2020.02.10

機密情報ネットワーク「ファイブ・アイズ」――日本、韓国、フランスと連携

平井和也 人文科学・社会科学系の翻訳者(日⇔英)

国際

1月26日(日)に共同通信が、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドという英語圏5ヶ国の機密情報ネットワーク「ファイブ・アイズ」に、新たに日本、韓国、フランスを加えた「拡大版」の枠組みが発足した、というニュースを報道した。この共同通信の記事では、「中国へのけん制をにらんだ情報共有の枠組みに発展させる構想もあるという。米国は英語圏5ヶ国に友好国を加えた「ファイブ・アイズ+(プラス)」の拡大枠組みを通じて対抗することを目指している」と報じられている。

「ファイブ・アイズ」といえば、1946年に、当時のソ連と東欧の衛星国に対する監視を主な目的として英米間で機密協定が交わされ、後にカナダ(1948年)、オーストラリア、ニュージーランド(両国とも1956年)が加わって結成された英語圏5ヶ国の機密情報共有ネットワークだ。そして、2010年に英国政府通信本部(GCHQ)が創設文書の一部を公開したことで、初めて公式に機密解除となり、その存在が公に明らかとなった。結成以来、ずっとこの英語圏5ヶ国の枠組みを維持してきたが、今回そこに日本、韓国、フランスとの連携を図ると発表した。筆者は、インテリジェンスの歴史の中で注目すべき展開として、このニュースに注目している。

まずは、英字新聞『ジャパンタイムズ』がこのニュースについて報じた概要を、以下にご紹介したい。

北朝鮮と中国の脅威に対抗するための「ファイブ・アイズ+(プラス)」の枠組み

英語圏5ヶ国の情報共有同盟「ファイブ・アイズ」が、北朝鮮の挑発を抑えるためにフランス、日本、韓国とも連携する、と政府筋が1月26日(日)に発表した。この枠組みの拡大によって、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、イギリス、アメリカによって構成される同盟に、新たな3ヶ国を加えて、現在日米韓が進めている北朝鮮の弾道ミサイルの分析以上の情報活動を強化していく考えだ。

日米両国の政府筋によると、8ヶ国の当局者が2019年秋に会合を開き、北朝鮮に関する最良の情報収集方法について議論したという。また、新たな3ヶ国との連携によって、これまでの情報ネットワークを、中国の軍事力増強に関する情報交換を円滑に進めていくための情報ネットワークへと発展させる考えもあるという。

アメリカは、やはり中国が勢力を増している、宇宙およびサイバー空間のセキュリティを含めた新たな領域における脅威に対抗するために、友好国を加えた「ファイブ・アイズ+(プラス)」の枠組みを構築しようとしてきた。

ここまでが『ジャパンタイムズ』が報じた概要だ。

次に、英BBC、米PBS NewsHourの関連報道に基づいて、「ファイブ・アイズ」の歴史について、以下に振り返ってみたい。

最初に英BBCの解説記事をご紹介する。

「ファイブ・アイズ」の歴史

「ファイブ・アイズ」は、第二次世界大戦中の英米間の緊密な情報連携と、特にブレッチリー・パーク(訳者註:第二次世界大戦中に数学者アラン・チューリングをはじめとした所員が暗号解読を行った英国政府暗号解読施設があった敷地)での暗号解読活動で、ドイツと日本の暗号を解読した経験から生まれた。暗号解読に当たった所員は協力して技術的な課題を克服し、世界中の通信を傍受することに大きな役割を果たした。

この経験から生まれたのが、1946年3月に調印された最高機密情報共有ネットワークである英米情報伝達協定(後にUKUSAと改名)だ。この協定の詳細については数十年間機密指定とされてきたが、2010年に両国がファイルを公表したことで、ついに明らかになった。

冷戦が始まってすぐに英国政府通信本部(GCHQ)と米国家安全保障局(NSA)が誕生し、機密情報ネットワークが冷戦時代の極めて緊密な協力関係の基盤を形成した。これこそが英米間の「特別な関係」として知られるものの核である。この機密クラブはカナダ、オーストラリア、ニュージーランドという英語圏3ヶ国にも拡大され、「ファイブ・アイズ」として知られるようになった。

このネットワークでは、情報を共有し、お互いに加盟国間でのスパイ行為は行わないとう原則がある。英米のヒューマン・インテリジェンス(ヒューミント)組織、すなわち、米国中央情報局(CIA)と英国秘密情報部(MI6)は、許可がない限り相手国で活動することはない。しかし、CIAとMI6は情報を共有するが、通信内容を扱うシグナル・インテリジェンス(シギント)を専門とするGCHQとNSAほど緊密に連携してはいない。UKUSAの下で、これらの情報機関はほぼすべての情報を共有しているが、許可なくお互いに相手国の国民を監視対象とすることはない。

