日本向け衣料品生産を支えるバングラデシュ人女性工員たち

日本向け低価格衣料品の生産基地としてのバングラデシュ

 

近年、日本では、低価格の衣料品をめぐって熾烈な競争が起こっている。

 

「安くて」、(商品提供の)「早い」を売りに日本で攻勢を強める欧米系カジュアルブランドと、それに対抗する日系企業。両者よって生み出される破格の値段の衣料品は、いままさに飛ぶように売れている。3000円以下でおしゃれな服をコーディネートすることができるとあって、若い女性を中心に人気を集めている。

 

このきわめて価格の安い衣料品の提供は、これまで衣料品の生産地とされてきた中国から、(中国よりも)さらに安い労賃を豊富に抱えるバングラデシュへと、企業が生産地を移すことにより可能になった。バングラデシュでは、欧米企業からの受注を受けた現地企業を中心に、低廉なTシャツやパンツを大量に生産してきた。急速な経済発展に伴い、労賃上昇がつづく中国では、安い衣料品を生産することが難しくなりつつあり、多くの日系企業が欧米企業のあとを追うようにして、バングラデシュへの進出を開始した。

 

バングラデシュ縫製産業を支えるのは、現業労働力としての女性工員である。この産業の労働者の7割を女性が占めるとも言われるほど、縫製産業は大量の女性を擁している。彼女たちは、10代後半から20代を中心とする若い女性であり、学歴は概して低く、大半が初等教育卒業程度である。未婚者、既婚者ともに同程度おり、未婚者の場合には家族や親戚との同居、既婚者の場合には夫、子供との同居が一般的である。

 

多くは、農村部の貧しい家庭の出身であり、何らかの経済的な理由によって首都のダッカへ移動してきた。彼女たちは、ダッカでの初めての仕事として縫製工場での就労を選択し、その後いくつもの工場で働く。最近では、「家事使用人として働いてくれる若い女性が見つからない。」といった言葉をよく耳にするほど、貧しい女性の多くが、家事使用人ではなく、縫製工場での就労を選択する。縫製工場で働いた方が月々の収入が高いからである。

 

2008年以降、バングラデシュへの進出を加速させる日系企業の多くは、手狭なダッカ市内ではなく、市内から車で1時間から2時間半ほどの農村部に大規模な工場を建設し、大量の衣料品を生産する傾向にある。現地資本の工場に比べて、日系工場の労働環境はよいが、品質管理などに厳しく、安い賃金に仕事内容が見合わず、辞めていく労働者も多い。

 

筆者はこれまで、2008年にバングラデシュに開設された日系縫製工場で調査を行ってきた。大量の女性工員のなかに、ひと際個性の強い女性がいる。彼女はバングラデシュ人男性幹部による評価では大量の未熟練工員の一人だとみなされているが、熟練工員として高い技術を持っている女性の一人である。

 

 

バングラデシュの日系縫製工場 ―― ある熟練女性工員との出会い

 

ダッカ市内から車で1時間ほどの郊外に、その工場はある。6階建の立派な工場には、日曜日を除いて毎日900人ほどのバングラデシュ人が通う。その多くは女性である。工場周辺から歩いて通う工員もいれば、工場の無料送迎バスを利用する工員もいる。午前8時から午後5時まで、残業があれば午後7時まで工場からミシンの音が鳴りやむことはない。

 

3階のA-1ラインに彼女の姿はあった。他の女性工員は毎日決まった席に座るが、彼女には決まった席はない。なぜなら、彼女はどの工程でも縫製可能な熟練女性工員であり、毎日欠席者が出るたびに、そこに穴埋め役として入る、工場でも数少ない有能な女性工員の一人だからだ。

 

ほっそりとした体つきではあるが、どこか芯の強さを感じさせる彼女は、着古した現地衣装を身にまとい、毎日ミシンの前で仕事をこなす。手持ちの枚数が少ないせいか、彼女は数日おきに同じ衣装を着てくる。そのため、工場のなかに彼女がいるかどうか、すぐに分かる。彼女の名前はマジェダといい、22歳の未婚の女性だ。彼女は工場の送迎バスで、片道30分ほどの距離を通っている。この工場に通い始めて二年がたつ。

 

マジェダの賃金は悪くはない。長い縫製経験を評価された結果であろうか、ラインの他の女性工員に比べて、高い給料を得ている。彼女は、ラインを指揮、監督する男性幹部職員の高度な要求にも対応する。怒鳴られてもあまりに気にしない。男性工員や、アイロン作業者に対して、なかなか他の女性工員が言えない作業工程上に生じた文句や注文をはっきりいう。男性幹部職員から怒られて泣いている女性工員を慰める。彼女は、技術の高さ、向上心の高さ、頭のよさ、芯の強さを兼ね備えた女性である。

 

わたしが彼女のそばを通りかかると、「今日のあなたの洋服かわいい。」と話しかけられ、いつの間にかお昼休み時間になると、とりとめのない話に花が咲く。毎日工場に行くたびに、彼女と話すようになった。そして、翌週の休日、彼女の家を訪れることになった。

 

 

osada

 

 

 

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vol.2019.4.15 

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