パレスチナ統一内閣の光と影――ファタハ・ハマース連立に課された課題

統一後の内閣の課題

 

長年の対立を乗り越え、なんとか統一政権の樹立に成功したとはいえ、ファタハとハマースをとりまく環境は決して容易なものではない。イスラエル政府内部の反応は、統一内閣を「スーツを着たテロリスト」と呼ぶ右派政党「ユダヤの家」のナフタリ・ベネット党首・経済相のような強硬な立場から、しばらくは新内閣の動向を見極めるべき、とする「未来」党党首・財務相のヤイール・ラピドの立場まで様々だ。とはいえパレスチナに対する従来の政策に変更の兆しは見られない。自治区からの移動規制も健在で、西岸地区のラーマッラーで行なわれた新閣僚の就任式には、イスラエル軍に移動を禁じられたガザ地区からの3人の閣僚は参加できなかった。

 

また、国際的には、アメリカやEUなどからのハマースに対するテロ組織指定が解除されたわけではない。解除を求めるなら、イスラエルの承認などの三条件の受け入れが、踏み絵として必ず要求されるだろう。それを認めず、次の選挙でたとえまたハマースが勝利を収めても、再び制裁を受ける可能性があり、直面する政治状況はあまり変わっていない。

 

ファタハをめぐる綱引きも、根本的に事態が変化したわけではない。ファタハ側は中東和平交渉の推進を断念したわけではなく、アッバース大統領は今回の統一内閣の形成について、中東和平との間に矛盾はないとしている。イスラエルと平和的に共存する独立国家が目標であることに変化はない、というのが彼の立場だが、ハマースとの連立によりイスラエル側の不信感は急激に増大している。

 

パレスチナの内政という点では、統一政権の運営について、ファタハとハマースの間でどこまで方針や決定に合意が得られるかという点にも懸念が残る。組閣の発表そのものについても、ファタハ側のPLO幹部が「合意に至った」ともらしたのに対して、その数時間前にはハマース広報官が「まだ公式合意は結ばれていない」と発表するなど、足並みの乱れが見られた。

 

またイスラエル国家の承認については、4月の和解宣言後にアッバース大統領が、統一政権はイスラエル国家の存在を認める、とくり返したのに対して、ハマースの報道官ターヘル・アル=ヌーヌーがこれを否定したと報じられる場面が起きた。ハマース側は後にこれを訂正し、「一党派が国家の承認を決めることはできない」と発言の意図をぼやかしたが、基本的な方向性が異なるまま組閣に至ったことは否めない。

 

さらに今後、イスラエル側による暗殺攻撃や入植地の増設など、挑発を受けて若手が暴走すれば、再び分裂の危機が訪れる可能性も否定はできない。

 

暫定首相とはいえ、今回就任したハムダッラー首相はパレスチナ人全体をまとめるカリスマ性には欠ける。ハマース側が早い段階からハムダッラーの首相就任を認めていたのは、むしろそのためとも考えられる。指導者として、ハマースへの支持に影響を及ぼす脅威にならないからだ。他方で国民からのアッバースへの支持は、ハムダッラーに比べるとまだ高いが、圧倒的な指導力をもつというわけではない。新内閣の就任式の際に壁に貼られた巨大なヤーセル・アラファートのポスターは、PLOがいまだにこの人物の威光に頼っていることの暗示ともいえるだろう。

 

 

パレスチナ世論の反応

 

移行政権を経て、今後のパレスチナ政治を率いていくのは誰なのか。この点を考える上で興味深いのは、5月後半に報道された世論調査の結果である。そこでは待望される政治家として、複数の終身刑を受けてイスラエルの刑務所で服役中のマルワーン・バルグーティーの名前が浮上していた。

 

調査は2014年5月5日から15日にかけて、ベツレヘム市の郊外にあるパレスチナ世論センター(Palestinian Center for Public Opinion)が実施したもので、西岸地区とガザ地区、東エルサレムの18歳以上の住民、合計1015人を対象としている。まず、統一政府が目標とする6ヶ月以内の選挙の実施が可能かどうか、との問いに対して28.3パーセントが「確実だ」、52.3パーセントが「おそらく可能だろう」と答えており、期待の高さが感じられる。続いて次期の大統領候補として望ましい人物を選択させる質問では、ハマースよりはファタハ、ファタハの中ではアッバースよりもバルグーティーを推す声が強いことが示されている。

 

 

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この設問は、一問目でアッバース(ファタハ=F)とハニーエ(ハマース=H)、二問目でバルグーティー(F)とハニーエ(H)、三問目でバルグーティー(F)とアッバース(F),四問目でバルグーティー(F)とミシュアル(H)を比べる形式をとっているため、4人の候補者のうちで誰の支持率が一番高いのかが一見したところでは分かりづらい。しかし明白なのは、ファタハとハマースの候補者が比較される場合、常にファタハの方が高い支持率を得ていること、またどの候補者と比べてもバルグーティーがより高い支持を集めていることだ。

 

マルワーン・バルグーティーは、占領地での対イスラエル抵抗運動の指導者として名を上げ、2000年に始まった第二次インティファーダではタンジームという民兵組織を率いた。イスラエルに拘束され、裁判を受けて5つの終身刑で服役中だが、広い層から人気があるという。若さによるカリスマと、外地から戻ったPLO幹部と違って占領地でずっとイスラエルの占領に耐えてきたという経歴が、人気の理由だろう。手錠をかけられた両手を掲げてみせる彼の姿は、囚人との連帯運動のシンボルにも使われている。

 

獄中にいるバルグーティーが、6ヵ月後に予定される大統領選挙に立候補できるとは限らない。2005年の大統領選挙では立候補を表明したものの、ファタハ内部の圧力で辞退させられた経緯もある。また仮に大統領に選出されたとしても、それによってイスラエル軍が彼を釈放するとは考えられず、実際の執務を行なうのは困難である。その意義は象徴的なものにとどまる。しかし彼の存在がこうして世論調査で取り上げられ、公然と高い支持率を得ていることは興味深い。またその高い支持率の陰には、既存の政治家の中で他に同様の支持を得ることのできる人物が不足していることが示唆されているともいえるだろう。

 

 

カランディアの分離壁に描かれたマルワーン・バルグーティーの絵(2011年11月時点)

カランディアの分離壁に描かれたマルワーン・バルグーティーの絵(2011年11月時点)

 

 

 

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