ところが、エドワード・スノーデン氏がリークした文書によって、情報が機密クラブ以外の国と共有された場合には、保護の範囲が拡大されることが明らかになったのだ。英紙『ガーディアン』の報道によると、NSAとイスラエルの間の協定の下では、NSAはオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、イギリスとの協定によって、米国人に適用されるのと同様の手続きと保護措置を用いて、英国人、豪州人、カナダ人、ニュージーランド人に関連した情報を保護することが義務づけられている、ということをイスラエルは認識しているという。

スノーデン自身の存在そのものが、ある意味では、この機密ネットワークがいかに緊密なものであるかを表わしている。米国人であるスノーデンは、英国側の何千ものインテリジェンス文書にアクセスすることができたのだ。そのため、GCHQは機密ネットワークが緊密で、そのネットワーク内が開放的であるがゆえに、不自然な形で犠牲者となったのだ。

次に、米PBS NewsHourは、次のような解説を載せている。

「ファイブ・アイズ」は、第二次世界大戦中に、英米が情報分野での協力によって創設した英語圏5ヶ国によって構成された機密情報ネットワークだ。その始まりは、1946年に英米間で交わされた7ページの機密協定「英米情報伝達協定」(後にUKUSAと改名)だった。結成当時はソ連と東欧の衛星国に対する監視を主な目的としていたが、後に1948年にカナダが、1956年にはオーストラリアとニュージーランドが加入し、「ファイブ・アイズ」となり、世界的なネットワークを張り巡らせていった。

加盟国は情報共有、特に通信内容の電子監視の誓約を結ぶ一方で、加盟国間での相互監視は行わないという約束を交わした。この機密クラブが存在しているようだという気配を感じさせる報道が時々流れることはあったが、その存在が公式に認められることはなく、2010年に英国政府通信本部(GCHQ)がその創設文書の一部を公開して初めて機密解除となり、その存在が公に明らかとなった。

この機密ネットワークのメンバーとなるメリットは絶大だ。アメリカは世界的な衛星監視能力を有しているが、ネットワーク全体はそれぞれの加盟国の地域的な専門能力からの恩恵を享受している。例えば、オーストラリアとニュージーランドは極東地域における強みを有している。加盟国間で情報の責任分担を行っており、お互いに自国にとって難しい分野を補完し合っている。

5ヶ国間で情報を容易かつ迅速に共有することができるため、より迅速に個々の点と点とを結び付けることができ、共通の言語と法制度、文化も重要な意味を持っている。が、なんといっても全面的な信頼関係が大きい。そのため、加盟国同士で指導者や当局者の電話を盗聴しないというルールがあり、その根底には、指導者同士の議論は完全な誠実さの下に行われるものだという信念があるからだ。

しかし、ネットワークの加盟国同士が相手国の国民に対してスパイ行為を行わないという合意が成立しているかどうかは曖昧だ。米国側の当局者は、それも協定の一部を成していると言う。が、英国メディアは、実際には「ファイブ・アイズ」の加盟国同士でスパイ活動を行っており、情報機関が自国民をスパイすることを防止する法律をかいくぐるための情報を共有していると報じており、この情報はエドワード・スノーデンのリークによってさらに詳しい内容が明らかになっている。

以上が、「ファイブ・アイズ」の歴史についての解説のまとめだ。

次に、中国に対抗する動きを加速させている「ファイブ・アイズ」のここ数年間の動向を追ったロイターの報道に基づいて、その要点について以下に見てみたい。

中国に対抗するための連携を強める「ファイブ・アイズ」

オーストラリア、イギリス、カナダ、ニュージーランド、アメリカによって構成される世界を主導する情報共有ネットワーク「ファイブ・アイズ」は、2018年の始めから中国の外国での活動に関する機密情報を、考えを同じくする国と交換している。「ファイブ・アイズ」のドイツや日本との協力強化は、中国の影響力工作と投資に対する国際的な戦線が広がっていることを表わしている。

ある米国政府当局者は、主張を強める中国の国際的な戦略に対する対応策について、考えを同じくする同盟国と頻繁に協議しているとし、協力に向けた最良の行動とさらなる機会について詳細な協議を行っていると語った。「ファイブ・アイズ」の協調強化は、トランプ政権が秘密裏に中国に対抗するための非公式の連携努力を進めていることを示している。

政府当局者によると、主に二国間の会談が気づかれないように行われており、そこにはフランスも含まれているという。ただ、ドイツや日本などの「ファイブ・アイズ」以外の国が会合に招かれたと示唆する者はいない。しかし、8月下旬にオーストラリアのゴールドコーストで開かれた「ファイブ・アイズ」の会合後に出された声明は、協調がより緊密になっていることをほのめかす内容で、「世界的な連携」によって外国妨害活動に関する情報の共有を加速させる考えであることを示している。

