2017.04.24

「交渉学」とは?――誰もが幸せになる問題解決のために

交渉学・合意形成論、松浦正浩氏インタビュー

情報 #教養入門#交渉学

日常生活で友人や家族と話し合いによって物事を決める場面はたくさんありますが、こうした身近な「交渉」もビジネスや外交における交渉も、同じフレームワークで分析しようというのが、「交渉学」という学問です。小手先のテクニックに終始しない、交渉学の理論とはどのようなものなのか。みんなが納得できる合意形成にたどり着くには、どうすれば良いのか? 『実践!交渉学――いかに合意形成を図るか』(ちくま新書)の著者、明治大学専門職大学院ガバナンス研究科教授の松浦正浩さんにお話を伺いました。(聞き手・山本菜々子/構成・大谷佳名)

当事者全員にメリットのある解決策を

――今日は、『実践!交渉学』の著者の松浦正浩さんにお話を伺います。よろしくお願いします。

 

よろしくお願いします。

 

――「交渉術」のビジネス書は数多く出版されていますが、「交渉学」と「交渉術」の違いは何なのでしょうか。

 

まず、学問かどうかという違いですね。ある個人の属人的な経験に基づいて論じられているものなのか、それとも科学的に導かれる根拠があるのか。また「交渉術」の特徴は自分自身が交渉の当事者ということで、どうすれば自分が得する結果になるのかという視点から論じられることがほとんどです。一方、「交渉学」では、より客観的な立場から分析する、交渉の外から交渉を捉えるという違いがあります。

ですから、交渉学を学んでも自分の交渉が上達するとは限りません。むしろ、自分自身が置かれている立場を見つめることで、「なぜ交渉が上手くいかないのか」という説明が得られるかもしれませんね。

――交渉の必勝法ではなく、客観的に分析をする学問なんですね。

はい。交渉学では小手先のテクニックではなく、いろいろな場面で応用できる体系的な枠組みが作られています。たとえば今夜の食事は何にするか、家事の分担はどうするか、あるいはビジネスの取引や国家間の紛争の調停まで、様々な交渉がありますよね。これらの問題をすべて共通のフレームワークで分析しようというのが、交渉学という学問なのです。

――交渉学の考え方の特徴などはありますか。

交渉学はもともと経済学の影響が強く、参加者はみな自由な存在と考えられます。規制はすべて存在しないものとして、自由な話し合いで物事を決定する。社会的便益や倫理的観点はひとまず置いておいて、個人の効用をいかに最大化するかを目指します。

しかし、自分だけが利益を得て相手が不幸になるような結果は、交渉学では「失敗」と考えられます。重要なのは、当事者全員にメリットがある解決策を見つけることです。お互いに利益をもたらす物々交換、取引を探し出す。「相互利益交渉」「Win/Win(ウィン・ウィン)交渉」とも言われますが、これこそが交渉学におけるゴールです。

――みんなが幸せになる交渉が「良い交渉」とされているんですね。松浦先生はどのようななきっかけで交渉学の研究を始められたんですか?

もともと大学ではまちづくりや都市計画を学んでいました。子どもの頃から車が好きで高校生の頃までは自動車のデザインに興味があったのですが、大学に入ってから、カッコいいクルマを作っても走る道路がなければ意味がないことに気が付いて。そこから土木や建築などの勉強を始めました。ただ、道路を作ろうとすると当然、地域の住民から反対されることがあります。特に学生時代の1990年代はそうした反対運動が激しい時期でした。そこで、どうすればみんなが納得するような都市開発ができるのか。そこから交渉に興味を持つようになりました。

 

松浦氏
松浦氏

「配分型交渉」と「統合的交渉」

 

――ただ、誰もが納得するような話し合いって、一番難しいような気がします。

そうです。交渉が上手くいかないケースとしては、参加者が話し合いに協力的でない場合、交渉相手に対する信用がない場合、お互い持っている情報に差異がある場合、お互いが相手を出し抜いて自分だけ得しようと考えている場合など、さまざまな原因が考えられます。そうした中で交渉の行き詰まりから脱し、お互いに納得できる条件を見つけることは容易ではありません。

