2014.11.01

アスペルガー症候群研究のスタートラインに立つ――『アスペルガー症候群の難題』(他)

今週のオススメ本 / シノドス編集部

情報 #井出草平#アスペルガー症候群の難題#失職女子。私がリストラされてから、生活保護を#大和彩

『アスペルガー症候群の難題』(光文社新書)/井出草平

すでに市民権を得た「アスペルガー」という言葉だが、実際のところそれが何を指すのか、正確な定義を踏まえて理解している人は数少ない。

ウェブで見かける際に使われる俗語「アスペ」と、本書の指す学術的な「アスペルガー症候群」はまったく異なるものだ。前者は人付き合いの苦手な人間に向けて気軽に使われるものだが、後者はなにぶんいろいろとややこしい定義がある(本書ではわかりやすくその概念を説明している)。本書はその、アスペルガー症候群の特性と犯罪率の関係について、真正面から改めて捉えなおしていく。

アスペルガー症候群という言葉が定着したのは、豊川市主婦殺人事件がきっかけだろう。実は、われわれの記憶に強く残っている有名事件(酒鬼薔薇聖斗事件、西鉄バスジャック事件、大阪姉妹殺害事件など)は、アスペルガー症候群、もしくは、それに准じる精神鑑定や診断がでている。

 

アスペルガー症候群と犯罪の関連性が囁かれるなか、専門家は、犯罪とアスペルガー症候群の関係性を否定していた。しかし「偏見」という一言で片付けてしまっていいのだろうか。本当に両者には関係がないのだろうか、と著者の井出草平氏は問う。

特定の疾患と犯罪の関係について言及をすれば、あらぬ偏見を助長する可能性がある。本書はそれに対する十分な配慮をした上で、現時点で入手できる限られたデータから、アスペルガー症候群と犯罪の関係についてデータによる推測を重ね、海外事例を検証し、事件を再解釈していく。

「偏見」というリスクがある中で、その意義はどこにあるのか。

97年の酒鬼薔薇聖斗事件、「17歳の犯罪」など、動機のわからない、とうてい理解できそうにない事件が発生すると、私たちはそれを「闇」という言葉で表現する。実際のところ「闇」とは何なのだろうか。「心の闇」を抱えた「怪物」と表現し、印象に基づいて重罰化することが、どれだけの意味があったのだろうか。

もし「心の闇」と形容される何かが、ある特定疾患の特性によるものならば、その特性を把握すれば、有効な対応策を組むことができるかもしれない。適当な介入によって、未然に犯罪を防げるかもしれない。「心の闇のせいだ」「アスペルガー症候群と犯罪には関係がない」と、簡単に片づけるのではなく、科学的な検証とバランス感覚に基づいた本書をスタートラインに、アスペルガー症候群研究のこれからを考えて欲しい。(評者・金子昂)

『失職女子。私がリストラされてから、生活保護を受給するまで』(WAVE出版)/大和彩

無職になり、家賃が払えなくなった。そんな時、絶望して富士の樹海へ直行しなくても、生きるための選択肢はあるのかもしれない。今回紹介する『失職女子』は、「生活保護」を生きる選択肢に選んだ女性の物語だ。

「納税して日本社会に貢献したい」と思う大和さんは、国外の大学を卒業しながらも、国内企業の就職をめざす。日々、批判や暴力にさらされる家庭で育ったため、とにかく自分の食い扶持は稼ぎたいという強い思いを持っていた。

就職の条件はやりがいよりも何よりも安定! はじめて得た職はとても安定した企業ながらも、契約職員だったが、持ち前の能力が認められ1年ほどで正社員になった。これで安定を手に入れた! と大和さんは胸をなでおろす。彼女は、働く意思も責任感も強く、優秀な人材なのであろう。

しかし、正社員になって1年で彼女は休職するはめになる。会社で扱う商材から出る化学物質に対してアレルギー反応が出てしまったのだ。

退職して実家に戻り休養する道を選ぶが、両親から嫌がらせを受け、病気の治療を受けられる状態ではない。必死の思いで家から出て、派遣をつなぎながら生活する。「仕事ぶりにはなんの問題もないのよ。けど、ほら、年度末だから」の一言でクビになり、制度の谷間で失業保険も受けられず、家賃も払えなくなってしまう……。

彼女は役所の福祉課にかけこみ、相談をすることにする。生活保護の水際作戦の報道イメージなどから、支援を申し込むと、怒られたり説教されたりすると心配していたが、窓口の人はきちんと耳を傾け話を聞いてくれた。

とはいえ、なかなか仕事は決まらない。ハローワークを活用し、面接を受けるも100社連続不採用。一方で大家さんからは立ち退きを命じられ、部屋探しに奔走することに。結局、大和さんは、生活保護受給に踏み切ることになる。

大和さんの状況は非常に切羽詰まっており、自らの貧困に真正面から向き合っているが、語り口は優しく、時々クスリと笑ってしまうユーモアに満ちている。生活保護というテーマを身近に感じられる一冊。(評者・山本菜々子)

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シノドス編集部

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