影響を受けやすいテクノロジー企業への中国の投資を制限し、習近平政権下で強まる外国政府・社会への浸透工作に対抗するための国家的な措置が次々と打ち出される中で、国際的な協調が加速している。2017年12月にオーストラリア政府は、中国の影響力に対する懸念から、外国のロビー活動と政治献金に関するルールを厳格化する新たな法案を明らかにし、国家反逆罪とスパイ活動の定義も拡大した。アメリカも特定の外国投資を封鎖する権限を政府に与える外国投資リスク審査近代化法(FIRRMA)を制定した。

以上がロイターの報道のまとめだ。

日本のインテリジェンス事情に関するリチャード・サミュエルズ教授(マサチューセッツ工科大学)の分析

最後に、日本のインテリジェンス・コミュニティの歴史および今後の日本の「ファイブ・アイズ」との関わり方に関するマサチューセッツ工科大学(MIT)のリチャード・サミュエルズ教授(国際研究センター長)の論考についてご紹介したい。これは「拡大版」の発足前に発表されたものだが、以下に見るように、日本が「ファイブ・アイズ」寄りになっていく可能性が高いことを指摘していた。

同教授は2019年10月に日本のインテリジェンス・コミュニティの歴史に関する著書を刊行しており、日本のインテリジェンス・コミュニティについて次のように分析している。

  1. 日本の戦略家は、日本が普通の国になるためにはしっかりとしたインテリジェンス・コミュニティが必要であることを認識している。

日本のインテリジェンス・コミュニティは長い間国際的に後れを取ってきた。他国のインテリジェンス・コミュニティは、戦略環境の変化、技術の変革、インテリジェンスの失敗といった要因によって改革を迫られてきた。帝国主義時代の侵略的な拡大を経て、日本の冷戦下のインテリジェンス・コミュニティは基本的に官僚的なごたごたへと堕し、インテリジェンス部門同士が競争心はあるものの、うまくかみ合わない状態に陥っていた。また、アメリカのうるさい管理の下での活動を強いられた。

その結果、各インテリジェンス部門が生のデータと分析を共有することができなかった。これはすべてのインテリジェンス・コミュニティにおける問題だが、一世紀以上にわたって特に日本を弱体化させてきた。冷戦後の日本の代表的な失敗例として、次のようなものが挙げられる。

・カウンター・インテリジェンス(防諜活動)の分野で、1995年3月に地下鉄サリン事件を引き起こす手前でオウム真理教を無力化するのを官僚的な障壁が妨害する事態を許した。

・1997年1月、日本は信号情報と画像情報の分野に特化した情報本部を創設したものの、1998年9月に北朝鮮の弾道ミサイル「テポドン1」が日本の領空を飛来した時、情報本部は初期テストで不合格という結果に終わった。日本政府は宇宙の軍事利用を長年にわたって公式に禁止してきたが、それから数ヶ月以内にその禁止措置を取り下げ、偵察衛星プログラムを始動させた。

  1. 現在の日本国民は、インテリジェンス・コミュニティの権限強化を積極的に受け入れる姿勢を見せているようであり、インテリジェンス改革を擁護する保守派の政治家もこの世論を強く支持している。

アジア太平洋戦争前またはその最中は、インテリジェンスの監視は存在しなかったが、日本の民主主義が強化されると、たちまち断固としたインテリジェンスの監視が始まった。日本国民はインテリジェンスの権力拡大に長年慎重な姿勢を見せてきた。防諜法を制定しようとする試みが繰り返し行われてきたが、「反スパイ法」は日本を再び戦時中の監視と統制への道へと引きずり下ろすという国民の懸念によって実現には至らず、改革は妨害された。

しかし、現在は時流が変わり、日本国民は、中国の台頭や北朝鮮の核開発問題、アメリカの相対的衰退を含めた戦略環境の変化に対する意識を強めている。とはいうものの、日本国民は他の民主主義国の国民と比べたら、個人の権利を侵害する恐れのある監視を積極的に受け入れる姿勢は弱い。

  1. 日本のインテリジェンス・コミュニティを改革しようという適度な試みがすでに進行中だが、成果はまちまちだ。

2013年の国家安全保障会議(日本版NSC)の設置は対外政策の意思決定に関する抜本的改革であり、これによって国家安全保障局が内閣総理大臣および内閣に国家情報評価を提供するようになった。オープンソース、信号情報、画像情報も強化され、駐在武官も増員されている。

