ポスト・アメリカのパキスタン――多極化する南アジア地域

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地域の国際関係の中で

 

ここまで見てきたようなパキスタンと中国の関係緊密化に、アメリカとインドが懸念を示している。

 

「正直なところ、アメリカ国民はパキスタンを支援することに疲れてきている。国民のレベルでわれわれを好きでない国に対して膨大な支援をしてきたのだ」、パキスタンへの援助継続を「国民に納得させるのは容易ではない。アメリカ自身もお金に困っているなかでパキスタンへの支援を続けているのに、パキスタンが中国へ行って、あなたこそ私の最も親しい友だと言っているのを聞かされるのだから」。これはアメリカ共和党上院議員のジェイムズ・リッシュの嘆息である。

 

また2011年5月に、ウサーマ・ビン・ラーディンがパキスタンのアボッターバードで米海軍特殊部隊の単独作戦により殺害された際に、パキスタン軍関係者は作戦中に墜落したヘリコプターの残骸を、後日アメリカへ返還する前に、パキスタンと中国の技術者を招いて調査を許したとの報道も、アメリカの不興を買っている。

 

インドも、たとえば2011年に中国がパキスタンにJF-17多機能戦闘機を供与したことなど、軍事的な協力関係に「重大な懸念」を示している。また、ウサーマ・ビン・ラーディンがパキスタンで殺害されたことをみて、パキスタンが南アジアにおけるテロリストの活動の中核であることがあらためて世界に示されたとし、パキスタンが誠実にインドとの関係を進展させようとするなら、すべてのゲリラ組織を解体し破壊すべきとしている。

 

アフガニスタンへの関与をつうじてパキスタンへの影響を強めつつあるもう一つの大国がロシアである。ザルダリ大統領は2011年5月にロシアを訪問し、中央アジアからアフガニスタンを経由してパキスタンに至る天然ガス・パイプラインや送電線敷設する計画について、ロシア企業が受注することで合意した。この際、ロシア政府はザルダリ大統領に対し、現在オブザーバーとして参加している上海協力機構へのパキスタンの正式加盟を支持すると表明している。

 

さらにロシア政府は、アメリカとNATOが撤退した後のアフガニスタンに、ロシアと中央アジアなど周辺諸国の軍事同盟である集団安全保障条約(CSTO)が駐留して、テロ対策や麻薬取り締まりなどをおこない、地域の安定維持を図る必要がある旨述べたとの報道もある。ロシアはアフガニスタンの安定を、上海機構やCSTOをつうじて、ロシア、中国、パキスタン、中央アジア諸国、イランなどと協調して共同で維持するという構想を持っているようにも見える。

 

 

パキスタン・アフガニスタン国境付近

パキスタン・アフガニスタン国境付近

 

 

他方、中国もまた、アフガニスタンに対して、政治的、経済的な力を拡大して急速に存在感を増大させてきている。アフガニスタンは2002年以来、中国からの復興支援を受けて、発電所の建設、住宅、モスク、 病院等の建設をおこなってきた。中国はアフガニスタン北部ローガール州の銅鉱山の採掘権を取得するなど、外国からの直接投資としては最高額となる35億ドルを投資し、さらにハジガクの鉄鉱山開発にも名乗りを上げている。また、貨物用の鉄道敷設にも積極的に関与してきている。パキスタンから見れば、中国との連携によってアフガニスタンへの影響力を維持強化する可能性がひろがることはメリットである。

 

国際的な摩擦にもかかわらず独自の立場を守るイランとの関係では、パキスタンはむしろアメリカの意に反した方向を追求しつつある。長年の計画であるイランとの天然ガス・パイプライン建設にかんして、折に触れてパキスタンは計画推進への強い意欲を表明してきた。

 

アメリカは強硬に反対しているが、2012年に当時の人民党政権は、国内のエネルギー需要を満たすため、パイプラインの早期建設に意欲を示し、ギーラーニー首相が「パキスタン政府は地域の平和や安定を求めており、イランの核問題は外交的な協議によってのみ解決可能であると考えている……アメリカとイスラエルのシオニスト政権がイランを攻撃した場合、パキスタンはイランとともにある」と述べている。

 

ただし、実際のところパキスタンとイランは表立った対立こそないが、相互に疑心暗鬼の部分を抱えている。このパイプライン計画も長年の計画でありながら実現に至っていない。現状では、アメリカとの関係を相対化しようとしているパキスタンのオルタナティブのひとつとして、また地域の国際関係の変化の可能性を示唆する状況として指摘しておくにとどめる。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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