ビッグ・ブラザーからリトル・ピープルへ、社会への想像力を拡張するために

東日本大震災という経験をいかに描くか。3.11以後、さまざまな報道関係者や専門家が、多くの懐疑のまなざしを向けられながらも、その問いとの格闘をつづけている。もちろん、山積みとなった社会問題の解決策を提示する作業がすみやかに求められる一方で、「いまはどのような社会であり、これからどのような社会を生きるべきか/作るべきか」という「想像力」のあり方もまた、つねに研鑽されなくてはならないものだ。

 

評論家・宇野常寛氏はデビュー以来、数多のコンテンツ分析などを通じて、「想像力」の変遷を描いてきた。その宇野氏は3.11以降、何を思考しているのか。『リトル・ピープルの時代』刊行に合わせ、インタビューを行うことにした。

 

 

日本のポップカルチャーにこそ21世紀的な問いがある

 

―― 『リトル・ピープルの時代』は、宇野さん初の、書き下ろしの評論本です。東日本大震災以後に大幅に書き換えたとありましたが、どのように書き換えられたのかを教えていただけますか。未読の方にも、まずは本書のコンセプトがわかりやすくなると思いますので。

 

なるほど。そもそもの発端から話すと、幻冬舎の穂原俊二氏から書下ろしを依頼されたのは「ゼロ年代の想像力」がまだ〈SFマガジン〉に連載されていた2007年の年末だったんです。当時僕は29歳になったばかりで、「ゼロ想」もまだ単行本にもなっていない時期です。〈PLANETS〉もまだ3号までしか出ていなくて、ようやく都内の有名書店に数軒卸しはじめたころですね。今考えると、ものすごく勇気のいることだったと思います。

 

そして「ゼロ年代の想像力」の単行本がちょうど3年前の夏に発売されて、一息ついたあたりから構想をふたりで練りはじめたんだけれども、何かしっくりこないんですよ。最初は「ゼロ年代の想像力」をアップデートしながら、もう少し国内の思想状況を整理するものを新書でコンパクトにまとめよう、という企画だったのだけれど、ぼくも穂原氏も、それが次の仕事じゃないだろうとだんだんと考えていったんですよね。

 

とくにぼくは「ゼロ年代の想像力」のあとは『思想地図』や『朝日ジャーナル』に参加したり、BSフジの討論番組(プライムニュース)イベントの企画をやったりとか、自分の個別の思考を追求するというよりは、若手言論のシーンをつくる編集者的な仕事が多くなった。そんななかで、自分の次の本は状況を整理するようなものではなくて、個別のテーマを追求するようなものがやりやくなってきたし、そしてその追求は世代を貫くものじゃないといけないと思ったんです。いってみれば、内田樹氏の読者に多少は届くものを書かないと、自分たちが今やっている仕事は意味がないと思うようになったんですね。

 

これは今さらいうことじゃないけれど、ぼくといい濱野智史といい、ある種のメディアに登場するときはここ十年か十五年くらいの若者文化の解説役になっている。でも、ぼくら自身としては、それぞれポップカルチャーやインターネットで起こっているここ十年、十五年の変化は単なる「流行」に留まるものじゃないと考えている。だから基本的にはグローバリゼーションのアジア受容という大きな問題があって、そこから何を見出すかという仕事をしているつもりなんですよ。

 

単純に考えて、冷戦の時代からグローバル化の時代への変化は人間の世界観それ自体を大きく変化させてしまうだろうし、インターネットの情報は人間と言葉との関係を根本から変化させてしまう。「誰でもメディアの時代」とか気軽にみんないうけれど、誰もが日常的に書き言葉を操り、情報発信する世界の出現は決定的に人間と表現、とくにテキストとの関係性を書き変える。ぼくからしてみると、この「情報化」によって「文学」観なんて根本的に変化せざるを得ないんだけど、こんな話題を出すだけで「ネットに毒された若者」とかレッテルを貼られてしまうのが現状なんですね。これを長期的になんとかするしかない。

 

もちろん、一気に改善するのは無理だと思うのだけど、少しずつでも上の世代「にも」読めるものを書いていくしかないんじゃないかと思ったんですね。だったら、まずはここ十年や二十年の話をしていたらダメだと思った。グローバル化を「通過した上での」日本のポップカルチャーの奇形的進化、ガラパゴス的進化にこそ21世紀の世界に問うべき思想的なヒントがあるというのがぼくの立場なのだから、国内ポップカルチャーの分析をやるという基本姿勢ははずす必要がない。けれど、それがたんなる流行分析に「みえない」ようにするためには、とりあえず扱う時間を長く取ろうと思ったんです。

 

 

uno01

 

 

 

シノドスをサポートしてくれませんか?

 

誰でも自由にアクセスできる本当に価値ある記事を、シノドスは誠実に配信してまいります。シノドスの活動を持続的なものとするために、ぜひファンクラブ「SYNODOS SOCIAL」のパトロンをご検討ください。⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

 

無題

 

・人文・社会科学から自然科学、カルチャーまで、各界の気鋭にじっくりインタビュー
・報道等で耳にする気になるテーマをQ&A形式でやさしく解説
・研究者・専門家たちが提案する「こうすれば●●は今よりもっとよくなるはず!」

・人類の英知を伝える「知の巨人」たち
・初学者のための「学びなおしの5冊」

……etc.  

https://synodos.jp/a-synodos

1 2 3 4 5 6 7 8
シノドス国際社会動向研究所

vol.246 特集:「自己本位」で考える

・福田充「危機管理学」とはどんな学問か

・山本貴光「「自己本位」という漱石のエンジン」
・寺本剛「高レベル放射性廃棄物と世代間倫理」
・高田里惠子「ちゃんとアメリカの言うことを聞いたら「大学生の教育」はもっとよくなる」
・絵:齋藤直子、文:岸政彦「沼から出てきたスワンプマン」