オーツ麦と環境活動家グレタ・トゥーンベリ――環境配慮のグローバル常識

北欧のNo1.レストランと呼ばれるNoma(レストラン・ノマ)をご存知だろうか。その世界的にも注目されるレストラン・ノマのシェフであるレネ・レゼピ(Rene redzepi)とクラウス・マイヤー(Claus Meyer)が北欧料理の探求のために設立したのが、ノルディックフード・クラブだ。科学的知見と料理芸術を融合し、たとえば海藻の旨味を引き出す料理の提供を行う。彼らは、2004年に10からなるマニフェストを提唱し、体によく、地域に根付いた、環境にも良い食事を提唱し、国際的な認知を獲得した。

 

北欧キュイジーヌ: マニフェスト

1.北欧という地域を思い起こさせる、純粋さ、新鮮さ、シンプルさ、倫理観を表現する

2.食に、季節の移り変わりを反映させる 

3.北欧の素晴らしい気候、地形、水が生み出した個性ある食材をベースにする

4.美味しさと、健康で幸せに生きるための現代の知識とを結びつける

5.北欧の食材と多様な生産者に光を当て、その背景にある文化的知識を広める

6.動物を無用に苦しめず、海、農地、大地における健全な生産を推進する

7.伝統的な北欧食材の新しい利用価値を発展させる

8.外国の影響をよい形で取り入れ、北欧の料理法と食文化に刺激を与える

9.自給自足されてきたローカル食材を、高品質な地方産品に結び付ける

10.消費者の代表、料理人、農業、漁業、食品工業、小売り、卸売り、研究者、 教師、政治家、このプロジェクトの専門家が力を合わせ、北欧諸国全体に利益とメリットを生み出す

 

世界で新北欧料理が注目されるようになったのは、10年ほど前だっただろうか。そのはるか前の1989年には、イタリアでスローフード運動が始まり、地産地消の考えはすでに世界各地で広がっていた。そのような流れの一環ともいえる、地元でとれた素材で体に良いものを使うという動きは、今北欧では、新しい「オーガニックフード」市場の拡大や「菜食(ベジタリアン、野菜中心の食生活)」の増加へと展開を見せている。

 

コペンハーゲンでコロナが一時期落ち着いた2020年6月に前述のレストラン・ノマが発表したのが、通常5万円ほどのコース料理とは大きく一線を画す3000円のハンバーガー(とワイン)のみの限定バー・オープンだ(ちなみに、コペンハーゲンでハンバーガーをカフェで食べると、それぐらいの値段はするので決してこの価格は高くはない。レストラン・ノマがその値段で食事を提供する方が驚きだ)。提供された食事は、肉とキヌアでできたベジタリアンパテのバーガ2種類。メニューはそれだけだった。

 

環境に配慮したオーガニックフード、そして菜食は、欧州では今、押しも押されぬ急成長の最先鋒にある。今までもオーガニックフードや菜食はあったと言うかもしれない。だが、今のオーガニックフードや菜食は、以前のブームとは大きく異なる。急成長の背景そしてその根っこにあるのは、欧州全域のミレニアル世代やGenZ世代を中心に広がる地球温暖化、環境保護の観点、環境悪化への懸念だからだ。

 

長い間辺境人的ベジタリアンやヴィーガンが主導し、時には宗教性を帯びて広がってきた菜食が、欧州では若者を中心に急速に広がり、特別な人たちだけではなくて一般消費者にまで広がってきている。調査機関コープ・アナリシスによると、18歳から34歳に限定すると、ベジタリアンは2010年には3.8%だったのが、2019年には23%(コープ・アナリシス)と拡大してることがわかる。さらに週に摂取する肉の量を減らしていると30%が答え、78%は肉の摂取量を減らす意思を持っていると述べているなど、市民権を得てきているところが特徴だ。

 

世界的な菜食への動きは多方面で見られている。例えば、コロナ渦下で新規有料会員数を予想の2倍以上(+1577万人)増やしたネットフリックスで閲覧できるドキュメンタリー「ゲームチェンジャー(2018)」は、今までの常識であった「男は肉食であるべきだ」、「動物性タンパク質が体を強くする」といったような知識はまやかしであることを、様々な科学的証拠をもとに一般消費者に伝えようとしており、多くの「普通の人たち」が菜食に関心を持つきっかけとなったと言われる。

