2014.10.25
先生だからこそ――『スクールセクハラ なぜ教師のわいせつ犯罪は繰り返されるのか』(他)
『スクールセクハラ なぜ教師のわいせつ犯罪は繰り返されるのか』(幻冬舎)/池谷考司
著者・池谷氏は「記者としてその教師を取材すること」を、教師からのスクールセクハラの被害を受けた横山智子(仮名)さんに提案する。葛藤の中で横山さんは「あの時」のことを聞こうと決意し、教師を呼び出す。
本書は、緊張感あふれる対決からはじまる。横山さんは、進路面談の場で担任教師からカラオケに誘われ、内申書に響くかもしれないと、断れずに集合場所へ行くと、車でホテルに連れて行かれ、乱暴される。
自分に隙があったからでは、自分が悪いのでは、どうして断れなかったのか、と彼女は自問自答し続け、思い悩んでいた。誰にも言えず抱え込むうちに摂食障害や男性不信になった。
一方で、元担任教師は「二人で楽しんでいたよ」「俺の方が誘った面もあるかもしれないけど、智子のほうが誘っていた面もあったよ」とちょっとした思い出話のように語り、あくまで合意の上であったことを強調する。
元担任教師の言葉は屁理屈以外の何ものでもないが、「やはり私が悪かったのか」と横田さんの顔は曇っていく。そこで読者である私たちは「なんで相談しなかったのか」の一言が、どれだけ無意味なものであるのかを知る。
しかし、被害者を取り巻く環境は厳しい。友人に相談するが「その気になれば逃げられたはずだから、誘いに乗ったあなたも悪い。相手には家庭もある。」との言葉を投げかけられてしまう。
横山さんは言う「人って自尊心があるから『それはおかしい』って言えるんですよね。私は自尊心を奪われてSOSを出せなくなっていたんです」。
スクールハラスメントは、一部の「異常」な教師が起こしているもののように捉えられている。しかし、指導のために教師は生徒に対し多くの権限が与えられている。先生だからこそ拒否することが出来ないのだ。
本書では、小学校の教室、部活動、二次被害など、様々な角度からスクールハラスメントに迫っている。ぜひ手に取ってもらいたい一冊。(評者・山本菜々子)
『日本版カジノのすべて しくみ、経済効果からビジネス、統合リゾートまで』(日本実業出版社)/木曽崇
いままさに議論の最中にあるカジノ法案。毎日新聞が10月に行った調査によると、賛成が31%、反対が62%と圧倒的に反対が多いのが現状だ。
しかしわれわれが「カジノ」と聞いて抱く印象と、カジノ法案で議論されている内容には大きな乖離があるではないか。例えば、カジノと聞いてイメージするのはラスベガスでの一夜の夢であり、ギャンブルと言えば、パチンコや競馬などを想像するのが一般だろう。いま議論されている内容は単に「日本でカジノ(ギャンブル)の風通しを良くする」といった単純な話ではない。
本書は私たちの考える「カジノ」のイメージを繰り返し覆していく。なぜカジノ合法化が統合型リゾートと共に語られるか、犯罪率やギャンブル依存症といったリスクとともに正直に、そして丁寧に語る。それだけではない。本書は、今後の日本の産業界のあり方までもを問うているのではないか。
ページをめくるごとに驚きがある。例えば、ラスベガスのカジノに訪問する観光客の主な特性をみると、ギャンブルを目的とする人はたった8%で、休暇や娯楽を目的に訪ねる人間は47%とその割合は圧倒的に多い。ギャンブルと聞いて思い浮べるであろう犯罪率も、ギャンブルとは関係なく、観光産業の振興がすべからく治安を悪化させる可能性が高いことを述べている。つまりカジノ法案にかぎらず、これから観光産業を振興していくにあたって、治安対策を考えねばならないということだ。
ただでさえ印象論で語られがちなカジノを、地方活性化の起爆剤として利用するにあたって、私たちがまず知らなくてはいけないのは、言うまでもなくカジノの実態である。カジノ法案が通過したとき、統合型リゾートを使って地方活性化を狙うならば、イメージに基づくカジノをもとに議論を重ねるのではなく、経済効果そしてリスクを伴う、カジノ事情を把握していくことこそが必要なのである。
カジノ市場が開拓されていないアジアでは、日本の国際競争力が問われている。もし、地方活性化にカジノを利用するのであれば、もっとも効果的な利用方法を考えなくてはいけない。反対に、カジノ合法化を反対するのであれば、そこで得られるベネフィットとリスクを把握していなければならない。カジノ合法化と統合型リゾート導入の後進国である日本は、今後どのように立ち振る舞うべきなのか、いま手に取るべき一冊である。(評者・金子昂)
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