加し、米国政治の中長期的な展望を思索していきたい。

 

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vol.264 

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