旧ソ連諸国で実らぬ中東民主化運動の「模倣」

2月15日の拙稿「エジプトの反政権デモの旧ソ連への影響」では、中東と旧ソ連の民主化運動の背景や条件が異なること、また中東の影響を受けて動き出している反体制派もいるが、政府が過敏に反応して厳しい対応をとっていること、旧ソ連で多くみられる「安定志向」の民衆が反体制的な動きに参加する様相がみられないことから、旧ソ連では中東の動きが連鎖する可能性はきわめて低いということを論じた。

 

結論からいえば、それから2か月経った現在でも状況に変化はない。だが、注目すべき現象も出てきている。それは、単なる反体制派ではなく、「イスラーム」を掲げる集団や政党の反体制的な動きが出てきたことである。また、以前は「色革命」で重視されていた「無血革命」という要素が軽視されるようになってきた。さらに、アゼルバイジャンなどでは、政権を揺るがすような事態にはまったくなっていないとはいえ、反体制的な動きが一部で活発化し、それを政府が弾圧することで、欧米の諸団体から強い非難を浴びる状況となっている。

 

そこで、本稿では、ロシアと南コーカサス三国の前出の拙稿以降の動きを整理し、その意味を考えてみたい。

 

 

ロシアのその後の状況

 

中東での激動がはじまってから数か月が経つが、メドヴェージェフ大統領は、中東の政変やそれに対する欧米諸国の干渉が、世界の不安定化を助長するとして激しく批判する一方、ロシアでは「エジプトシナリオ」は実現しえないと一貫して主張している。

 

だが、それに賛同しない者も多いという。

 

たとえば、2月の拙稿で論じたように、ロシアでは基本的にエジプト型の政変は起きないと考えられるが、イスラームの連帯を基盤にした運動、具体的には北コーカサスから政権を脅かす動きが起こる可能性を否定しない専門家がいる。そのような研究者は、ロシアではグルジアやウクライナで起きたような「親欧米型」の「革命」ではなく、むしろイスラームの連帯に基づく「反欧米型」のものとなると議論する。

 

そして、この説に信ぴょう性をもたせるのが3月12日の拙稿「ロシア政権が恐れる北コーカサス問題と民主化ドミノ」で論じたように、チェチェン共和国の独立派武装勢力指導者ドク・ウマロフ司令官がロシア全土のイスラーム教徒に対して、聖戦を呼び掛けたことである。実際、テロは増加しており、北コーカサスを中心に、ロシアの不安定化が進んでいることは否めない。

 

また、「プーチンの政治生命が終わったとき」には、中東式の「革命」もロシアで発生しうると述べる研究者もいる。さらに、ロシアは決して安定しておらず、とくに民衆の貧富の差が拡大しており、何かのきっかけで不満を募らせている層が爆発する可能性は否めないとする論者もいる。そして、当局内にはむしろ「エジプト化」を危惧する声の方が多いともいわれている。特に、ツイッター、スカイプ、Gメール、ホットメールの存在にはきわめて敏感になっているという。

 

これまで連邦保安庁(FSB)や内務省(MVD)はインターネットの監視をし、場合によってはサイトの閉鎖やアクセスを制限するなどの措置をとってきたが、最近ではツイッターの監視が厳しくなっているという。また、FSBの幹部から、スカイプ、Gメール、ホットメールが国家安全保障上の脅威になっているとして、禁止する提案が出されたが(スカイプについては2009年にも産業起業家連盟から禁止提案が出されたことがある)、メドヴェージェフ大統領の強い反対により、撤回されたという。

 

ただし、この話については、政権を欧米に対し民主的にみせかけるための自作自演だったという説もある。その説に説得性をもたせるのが、今年3月1日に施行された、ロシアの新しい警察関連法の存在である。それによって、当局は裁判所の命令なしに「有害」なウェブサイトを閉鎖する権限が与えられた(ただし、既存の連邦コミュニケーション法により、以前から「合法的に」ウェブサイトの閉鎖が行われていた)。やはりロシア当局サイドはアラブの民主化の流れが波及してくることを間違いなく脅威に感じているといえるだろう。

 

 

グルジア

 

欧米から支援を受けて成功させた2003年の「バラ革命」で、世界の注目を浴びながら民主化の道を歩きはじめたグルジアは、2008年のグルジア紛争を自ら仕掛けたことで、世界的な信頼を喪失し、内政でも「革命」の寵児であるサアカシュヴィリ大統領の権威主義的な動向が強まっている。

 

グルジアでは3月に入り、強硬な野党政党の指導者たちが、もはや独裁者といわれるようになったサアカシュヴィリを、エジプトで失脚したムバラク元大統領に準え、新たな「革命」を訴えるようになった。そして、求める「革命」の様相も以前とは変わってきている。「色革命」はじめ、最近までは「無血革命」の美徳が尊ばれてきたが、「無血で革命が達成されれば素晴らしい」としつつも、グルジアの反対派はもはや「流血」の可能性を排除しなくなっている。

 

それどころか、むしろ過激な野党は、「流血」を望んでいるともいえる。つまり、民衆の平和的抗議行動に対し、サアカシュヴィリ政権が武力を用いれば、西側からの批判が出るのは間違いなく、そうすれば、西側の支援によって支えられてきた現政権が大きな打撃を受け、政権崩壊が現実的になる、こうしたシナリオを描いているのである。

 

そして、2008年にサアカシュヴィリが再選を決めた大統領選挙について、いまでも不正選挙を疑う国民は多く、民主化の退行現象が強まり、インフレーションと物価の高騰によって国民の生活が疲弊の一途を辿るなかで、革命の火種は増す一方だとし、また「革命」の折には参加を表明している市民も多いという。

 

さらに、最近の法律改正により、警察の権限が強化される一方、民衆の抗議行動の権利が大幅に制限されただけでなく、反政府行動により逮捕されたものの拘留期間も最大30日から90日に延長されるなど、さらなる警察国家化が進んだと危惧されている。

 

とはいえ、グルジアの野党には穏健派もおり、穏健派は「革命」には反対の姿勢をとり、制度的な枠組み内での民主化を推進しようとしている。他方、グルジアの強硬な野党も一枚岩ではなく、反対的な動きがたとえ起こったにせよ、それが政権を転覆させるほどの力をもつかは疑問だ。実際、強硬な野党の一部は、決定的な抗議行動を開始する「Dデイ」として、4月9日、24日、5月2日が濃厚だと発表していたが、すでに、最初の候補日はすぎ、今後の展開もあまり期待できそうにない。

 

 

 

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