「ウォール街占拠」運動における「運動内運動」  

世界経済活動の中心地であるニューヨーク市ウォール街において発生し、各地に広まった「占拠」運動がはじまって二ヶ月近くがたつ。すでに広く報道されているようにこの運動は、不景気や失業難のなか経済格差が拡大していることに抗議するためにおこった運動であり、大手金融機関への規制強化や「1%」と呼ばれるようなごく一部の富裕層への累進課税などを掲げつつ、各地で経済や政治の中心部に近い広場を占拠し泊まりこむなどしている。

 

この記事は、この運動の政治的背景や今後の動向、来年の大統領選挙に与える影響などは扱わない。わたしが今回報告したいのは、白人・中流階層・異性愛者・男性たちが主導する「ウォール街占拠」運動の現場において、「運動内運動」を起こしている、あるいは起こさざるをえない立場に置かれている、性的少数者・クィアやトランスジェンダーの参加者たち、ホームレスの人たち、性暴力被害に取り組む人たちから聞いた、「運動内部からの証言」だ。

 

 

コミュニティ自治への意志

 

わたしが「ウォール街占拠」運動の現場となっているズッコーティ公園を訪れたのは、十一月に入ってはじめの週だ。わたしはほかにも自分が住んでいるオレゴン州ポートランドと、もっとも激しく警察と衝突しているカリフォルニア州オークランドの「占拠」現場に出向いているが、市役所前の広い空間に展開しているこれらの「占拠」運動に比べて、ズッコーティ公園は面積的にも実感的にもとても狭い。ポートランドやオークランドの「占拠」運動では、公園にたくさんのテントが設置されているとはいっても、それは基本的にコンクリートのない草の上だけであり、公園の中の舗装された散歩道にはなにも障害物は置かれていない。しかしズッコーティ公園は全体がコンクリートで覆われており、ごく僅かな通り道をのぞくとそこら中がテントで埋め尽くされていて、圧倒的にテントと人の密度が高い。そしてそれが、そこに形成されたコミュニティのあり方に影響している。

 

ホームレスユース(二十四歳以下)の支援の仕事をしている友人に案内してもらい、ズッコーティ公園内に設置されたさまざまなコーナー(たくさんの本が置かれた「図書館」、医療スタッフがボランティアで詰めている「医療テント」、寄付された食べ物や着る物を無償で支給しているテントなど)を見て回っていると、すぐ近くで二人の男性が怒鳴り合い始めた。一方は相手が自分のタバコを盗んだと言い、他方はこのタバコははじめから自分のものだと言い返す。掴み合っての喧嘩がはじまろうかというときに、すかさず周囲の人たちが二人の間に割り込んできて、かれらを物理的に隔離しはじめる。いったん二人が引き離されると、それぞれ数名ずつの人がかれらを別々にかこんで、かれらが落ち着くまで話をしていた。

 

もし掴み合いの喧嘩が起きれば、それを口実に周囲で監視している警察官が公園に乗り出してきて、さらに大きな騒動になった可能性もある。喧嘩に発展するまえに周囲の人たちが一斉に割り込んできたのは、自分たちで解決することで警察の介入を防ぎたいという思いももちろんあったのだろうけれども、それよりもっと積極的な、ズッコーティ公園内に形成されたコミュニティの自治を成り立たせたい、という強い意思を感じた。その後も公園内で何度か喧嘩になってもおかしくないような衝突を見かけたが、つねに周囲の人が割り込んで、お互い納得とまではいかないまでも、暴力的解決を回避させることに成功しているのを目撃した。

 

こうしたコミュニティ自治への意思は、ポートランドやオークランドの「占拠」現場ではほとんど感じられなかったものだ。たとえば、わたしがオークランド市役所前にあるフランク・オガワ広場に展開する「オークランド占拠」運動に見に行ったとき、そこにいた白人男性に腕を捕まえられ「一緒に麻薬をやらないか、酒を飲まないか、セックスしよう」と付きまとわれたが、周囲の誰も介入しようとはしなかった。というより広々としすぎていて、付きまとわられていること自体ほとんど誰にも気付かれなかったのだろう。それにくらべ、ズッコーティ公園では「もしなにかあったら誰かが止めてくれる」と信頼できたので、とても安全に感じられた。

 

 

 

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