しかし、ヒューマン・インテリジェンス(ヒューミント)を改良しようとする重要な努力は拒否された。民間のサイバーセキュリティ本部と軍事部門の統合サイバー・宇宙司令部が創設されたものの、サイバー防衛は依然としてリソースが足りていない状況だ。

  1. 今後日本は既存のインテリジェンス能力の強化に重点を置き続けるだろう。その一環として、たぶんアメリカとの同盟関係に比重を置き、「ファイブ・アイズ」のメンバー入りを強く求めるようになるだろう。

・日本は新たな能力の構築ではなく、既存の能力の強化に重点を置くだろう。各インテリジェンス部門間の情報収集、分析、連携がさらに強化されるが、戦前および戦中のような秘密工作や防諜活動が中心になることはない。

・アメリカは東アジアの二大同盟国である日本と韓国の間のインテリジェンス分野での次善の協力関係に対処し続ける必要がある。技術的な改善が図られ、組織力が強化されたとしても、日韓両国がお互いに対する深い不満を越えて進む助けにはならない。

・日本はインテリジェンス能力の強化を図る中で、たぶん「ファイブ・アイズ」のメンバー入りを強く要求するようになるだろう。実際、米国議会下院情報特別委員会は日本の「ファイブ・アイズ」入りを勧めている。しかし、日本側がロビー活動を続けるのと同時に、「ファイブ・アイズ」内部からの反発も予想される。

長期的には、日本のインテリジェンスがこれからも「ファイブ・アイズ」寄りになっていく可能性が最も高い。ある意味で、日米同盟に比重を置く、より独立した能力を高める、入念に選んで時流に乗って中国とつながる、という日本のインテリジェンス・コミュニティにとっての三つの将来の可能性は、日本の戦略的選択肢を反映している。このうち最初の日米同盟が最も有力な選択肢だが、三つの各選択肢を推す向きもある。

・しかし、日本は日米同盟を越えるために同盟関係そのものを利用し、必要に応じてもっと独立した能力を高めるという立ち位置を取ると予想される。中国に対してアメリカの能力が相対的に落ちてきている状況を見ながら、日本はこれまでよりも積極的な防護措置を講じる可能性がある。日本は、アメリカ依存体質で身動きがとれなくならないようにしようという意識の下で、アメリカのインテリジェンス能力と技術に比重を置きながら自らを支える可能性もある。

以上がリチャード・サミュエルズ教授の分析のまとめだ。

ここまで見てきたとおり、アメリカが米中対立の中で、中国を明確に意識したインテリジェンス分野での連携強化を図っていることがよくわかる。今この瞬間も、世界中で水面下での諜報合戦が繰り広げられていることだろう。

参照記事

対北朝鮮、機密共有は8カ国に 米欧の枠組み拡大、日韓も

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200126-00000113-kyodonews-int

‘Five Eyes’ intelligence-sharing alliance partners with Japan over North Korea

https://www.japantimes.co.jp/news/2020/01/26/national/five-eyes-intelligence-sharing-alliance-partners-japan-north-korea/#.Xi4_He97mpq

Spying scandal: Will the ‘five eyes’ club open up?

https://www.bbc.com/news/world-europe-24715168

An exclusive club: The 5 countries that don’t spy on each other

https://www.pbs.org/newshour/world/an-exclusive-club-the-five-countries-that-dont-spy-on-each-other

Exclusive: Five Eyes intelligence alliance builds coalition to counter China

https://www.reuters.com/article/us-china-fiveeyes/exclusive-five-eyes-intelligence-alliance-builds-coalition-to-counter-china-idUSKCN1MM0GH

Special Duty: A History of the Japanese Intelligence Community

https://www.ambassadorsbrief.com/posts/PqMghxaefxKosXZuv?escaped_fragment=

プロフィール

平井和也人文科学・社会科学系の翻訳者(日⇔英)

1973年生まれ。人文科学・社会科学分野の学術論文や大学やシンクタンクの専門家の論考、新聞・雑誌記事(ニュース)、政府機関の文書などを専門とする翻訳者(日⇔英)、海外ニュースライター。青山学院大学文学部英米文学科卒。2002年から2006年までサイマル・アカデミー翻訳者養成産業翻訳日英コースで行政を専攻。主な翻訳実績は、2006W杯ドイツ大会翻訳プロジェクト、法務省の翻訳プロジェクト(英国政府機関のスーダンの人権状況に関する報告書)、防衛省の翻訳プロジェクト(米国の核実験に関する報告書など)。訳書にロバート・マクマン著『冷戦史』(勁草書房)。主な関心領域:国際政治、歴史、異文化間コミュニケーション、マーケティング、動物。

ツイッター:https://twitter.com/kaz1379、メール:curiositykh@world.odn.ne.jp

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