たとえば、よく起こりうる交渉の一形態として、「配分型交渉」と呼ばれるケースがあります。これは片方が得をすれば、もう片方は損をするという状況です。

分かりやすい例を挙げると、お店で商品の値切りをする時。最初に5,000円という値札がついていた商品を、

「4,500円に負けてくれませんか?」

「申し訳ございませんが、4,900円までしか値引きはできません。」

「じゃあ4,600円にしてくれたら買います。」

「いや、せめて4,800円まで……」

というように、初めにお互い極端な条件を出して、少しずつ譲歩していく。ある一つの条件を決めて、その中でどうやって取り合い(配分)をするかという交渉です。この例では値段という一つの条件に着目して、お互いできる限り得しようと躍起になっています。つまり「言ったもん勝ち」の交渉ですね。

しかしこれでは当然、利益の奪い合いによって交渉が行き詰まりやすくなります。もし片方が、相手を脅して無理やり利益を得ようとすれば、度胸試しのような喧嘩にエスカレートしてしまうかもしれません。そうして生じた感情的なしこりは将来も残るので、この先の交渉にも支障をきたすかもしれない。

――では、どうやって対応すれば良いのでしょうか。

たとえば先ほどの例だと、

「この5,000円の商品、4,500円に負けてくれませんか?」

「う〜ん、値引きはできませんが、ポイントカードで500円分還元することはできますよ。」

「じゃあ、それでお願いします!」

というように、「値段」だけでなく「ポイント」という別の条件を取り入れることで、二人の間に合意する可能性が生まれるわけです。店員としては、現金値引はなかなか店長が許してくれないけど、ポイント還元は顧客の再来店につながるので比較的やりやすい。顧客としては、値段が安くなるなら手段は構わない。この思惑のズレが、交渉成立の鍵になっています。

交渉学ではこのような交渉を「統合的交渉」と言います。フレキシブルに条件(交渉事項)を加えていくことで、配分型交渉から統合的交渉に転換する。これは交渉が上手くいくための一つの鍵になります。

なお、統合的交渉は、違うものを欲している人が集まってはじめて成立します。それぞれの当事者にとって優先順位が異なる条件を探し出し交渉に持ち込むことにより、合意を見つけていこうというのが統合的交渉の考え方です。経済学の言葉を使えば、相手が自分よりも価値をおく財と、自分が相手よりも価値をおく財を交換することで、両者の効用水準を高める。これを「パレート改善」の考え方と言います。

交渉学の方法論

――良い交渉を行うためには、お互いの要求のズレを把握して、いかに妥協できる点を見つけていくかがポイントなんですね。今おっしゃった「パレート改善」とはどういう意味なのでしょうか。

これは、イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが発案したと言われる考え方です。どんな交渉においても、達成される満足度には限界がありますよね。たとえば先ほどの例ですと、お店の側が値引きできる額には限りがあるので、それによってお客さんの側の満足度も制限される。そうした限界点にある取引条件のことを「パレート最適」と呼びます。そして、パレート最適により近い合意条件が「パレート改善」です。

分かりやすい例を考えてみましょう。たとえば、Aさん(売り手)とBさん(買い手)が、パソコンの売買価格について交渉をしていたとします。ここでは、統合型交渉を想定します。

この図を見てください。

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出典:松浦正浩『実践!交渉学―いかに合意形成を図るか』(ちくま新書)66ページ

図はAさんとBさんの交渉における二人の満足度、制約条件、どこで合意が取れるのかを示したものです。先ほど言った「パレート最適」はこの曲線で表されます。

まず、図に書かれている交渉学の専門用語を説明しましょう。縦軸に「AさんのBATNAがもたらす満足度」、横軸に「BさんのBATNAがもたらす満足度」とありますね。BATNA(バトナ)というのは、「Best Alternative To a Negotiated Agreement」の略で、今回の交渉が成立しなかった時の対処策として最も良い方法、という意味です。交渉学ではこの視点が非常に重視されていて、まず交渉を始める前にBATNAを知ることが重要だと考えられています。

具体的にいうと、みなさんもおそらく高価なものを購入する時などは、どこのお店で買うと安いのか、あるいは特典がつくかどうかなど、ある程度事前に情報を集めますよね。今回の例だと、たとえばこのパソコンが別の店では15万円で売られているすると、Bさんはその情報を頭に入れた上で交渉に臨みます。つまり、BATNAというのは「腹案」のことですね。そして、Aさんのお店が15万円より安く売ってくれるかどうかでBさんは購入を決めます。要するに、「これ以上悪い条件で買うと損をする」という基準になるわけです。

――図の黒く塗られている部分はなんですか? 