 

直近のコロナ影響下のドイツでは、一つの食肉工場で1,000人を超えるコロナ感染者が発生したが、その労働環境の悪さが原因として一大スキャンダルに発展しているだけではなく、肉を食すことをやめらたらどうか?といった議論まで熱を帯びている。

 

北欧の酪農・乳業大手のアーラフーズですら、対応に追われている。オーガニック牛乳を35%まで増やし、牛のゲップがCO2の排出量を増加させ環境悪化を招いているという批判に対応するため、2019年に新しい環境戦略を打ち出した。アーラフーズの環境戦略は「一部を見ると環境汚染につながっているように考えられがちな酪農であったとしても、エコシステムでみると適切な対応ができている」ことを示す方法で、現在、土壌環境や水質保全なども酪農エコシステムの一環として組み込むという大々的な環境戦略を展開している。

 

この数年、北欧では、オーツミルクが広く摂取されるようになってきている。デンマーク人1人の牛乳の消費量の平均は1年で80リットルを超え、乳製品の消費量は合計で1年で130リットルとされている(1)など消費量は依然多く、植物性飲料の市場シェアは牛乳の2.6%に過ぎない(Fig1: 飲料タイプ別の販売数推移)。

 

 

しかしながら、牛乳が2003年度を100としたとき91ポイントに低下している一方で(図1:牛乳の販売数の推移)、オーツミルクを代表とする植物由来ドリンクの売り上げは、2009年との比較で6倍、2016年から2017年にかけて30%の伸びを見せたという報告もある。数ある植物性飲料の中で、オーツミルクに注⽬が集まった理由は、北欧デンマークではオーツが最も環境に良い植物性ドリンクだと認識されているからだ。以前は豆乳が注目されていたが、豆乳は北米から輸入しているため商品の生涯のCO2排出量(2)であるカーボンフットプリントが高くなる。ゆえに、“デンマークにとって”は、牛乳よりは環境に良くても、オーツと比較したら最善の選択肢ではないというのがデンマーク人の主張だ。ちなみに、その論理からいくと、社会環境によって一番良いものは変わるから、日本でオーツを輸入しているのであれば、オーツミルクは推奨されないだろう。

 

 

デンマーク発のNaturli’(ナチュアリ)は、1988年から植物性飲料を提供し、過去数年、オーツミルクの販売を急激に拡大している。さらに5年前から植物性ミート(大豆やグリンピースから作られるナチュアリが独自に開発した68%タンパク質を含む「PEA’F 68」(Figure:2)をつかう)でソーセージやパテ(図3)、ミンチ肉、植物性スプレッド(バターやマーガリンの代替)、植物性アイスクリームを展開しているが、体に良い・美味しい、値段が一般乳製品や肉と大差ない、そして何よりも環境に良いとの認知がミレニアルやGenZ中心に広がり、この5年ほどで規模はまだ小さいものの倍々に収益を伸ばしている。

 

 

 

親が外食しようと言っても、ベジタリアンの選択肢がない場所にはティーンは一緒に行ってくれないし、家の牛乳も子供のリクエストでオーツミルクに変わっていく。そして、年代を超えて菜食が日常生活に取り込まれていく。今欧州で見られるオーツミルクの年代を超えた広がりは、ティーンの子供がたまたま飲んでいて冷蔵庫にあったから、高血圧の予防に医師から勧められたから、学食に置かれていて値段が牛乳と変わらなかったから、など摂取のきっかけは結構シンプルだ。試したところ意外とクリーミーで美味しかったということで転向したり、選択肢の一つにしたりしている人が意外と多い。そしてそんな人たちは、精神世界が大好きだったりヨガにハマっている人のみではなく、健康や環境に配慮した一般人なのだ。

 

菜食は、今までも健康志向、動物愛護の観点からも注目されてきたが、ここにきて美味しくなっている点は重要だ。美味しくて、栄養も取れるのであれば、地球に優しい選択肢の方がいい。あえて肉じゃなくても、環境を汚染している牛から取れる牛乳バターやヨーグルトじゃなくても、同じような楽しみを味わえるのであれば、植物性を選ぶことになんの問題もない。そんな風にミレニアル世代は考える。

