比べてみないと、相手も自分も、分からない――物差し同士も照らし合わせて

「分けて、分かる」――思い込みから離れて物事を考えるには、いろいろなものを比べることが欠かせない。そして、ときには他人の物差しと照らし合わせて自分の物差し見直すことも大事。今回、「高校生のための教養入門」でお話を伺ったのは比較政治学者の浅羽祐樹先生。比較政治学に限らず、どんな社会科学でも、自分を知るためにも大切な「比較」の重要性とその難しさについてお話いただきました。(聞き手・構成/金子昂)

 

 

「『1センチ』と『1グラム』のどっちが『大きい』の?」

 

―― 比較政治学をご専門として韓国政治を研究されている浅羽先生ですが、そもそも比較政治学ってどんな学問なんでしょうか?

 

高校生のみなさんは、何カ国か外国を並べてそれぞれの共通点や相違点を比較するというイメージを持っているかもしれません。まずお伝えしたいのは、比較政治学に限らず、政治学一般でも、さらには経済学や社会学でも、社会科学では、比較という方法を必ず用いるんですね。そうしないと「~~である」という事実の確定すらできません。

 

だから方法として比較を用いるというのは大前提なので、それだけでは比較政治学ということにはならないんです。自国である日本政治という一国についても比較することはできますし、複数の外国、外国と日本を並べたからといって比較になるとは言えないのが難しいところでもあり、面白いところです。

 

 

―― 比較しないと事実の確定ができないってどういうことですか?

 

たとえば、自分の背が低いか高いか、賢いかそうでないかは、他の人や以前の自分と比べて初めて分かることですよね。

 

その際、オランダ人と日本人、男性と女性では、平均身長がそもそも10センチも異なるとすると、単純にオランダ人男性と日本人女性を比べるのはフェアな扱いじゃない気がしませんか。あるいは、同じ日本人女性でも、江戸時代と現代では栄養状況が違うため、平均身長がそもそも異なるとなると、何と何を比べていいのかどうか、そんなに自明じゃないんですね。

 

同じように、「安倍総理のリーダーシップが強い」といっても、一体何をもって「強い」といえるのかは、何か他のものと比較しないと分かりません。第一次安倍内閣(2006~07年)のときに比べて強いのか、民主党政権期に比べて強いのか、あるいは韓国の朴槿恵大統領に比べて強いのか。同じ第二次安倍内閣(2012年12月~現在)でも、参議院選挙(2013年7月)で「衆参ねじれ」が解消された前後で変化はないのか。他のものと比較しないとそもそも「それが何なのか」という事実を確定できませんし、事実の確定をしなければ「なぜそうなのか」「何が原因でそういう結果になったのか」という因果関係も明らかにできないんです。

 

 

―― 比較はとても大切なんですね。

 

大切であると同時に一筋縄ではいきません。どういう基準で何と何を比較するのかが本当に難しい。たとえば「『1センチ』と『1グラム』のどっちが『大きい』の?」って小学生に聞かれたらどう答えますか?

 

 

―― 「単位が違うので比べられないよ」と言うと思います。

 

ですよねー。これは一見トンチンカンのように思えて本質をついている問いかけで、比較するためにはまず単位を揃えないといけないんですよ。

 

さらに、「国」という単位は同じでも、日本とジンバブエの産業政策を比べるのは、ちょっと乱暴な気がしませんか。先進国と途上国では、経済の状況が根本的に違うため、産業政策だけを取り出して比較することはできないんですね。

 

高校生や大学1年生だと、この比較による事実の確定をすっ飛ばして、いきなり「なぜ?」を考えがちなんですよね。でも、一見当たり前のように見える事実が本当にそうなのか、そう簡単には言えないんです。

 

 

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山口県には本当に地下道が多い?

 

―― 例えばどういった場合でしょうか?

 

この4月に新潟県立大学に移るまで7年間教えていた山口県立大学では、フィールド調査の方法と実践を教える授業を担当していました。ある学生グループが「なぜ山口県には地下道が多いのか」を調査しようとしたことがあります。

 

確かに、山口県立大学の周りには地下道が多いんです。でもここで何をもって多いとするのかを考えずに、最初から「なぜ多いのか」「もしかして政治的な利権が関わっているのでは……」と考えるとマズいんですよね。自分の身の周りの感覚では多いように思えても、ただの思い込みにすぎないのかもしれない。

 

 

―― 比較しなくちゃいけないんですね。

 

まさにここで「比較という方法」の威力が発揮されるんです。「山口県には地下道が多い」かどうかは、大学の周りだけでなく、山口県全体でどのくらい地下道があるのかを調べてみないといけない。そして、他の都道府県に比べて山口県を位置づけないと多いか少ないかは分からない。47都道府県中、上から何番目までだと多いといえるのか、その区切りは妥当なのか、次々に考えないといけなくなります。

 

さらに、地下道の数は、都道府県の面積や道路の総距離とも関係があるかもしれない。すると単純に数を比べるのではなく、百平方キロメートルあたりに地下道がいくつあるのか、単位を揃える必要が出てきます。あるいは道路の総距離が長いと、それだけ歩道と車道が交差するので、事故を避けるために地下道をつくる必要性が大きくなるのかもしれない。だとすると、百キロあたり地下道がいくつあるのかも調べて比較しなくちゃいけない。いろんな比較のやり方、基準が考えられるわけです。

 

 

―― ……事実を確定するだけでひと苦労ですね。

 

つい思い込みにとらわれて、自分の身の回りの世界だけで完結してしまいがちなんですけどね。「なぜ?」を考える前に、「多い/少ない」といった事実を確定することは思っている以上に難しいんです。

 

比較政治学に限らず、こうした思い込みや狭い世界からどうやって離れて物事を考えるかは社会科学において非常に重要なことなんですね。だからこそ比較はどの分野でも欠かせないんですよ。

 

 

 

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