 

「合意可能領域」、「ZOPA(ゾーパ)」(Zone Of Possible Agreementの略)といって、この範囲に含まれる条件が二人の合意を成立させます。ZOPAは二人のBATNAの間の部分で、言い換えれば両方が損をしない形で合意できる条件です。この領域が広ければ広いほど交渉が合意に達する可能性が高まります。

――どちらのBATNAよりも満足度が高く、かつパレート最適の領域におさまる範囲がZOPAなんですね。

はい。この中でパレート改善となる合意を探しつづけることが、良い交渉を成立させる上で重要です。同じZOPAの中でも、図の点3より点4の方が両者にとって満足度の高い結果となります。お互いの満足度が高まる方向、つまり図の右上の方に向かって進めるような取引をつづけ、最終的にパレート最適に達するような合意条件を見つけられれば、お互いにとって最大限幸せな合意に達したということになります。

「どう利益を得るか」から「どう配分するか」へ

――さきほど、交渉の前にBATNAを知ることが重要とおっしゃっていましたが、どんなメリットがあるのでしょうか。

まずBATNAを知っていれば、交渉が上手くいかなかったとしても別の道がある、と思えるので心の余裕ができます。たとえば、バイト先で「給料を上げてくれ」とお願いする場合でも、他のお店の給料はどれくらいかという情報を知っていれば、「上げてくれないなら別のお店で働きますよ」と、こっちも強気に出れるわけです。

また、交渉があまり期待通りの結果にならなかった、なんとなく納得できないという時にも、それがBATNAよりも良い条件であれば「損はしていないんだし、これで仕方ないか」と結果を受け入れることができます。冷静に考えて自分を納得させるためにも、BATNAを知ることが重要なのです。

そして、いかに条件の良いBATNAを知っているかが、交渉力の強さにもなってきます。今の例だと、もしBさんがパソコンを安く買えるお店を知らなければ、Aさんに高値で売りつけられてしまうかもしれません。あるいは、相手が話し上手だったり魅力的だったりということだけで判断して、後で損してしまうかもしれない。それは交渉の失敗です。見てくれや雰囲気ではなく、他にどんな選択肢があるのか、それが比較優位なのか劣位なのかだけで判断することが大切です。

――ビジネスだけでなく、日常生活でも使えそうな考え方ですね。

そうですね。なぜ自分が今のような状況になっているのか説明がつきますし、客観的な立場から交渉を捉えることで、場合によっては思い切った決断ができるきっかけにもなるかもしれません。

――ただ、お互いにBATNAよりも良い条件で合意したとしても、客観的には両方とも損をしていないように見えて実は「相手に比べると損している」という状況も起きてしまうのではないですか。

はい。お互いにメリットがある取引ができても、結局は交渉上手な人が得をして、そうでない人が損をするというケースはたくさんあります。結局、そうした交渉を続けていくと「この人と付き合うと損する」という認識が広まってしまい、本人にとっても良くない事態に繋がってしまいます。利益を独り占めするのではなくて、自分と相手の利害関心をきちんと把握し、それをどう共有するか。その時に自分と相手だけではなく、交渉を横からみている「社会」がその合意をどのように受け取るかについても配慮が必要です。

交渉学の基本的な考え方は、さきほど言った通り、個人はみな自由な存在で、配分も自由であるというものです。規制も規範もなくすべて話し合いで決めるので、新自由主義的な考え方とも言えるかもしれません。

ただ、それを突き詰めていくと得をする人とできない人との間にどんどん格差が広がっていきます。それが現在の日本の状況ですよね。規制緩和をして何事も自由に交渉で決められるようにしようと、より自由でグローバルな経済活動が推されてきた反面、ここ数年ではそれに対する批判の声が多いです。

過当競争に晒されて、大きな企業ばかりが利益を得て小さな企業が利益を失っていく。残念ながら、これも交渉学の一つの解です。誰にどれくらい配分すべきかという話は、交渉学では扱わないからです。これが交渉学の限界だと思います。現在は、それを認識した上で「どう効用を高めるか」から「どう配分するか」という議論に移っている段階だと思います。