 

環境配慮は、欧州ではとても大きなうねりとなっている。食の分野でもビジネスの分野でも政治でも、環境配慮なく物事を進めることは困難になりつつある。若者への印象をよくするためにSNSを多用し、CSRを盛んにPRしたり、環境に関する積極的なコミットをする企業も増えている。ノルディックカウンシルが2018年に発行した「サステナブルな食品政策のノルディックガイド(Solutions Menu – A Nordic guide to sustainable food policy)」にみて取れるように北欧は特に積極的に「食と環境配慮」に取り組んでいる。世界規模でみても、Googleトレンドデータを使った『The Most Popular Countries and Cities for Vegans in 2018』のランキングが発表されたり、BBCによる「Climate change: Which vegan milk is best?」という記事でも環境変容を意識した植物性ドリンクの適切性が議論されるなど、関心は広がっている。

 

だからこそ、北欧に住んでいる身として、日本のメディアから発信されるグレタ批判には正直驚かされている。グレタ・トゥーンベリに関する日本のWEBメディア報道を見ると、「精神に障害がある」「いつもすごく怒っている」という批判が前面に押し出されているだけでなく、彼女の性別や年齢などを含めた批判は、性差別、子供の権利と言った別の問題にすり替えられており、彼女の主張の本質以外の部分がさらされている。

 

確かにいつも「怒っている」が、彼女が主張している内容について、知っている人はどの程度いるのだろうか。なぜ怒っているのかを理解しているのだろうか。全否定か全肯定ではなく、トゥーンベリ氏のパフォーマンスだけではない側面を見ることができてるのだろうか。欧州でも批判がないわけではないが、実際彼女の主張に関する議論はもっと慎重だし、トゥーンベリ氏の若者への影響は無視できない。

 

なぜ、トゥーンベリ氏が注目されているのか。多くの日本のメディア報道は、問題の本質を勘違いしているように思える。いい大人たちが、取り巻きのようにトゥーンベリ氏にたかっているのは明示的に言及されない理由がある。単なる注目される若手アクティビストであるからではなく、世界の流れが明らかにそっちに向かっているからだ。そして、トゥーンベリ氏は若者への影響力が強いからだ。

 

世論は非常にセンシティブだ。2019年の地球温暖化会議に出席した小泉進次郎環境相が「ステーキを食べたい」という報道に、ギョッとした欧州在住日本人は多い。例えステーキが好きでも、地球温暖化会議に参加している政治家として、言わないという選択肢を意識できなかったのではないか。さらにいうならば、メディアも本来の役割を果たすべく、日本の要人や海外との折衝がある人たちが情報武装できるように世界の動きを報道していなかったのではないだろうか。

 

同様に、菜食に関して距離をおいている日本人は数多くいるだろうが、英語で情報収集するとまた別の世界が見えてくるだろう。ベジタリアンになる必要はないかもしれないが、世界は大きく動いている。鼻で笑いたくても、もしそれなりの立場にいる方であれば、その態度を今国際的な場で示すことは危険だ。日本は、またしてもガラパゴスの道を選んでいるのだろうか。⽇本は世界の環境配慮の潮流から置き去りにされつつあることを早く認識し、慎重に対応できる⼈が増えていって欲しい、辺境デンマーク から切に願っている。

 

(1)https://www.dr.dk/nyheder/viden/klima/faktatjek-er-plantedrikke-bedre-klimaet-end-maelk

(2)原料調達から廃棄・リサイクルまでのCO2排出量

 

その他参照

https://coopanalyse.dk/analyse/02_234-plantedrikke-salg/

https://coopanalyse.dk/analyse/02_388-maelk-salg/

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

1
 
 
シノドス国際社会動向研究所

vol.279 

・川口俊明「全国学力テストの失敗は日本社会の縮図である――専門性軽視が生み出した学力調査の問題点」
・神代健彦「道徳、この教育し難きもの」
・大賀祐樹「懐疑的で楽観的な哲学――プラグマティズム」
・平井和也「世界の知性は新型コロナウイルスをどう見ているのか」
・川名晋史「誰が、なぜ、どこに基地を隠したか」
・石川義正「「空洞」の消滅──現代日本「動物」文学案内(4)」