社会をアップデートするために僕らができること

いつの間にかギスギス・ピリピリとしてしまった日本社会。20年間の景気低迷により、予算を削り合う政治がつづき、本当に必要な支援をすることにさえにも批判が集まるような社会になってしまった。そんな今、日本に必要なのは、個人を激しく攻撃し、足を引っ張る「ダメ出し」ではなく、ポジティブな改善策を出し合う「ポジ出し」ではないだろうか。シノドス編集長・荻上チキはそう提案する。

 

2012年11月『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか 絶望から抜け出す「ポジ出し」の思想』が上梓された。デフレ、いじめ問題、バラマキ政策、生活保護論争、財政問題、ネット条例……。本書では現代社会のさまざまな問題を扱い、どのように考えればいいのかといった思考のフレームワークを提示する。「これは僕なりの、そしてシノドスなりの“マニフェスト”です」という荻上。本インタビューでは、なぜ「ポジ出し」が必要なのか、これからの議論のあり方とは何か、について話を聞いた。(聞き手・構成/山本菜々子)

 

 

僕なりの、シノドスなりの「マニフェスト」を

 

―― タイトルには「ポジ出し」という言葉が使われていますが、なぜ「ポジ出し」が必要であると考えたのでしょうか。

 

この本のタイトルに使われている「ポジ出し」というのは「ダメ出し」の対義語です。タイトルだけ見ると自己啓発本かのようですが(笑)、「ポジ出し」というのは心がけの問題ではなく、現代の社会状況におけるひとつの思想の提案です。

 

たとえば、これまでメディアの仕事として「権力監視」があげられると思います。安定的に成長してきた時代であれば、自民党政権を叩き、ここが足りないと「ダメ出し」することだけでも、それなりにカウンターとして機能してきました。

 

もちろんそれはこれからも必要ですが、今のように財政状況が厳しいという名目で、「削り合い競争」がつづく状況では、「批判」や「抵抗」だけでは改善されない部分が出てきます。だからこそ、「もっと良い方法があります」という提案や、有益な試みに対して「もっと広げましょう」といった応援が不可欠になると思います。

 

今回の衆議院選挙では自民党が圧勝しましたが、なかにはこの状況を「自分たち好みじゃない」と思う人もいるかもしれません。しかし、たとえばNPO団体にとっては、自分の達成したい目的のために色んな人を説得して回ったり、何かに抵抗したり、声をあげるということは変わらずにつづくわけです。具体的に行動を起こしながら、前向きに社会に関わっていかないといけません。政権の変化を前に、ただ受け身になっていると、ただ予算が削られるのを待つという結果になっていくわけです。

 

これはあくまで、「代案を出していこう」という呼びかけであり、「代案を出せ」という恫喝ではありません。とくに為政者が、「代案を出せ、出さないなら黙ってろ」というのは、抑圧の肯定ですから危険です。「今は代案を出せないが、それだけはゴメンだ、という叫び」をあげることも、重要な政治参加だからです。

 

ただその上で、メディアのように「代案を出せるはずの立場」にあるものは、政策を提案したり、ロールモデルになり得るものを応援したりする「ポジ出し」をすることに、ますます積極的であってほしいと思っています。

 

 

―― この本ではさまざまな社会問題の例を出しながら、それらを解決するために必要な思考のフレームワークを提示していました。ひとつの事例だけではなく、さまざまな事例に言及していましたね。まさに現代における社会問題の「総チェック」といった印象を受けました。なぜ、このような本を書こうと思ったのでしょうか。

 

僕は特定の専門分野を持って仕事をするのではなく、色々な専門家の声を繋げ、発信のお手伝いをする仕事が多いです。ラジオ番組やテレビ番組の司会、それからシノドスの活動や物書きとしての取材活動を通じて、一週間に少なくとも3、4人の専門家や当事者の方と会う日々がつづいています。

 

自分より優れた人たちと出会う日々ですから、とても勉強になりますし、もっと広く知られて欲しいと思うことが多くあります。

 

しかし、その専門家の人たちもまた、専門分野から一歩出ると素人です。専門外では脇の甘い発言をする人もいます。尊敬する専門家同士が、向いている方向が似通っているのにも関わらず、専門分野が異なっているためにそれぞれの領域の逆鱗に触れて、敵対したりしてしまう状況もあるわけです。その現状を解決するため、僕なりに問題を整理したいと思いました。言論のパッケージを変えてみたい、ということでもあります。

 

この本は、色んな専門家の人に会い僕が吸収した知識と、「ポジ出し」というスタンスを結びつけて書いたもの。基本的な政治経済の現状を解説した上で、社会問題の解決に必要な思考フレームを提示しています。このように社会を捉え、改革していきたいという、僕なりの、そしてシノドスなりの、ある種の「マニフェスト」なるものをまとめて提示したことになります。

 

 

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vol.232 芸術にいざなう 

 

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