2025.03.31
『スウェーデンの政党政治と民主主義』渡辺博明
スウェーデンは、日本を含め、常に羨望や興味の対象となってきた。選挙での投票率は高く、経済的にも成長し、世界に冠たる福祉国家を作りあげ、国民の幸福度も高ければジェンダーギャップも少ない。と同時に、その理想的な姿への反発からか、近年のスウェーデンの移民問題などは、SNS上で「ざまあみろ」的な扱いを受けている。
しかし現実世界で、天国のような、あるいは地獄のような国があるわけでは当然ない。その「リアル」な姿を追い求めることこそが、地域研究者の果たす使命である。日本は、その規模に比しても、世界の大小の国を手掛ける地域研究者の数は多い。例えば日本でおそらくスイスを語れる地域研究者は10人以上いるが、ヨーロッパやアメリカで例えばブルネイを語れる研究者はそれほど多くないはずだ。世界を見る眼が複数あればあるほど、我々の世界認識は豊かになっていく。著者を含め、こうした地域研究者が存在することに感謝すべきだろう。
本書は、スウェーデン政治の「リアル」を、政治体制とその政治体制を基盤に織りなす政党政治、そして近年になって生じている大きな構造的な変容を比較的平易な形で説明するものだ。政治はアクターだけで決まるわけでも、制度だけで決まるものでもなく、実際は両者の相互作用の中で展開されていくが、近年の比較政治学で主流となったこの視点が存分に活用されていることも本書の特徴だ。
安定した政治を経験しているかにみえるスウェーデンも、大きな改革や変化を経験していることも理解できる。例えば1970年代に同国は1院制へと移行し、これが政治の在り方を根本から変えることになったし、近年ではやはり右派ポピュリスト政党の伸張によって、政党間競争も従来のものとは異なってくるようになった。特にスウェーデンは少数派単独政権の事例に事欠かないから、現在の日本政治が置かれた状況を理解するにも、スウェーデンの経験を知っておくことは大いに役に立つはずだ。また終章で、おそらく著者なりの問題意識から、スウェーデンの主権者教育がその民主主義とどのような関係にあるのかを知ることは、日本の指針にもなる。
著者はスウェーデンでいうところの民主主義とは、「対等な人間どうしが社会を形成していく原理を表す」(243頁)のことだという。果たしてそんな民主主義を私たちは手にすることができるのだろうか。仰ぎ見るだけではいけないだろう。
プロフィール

吉田徹
東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学博士課程修了、博士(学術)。現在、同志社大学政策学部教授。主著として、『居場所なき革命』(みすず書房・2022年)、『くじ引き民主主義』(光文社新書・2021年)、『アフター・リベラル』(講談社現代新書・2020)など。