――社会全体が、みんなが得をする方向に向かおうとしているわけですね。

ある意味、堂々巡りしているのかもしれませんね。19世紀ごろは格差や不公正感が問題だったから規制ができたのに、それが良くないということで規制緩和が進んだ。しかし、今度は規制緩和が行きすぎて、再配分の仕組みを考えようという認識になっている。交渉学はここ40年程度でその枠組みをいろいろな分野で適用しようと発展してきましたが、それだけを追求しすぎても我々が望む社会になるとは限らないということです。

交渉による合意形成

――交渉学ではあらゆる交渉を同じフレームワークで分析するとのことでした。ここまで身近な例を挙げてお話していただきましたが、このような一対一の交渉だけでなく、意見や価値観の異なる多者間の合意も同じように扱うことができるのでしょうか。

はい。ここまで話してきたように、交渉は当事者の表面上の立場や主張より、その背後にある利害関心に着目し調整を行うものです。交渉とは、「異なる利害関心を持つ二人以上の人々が、将来の協力行動について約束するための話し合い」と定義できます。多者間の合意形成も基本的には同じプロセスです。

実際に、環境問題や都市計画、公共事業、さまざまな紛争解決などの社会的な課題を議論し、政策を実行するためには、たくさんのステークホルダー(その問題によって影響を受ける人々と、影響を与える人々)が関わる中で合意形成をしなければいけません。より複雑な状況にはなりますが、多数の人々との共存共栄に向けた解決策を模索する、交渉と大きな違いはありません。

ただ、社会的な合意形成には社会運動のような側面が少し絡んできます。社会運動は、それぞれの利害関心を尊重するよりむしろ自分の意見を他人にも賛同してもらおうとする活動です。一方、交渉では相手の意見の正当性を全面的に認めた上で、それぞれが何をすべきかを話し合います。考え方は違っても、同じ国・地域で生きていかなければならない、ということを前提としているからです。

――宗教や価値観の対立に関わる問題だと、交渉による問題解決は難しそうですね。

面白い例を紹介しましょう。アメリカでは宗教等の理由で妊娠中絶を認めない人々と、認めるべきというグループとの対立が大問題になっています。中絶するかどうかではなく、中絶を認めるか認めないかという二者択一の問題なので、どんどん感情的な対立は深まり、対話など考えられないような紛争状態に陥っています。

しかし、そうした状況でもなんとかお互いの対話を試み、解決策を模索しようとしたケースがありました。対話の結果、もちろん両者の主張が変わることはありませんでしたが、一つだけ大きな進展がありました。両者とも、「所得の少ない十代の女性が望まない妊娠をしている」ということについては、共通の問題意識を持っていたことが分かったのです。

そこから十代の望まない妊娠を防ぐこと、そのために里子制度を広めること、性的暴力を予防することなどについて、一定の合意に達することができました。もちろん、両者の価値観は変わっていないので根本の問題が解決したわけではありません。しかし、双方がどこで協力すれば価値が生まれるのか、今現場で起きている課題の解決に向けて、どうすれば両者が共存して取り組めるのかが明らかになりました。社会を分断する対立から、生産的な活動へと転換した一例です。

――『実践!交渉学』のQ&Aコーナーで、「交渉学は米国で生まれた学問だから日本人の文化には合わないのではないか」という項目がありましたが、こういった意見も多いのですか?

最近は随分減りましたね。以前は「日本人は打算じゃなくて義理人情で動いているんだ」と言われる方も多かったですが、実際そんなことはないと思います。むしろ、日本独特の「本音と建前」という文化は、交渉学でいう、表面上の立場とその背後にある利害との関係に極めて近い考え方です。

また、企業の方からの「系列企業だから、グループの方針から外れて自由に交渉するのは難しい」「この先もお世話になる交渉相手だから、破談を想定したBATNAなんて考えられない」という声も、最近はぱったり聞かなくなりました。おそらく昔のような企業系列、終身雇用などの固定的なシステムは少なくなっており、しがらみや囲い込みもなくなってきたので、組織としても個人としても独立していろいろな相手と交渉しなければいけなくなってきたのだと思います。そういう意味で、交渉学の理論が適用しうる現場は広がってきているのかもしれないですね。

――交渉学を学ぶのは、どのような人が向いているのでしょうか。

おそらく「規範を守ることで良い世の中になるんだ」と思っている人には向かない学問かなと思います。その人自身が考える社会正義を実現したいだけなら交渉は不要だからです。むしろ、価値観や主張が違っていても協力して利益を生み出そうとする、現実主義的な人の方が向いているかもしれません。イデオロギーを気にしない人ですね。あるべき社会を作るための活動も必要ですが、同時に交渉によって効用を高めることも必要です。今の流行りは前者ですが、両方のバランスが必要だと思います。

――交渉学はどこで学ぶことができますか?

日本国内ですと、公共政策、ビジネススクール、ロースクールなどの専門職大学院が多いのではないかと思いますが、最近では大学でも講義が行われているようです。企業や一般向けの研修などでも学ぶ機会はあると思います。交渉学の起源は経済学、心理学、法学などですが、より実践的な学問になるので、専門的に学べるのはアメリカでも大学院からです。

――最後に、高校生へのメッセージをお願いします。

高校生のみなさんは、今のうちから自分の将来を決めつけないほうがいいと思います。大学に入ったら面白い人にたくさん会うし、今まで見聞きしたことのなかったような知識だったり、芸術や文学と出会うので、新しい何かを吸収できる余地を残しておくことが大切です。最近では社会に出てすぐに専門性や即戦力を求められがちですが、せめて大学までは色々な体験をする余裕を残しておくべきではないかと。

また近年、地元の大学に進学する人が増えていると聞きます。もちろんいろいろな事情があると思いますが、私は、東京でもよいですし、海外を含め世界に出て行ったほうがいいと思います。狭い世界に閉じこもっていると、周りの人間関係を切り離したい時に自分が取れる選択肢、つまりBATNAが少ないわけです。それは、次第に自分を不利な立場に追い詰めていくことになります。一方で世界に出て行けば出て行くほどコミュニティは広がり、自分が取れる選択肢や交渉相手が増えていく。BATNAがどんどん良いものになり、より有利な立場に立てるようになります。

私自身も大学を卒業して、そのまま国内の大学院に残る道もあったのですが、周囲の反対を押し切って海外の大学院に進学しました。その結果、交渉学という、日本ではまだ根付いていなかった学問に出会うことができた。そして日本に帰ってきた時に、他の人がほとんど知らない独自の研究を進めることができたのです。飛び出せば飛び出すほど、また元の場所に戻ってきたときに希少価値が生まれる可能性がある。いろんな場所に飛び出していただきたいと思います。それは交渉の理論からしても合理的な選択だからです。

高校生におすすめの三冊

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実践!交渉学 いかに合意形成を図るか (ちくま新書)
松浦 正浩(著)

「交渉学」に興味を持った人は、まず本書の前半を読んでみてください。社会人向けに書いてありますが、高校生でも難なく理解できるはず。高校生でも、友達、先生、家族と毎日のように「交渉」しているはずなので、すぐに応用できると思います。

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ハーバード流交渉術 (知的生きかた文庫)
ロジャー・フィッシャー &ウィリアム・ユーリー(共著)

ハーバード大をはじめ世界中の交渉学の講義で使われている教科書です(訳書のタイトルが「交渉術」となっていますが(笑))。そう言うと物怖じされてしまうかもしれませんが、これも学術書ではなく一般人向けに書かれた本なので、高校生でも理解できるはず。「実践!交渉学」に比べ、事例をふまえたより実践的な内容になっています。

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影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか
ロバート・B・チャルディーニ(著)

モノを買わせたり、お金を払わせたりするための、6種類の心理的テクニックがわかりやすく説明されている、とてもおもしろい本です。実際の交渉では、こういう小手先のテクニックを繰り出してくる人も多いので、事前に知っておけば、「○○のテクニックを使ってるな」と冷静に受け止めることができ、自分が騙されるリスクが減ります。

プロフィール

松浦正浩交渉学、合意形成論

1974年生まれ。東京大学工学部土木学科卒。マサチューセッツ工科大学都市計画学科都市計画修士課程修了(1998年)、三菱総合研究所研究員(1998‐2002年)、マサチューセッツ工科大学都市計画学科Ph.D.課程修了(2006年)、東京大学公共政策大学院特任准教授(2008-2016年)を経て、明治大学専門職大学院ガバナンス研究科(公共政策大学院)専任教授。Ph.D.(都市・地域計画)

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